一次創作
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「ああ!?おい待てっ!
……くそ、切りやがった……!」
ベンチにどっかりと座り背を預け空を仰ぐ。いつも無茶振りしやがってあのクソ親父が!
もう現時点で抱えている面倒事が多いのと言うのにさらにそこから上乗せされた親父からの頼み……という名の命令で頭が痛い。はあ~……、と長く重い溜め息をつきながら掛けていた眼鏡を外し眉間をほぐす。忌々しい親父のアイコンが残る通話終了画面を落とし胸ポケットに入っている煙草の箱と持ち換えた。とんとん、と銀紙を叩いて空いた口から……空いた口から……くそ、上手く煙草が出せねえ。イライラする。それを鎮めるために吸おうとしてるのにその過程でイライラしている。実に不毛だ。
……三度目のトライで煙草の先がようやく飛び出す。人差し指と中指で浅めに持ち、取り出したライターで火をつけ……火を……は?おいこれガス欠じゃねえか!
「……ちっ!」
思わずライターをぶん投げようと腕を振りかざし――――……いやいや、堪えろ。ぐっと歯を食い縛り腕を下ろす。周囲には……よし、誰もいないな。カタギの目がある往来でそんなみっともない真似していたらそれこそあのクソ狸親父にしつこく茶化されるに決まってるのだ。あいつはどこからそんな話が入るやら俺を弄るネタはすぐに仕入れやがるからな。下のやつらにも示しがつかないし何より俺の、ひいては組の印象が下がれば困るのは俺だ。煙草に頼れない以上精神力でなんとか堪えるか……。
「あ~~くそ……」
左手で顔を覆いながら背中を丸める。
……今朝、幼馴染みで俺の右腕でもある旭陽に「若い衆が怯えるからイライラしてるときは一旦煙草を吸ってから帰ってきてくださいよ、フォロー大変なんすからね!」と懇願されたばかりなのだが火がないのでは仕方がない。そういう日だったということで今日は我慢してもらおう。煙草休憩が出来ない以上ここに座っていても仕方がない。帰ろう……と重い腰を上げようとしたとき、目の前に影が落ちた。
「ライター、切れちゃいましたか」
磨かれた黒いローファー、落ち着いたその声色。その声の主を見上げる。長く滑らかそうな黒髪をカチューシャでまとめ、この付近にある附属高校の制服を身につけたいかにも大和撫子、深窓の令嬢といった言葉が似合う雰囲気の女が目の前に佇んでいた。切れ長の目に乏しそうな表情がとっつきにくさはあるがそれがより彼女の魅力を引き出している。……未成年なのが惜しいと感じるのは職業柄だな。
「ええ、吸わないとやってられなかったのですがライターが切れてしまっていてはどうしようもありませんからね。お見苦しいところをお見せしてすいません」
にこりと笑みを浮かべる。
カタギの前では礼儀正しく。俺の信条だ。その方がいかようにも上手く事が運ぶからだ。……特に女相手なら。カタギに言わせればイケメンの微笑み、身内から言わせれば天使の皮を被った悪魔の微笑みと呼ばれるこの笑みに死角はない。これで見られていた失態を誤魔化すことにしよう。
「いえ。悪いことは重なりますからね」
……いや一ミリも表情動かねえなこの女。鉄仮面かよ。
今までの経験から多少、いや、かなり自分の顔面には自信がある方なのだが、こうして端から篭絡できないような相手がいると自信を持っていた俺はとんだ勘違い野郎だったのではないかと不安になってくる。
……そう俺が軽くショックを受けているとは露ほども思っていないだろう目の前の女が口を開いた。
「火、持ってるんですけどよかったら使いますか」
「えっ、まさか貴女その見た目で吸うんですか?」
思わず口について出た。そういうギャップを持っているのか?この大和撫子が?深窓の令嬢が?
「ああいえ、ライターではなく」
思わぬ展開でこの女に興味を惹かれ始めた俺だが、
「チャッカマンです」
「ふはっ……!!」
大和撫子が鞄から堂々取り出して見せたチャッカマンに盛大に吹き出したのであった。
☆
「チャッカマンで煙草に火をつけるとか初めてですよ……」
学校の授業で使うためにたまたま持っていたと言うチャッカマンを借り、いつものように煙草を咥えて火をつけようとしたが、チャッカマンの先が長くて距離が掴めない。というかそもそも咥える前に火をつけられたのではないか――――
「動かないで」
苦戦しているとするりと俺の手からチャッカマンを取り、少し屈んだ彼女が俺の咥えた煙草に火をつけた。……いや近ぇよ。しかも初対面だぞ。怖いもの知らずか。
……まあ警戒心が足りてないのは俺も同じだろう。この女を勝手にカタギと決めつけているが敵対する組の関係者の可能性だってあるのだから。
だがどうも警戒するだけ無駄にしか思えないのだ、この女に限っては。
……煙草の煙が香る。上手くついたようだ。
「……ありがとうございます」
煙草を手で挟み、礼を言う。
「いえ」
屈んだときに崩れたらしい横髪を耳にかけながら、
「……ふふ」
今まで微動だにしなかった筈のその表情に浮かべた微笑みを目の当たりにし再度咥えた煙草を落としかけた。
「……ああ、すいません。気に障りましたか?」
俺がじ、と見詰めていたことに気付いた彼女が表情を消す。謝りながらも眉ひとつ動かさない。無か楽の表情しかレパートリーがないのか、こいつ。
……にしても、もう少し先程の表情を見ていたかったのだが……残念だ。
……は?なんだ、残念って。
「いえ……ずっと無表情だったのが急に笑うものだから驚いて」
「これでも堪えていたんですよ。顔のいい男性がチャッカマンで煙草をつけようとする姿があまりにもこっ……いえ、面白くて」
「どちらにせよ同じ意味だから別に滑稽と言ってくれても構わないですよ」
「では、滑稽と」
「だからって改めて言いますかそれ……」
ああ、本当に警戒するのが馬鹿馬鹿しくなる女だ。
「……それでは、私は行きますね。さようなら」
「は、ちょっ、」
いや急だな!脈絡というものを知らないのか!
せっかく火を付けてもらいながらまだ二、三回しか吸いこんでいなかった煙草をポケット灰皿に慌ててぶちこみつつ腰を上げ、去ろうとするその腕を掴む。
「待ってください、何かお礼を」
「火をつけただけですし、それに母から夜ご飯に使う材料のお使いを頼まれていますので。……ああ、もう消してしまったんですね?」
「それは……ええ」
「ではこれを差し上げます。今の私より必要なものでしょうから」
「いえ、それはもう」
「いいですから」
まっすぐ俺を見詰めるその瞳からは何も読み取れず、無表情の圧に負けてチャッカマンを受け取ってしまった。
「では」
「っ、あのっ」
「……まだ、なにか?」
怪訝そうな顔。当たり前だ、俺が彼女を引き留める理由なんて今ひとつもないのだから。何のメリットだって俺にはない。分かってる。分かっている。それでも彼女を引き留めなければいけないと思考は勝手に動き出しているのだ。そうしないといけない。ここで彼女の手を離してはいけない。離せばもう、俺は彼女に――――
……そこまで考えてようやく疑問を覚える。
何故、こんなに俺は焦っているんだ?
