師走を過ごそう
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ヘビ探偵事務所本日の営業を締め日誌と顧客情報をパソコンに纏めていると、サブディスプレイに常に映している敷地内の防犯カメラ映像に動きが見えた。といってもただ敷地内の駐車場に車が停まっただけだが。そしてこのトラックとナンバーは……
「邪魔するぜ~」
「おい勝手に入ってくるな馬鹿……ってなんだその大荷物は!」
「まあまあ説明は追々するからよ。ヘビはいないのか?」
「……ヘビ探偵なら公民館で町内会議中だ」
我が物顔で事務所に入ってきたハンターとムカデに頭を痛めながら渋々答える。何やら幅は狭いがやたら面積の広い箱を持ってきた……「まだ積み荷あっからとりあえずここ置くな」って、なんなんだ一体。
「いない?いや、なら逆にちょうどいいな!」
「ああ、サプライズでいいんじゃねえの」
「は?」
「助手、確かこの家部屋一つ空いてたよな?」
「待て、まったく話が読めない」
「ヘビ探偵の喜ぶ顔、見たいだろ?これはな……」
「……!」
☆
どうして会議というものは本来の時間より長引くものなのだろうか。三時間も話すような議題じゃなかったと思うんだけどな……と、ぐったりしながら帰路につく。
ああ、寒い!事務所と公民館が五分の近さとはいえヘビである僕にとってその五分はなかなかにきつい。リボンちゃんにヘビ用の防寒着を貰っているとはいえそれは体全部を覆うわけではないのだ。自分で歩くのに障害になってしまう下半身に防寒着は着用できないから。……足がないから歩く、は正しくないけど。
もうこのまま歩みを止めて眠りについてしまいたいという冬眠本能を振り払う。帰ったらきっと助手が温かいご飯を用意して待ってくれているのだから……それを希望にして歩みを進めた。
「ただいま……」
事務所兼自宅のドアを開く。
「…………?」
いつもなら「おかえりなさい、お疲れ様です」と出迎えてくれる助手の姿がない。
お手洗いだろうか……そう思いながら玄関にいつも常備しているタオルに消毒アルコールを含む水のスプレーを吹き掛けて自分の体の汚れを拭く。
あれ、靴箱に見慣れた靴がある。つまり……
ばたばたと騒がしい足音に思考が止まる、と共にゴンッ、何かぶつかる音、そして「ぐっ」という短い呻き声が耳に届いた。
その声の方、事務所スペースと自宅部分を繋ぐ廊下をみやると助手が頭を押さえながら「おかえりなさい。遅くまでお疲れ様でした、大丈夫でしたか?」といつもより遅れて出迎えてはくれたが……
「いや、君が大丈夫なの。頭ぶつけてたよね」
「少し慌てただけなのでお気になさらず」
「そいつうたたねしてたんだよ」
「っ言わなくていいだろうが!」
奥からハンターとムカデが歩いてくる。やっぱり玄関のあの靴はハンターか。
「二人ともこんな時間に事務所に来るなんて珍しいね?それに二人がいるのに助手がうたたね?もしかして何か僕に秘密のことでもしてた?」
「そりゃ自分の目で見てのお楽しみだ、なあ?」
「喜ぶと思うぜ」
……ふむ。なんだかよく分からないが随分と僕を喜ばせる自信があるようだ。
「……ヘビ探偵、どうぞ奥へ」
助手にそっと持ち上げ抱えられる。運ばれた先は誰かが泊まりに来る際に使えるようにしてある空き室の前だった。
ガチャリ、戸が開いて……
「……こたつだ!!!!??」
部屋の真ん中に鎮座するこたつが目に飛び込んできた瞬間僕は声をあげた。自分でも驚くほどのボリュームで。
「僕の家にこたつがある……これは夢かな……」
「現実ですよ」
「いや喜びすぎだろ、逆に俺が驚いてるわ」
「おれ達の雇用主サマに冬眠でもされたら困るからな、早めのクリスマスプレゼントをさせてもらったぜ」
助手に降ろされ、恐るおそる確認する。
……カーペットは厚みがあってもこもこだ。というかこのカーペット、ソファのような凭れ掛かれるクッションがついている……?