「……引き留めて申し訳ありません」
さっきからどうも思考がおかしい。
自分の感情に困惑しながら腕を離す。
「今日は、助かりました。道中お気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
軽く会釈してからは振り返ることなく去っていく。一度も振り返らなかったなあの女、と思うのとその姿が見えなくなるまで見詰め続けていた自分に気付いたのは組に帰宅してから煙草を改めてゆっくり吸っている最中だった。
「……なんでチャッカマンで煙草に火着けたんですか?そのライター切れてました?っかしーな、毎日中身の確認してんのに……」
「この部屋のはある。……俺が持ち歩いてんのが無くなってたから新しいの持ってきといてくれ」
「ああ、了解です」
「……、……」
ポイと適当に投げた空のライターを簡単にキャッチし部屋を出ていこうとする旭陽の後ろ姿に声を掛けようとして、やめた。
「……あー、もう、何か話したいことがあるなら聞きますけど!?何遠慮してるんですかねえ!?」
がしがしと頭を掻きながら戻ってくる。やはりこの男に隠し事は出来ないか。……俺が分かりやすいだけかもしれないが。
「……なあ旭陽」
「はいはい、なんです大和さん」
「ずっとある女が笑った顔が頭から離れないんだがこれって」
「まっ、!?やっとですか大和さん!!」
急な旭陽の大声に思わずビビる。なんだ、やっとって。
「大声を出すなバカ、煙草落としそうだったろ」
「ははー、失礼しまして……。いや、だって大和さん言い寄ってきた女すぐ手を出しては取っ替え引っ替えするくせにその実ぜんっぜん女自体に興味を持てないから飽きてすぐ捨てるじゃないですか。いつ大和さんが捨てた女に刺されるんじゃないかとヒヤヒヤしてる毎日なんですよこっちは」
……そんな頭として情けない心配されてたのかよ。
「いやー、でもようやく大和さんにもそういう感情が芽生えてきたんすね!俺嬉しくて涙出てきそうですよ今」
「お前は俺の親か」
……しかし、そういう感情、ね。
「で、相手は誰なんです?」
「別に、そういうんじゃない」
「いやどう考えてもそうでしょう話聞いてる限り」
「頭から離れないだけで必ずしもそうだとは言いきれないだろ」
「……煮えきらないっすね、大和さんらしくもない。もしかしてカタギの人ですか」
「……」
「んで、大和さんをヤクザだと知らない人間だ」
「お前こういう時だけ冴えるのやめろ」
「はー、なるほどそれで冴えない顔してるんですね」
うんうんと頷く旭陽が忌々しくなり一発でこぴんでも食らわそうと思ったがぐっと堪えた。
こいつとは幼少期からずっと一緒にいただけあって俺の思考をよく理解している。若頭である俺に真っ向から反対意見が言えるような部下もこいつくらいのものだ。組の中の人間で俺を名前で呼べるのもこいつだけ。そしてそれほど近い距離にいるからこそ、
「……親父がヤクザじゃなければ、迷うことなんてなかった」
こうして他に誰かいたら吐けないような弱音も溢せると言うものだ。
「随分と惚れ込んでますね」
「……本当にこれが恋だと思うか?」
「笑った顔が離れない」
「ああ」
「また会いたい」
「そうだな……」
「他の男といる場面を想像したくない」
「……殺したくなるな」
「自分だけを見て欲しい」
「……まあ、欲を言えば」
「触れたい」
「……追いおいは」
「キスがしたい」
「……段階を踏んでからな」
「抱きたい」
「さすがに話が飛躍しすぎだろ」
「いや女を山ほど相手して捨ててきた日ノ本組のカシラ日ノ本大和とは思えない奥手っぷりで震えてますよ俺は今。なんですかそのピュアな思想。あんた誰レベル」
「うるせえな」
小さい頃から自分の考えを纏めたいときにこいつは俺に他門自答をさせてきた。自分の人生、そして組の将来など重要な場面で何度も世話になった手法だ。そして今回も……無意識に自覚することを拒否していたこの感情にはっきりと名前がつく。
これは恋心だ。間違いなく。
自分より十は歳の離れた名前も知らぬ女に俺は、人生初めての恋をしている。
……そして同時にこの恋心は見て見ぬふりをして封印するべきだと結論も出た。
「わかった認める。ああ、これは恋だろうよ。だからこそ一緒にいるわけにはいかない。極道と一緒にいて幸せになれるわけがねえからな。俺は彼女に普通の幸せな人生を送って欲しい」
「……ヤクザなら普通好きな女の将来を奪ってでも一緒にいたいとか思うもんじゃないすか」
「ちっとも思わねえな、好きなのに奪えるわけがねえだろ。彼女はあんなにも未来有望なのに、俺みたいな道の外れた人間が足を引っ張る?……想像しただけで吐き気がするな」
「……ほんと女山ほど捨ててきた人間の発言とは思えないほどの純愛ぶりに困惑すんだよなあ」
「なんとでも言え」
新しい煙草を手に持ち、ずっと空いた片手で撫でていた赤色の何の変哲もないチャッカマンで火をつける。
『……ふふ』
俺の記憶に深く鮮やかに刻まれた彼女の微笑みが、今はこんなにも苦しくて愛しい。
……ゆっくり肺に充満するように煙草を吸って、空に吐く。この枷でしかない感情も煙と一緒に吐き出せてしまえばいいのに。そう言いながら煙草を吸っても忘れられない彼女の記憶に安心する自分に気付いて自嘲する。
「ヤクザなんかに産まれなければ、俺も一緒にいる未来くらい夢見れたんかね」
「大和さん……」
「カシラ、今よろしいですか」
重苦しい空気が部屋外から掛けられた旭陽とはまた別の補佐の声に霧散する。もうこれ以上追求されたくも引き摺りたくもなかったから助かったが。
「空木か。入れ」
「失礼します。早速要件を話しても?」
「ああ」
テーブル上の灰皿に吸殻を揉み消しながら捨て、空木の話に耳を傾ける。
「以前お伝えした例の金を返さない女の最終返済日が昨日だったのですが、振込みがなかったのでその女の処遇をどうするか指示を仰ぎにきました」
「俺達から金を借りるだけ借りた旦那が蒸発して妻に全部着せたってあの胸糞悪いやつか。確か名字が……月見里」
「さすが、よく把握していらっしゃる。名前は月見里菫。仕事を掛け持ちして健気に毎月こつこつと返済はしていましたがうちはトイチですからね、可哀想ですが利息は増える一方。もうこれ以上支払期間を延ばしても返済の期待は持てないので最終返済日を設けたんですよ。
……勿論端から返済の期待はしてませんでしたけどね」
「だろうな」
クズな旦那の責任なんて取らず自分も逃げればいいのにその借金を少しでも支払おうとする、か。健気ではあるが俺達にとってはとんだいいカモにしかならない。
「ちょうど使い物にならなくなった嬢がいただろ、そいつの代わりにすればいい」
「ああ、人妻集めてるソープの」
「話を聞く限りそいつは随分と真面目な人間性だし清楚系とでも売り出せば一定層はとびつくだろ」
「なるほど、ではそのように。……ただ決定する前にもうひとつ話しておくことが」
「なんだ」
「この月見里ですが、一人娘と暮らしていまして。この娘がまだ未成年ではあるのですが器量のいいよく出来た娘でしてね。どうせなら借金を形にこの女も利用すればまだ再三はとれるかと思ったのですが、いかがでしょう」
「若い女はいくらでも使いようがあるからな、いいんじゃないか」
「空木さん、器量よしってどんなもんなんすか?写真とか」
「ありますよ、こちらです。名前は……月見里撫子」
空木が差し出した写真を受け取り視界にいれた瞬間、思わず左手で口元を覆った。
「……はは、っ……!」
「カシラ……?」
空木が不思議そうな目で俺を見るのに対し、旭陽はどうやら察したらしい。
「大和さん、今の気分はどうです?」
苦笑いを浮かべながら言ったその問いに、
「そうだな……産まれて初めて親父の子供として産まれたことに感謝してるよ」
と返すとやれやれといった具合で肩をすくませて呟いた。
「数十分の内に人間変わるもんっすねえ」
ああ、こんな愉快な気持ちはいつぶりだろうか。
「撫子……」
脳に、心に。刻むよう呟く。
……貴女にぴったりのお名前ですね、撫子さん?
☆ ☆
「こんにちは月見里さん。いらっしゃいますよね?」
老朽化が進んでいると一目でわかる古びたアパートの一階五号室。
こんこん、とインターホンを使わずにドアを叩く。
暫くの間のあと、そろりとドアが開いて月見里さんがでてきた。
「……日ノ本組の方、ですよね」
「ええ。では私が何の用でここに来ているかももちろんわかっていますよね?」
俺の言葉に月見里さんは自分の身体を抱き締める。
「……はい。お支払い出来ずに申し訳ありません。私の体で出来ることがあれば何でもやる覚悟です」
「泣かせる覚悟ですねえ、ですが最低な旦那のためそこまでするのはどうしてです?」
「……」
「娘さんのため、ですよね?」
「!」
息を飲み、伏し目がちだったその顔をあげた。……ああ、彼女は母親の面影を継いでいるのだな、よく似ている……と片隅でぼんやり考えながら言葉を続ける。
「家族構成くらい把握しているに決まっているでしょう?翡翠ヶ丘付属高校二年、秀才で器量もいいそうですね。奥さん一人で育てたとは思えないほどの評判のいい娘さんで貴女もさぞ鼻が高いことでしょう」
「っ、娘は、娘には手を出さないでください!わたっ、私が出来ることは何でもしますからどうか娘だけは!お願いします……お願いします……!」
報告ではあくまで毅然とした態度だったらしい月見里菫が少し娘の話を出しただけでここまで豹変するとは……本当に泣かせる母親だ。
「お母さん」
月見里さんの後ろから聴こえる凛とした声。たった十数分しか聴いていないのに妙に馴染みがあって、昨日今日だけで呆れるほど渇望したその声に胸が高鳴る。
「っ、撫子だめ、部屋に戻ってていいから」
「お父さんの借金なら娘である私にも関係がある。いい加減一人で抱えようとしないで」
「撫子っ」
部屋に戻そうとする月見里さんを押しきり、声の主は俺の前に歩み出た。
「初めまして、私は」
目が合い、言葉が途切れる。
相変わらず無表情ではあるが今は微かに……見ていなければ気付かないほど一瞬、微かに目を見開いて俺を見た。
「こんにちは。昨日ぶりですね」
「チャッカマンの人じゃないですか」
「くっ、ふ……!」
チャッカマンで煙草に火をつける間抜けな自身の絵面を思いだし危うく噴き出しかける。
……気を緩めるにはまだだ、抑えろ。ほら、月見里さんが困惑して俺達を見ているぞ。
「……っこほん。撫子さん、今真面目な話をしているところですのでその話はまたあとで」
「ああ、すいません」
「……知り合いなの?」
「昨日たまたま帰りに会った。それだけ。
……ヤクザの人だったんですね」
「ええ、まあ。貴女がうちのお客様の娘さんだと昨夜部下から聞いたときは大変驚きましたよ。こんな偶然があるものなのかと」
「そうですね」
俺がヤクザと知っても態度は変わらず、か。
「……本題に入りましょう。今お二人が抱えている負債額は二千万に上ります」
「そんな!だってあの人が借りたのは五百万だって……!」
「利息ですか」
狼狽する母とは対象に相変わらず撫子さんの表情は変わらない。
「ええ、その通り。お母様のその様子だと借りた金額分しか頭になかったようですね」
「っ、はい……、そんなの、一言もあの人は……」
「それで、私に出来ることはなんですか。父の責任は私の責任です。出来ることなら散々苦しんだ母にはもう苦労して欲しくないので私一人で済めばいいと思っているのですが、そう上手い話にはなりませんか」
ヤクザにさせられることなんて分かりきっている筈なのに、俺を見上げるその瞳には濁りも混ざらぬただただまっすぐとしたものだ。どう育てればこうも泰然自若に育つのか……うちの若い衆に見習って欲しいくらいだな。
「撫子っ!」
「お母さん。私なら大丈夫だから」
「そういう問題じゃないのよ、私は、貴女が幸せにならないと駄目なの、貴女が幸せになるのならどんな苦労だって苦労にならない。だからそんなこと言わないで、お願い……!」
「落ち着いてください月見里さん。私は今日、借金を帳消しにするご提案をしに来たんですよ」
「え……?」
信じられない、と言いたげな顔に微笑む。
「簡単な話です。貴女の娘さんの身柄を、私に預けてくれればいい」
「だからそれだけは出来ません!娘だけは絶対に……!」
「……お母さん」
涙を流しながらも娘を守るように立ち塞がる。まったくどうしてこんな真面目そうな人間が責任感の欠片もない男と結婚することになったのだか不思議でならない。
しかし……まさか警戒させた上でこうも泣かせることになってしまうとは。穏便に済ませる予定がこれでは失敗したと言わざるを得ない。今回ばかりはその自慢の微笑みも通用しないですよと旭陽に言われていたとはいえどこかで自分なら簡単に篭絡できると考えていた己を恥じる。この親子は本当に思い通りにならないな……。
……そしてこの母親に警戒されて傷付いている自身の心にも驚いた。裏の世界の人間の宿命なのだから今までもこういうことは何回、何十回とあったのに。
それでも、綺麗事を言う気はない。この二人を苦しめていながら今更そんなことを言えるわけがないだろ?
だから。
「言い方を変えましょう」
「……?」
「私は貴女方親子を救いたいと思っています。ですがなんの利益もなしに借金を帳消しにするなんてことは立場上できないんですよ。だから、」
視線を撫子さんに向け、疑念からかほんの少し眉を寄せた様子の彼女に微笑む。
「私と月見里撫子さんとの婚約を条件に、借金をなかったことにしたいのですが、いかがでしょうか」
こうなれば俺は最後まで、“ヤクザ“日ノ本大和を演じるまでだ。
好きな女を手にいれるためには手段を選ばない、ただの強欲なヤクザを。
「え、」
「……え?」
「どうです?悪い条件ではないと思いますが」
「わかりました」
「撫子っ!?」
……戸惑うのは一瞬か。本当にどこまでも……。
「貴女なら即答してくれると思いましたよ」
「私の身ひとつで二千万という大金を支払わずに済むのならこんなに有難い話はないですから」
「駄目よ、そんなの許しません!」
母親として至極当たり前の反応だ。
撫子さんの両手を握り諭すように語りかける母親を、そしてその視線を真っ直ぐ受け止める撫子さんを見守る。
「さっきも言ったでしょう、私は貴女に幸せになって欲しいの」
「なら、余計行かせて。私の幸せは、まずお母さんが返済に追われることもなく心身共に健康な生活を送れることから始まるから」
「撫子……」
「お母さん、ずっと寝てないでしょ。気付いてないと思ってる?」
「!」
「身体を壊す前に私に親孝行のひとつでもさせて。……結構しんどかったのよ?大好きなお母さんが日に日にやつれていくのを傍で見ているのは。……だから、ね?」
「っ、う、ぁ……!ごめんね撫子、ごめんね……!」
「今までありがとう、お母さん。大好きよ」
泣き崩れる母親をそっと抱き締めてから、俺の前に歩み出る。
「話は終わりましたか?」
「はい、猶予をありがとうございました。
……再確認しますが、本当に借金を失くしてくれるんですよね」
「ええ、二言はありません」
「……そう、ですか」
何か言いたげな間。
「何か疑問でも?答えられる範囲でなら何でもお答えしますよ」
にこりと笑う私に反して彼女の表情は相変わらず無のままだ。言葉の間などで言いたそうなことを察するしかない人間の相手は今まで面倒なはずだったのだが……やはり好きな女性相手となると話は別らしくなんら苦ではない。まったく恋心というのは恐ろしいものだ。
「疑問……そうですね。不思議だとは思っています」
「何がでしょう?」
「二千万の金額が私一人に代わるわけがないんですよ。それなのに貴方の要求は私との婚約、ただそれだけ。利益を度外視してまでその要求をした意図が分かりません」
「ああ、そんなことですか。簡単な話です」
その手を取り、恭しく口付ける。
「貴女に恋をしてしまったからですよ、撫子さん」
動揺するでもなく、嫌悪感を出すわけでもなく。
ただ俺の発言の真意を探るような彼女の目にどうしようもなく惹かれていく。病的なまでの恋心が加速するのが嫌でもわかる。
「……私のような裏社会に生きる人間では到底手の届かない存在である貴女がお金で手に入るのなら、二千万なんて安いものです」
それでも好きになってもらおうなんて都合のいい考えはない。
「信じてもらえなくても結構です。これはただの取引だとでも思っていただければ。私は貴女を手にいれる。その代わりお義母様の生活と身柄はこれから絶対に危険に晒されないとお約束しましょう」
ヤクザであることで貴女を守れるのなら、たとえ貴女から恨まれようとも構わないんだ。
端からこの想いが報われるなんて、思っちゃいねえよ。
「……なるほど」
「……はい?」
なるほど?この状況において、なるほど?
「恋愛感情は時に理屈では説明出来ないことを人間にさせるといいますからね」
「な、撫子さん?」
会って二日目とはいえこうもまったく思考が読めない人間を俺は知らない。
小さくもう一度なるほど、と呟いて思案するのに閉じていた瞳がぱちりと開き、
「信じます、貴方のことを。貴方が私を好きだということを」
……そう言ったその言葉を、俺はすぐに理解できなかった。
「名前を教えてください」
「あ……日ノ本大和、です」
まだ先の一言の脳処理が追い付かず、彼女に言われるがまま名乗る。本当ならもっと形式的に格好よく名乗るつもりだったのに、と後悔するのは後の話だ。
「日ノ本大和さん、ですね。
改めまして月見里撫子と申します。ふつつか者ではありますが、これからどうぞよろしくお願い致します」
礼儀正しくまるでどこぞの令嬢のようにお辞儀をする撫子さんに更に思考が止まる。
待て待て待て!だから、展開が早すぎる!
「……大和さん?」
微かな困惑の混ざる表情で俺の名前を呼びながら見上げるその様は本当に可愛らしく、何より名前で呼ばれたことがくすぐったいような甘酸っぱいような、そんなもどかしい感覚に思考が上塗りされてもはや訳がわからない。一人で決めてくると意地を張らず旭陽を連れてくればよかったと思考が現実逃避する始末だ。
「あの、大和さん」
「まっ!って、ください……。名前を呼ばれることに、その、まだ思考が追い付いてないので」
「そうですか、では日ノ本さんと」
「っ大和で!……名前で、お願い、します」
「わかりました、では引き続き大和さん、と」
ああ、まずい。完全にこちらのペースを崩した……。
さっきまで貴女方を救うだのこれは取引だなどとすかした態度で抜かしていた癖にこんな態度では、
「…………」
ほら!さっきまで散々泣いていた筈の母親が目をきらきらさせて俺を見ている!泣き腫らした目を輝かせて!
「……顔が紅いですが、ひょっとして私が名前を呼んだことで照れているということでしょうか?」
「そっ、!」
よくもまあ自分の身柄を引き取ったヤクザを相手にそんなことが言えるな!