「コーナーソファだとかローソファだとか言うらしい。んで、そこだけじゃなくて見ての通りこたつ布団も断熱性の高い布団を用意した。入っちまえば最後、こたつから出たくなくなるだろうよ」
「んで助手も初めてのこたつに負けてうたたねしてたんだよなー
後ろで粛清を始める助手とされるハンターは無視してムカデに問いかける。
「これ、相当値段しただろうに……僕のためによかったの?」
ムカデと言えば守銭奴、守銭奴と言えばムカデ。それくらい少しの出費にも厳しいムカデが、こんな明らか五、下手すれば六桁くらいしそうな出費を許したことか何よりも驚いたことで。
「……必要な買い物には出し惜しみしねえだけだ」
「……そっか、ふふ、そうかあ」
「やめろそんな生暖かい目でおれを見るな」
「気のせいだよいつもと変わらないよ。
ありがとう、ムカデ」
「……おう。……そのかわり頼みがあるんだが」
「頼み?何かな」
「冬の間、夜おれとハンターをここに泊めてくれないか」
「「は??」」
僕が口を開く前に助手とハンターが口を揃えて声を出す。
「聞いてねえぞなんだそれ」
「なんでお前らを泊めねばならない、自分達の家があるのに」
「電気代の節約」
ムカデのたったその一言で場が静まり、全員が理解した。
「……そう言われると駄目とは言えなくなるな……」
「ヘビ探偵!?」
「助手、お前は分からないだろうが冬の電気代は馬鹿にならないんだぞ」
「それくらい分かるに決まってるだろクソムカデ」
「じゃあおれ達の家でもある便利屋の光熱費もヘビ探偵が払ってんのは知ってんのか?」
「…………」
そうなんですか?という目で見つめられたので頷いて見せると溜め息を吐かれた。どうやら納得したようだ。
別に気にしないであの部屋で生活してくれていいのに、と言おうとも思ったがムカデは誰よりもお金を気にする性分だし気にするなという方が無理な話だろう。
……あれ?発想を逆転すると自分が払うわけじゃないんだから何も気にせずに僕に甘えて便利屋で暖かく過ごせばいいということにならないか?
…………考えるのは野暮かな。
「うん、わかった。いいよ」
「よっしゃ、ありがとな。
おいハンター、聞いての通りだ」
「お前ほんと俺の相談なしに決めるよな……
あー、しばらく世話になるぜ」
突発で言われたことをすぐに許容するあたり、二人の中の高い信頼感を感じる。相変わらず相性がよさそうで何よりだ。
「ん、よろしく。……じゃあもう僕、こたつに入っていい?寒いしお腹空いたよ」
「っ早く言ってくださいよ、今温めて持ってきますから」
「悪い、入って話せばよかったな」
「いいよいいよ」
もそもそとこたつの中に入り込む。
既に電気が入っているそこは芯まで冷えた僕の体を徐々に暖めていく。どうしよう、心地いいな……暖まるどころかこのまま溶けてしまいそうだ。それくらい気持ちよくて、冬眠したい、気分……に……
「ヘビ探偵」
「うわ」
こたつの中でうっかりうたたねに入っているところをキッチンから戻ってきた助手に引き上げられた、と思いきやローソファに凭れていた彼の膝の上に座らされる。
「こうして背後に私がいればこたつの中じゃなくても暖かいでしょう?さ、冷めないうちにどうぞ」
振り返れば眼前に助手の綺麗な顔がにこやかに僕を見ている。……目の前に視線を移動する。テーブルには美味しそうなポトフと焼き鮭、白米が並んでいた。
美味しそう、美味しそうなんだけど。
「……お前らいつもそんな距離近いのか?」
向かいの席のハンターに頬杖をつきながら呆れた声でそう言われる。そりゃそう思うよね、僕も思う。
「?ヘビがこたつに暖まりながらご飯を食べるのは身体の構造上無理があるだろ。だからこうして背後の冷気を感じさせないように俺がヘビ探偵の壁になってるんだろうが。人間でいう半纏のようなものがあれば話は別だが……いや。作って貰えばいいのか、あいつに」