否定はしたい、したいに決まってる。
だが顔に集まった熱を否定したところで撫子さんの目は誤魔化せないだろう。なんなら絶対追及してくる。
……なら。
「そっ、んな、こと……、……あります」
あまりもの羞恥に自然と手が顔を覆っていた。隙間から見えた、撫子さんの後ろであらあら!と言わんばかりの表情をしていた母親は見なかったことにしよう。
「……ふふ、大和さんって見た目によらずいじらしいんですね。可愛いです」
「!」
いじらしいだの可愛いだの俺に不似合いな言葉に反論しようと口を開こうとして、……その蕾が花開くような微笑みに、釘付けになる。
まさかその微笑みの理由が俺が照れたことによるなんて、彼女の微笑みをまた見ることを待ち望んでいた昨日と先ほどまでの緊張して取引を持ちかけようとしていた今日の自分には到底思わないだろうな。
「大和さん」
「な、なんですか撫子さん」
「……ふふ、その反応が見たくて呼んだだけです」
「っ先程から何度もからかってくれますね貴女!」
「ごめんなさい、つい楽しくて」
「まったく……」
そう言いながらも表情が柔らかいままの撫子さんに自分の口角も上がってしまう。
……しかし、けじめはきちんとつけなければならないな。
「……撫子さん」
「はい」
一歩退いて撫子さんがしたように恭しく礼をする。
「私からも改めて挨拶させてください。日ノ本大和。日ノ本組若頭……実質組を束ねている立場にいます。
一般的な幸せはお約束出来ませんが、生涯をかけて貴女だけを愛すると誓いましょう」
「ああ、そういえばヤクザの方でしたね。私ったらそんな方相手に可愛いだなんて」
「……渾身の挨拶を流さないでいただけます?」
……日ノ本組を束ねる若頭としてあるまじきほどに。
撫子さんに振り回されることが幸せだと。
この先の未来も幸せなものであることに間違いないと。
そう、思えた。
やまととなでしこ
↓こっから人物設定。つまり蛇足。
日ノ本大和(ひのものやまと)
インテリヤクザ。眼鏡かけてる。撫子が好き。
撫子に出会い初めて恋というものを自覚する。
撫子と出会った次の日には借金を無かったことにする代わりに自分と一緒になって欲しいと求婚するというヤクザに恥じない行いをするが実際は撫子に名前を呼ばれるだけで顔を紅く染めるウブ。一応女性経験は数知れずではあるのだが撫子に対しては完全なる奥手どころか手を出すつもりは少なくとも成人するまではない。
撫子の前ではデレデレに豹変するので組に撫子を連れてきた当初組員は戦慄するほどその豹変っぷりに驚いた。だれおま。
月見里撫子(やまなしなでしこ)
泰然自若の大和撫子女子高生。
大和に求婚され借金を失くしてもらえるならと断る理由もないので了承した。誠実なのは求婚された日には分かっていたがいつまでたっても手を出されないので本当に大切にされているんだなと好ましく思っている。大和のことは恋愛感情はないが普通に好き。
学校へは日ノ本組から徒歩で通っている。大和の「車で送り迎えしますよ」という話は秒で断った。そして大和は心の中で泣いた。
異性からも深窓の令嬢としてモテるがどちらかというと同性からモテるタイプ。
海月旭陽(うみづきあさひ)
大和とは一歳下の幼馴染み。海月家が日ノ本家に仕えているような形なので家ぐるみの付き合い。
若頭である大和の一番の補佐。
日ノ本組のムードメーカー的存在で大和の機嫌が悪いときにまあまあと抑える役目も旭陽が持っている。つまり苦労人。
大和の腰巾着と陰で言われているが別に気にしないしどちらかというとそれを聞いた大和がぶちギレるのでそういう点では言って欲しくない。
ヤクザに向いてない穏便派に見えるとっつきやすい陽気で優しいお兄さんで滅多に戦うことはないが普通に大和と張り合えるほどの腕があるので勝手に舐めてくる相手を普通にぼこぼこにできる。
大和が好きになった相手が撫子で本当によかったと幸せそうな大和を見てしみじみ感じている。
空木(うつろぎ)
大和の補佐。補佐の中では一番頭がいいと思う。しらんけど。
特に掘り下げる予定が今のところないので名字しかない。
月見里母
撫子がヤクザに娶られると絶望したけどその後すぐ大和と撫子のやりとりにきゅんきゅんしてた。今はめちゃくちゃ二人を応援している。
おんぼろアパートから引っ越し今は日ノ本組管轄のマンションで悠々自適の一人暮らしを満喫している。
月見里父
本編後妻が借金を全額返したという風の噂を聞いて羽振りのよさを問いただしてあわよくばまた寄生しようと接触しようとしたところ日ノ本組に取っ捕まえられてぶちギレてる大和直々にけじめをつけさせられることになる。そして噂を流したのは大和。
↓こっから更に蛇足。こういうのも見たい大和撫子関係者二人の設定とそれに基づく会話文
日ノ本武尊(ひのもとたける)
大和の双子の兄。一卵性双生児のためそっくり。
ヤクザではなく探偵。
いつでもにこにこ笑っているのでよくなにわろてんねんみたいに言われる。常にそうなだけ。よくある糸目とかではない。
思い立ったらすぐ行動の天才型。
非常にマイペースで人の話をまったく聞かないし己がこうと決めたら意地でも変えないので大和も親父も手に負えない。100人中97人が彼を苦手と言いそう。というかわたしがこういう性格の人間には関わりたくない。キャラとしては好きです。
彼を制御できるのは幼馴染みで助手の向日葵だけ。
思ったことをすぐ口に出す無神経男なので下手するとヤクザである大和より恨みを買っている。
幼少時向日葵と共に見た探偵ドラマがあったのだが、当時の向日葵の発言「探偵さんってかっこいいね!ひま、大きくなったら探偵さんと結婚する!」という言葉を聞いてから自分は探偵になると言って聞かず上記の性格から日ノ本組は全員説得を諦め彼は見事探偵となる。
自覚はしてないが助手の向日葵が病的なまでに好き。他の男と仲良くしているところを見るとやんわりとした表情ではあるが凄まじい力で離してくる。
でも自分が激情に走っていることの自覚はない。
向日葵に一個や二個では済まない数のGPSを無断で取り付けているしスマホには盗聴期を仕掛けている。やることがエグいのはさすがヤクザの血を引く者というべきか。でもやっぱり向日葵が好きだという自覚はない。つまり非常に厄介。
海月向日葵(うみづきひまり)
旭陽の一歳下の妹。一人称は兄の前では『ひま』。
大和のことは幼少期から「大和にい」と慕っている。
教育方針によりヤクザの家で育ちながらそれを感じさせない平凡なじゃじゃ馬娘っぷり。豪胆ではあるのでちょっとやそっとの強面男性にはビビらない。
小さい頃から武尊の面倒をずっと見続けている。今もそれは続いており武尊の経営している探偵事務所の助手をしている。彼女がいないと事務所は賄えない。
とても背が低いのでよく中学生に間違われる合法ロリ(ロリは小学生までをさすんだっけ……まあいいや)。背の高い武尊と並んでいると確実に兄妹と言われる。武尊の自分に対するヤバさには一ミリも気付いていない。
大和と武尊と海月兄妹
「大和ー!遊びに来たよ」
「帰れ」
「ははっ、相変わらず冷たいなあ。
あっみかんだ貰うね」
「寛ぐな帰れ!!」
「やれやれ、何しに来たか理由くらい聞いてくれてもよくないかな」
「……はあ。……何しに来たんだよ」
「冷やかし☆」
「帰れ!!!!!!」
「大和さんが騒がしいと思ったらやっぱり武尊さんか、久しぶりっすね」
「旭陽くん!話が通じそうな人がきてくれて嬉しいよ!」
「あはは、俺も久しぶりに会えて嬉しいです。あ、今向日葵呼んだんですぐ来ると思いますよ」
「えっ、旭陽くん?」
「あれは相当怒ってましたね~」
「……私帰るね!」
「たーけーるー!!!!!!」
「あっ」
「こんなところにいたのね!大和にいと旭陽にいに迷惑かけるなって何回言えば分かるのもう!」
「だってふと顔をみたくなったから……」
「じゃあそうわたしに一言言ってくれればいいでしょ!」
「そうしたら許してくれないに決まってるじゃないか!仕事溜まってるのにって……あ」
「わかってて安心した!じゃ、帰ろっか、武尊?」
「……ハイ」
大和と武尊
『もしもし大和?』
「んだよ兄貴、こっちは暇じゃ」
『おいっ、この縄外せっくそっ!』
『こら、今可愛い弟と話しているんだ。黙っていてくれるかい?』
『ぐあっ!』
「……おい、お前何してんだ」
『え?何って……うーん、害虫駆除?
あ、そんなことよりどこか人手は足りてないかい?ちょうどここに三人の若者がいるんだけど』
「……いらないといったら?」
『んー、それは計算外だな……。でもそのときは……そうだなあ、溶かしてなくしちゃおうかな?向日葵に手を出そうとする人間は生かしておけないもんね』
『ひいっ!いっいやだあ!』
「……今から行く。だからそいつらには絶対手出すんじゃねえぞ」
『ああ、助かるよ!ありがとう、やはり持つべき者は頼れる弟だ!』
武尊と向日葵と大和と旭陽
「いやだ!いかないでくれ!」
「もー!なんでよ!」
「向日葵は私のだろう!?婚活なんてする必要ないじゃないか!」
「わたしだって恋人欲しいの!結婚したいの!ずーっと武尊の世話してきたけどほんとは普通の恋愛だってしたかったんだからね!」
「……私じゃ駄目なのかい?」きゃるん☆
「武尊は武尊じゃん、わたしが欲しいのは恋人!旦那さん~~!!」
「私がいるからいらないだろう!!?」
「だーかーらー!!!」
「……おい、ツッコんでこいよ」
「嫌ですよ大和さんがツッコんできてください」
「未来の弟だぞ」
「未来の妹ですよ」
「……」
「……」
「「はあ……」」
武尊と大和
「向日葵の髪の毛一本からその視線にいたるまでその全ては私のものであるべきだしそうでなくてはいけない。大和もそう思うだろう?」
「……ある意味お前がヤクザにならなくて本当によかったよ」
「うん?どういう意味だい?」
「別に、なんでもねえよ。あんま向日葵を困らせるなよな、いい加減捨てられるぞ」
「ええ!それは困るよ!」
海月兄妹
「向日葵は武尊さんじゃ駄目なのかよ」
「え?……うーん、駄目っていうか……そういうのじゃないじゃん、武尊は」
「例えば武尊さんが違う誰かと付き合い始めた!ってなったら向日葵はどう思う?」
「すぐ別れると思う」
「そ、そうじゃなくて……あー、じゃあ結婚するってなったら?」
「すぐ離婚すると思う」
「…………否定できないのがなあ」
「……旭陽にいは、ひまと武尊が結婚して欲しいと思ってるの?」
「いや?そうとも言うし違うとも言う」
「どういうこと?」
「向日葵が一緒にいて本当に幸せに感じる人と一緒にいて欲しいだけ。向日葵はずっと武尊さんの傍にいるだろ?だからてっきり武尊さんが一番なのかなって思ってたんだ。まあ傍にいるからって必ずしも恋愛感情が芽生えるわけじゃないもんな」
「なるほど。……じゃあその理屈で言ったらひまはずーっと旭陽にいから離れられないなー?えいっ!」
「うわっ!ったく、いい歳してブラコンか~?」
「ブラコンでいいです~~あははっ!」
「……海月兄妹可愛すぎるよ」
盗聴をするな武尊
以上泰然自若大和撫子女子高生に振り回されるインテリヤクザと天真爛漫平凡合法ロリに無自覚激重感情を抱く天才肌長身男性が見たいという話でした おわり
……くそ、切りやがった……!」
ベンチにどっかりと座り背を預け空を仰ぐ。いつも無茶振りしやがってあのクソ親父が!
もう現時点で抱えている面倒事が多いのと言うのにさらにそこから上乗せされた親父からの頼み……という名の命令で頭が痛い。はあ~……、と長く重い溜め息をつきながら掛けていた眼鏡を外し眉間をほぐす。忌々しい親父のアイコンが残る通話終了画面を落とし胸ポケットに入っている煙草の箱と持ち換えた。とんとん、と銀紙を叩いて空いた口から……空いた口から……くそ、上手く煙草が出せねえ。イライラする。それを鎮めるために吸おうとしてるのにその過程でイライラしている。実に不毛だ。
……三度目のトライで煙草の先がようやく飛び出す。人差し指と中指で浅めに持ち、取り出したライターで火をつけ……火を……は?おいこれガス欠じゃねえか!
「……ちっ!」
思わずライターをぶん投げようと腕を振りかざし――――……いやいや、堪えろ。ぐっと歯を食い縛り腕を下ろす。周囲には……よし、誰もいないな。カタギの目がある往来でそんなみっともない真似していたらそれこそあのクソ狸親父にしつこく茶化されるに決まってるのだ。あいつはどこからそんな話が入るやら俺を弄るネタはすぐに仕入れやがるからな。下のやつらにも示しがつかないし何より俺の、ひいては組の印象が下がれば困るのは俺だ。煙草に頼れない以上精神力でなんとか堪えるか……。
「あ~~くそ……」
左手で顔を覆いながら背中を丸める。
……今朝、幼馴染みで俺の右腕でもある旭陽に「若い衆が怯えるからイライラしてるときは一旦煙草を吸ってから帰ってきてくださいよ、フォロー大変なんすからね!」と懇願されたばかりなのだが火がないのでは仕方がない。そういう日だったということで今日は我慢してもらおう。煙草休憩が出来ない以上ここに座っていても仕方がない。帰ろう……と重い腰を上げようとしたとき、目の前に影が落ちた。
「ライター、切れちゃいましたか」
磨かれた黒いローファー、落ち着いたその声色。その声の主を見上げる。長く滑らかそうな黒髪をカチューシャでまとめ、この付近にある附属高校の制服を身につけたいかにも大和撫子、深窓の令嬢といった言葉が似合う雰囲気の女が目の前に佇んでいた。切れ長の目に乏しそうな表情がとっつきにくさはあるがそれがより彼女の魅力を引き出している。……未成年なのが惜しいと感じるのは職業柄だな。
「ええ、吸わないとやってられなかったのですがライターが切れてしまっていてはどうしようもありませんからね。お見苦しいところをお見せしてすいません」
にこりと笑みを浮かべる。
カタギの前では礼儀正しく。俺の信条だ。その方がいかようにも上手く事が運ぶからだ。……特に女相手なら。カタギに言わせればイケメンの微笑み、身内から言わせれば天使の皮を被った悪魔の微笑みと呼ばれるこの笑みに死角はない。これで見られていた失態を誤魔化すことにしよう。
「いえ。悪いことは重なりますからね」
……いや一ミリも表情動かねえなこの女。鉄仮面かよ。
今までの経験から多少、いや、かなり自分の顔面には自信がある方なのだが、こうして端から篭絡できないような相手がいると自信を持っていた俺はとんだ勘違い野郎だったのではないかと不安になってくる。
……そう俺が軽くショックを受けているとは露ほども思っていないだろう目の前の女が口を開いた。
「火、持ってるんですけどよかったら使いますか」
「えっ、まさか貴女その見た目で吸うんですか?」
思わず口について出た。そういうギャップを持っているのか?この大和撫子が?深窓の令嬢が?
「ああいえ、ライターではなく」
思わぬ展開でこの女に興味を惹かれ始めた俺だが、
「チャッカマンです」
「ふはっ……!!」
大和撫子が鞄から堂々取り出して見せたチャッカマンに盛大に吹き出したのであった。
☆
「チャッカマンで煙草に火をつけるとか初めてですよ……」
学校の授業で使うためにたまたま持っていたと言うチャッカマンを借り、いつものように煙草を咥えて火をつけようとしたが、チャッカマンの先が長くて距離が掴めない。というかそもそも咥える前に火をつけられたのではないか――――
「動かないで」
苦戦しているとするりと俺の手からチャッカマンを取り、少し屈んだ彼女が俺の咥えた煙草に火をつけた。……いや近ぇよ。しかも初対面だぞ。怖いもの知らずか。
……まあ警戒心が足りてないのは俺も同じだろう。この女を勝手にカタギと決めつけているが敵対する組の関係者の可能性だってあるのだから。
だがどうも警戒するだけ無駄にしか思えないのだ、この女に限っては。
……煙草の煙が香る。上手くついたようだ。
「……ありがとうございます」
煙草を手で挟み、礼を言う。
「いえ」
屈んだときに崩れたらしい横髪を耳にかけながら、
「……ふふ」
今まで微動だにしなかった筈のその表情に浮かべた微笑みを目の当たりにし再度咥えた煙草を落としかけた。
「……ああ、すいません。気に障りましたか?」
俺がじ、と見詰めていたことに気付いた彼女が表情を消す。謝りながらも眉ひとつ動かさない。無か楽の表情しかレパートリーがないのか、こいつ。
……にしても、もう少し先程の表情を見ていたかったのだが……残念だ。
……は?なんだ、残念って。
「いえ……ずっと無表情だったのが急に笑うものだから驚いて」
「これでも堪えていたんですよ。顔のいい男性がチャッカマンで煙草をつけようとする姿があまりにもこっ……いえ、面白くて」
「どちらにせよ同じ意味だから別に滑稽と言ってくれても構わないですよ」
「では、滑稽と」
「だからって改めて言いますかそれ……」
ああ、本当に警戒するのが馬鹿馬鹿しくなる女だ。
「……それでは、私は行きますね。さようなら」
「は、ちょっ、」
いや急だな!脈絡というものを知らないのか!
せっかく火を付けてもらいながらまだ二、三回しか吸いこんでいなかった煙草をポケット灰皿に慌ててぶちこみつつ腰を上げ、去ろうとするその腕を掴む。
「待ってください、何かお礼を」
「火をつけただけですし、それに母から夜ご飯に使う材料のお使いを頼まれていますので。……ああ、もう消してしまったんですね?」
「それは……ええ」
「ではこれを差し上げます。今の私より必要なものでしょうから」
「いえ、それはもう」
「いいですから」
まっすぐ俺を見詰めるその瞳からは何も読み取れず、無表情の圧に負けてチャッカマンを受け取ってしまった。
「では」
「っ、あのっ」
「……まだ、なにか?」
怪訝そうな顔。当たり前だ、俺が彼女を引き留める理由なんて今ひとつもないのだから。何のメリットだって俺にはない。分かってる。分かっている。それでも彼女を引き留めなければいけないと思考は勝手に動き出しているのだ。そうしないといけない。ここで彼女の手を離してはいけない。離せばもう、俺は彼女に――――
……そこまで考えてようやく疑問を覚える。
何故、こんなに俺は焦っているんだ?