「あ、もういいわ。無自覚な」
「これ毎日見せられんのか、おれら」
「はは……もぐもぐ、こたつで暖まりながら食べるポトフは美味しいなあ……」
今年は賑やかな冬になりそうだ。
現実逃避のつもりでこれから過ごす冬に思いを馳せながらポトフを口に運んだ。
一日目 冬がはじまるよ
「邪魔するぜ~」
「おい勝手に入ってくるな馬鹿……ってなんだその大荷物は!」
「まあまあ説明は追々するからよ。ヘビはいないのか?」
「……ヘビ探偵なら公民館で町内会議中だ」
我が物顔で事務所に入ってきたハンターとムカデに頭を痛めながら渋々答える。何やら幅は狭いがやたら面積の広い箱を持ってきた……「まだ積み荷あっからとりあえずここ置くな」って、なんなんだ一体。
「いない?いや、なら逆にちょうどいいな!」
「ああ、サプライズでいいんじゃねえの」
「は?」
「助手、確かこの家部屋一つ空いてたよな?」
「待て、まったく話が読めない」
「ヘビ探偵の喜ぶ顔、見たいだろ?これはな……」
「……!」
☆
どうして会議というものは本来の時間より長引くものなのだろうか。三時間も話すような議題じゃなかったと思うんだけどな……と、ぐったりしながら帰路につく。
ああ、寒い!事務所と公民館が五分の近さとはいえヘビである僕にとってその五分はなかなかにきつい。リボンちゃんにヘビ用の防寒着を貰っているとはいえそれは体全部を覆うわけではないのだ。自分で歩くのに障害になってしまう下半身に防寒着は着用できないから。……足がないから歩く、は正しくないけど。
もうこのまま歩みを止めて眠りについてしまいたいという冬眠本能を振り払う。帰ったらきっと助手が温かいご飯を用意して待ってくれているのだから……それを希望にして歩みを進めた。
「ただいま……」
事務所兼自宅のドアを開く。
「…………?」
いつもなら「おかえりなさい、お疲れ様です」と出迎えてくれる助手の姿がない。
お手洗いだろうか……そう思いながら玄関にいつも常備しているタオルに消毒アルコールを含む水のスプレーを吹き掛けて自分の体の汚れを拭く。
あれ、靴箱に見慣れた靴がある。つまり……
ばたばたと騒がしい足音に思考が止まる、と共にゴンッ、何かぶつかる音、そして「ぐっ」という短い呻き声が耳に届いた。
その声の方、事務所スペースと自宅部分を繋ぐ廊下をみやると助手が頭を押さえながら「おかえりなさい。遅くまでお疲れ様でした、大丈夫でしたか?」といつもより遅れて出迎えてはくれたが……
「いや、君が大丈夫なの。頭ぶつけてたよね」
「少し慌てただけなのでお気になさらず」
「そいつうたたねしてたんだよ」
「っ言わなくていいだろうが!」
奥からハンターとムカデが歩いてくる。やっぱり玄関のあの靴はハンターか。
「二人ともこんな時間に事務所に来るなんて珍しいね?それに二人がいるのに助手がうたたね?もしかして何か僕に秘密のことでもしてた?」
「そりゃ自分の目で見てのお楽しみだ、なあ?」
「喜ぶと思うぜ」
……ふむ。なんだかよく分からないが随分と僕を喜ばせる自信があるようだ。
「……ヘビ探偵、どうぞ奥へ」
助手にそっと持ち上げ抱えられる。運ばれた先は誰かが泊まりに来る際に使えるようにしてある空き室の前だった。
ガチャリ、戸が開いて……
「……こたつだ!!!!??」
部屋の真ん中に鎮座するこたつが目に飛び込んできた瞬間僕は声をあげた。自分でも驚くほどのボリュームで。
「僕の家にこたつがある……これは夢かな……」
「現実ですよ」
「いや喜びすぎだろ、逆に俺が驚いてるわ」
「おれ達の雇用主サマに冬眠でもされたら困るからな、早めのクリスマスプレゼントをさせてもらったぜ」
助手に降ろされ、恐るおそる確認する。
……カーペットは厚みがあってもこもこだ。というかこのカーペット、ソファのような凭れ掛かれるクッションがついている……?