「……引き留めて申し訳ありません」
さっきからどうも思考がおかしい。
自分の感情に困惑しながら腕を離す。
「今日は、助かりました。道中お気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
軽く会釈してからは振り返ることなく去っていく。一度も振り返らなかったなあの女、と思うのとその姿が見えなくなるまで見詰め続けていた自分に気付いたのは組に帰宅してから煙草を改めてゆっくり吸っている最中だった。
「……なんでチャッカマンで煙草に火着けたんですか?そのライター切れてました?っかしーな、毎日中身の確認してんのに……」
「この部屋のはある。……俺が持ち歩いてんのが無くなってたから新しいの持ってきといてくれ」
「ああ、了解です」
「……、……」
ポイと適当に投げた空のライターを簡単にキャッチし部屋を出ていこうとする旭陽の後ろ姿に声を掛けようとして、やめた。
「……あー、もう、何か話したいことがあるなら聞きますけど!?何遠慮してるんですかねえ!?」
がしがしと頭を掻きながら戻ってくる。やはりこの男に隠し事は出来ないか。……俺が分かりやすいだけかもしれないが。
「……なあ旭陽」
「はいはい、なんです大和さん」
「ずっとある女が笑った顔が頭から離れないんだがこれって」
「まっ、!?やっとですか大和さん!!」
急な旭陽の大声に思わずビビる。なんだ、やっとって。
「大声を出すなバカ、煙草落としそうだったろ」
「ははー、失礼しまして……。いや、だって大和さん言い寄ってきた女すぐ手を出しては取っ替え引っ替えするくせにその実ぜんっぜん女自体に興味を持てないから飽きてすぐ捨てるじゃないですか。いつ大和さんが捨てた女に刺されるんじゃないかとヒヤヒヤしてる毎日なんですよこっちは」
……そんな頭として情けない心配されてたのかよ。
「いやー、でもようやく大和さんにもそういう感情が芽生えてきたんすね!俺嬉しくて涙出てきそうですよ今」
「お前は俺の親か」
……しかし、そういう感情、ね。
「で、相手は誰なんです?」
「別に、そういうんじゃない」
「いやどう考えてもそうでしょう話聞いてる限り」
「頭から離れないだけで必ずしもそうだとは言いきれないだろ」
「……煮えきらないっすね、大和さんらしくもない。もしかしてカタギの人ですか」
「……」
「んで、大和さんをヤクザだと知らない人間だ」
「お前こういう時だけ冴えるのやめろ」
「はー、なるほどそれで冴えない顔してるんですね」
うんうんと頷く旭陽が忌々しくなり一発でこぴんでも食らわそうと思ったがぐっと堪えた。
こいつとは幼少期からずっと一緒にいただけあって俺の思考をよく理解している。若頭である俺に真っ向から反対意見が言えるような部下もこいつくらいのものだ。組の中の人間で俺を名前で呼べるのもこいつだけ。そしてそれほど近い距離にいるからこそ、
「……親父がヤクザじゃなければ、迷うことなんてなかった」
こうして他に誰かいたら吐けないような弱音も溢せると言うものだ。
「随分と惚れ込んでますね」
「……本当にこれが恋だと思うか?」
「笑った顔が離れない」
「ああ」
「また会いたい」
「そうだな……」
「他の男といる場面を想像したくない」
「……殺したくなるな」
「自分だけを見て欲しい」
「……まあ、欲を言えば」
「触れたい」
「……追いおいは」
「キスがしたい」
「……段階を踏んでからな」
「抱きたい」
「さすがに話が飛躍しすぎだろ」
「いや女を山ほど相手して捨ててきた日ノ本組のカシラ日ノ本大和とは思えない奥手っぷりで震えてますよ俺は今。なんですかそのピュアな思想。あんた誰レベル」
「うるせえな」
小さい頃から自分の考えを纏めたいときにこいつは俺に他門自答をさせてきた。自分の人生、そして組の将来など重要な場面で何度も世話になった手法だ。そして今回も……無意識に自覚することを拒否していたこの感情にはっきりと名前がつく。
これは恋心だ。間違いなく。
自分より十は歳の離れた名前も知らぬ女に俺は、人生初めての恋をしている。
……そして同時にこの恋心は見て見ぬふりをして封印するべきだと結論も出た。
「わかった認める。ああ、これは恋だろうよ。だからこそ一緒にいるわけにはいかない。極道と一緒にいて幸せになれるわけがねえからな。俺は彼女に普通の幸せな人生を送って欲しい」
「……ヤクザなら普通好きな女の将来を奪ってでも一緒にいたいとか思うもんじゃないすか」
「ちっとも思わねえな、好きなのに奪えるわけがねえだろ。彼女はあんなにも未来有望なのに、俺みたいな道の外れた人間が足を引っ張る?……想像しただけで吐き気がするな」
「……ほんと女山ほど捨ててきた人間の発言とは思えないほどの純愛ぶりに困惑すんだよなあ」
「なんとでも言え」
新しい煙草を手に持ち、ずっと空いた片手で撫でていた赤色の何の変哲もないチャッカマンで火をつける。
『……ふふ』
俺の記憶に深く鮮やかに刻まれた彼女の微笑みが、今はこんなにも苦しくて愛しい。
……ゆっくり肺に充満するように煙草を吸って、空に吐く。この枷でしかない感情も煙と一緒に吐き出せてしまえばいいのに。そう言いながら煙草を吸っても忘れられない彼女の記憶に安心する自分に気付いて自嘲する。
「ヤクザなんかに産まれなければ、俺も一緒にいる未来くらい夢見れたんかね」
「大和さん……」
「カシラ、今よろしいですか」
重苦しい空気が部屋外から掛けられた旭陽とはまた別の補佐の声に霧散する。もうこれ以上追求されたくも引き摺りたくもなかったから助かったが。
「空木か。入れ」
「失礼します。早速要件を話しても?」
「ああ」
テーブル上の灰皿に吸殻を揉み消しながら捨て、空木の話に耳を傾ける。
「以前お伝えした例の金を返さない女の最終返済日が昨日だったのですが、振込みがなかったのでその女の処遇をどうするか指示を仰ぎにきました」
「俺達から金を借りるだけ借りた旦那が蒸発して妻に全部着せたってあの胸糞悪いやつか。確か名字が……月見里」
「さすが、よく把握していらっしゃる。名前は月見里菫。仕事を掛け持ちして健気に毎月こつこつと返済はしていましたがうちはトイチですからね、可哀想ですが利息は増える一方。もうこれ以上支払期間を延ばしても返済の期待は持てないので最終返済日を設けたんですよ。
……勿論端から返済の期待はしてませんでしたけどね」
「だろうな」
クズな旦那の責任なんて取らず自分も逃げればいいのにその借金を少しでも支払おうとする、か。健気ではあるが俺達にとってはとんだいいカモにしかならない。
「ちょうど使い物にならなくなった嬢がいただろ、そいつの代わりにすればいい」
「ああ、人妻集めてるソープの」
「話を聞く限りそいつは随分と真面目な人間性だし清楚系とでも売り出せば一定層はとびつくだろ」
「なるほど、ではそのように。……ただ決定する前にもうひとつ話しておくことが」
「なんだ」
「この月見里ですが、一人娘と暮らしていまして。この娘がまだ未成年ではあるのですが器量のいいよく出来た娘でしてね。どうせなら借金を形にこの女も利用すればまだ再三はとれるかと思ったのですが、いかがでしょう」
「若い女はいくらでも使いようがあるからな、いいんじゃないか」
「空木さん、器量よしってどんなもんなんすか?写真とか」
「ありますよ、こちらです。名前は……月見里撫子」
空木が差し出した写真を受け取り視界にいれた瞬間、思わず左手で口元を覆った。
「……はは、っ……!」
「カシラ……?」
空木が不思議そうな目で俺を見るのに対し、旭陽はどうやら察したらしい。
「大和さん、今の気分はどうです?」
苦笑いを浮かべながら言ったその問いに、
「そうだな……産まれて初めて親父の子供として産まれたことに感謝してるよ」
と返すとやれやれといった具合で肩をすくませて呟いた。
「数十分の内に人間変わるもんっすねえ」
ああ、こんな愉快な気持ちはいつぶりだろうか。
「撫子……」
脳に、心に。刻むよう呟く。
……貴女にぴったりのお名前ですね、撫子さん?
☆ ☆
「こんにちは月見里さん。いらっしゃいますよね?」
老朽化が進んでいると一目でわかる古びたアパートの一階五号室。
こんこん、とインターホンを使わずにドアを叩く。
暫くの間のあと、そろりとドアが開いて月見里さんがでてきた。
「……日ノ本組の方、ですよね」
「ええ。では私が何の用でここに来ているかももちろんわかっていますよね?」
俺の言葉に月見里さんは自分の身体を抱き締める。
「……はい。お支払い出来ずに申し訳ありません。私の体で出来ることがあれば何でもやる覚悟です」
「泣かせる覚悟ですねえ、ですが最低な旦那のためそこまでするのはどうしてです?」
「……」
「娘さんのため、ですよね?」
「!」
息を飲み、伏し目がちだったその顔をあげた。……ああ、彼女は母親の面影を継いでいるのだな、よく似ている……と片隅でぼんやり考えながら言葉を続ける。
「家族構成くらい把握しているに決まっているでしょう?翡翠ヶ丘付属高校二年、秀才で器量もいいそうですね。奥さん一人で育てたとは思えないほどの評判のいい娘さんで貴女もさぞ鼻が高いことでしょう」
「っ、娘は、娘には手を出さないでください!わたっ、私が出来ることは何でもしますからどうか娘だけは!お願いします……お願いします……!」
報告ではあくまで毅然とした態度だったらしい月見里菫が少し娘の話を出しただけでここまで豹変するとは……本当に泣かせる母親だ。
「お母さん」
月見里さんの後ろから聴こえる凛とした声。たった十数分しか聴いていないのに妙に馴染みがあって、昨日今日だけで呆れるほど渇望したその声に胸が高鳴る。
「っ、撫子だめ、部屋に戻ってていいから」
「お父さんの借金なら娘である私にも関係がある。いい加減一人で抱えようとしないで」
「撫子っ」
部屋に戻そうとする月見里さんを押しきり、声の主は俺の前に歩み出た。
「初めまして、私は」
目が合い、言葉が途切れる。
相変わらず無表情ではあるが今は微かに……見ていなければ気付かないほど一瞬、微かに目を見開いて俺を見た。
「こんにちは。昨日ぶりですね」
「チャッカマンの人じゃないですか」
「くっ、ふ……!」
チャッカマンで煙草に火をつける間抜けな自身の絵面を思いだし危うく噴き出しかける。
……気を緩めるにはまだだ、抑えろ。ほら、月見里さんが困惑して俺達を見ているぞ。
「……っこほん。撫子さん、今真面目な話をしているところですのでその話はまたあとで」
「ああ、すいません」
「……知り合いなの?」
「昨日たまたま帰りに会った。それだけ。
……ヤクザの人だったんですね」
「ええ、まあ。貴女がうちのお客様の娘さんだと昨夜部下から聞いたときは大変驚きましたよ。こんな偶然があるものなのかと」
「そうですね」
俺がヤクザと知っても態度は変わらず、か。
「……本題に入りましょう。今お二人が抱えている負債額は二千万に上ります」
「そんな!だってあの人が借りたのは五百万だって……!」
「利息ですか」
狼狽する母とは対象に相変わらず撫子さんの表情は変わらない。
「ええ、その通り。お母様のその様子だと借りた金額分しか頭になかったようですね」
「っ、はい……、そんなの、一言もあの人は……」
「それで、私に出来ることはなんですか。父の責任は私の責任です。出来ることなら散々苦しんだ母にはもう苦労して欲しくないので私一人で済めばいいと思っているのですが、そう上手い話にはなりませんか」
ヤクザにさせられることなんて分かりきっている筈なのに、俺を見上げるその瞳には濁りも混ざらぬただただまっすぐとしたものだ。どう育てればこうも泰然自若に育つのか……うちの若い衆に見習って欲しいくらいだな。
「撫子っ!」
「お母さん。私なら大丈夫だから」
「そういう問題じゃないのよ、私は、貴女が幸せにならないと駄目なの、貴女が幸せになるのならどんな苦労だって苦労にならない。だからそんなこと言わないで、お願い……!」
「落ち着いてください月見里さん。私は今日、借金を帳消しにするご提案をしに来たんですよ」
「え……?」
信じられない、と言いたげな顔に微笑む。
「簡単な話です。貴女の娘さんの身柄を、私に預けてくれればいい」
「だからそれだけは出来ません!娘だけは絶対に……!」
「……お母さん」
涙を流しながらも娘を守るように立ち塞がる。まったくどうしてこんな真面目そうな人間が責任感の欠片もない男と結婚することになったのだか不思議でならない。
しかし……まさか警戒させた上でこうも泣かせることになってしまうとは。穏便に済ませる予定がこれでは失敗したと言わざるを得ない。今回ばかりはその自慢の微笑みも通用しないですよと旭陽に言われていたとはいえどこかで自分なら簡単に篭絡できると考えていた己を恥じる。この親子は本当に思い通りにならないな……。
……そしてこの母親に警戒されて傷付いている自身の心にも驚いた。裏の世界の人間の宿命なのだから今までもこういうことは何回、何十回とあったのに。
それでも、綺麗事を言う気はない。この二人を苦しめていながら今更そんなことを言えるわけがないだろ?
だから。
「言い方を変えましょう」
「……?」
「私は貴女方親子を救いたいと思っています。ですがなんの利益もなしに借金を帳消しにするなんてことは立場上できないんですよ。だから、」
視線を撫子さんに向け、疑念からかほんの少し眉を寄せた様子の彼女に微笑む。
「私と月見里撫子さんとの婚約を条件に、借金をなかったことにしたいのですが、いかがでしょうか」
こうなれば俺は最後まで、“ヤクザ“日ノ本大和を演じるまでだ。
好きな女を手にいれるためには手段を選ばない、ただの強欲なヤクザを。
「え、」
「……え?」
「どうです?悪い条件ではないと思いますが」
「わかりました」
「撫子っ!?」
……戸惑うのは一瞬か。本当にどこまでも……。
「貴女なら即答してくれると思いましたよ」
「私の身ひとつで二千万という大金を支払わずに済むのならこんなに有難い話はないですから」
「駄目よ、そんなの許しません!」
母親として至極当たり前の反応だ。
撫子さんの両手を握り諭すように語りかける母親を、そしてその視線を真っ直ぐ受け止める撫子さんを見守る。
「さっきも言ったでしょう、私は貴女に幸せになって欲しいの」
「なら、余計行かせて。私の幸せは、まずお母さんが返済に追われることもなく心身共に健康な生活を送れることから始まるから」
「撫子……」
「お母さん、ずっと寝てないでしょ。気付いてないと思ってる?」
「!」
「身体を壊す前に私に親孝行のひとつでもさせて。……結構しんどかったのよ?大好きなお母さんが日に日にやつれていくのを傍で見ているのは。……だから、ね?」
「っ、う、ぁ……!ごめんね撫子、ごめんね……!」
「今までありがとう、お母さん。大好きよ」
泣き崩れる母親をそっと抱き締めてから、俺の前に歩み出る。
「話は終わりましたか?」
「はい、猶予をありがとうございました。
……再確認しますが、本当に借金を失くしてくれるんですよね」
「ええ、二言はありません」
「……そう、ですか」
何か言いたげな間。
「何か疑問でも?答えられる範囲でなら何でもお答えしますよ」
にこりと笑う私に反して彼女の表情は相変わらず無のままだ。言葉の間などで言いたそうなことを察するしかない人間の相手は今まで面倒なはずだったのだが……やはり好きな女性相手となると話は別らしくなんら苦ではない。まったく恋心というのは恐ろしいものだ。
「疑問……そうですね。不思議だとは思っています」
「何がでしょう?」
「二千万の金額が私一人に代わるわけがないんですよ。それなのに貴方の要求は私との婚約、ただそれだけ。利益を度外視してまでその要求をした意図が分かりません」
「ああ、そんなことですか。簡単な話です」
その手を取り、恭しく口付ける。
「貴女に恋をしてしまったからですよ、撫子さん」
動揺するでもなく、嫌悪感を出すわけでもなく。
ただ俺の発言の真意を探るような彼女の目にどうしようもなく惹かれていく。病的なまでの恋心が加速するのが嫌でもわかる。
「……私のような裏社会に生きる人間では到底手の届かない存在である貴女がお金で手に入るのなら、二千万なんて安いものです」
それでも好きになってもらおうなんて都合のいい考えはない。
「信じてもらえなくても結構です。これはただの取引だとでも思っていただければ。私は貴女を手にいれる。その代わりお義母様の生活と身柄はこれから絶対に危険に晒されないとお約束しましょう」
ヤクザであることで貴女を守れるのなら、たとえ貴女から恨まれようとも構わないんだ。
端からこの想いが報われるなんて、思っちゃいねえよ。
「……なるほど」
「……はい?」
なるほど?この状況において、なるほど?
「恋愛感情は時に理屈では説明出来ないことを人間にさせるといいますからね」
「な、撫子さん?」
会って二日目とはいえこうもまったく思考が読めない人間を俺は知らない。
小さくもう一度なるほど、と呟いて思案するのに閉じていた瞳がぱちりと開き、
「信じます、貴方のことを。貴方が私を好きだということを」
……そう言ったその言葉を、俺はすぐに理解できなかった。
「名前を教えてください」
「あ……日ノ本大和、です」
まだ先の一言の脳処理が追い付かず、彼女に言われるがまま名乗る。本当ならもっと形式的に格好よく名乗るつもりだったのに、と後悔するのは後の話だ。
「日ノ本大和さん、ですね。
改めまして月見里撫子と申します。ふつつか者ではありますが、これからどうぞよろしくお願い致します」
礼儀正しくまるでどこぞの令嬢のようにお辞儀をする撫子さんに更に思考が止まる。
待て待て待て!だから、展開が早すぎる!
「……大和さん?」
微かな困惑の混ざる表情で俺の名前を呼びながら見上げるその様は本当に可愛らしく、何より名前で呼ばれたことがくすぐったいような甘酸っぱいような、そんなもどかしい感覚に思考が上塗りされてもはや訳がわからない。一人で決めてくると意地を張らず旭陽を連れてくればよかったと思考が現実逃避する始末だ。
「あの、大和さん」
「まっ!って、ください……。名前を呼ばれることに、その、まだ思考が追い付いてないので」
「そうですか、では日ノ本さんと」
「っ大和で!……名前で、お願い、します」
「わかりました、では引き続き大和さん、と」
ああ、まずい。完全にこちらのペースを崩した……。
さっきまで貴女方を救うだのこれは取引だなどとすかした態度で抜かしていた癖にこんな態度では、
「…………」
ほら!さっきまで散々泣いていた筈の母親が目をきらきらさせて俺を見ている!泣き腫らした目を輝かせて!
「……顔が紅いですが、ひょっとして私が名前を呼んだことで照れているということでしょうか?」
「そっ、!」
よくもまあ自分の身柄を引き取ったヤクザを相手にそんなことが言えるな!