「コーナーソファだとかローソファだとか言うらしい。んで、そこだけじゃなくて見ての通りこたつ布団も断熱性の高い布団を用意した。入っちまえば最後、こたつから出たくなくなるだろうよ」
「んで助手も初めてのこたつに負けてうたたねしてたんだよなー
後ろで粛清を始める助手とされるハンターは無視してムカデに問いかける。
「これ、相当値段しただろうに……僕のためによかったの?」
ムカデと言えば守銭奴、守銭奴と言えばムカデ。それくらい少しの出費にも厳しいムカデが、こんな明らか五、下手すれば六桁くらいしそうな出費を許したことか何よりも驚いたことで。
「……必要な買い物には出し惜しみしねえだけだ」
「……そっか、ふふ、そうかあ」
「やめろそんな生暖かい目でおれを見るな」
「気のせいだよいつもと変わらないよ。
ありがとう、ムカデ」
「……おう。……そのかわり頼みがあるんだが」
「頼み?何かな」
「冬の間、夜おれとハンターをここに泊めてくれないか」
「「は??」」
僕が口を開く前に助手とハンターが口を揃えて声を出す。
「聞いてねえぞなんだそれ」
「なんでお前らを泊めねばならない、自分達の家があるのに」
「電気代の節約」
ムカデのたったその一言で場が静まり、全員が理解した。
「……そう言われると駄目とは言えなくなるな……」
「ヘビ探偵!?」
「助手、お前は分からないだろうが冬の電気代は馬鹿にならないんだぞ」
「それくらい分かるに決まってるだろクソムカデ」
「じゃあおれ達の家でもある便利屋の光熱費もヘビ探偵が払ってんのは知ってんのか?」
「…………」
そうなんですか?という目で見つめられたので頷いて見せると溜め息を吐かれた。どうやら納得したようだ。
別に気にしないであの部屋で生活してくれていいのに、と言おうとも思ったがムカデは誰よりもお金を気にする性分だし気にするなという方が無理な話だろう。
……あれ?発想を逆転すると自分が払うわけじゃないんだから何も気にせずに僕に甘えて便利屋で暖かく過ごせばいいということにならないか?
…………考えるのは野暮かな。
「うん、わかった。いいよ」
「よっしゃ、ありがとな。
おいハンター、聞いての通りだ」
「お前ほんと俺の相談なしに決めるよな……
あー、しばらく世話になるぜ」
突発で言われたことをすぐに許容するあたり、二人の中の高い信頼感を感じる。相変わらず相性がよさそうで何よりだ。
「ん、よろしく。……じゃあもう僕、こたつに入っていい?寒いしお腹空いたよ」
「っ早く言ってくださいよ、今温めて持ってきますから」
「悪い、入って話せばよかったな」
「いいよいいよ」
もそもそとこたつの中に入り込む。
既に電気が入っているそこは芯まで冷えた僕の体を徐々に暖めていく。どうしよう、心地いいな……暖まるどころかこのまま溶けてしまいそうだ。それくらい気持ちよくて、冬眠したい、気分……に……
「ヘビ探偵」
「うわ」
こたつの中でうっかりうたたねに入っているところをキッチンから戻ってきた助手に引き上げられた、と思いきやローソファに凭れていた彼の膝の上に座らされる。
「こうして背後に私がいればこたつの中じゃなくても暖かいでしょう?さ、冷めないうちにどうぞ」
振り返れば眼前に助手の綺麗な顔がにこやかに僕を見ている。……目の前に視線を移動する。テーブルには美味しそうなポトフと焼き鮭、白米が並んでいた。
美味しそう、美味しそうなんだけど。
「……お前らいつもそんな距離近いのか?」
向かいの席のハンターに頬杖をつきながら呆れた声でそう言われる。そりゃそう思うよね、僕も思う。
「?ヘビがこたつに暖まりながらご飯を食べるのは身体の構造上無理があるだろ。だからこうして背後の冷気を感じさせないように俺がヘビ探偵の壁になってるんだろうが。人間でいう半纏のようなものがあれば話は別だが……いや。作って貰えばいいのか、あいつに」
「あ、もういいわ。無自覚な」
「これ毎日見せられんのか、おれら」
「はは……もぐもぐ、こたつで暖まりながら食べるポトフは美味しいなあ……」
今年は賑やかな冬になりそうだ。
現実逃避のつもりでこれから過ごす冬に思いを馳せながらポトフを口に運んだ。
一日目 冬がはじまるよ