否定はしたい、したいに決まってる。
だが顔に集まった熱を否定したところで撫子さんの目は誤魔化せないだろう。なんなら絶対追及してくる。
……なら。
「そっ、んな、こと……、……あります」
あまりもの羞恥に自然と手が顔を覆っていた。隙間から見えた、撫子さんの後ろであらあら!と言わんばかりの表情をしていた母親は見なかったことにしよう。
「……ふふ、大和さんって見た目によらずいじらしいんですね。可愛いです」
「!」
いじらしいだの可愛いだの俺に不似合いな言葉に反論しようと口を開こうとして、……その蕾が花開くような微笑みに、釘付けになる。
まさかその微笑みの理由が俺が照れたことによるなんて、彼女の微笑みをまた見ることを待ち望んでいた昨日と先ほどまでの緊張して取引を持ちかけようとしていた今日の自分には到底思わないだろうな。
「大和さん」
「な、なんですか撫子さん」
「……ふふ、その反応が見たくて呼んだだけです」
「っ先程から何度もからかってくれますね貴女!」
「ごめんなさい、つい楽しくて」
「まったく……」
そう言いながらも表情が柔らかいままの撫子さんに自分の口角も上がってしまう。
……しかし、けじめはきちんとつけなければならないな。
「……撫子さん」
「はい」
一歩退いて撫子さんがしたように恭しく礼をする。
「私からも改めて挨拶させてください。日ノ本大和。日ノ本組若頭……実質組を束ねている立場にいます。
一般的な幸せはお約束出来ませんが、生涯をかけて貴女だけを愛すると誓いましょう」
「ああ、そういえばヤクザの方でしたね。私ったらそんな方相手に可愛いだなんて」
「……渾身の挨拶を流さないでいただけます?」
……日ノ本組を束ねる若頭としてあるまじきほどに。
撫子さんに振り回されることが幸せだと。
この先の未来も幸せなものであることに間違いないと。
そう、思えた。
やまととなでしこ
↓こっから人物設定。つまり蛇足。
日ノ本大和(ひのものやまと)
インテリヤクザ。眼鏡かけてる。撫子が好き。
撫子に出会い初めて恋というものを自覚する。
撫子と出会った次の日には借金を無かったことにする代わりに自分と一緒になって欲しいと求婚するというヤクザに恥じない行いをするが実際は撫子に名前を呼ばれるだけで顔を紅く染めるウブ。一応女性経験は数知れずではあるのだが撫子に対しては完全なる奥手どころか手を出すつもりは少なくとも成人するまではない。
撫子の前ではデレデレに豹変するので組に撫子を連れてきた当初組員は戦慄するほどその豹変っぷりに驚いた。だれおま。
月見里撫子(やまなしなでしこ)
泰然自若の大和撫子女子高生。
大和に求婚され借金を失くしてもらえるならと断る理由もないので了承した。誠実なのは求婚された日には分かっていたがいつまでたっても手を出されないので本当に大切にされているんだなと好ましく思っている。大和のことは恋愛感情はないが普通に好き。
学校へは日ノ本組から徒歩で通っている。大和の「車で送り迎えしますよ」という話は秒で断った。そして大和は心の中で泣いた。
異性からも深窓の令嬢としてモテるがどちらかというと同性からモテるタイプ。
海月旭陽(うみづきあさひ)
大和とは一歳下の幼馴染み。海月家が日ノ本家に仕えているような形なので家ぐるみの付き合い。
若頭である大和の一番の補佐。
日ノ本組のムードメーカー的存在で大和の機嫌が悪いときにまあまあと抑える役目も旭陽が持っている。つまり苦労人。
大和の腰巾着と陰で言われているが別に気にしないしどちらかというとそれを聞いた大和がぶちギレるのでそういう点では言って欲しくない。
ヤクザに向いてない穏便派に見えるとっつきやすい陽気で優しいお兄さんで滅多に戦うことはないが普通に大和と張り合えるほどの腕があるので勝手に舐めてくる相手を普通にぼこぼこにできる。
大和が好きになった相手が撫子で本当によかったと幸せそうな大和を見てしみじみ感じている。
空木(うつろぎ)
大和の補佐。補佐の中では一番頭がいいと思う。しらんけど。
特に掘り下げる予定が今のところないので名字しかない。
月見里母
撫子がヤクザに娶られると絶望したけどその後すぐ大和と撫子のやりとりにきゅんきゅんしてた。今はめちゃくちゃ二人を応援している。
おんぼろアパートから引っ越し今は日ノ本組管轄のマンションで悠々自適の一人暮らしを満喫している。
月見里父
本編後妻が借金を全額返したという風の噂を聞いて羽振りのよさを問いただしてあわよくばまた寄生しようと接触しようとしたところ日ノ本組に取っ捕まえられてぶちギレてる大和直々にけじめをつけさせられることになる。そして噂を流したのは大和。
↓こっから更に蛇足。こういうのも見たい大和撫子関係者二人の設定とそれに基づく会話文
日ノ本武尊(ひのもとたける)
大和の双子の兄。一卵性双生児のためそっくり。
ヤクザではなく探偵。
いつでもにこにこ笑っているのでよくなにわろてんねんみたいに言われる。常にそうなだけ。よくある糸目とかではない。
思い立ったらすぐ行動の天才型。
非常にマイペースで人の話をまったく聞かないし己がこうと決めたら意地でも変えないので大和も親父も手に負えない。100人中97人が彼を苦手と言いそう。というかわたしがこういう性格の人間には関わりたくない。キャラとしては好きです。
彼を制御できるのは幼馴染みで助手の向日葵だけ。
思ったことをすぐ口に出す無神経男なので下手するとヤクザである大和より恨みを買っている。
幼少時向日葵と共に見た探偵ドラマがあったのだが、当時の向日葵の発言「探偵さんってかっこいいね!ひま、大きくなったら探偵さんと結婚する!」という言葉を聞いてから自分は探偵になると言って聞かず上記の性格から日ノ本組は全員説得を諦め彼は見事探偵となる。
自覚はしてないが助手の向日葵が病的なまでに好き。他の男と仲良くしているところを見るとやんわりとした表情ではあるが凄まじい力で離してくる。
でも自分が激情に走っていることの自覚はない。
向日葵に一個や二個では済まない数のGPSを無断で取り付けているしスマホには盗聴期を仕掛けている。やることがエグいのはさすがヤクザの血を引く者というべきか。でもやっぱり向日葵が好きだという自覚はない。つまり非常に厄介。
海月向日葵(うみづきひまり)
旭陽の一歳下の妹。一人称は兄の前では『ひま』。
大和のことは幼少期から「大和にい」と慕っている。
教育方針によりヤクザの家で育ちながらそれを感じさせない平凡なじゃじゃ馬娘っぷり。豪胆ではあるのでちょっとやそっとの強面男性にはビビらない。
小さい頃から武尊の面倒をずっと見続けている。今もそれは続いており武尊の経営している探偵事務所の助手をしている。彼女がいないと事務所は賄えない。
とても背が低いのでよく中学生に間違われる合法ロリ(ロリは小学生までをさすんだっけ……まあいいや)。背の高い武尊と並んでいると確実に兄妹と言われる。武尊の自分に対するヤバさには一ミリも気付いていない。
大和と武尊と海月兄妹
「大和ー!遊びに来たよ」
「帰れ」
「ははっ、相変わらず冷たいなあ。
あっみかんだ貰うね」
「寛ぐな帰れ!!」
「やれやれ、何しに来たか理由くらい聞いてくれてもよくないかな」
「……はあ。……何しに来たんだよ」
「冷やかし☆」
「帰れ!!!!!!」
「大和さんが騒がしいと思ったらやっぱり武尊さんか、久しぶりっすね」
「旭陽くん!話が通じそうな人がきてくれて嬉しいよ!」
「あはは、俺も久しぶりに会えて嬉しいです。あ、今向日葵呼んだんですぐ来ると思いますよ」
「えっ、旭陽くん?」
「あれは相当怒ってましたね~」
「……私帰るね!」
「たーけーるー!!!!!!」
「あっ」
「こんなところにいたのね!大和にいと旭陽にいに迷惑かけるなって何回言えば分かるのもう!」
「だってふと顔をみたくなったから……」
「じゃあそうわたしに一言言ってくれればいいでしょ!」
「そうしたら許してくれないに決まってるじゃないか!仕事溜まってるのにって……あ」
「わかってて安心した!じゃ、帰ろっか、武尊?」
「……ハイ」
大和と武尊
『もしもし大和?』
「んだよ兄貴、こっちは暇じゃ」
『おいっ、この縄外せっくそっ!』
『こら、今可愛い弟と話しているんだ。黙っていてくれるかい?』
『ぐあっ!』
「……おい、お前何してんだ」
『え?何って……うーん、害虫駆除?
あ、そんなことよりどこか人手は足りてないかい?ちょうどここに三人の若者がいるんだけど』
「……いらないといったら?」
『んー、それは計算外だな……。でもそのときは……そうだなあ、溶かしてなくしちゃおうかな?向日葵に手を出そうとする人間は生かしておけないもんね』
『ひいっ!いっいやだあ!』
「……今から行く。だからそいつらには絶対手出すんじゃねえぞ」
『ああ、助かるよ!ありがとう、やはり持つべき者は頼れる弟だ!』
武尊と向日葵と大和と旭陽
「いやだ!いかないでくれ!」
「もー!なんでよ!」
「向日葵は私のだろう!?婚活なんてする必要ないじゃないか!」
「わたしだって恋人欲しいの!結婚したいの!ずーっと武尊の世話してきたけどほんとは普通の恋愛だってしたかったんだからね!」
「……私じゃ駄目なのかい?」きゃるん☆
「武尊は武尊じゃん、わたしが欲しいのは恋人!旦那さん~~!!」
「私がいるからいらないだろう!!?」
「だーかーらー!!!」
「……おい、ツッコんでこいよ」
「嫌ですよ大和さんがツッコんできてください」
「未来の弟だぞ」
「未来の妹ですよ」
「……」
「……」
「「はあ……」」
武尊と大和
「向日葵の髪の毛一本からその視線にいたるまでその全ては私のものであるべきだしそうでなくてはいけない。大和もそう思うだろう?」
「……ある意味お前がヤクザにならなくて本当によかったよ」
「うん?どういう意味だい?」
「別に、なんでもねえよ。あんま向日葵を困らせるなよな、いい加減捨てられるぞ」
「ええ!それは困るよ!」
海月兄妹
「向日葵は武尊さんじゃ駄目なのかよ」
「え?……うーん、駄目っていうか……そういうのじゃないじゃん、武尊は」
「例えば武尊さんが違う誰かと付き合い始めた!ってなったら向日葵はどう思う?」
「すぐ別れると思う」
「そ、そうじゃなくて……あー、じゃあ結婚するってなったら?」
「すぐ離婚すると思う」
「…………否定できないのがなあ」
「……旭陽にいは、ひまと武尊が結婚して欲しいと思ってるの?」
「いや?そうとも言うし違うとも言う」
「どういうこと?」
「向日葵が一緒にいて本当に幸せに感じる人と一緒にいて欲しいだけ。向日葵はずっと武尊さんの傍にいるだろ?だからてっきり武尊さんが一番なのかなって思ってたんだ。まあ傍にいるからって必ずしも恋愛感情が芽生えるわけじゃないもんな」
「なるほど。……じゃあその理屈で言ったらひまはずーっと旭陽にいから離れられないなー?えいっ!」
「うわっ!ったく、いい歳してブラコンか~?」
「ブラコンでいいです~~あははっ!」
「……海月兄妹可愛すぎるよ」
盗聴をするな武尊
以上泰然自若大和撫子女子高生に振り回されるインテリヤクザと天真爛漫平凡合法ロリに無自覚激重感情を抱く天才肌長身男性が見たいという話でした おわり
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