ヘビ探偵と白助手シリーズ
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「これでよし、と。いいんじゃないかしら。きついとか動きにくいとかないわよね?」
「うん、ばっちり!」
「問題ない」
「おれも」
「……おいほんとに俺この衣装でいいのか?」
「なに、私の仕立てに文句あるの?」
「いや、全然ないけどよ……?いいのか?かぼちゃ被るだけとかじゃなくて」
「あら、あんたの仮装に吸血鬼を提案したヘビ探偵に意見?」
「そんなことさせるわけないでしょ、君は便利屋の顔なんだから。ばっちりかっこよくその格好で子供達を出迎えてあげてね、吸血鬼ハンターさん?」
「お……おう……任せろよ」
「緊張してんのかよだっせえ」
「しし、してねえわ!!!」
「というか吸血鬼ハンターだとまるで吸血鬼を狩るハンターの意図になりそうだな」
「それはツッコんじゃ駄目なやつだよ」
今日はハロウィンだ。
この町の風習でハロウィンの日になるとガキどもが列をなし、『トリック・オア・トリート』と言ってこの町で店を構えている人々の元にやってくる。そして待ち受ける我々は仮装をしてそれを出迎え菓子をやる。ヘビ探偵事務所も便利屋も例外ではない。
今までヘビ探偵はそれこそ先ほど話に出たオバケかぼちゃを被るだけだったり、シーツを被っているだけで済ませていたらしいが……よくハンターにかっこよく出迎えて、なんて言えたものだ。ほら、内緒だよ、とでも言いたげな視線をこちらに向けている。
今年は俺、そしてハンターとムカデの働く便利屋も出来たということで張り切ってリボンに今日のための衣装を発注したらしい。
俺はキョンシー(今は邪魔になるので札はつけていない)、ヘビ探偵はキョンシーに対となる導士。ハンターは吸血鬼、ムカデはその吸血鬼の相棒チックなコウモリの羽、そしてシルクハットを被っている。
「みんなよく似合ってるわ、さすが私ね。いい仕事するわ」
「自分でいうのかよ」
「でもこんなかっこいい衣装、本当にありがとうリボンちゃん。これは謝礼だよ」
「もう、別にいいのに」
「駄目だよ、いい仕事にはそれ相応のお礼をすべきだよ!それに、親しき仲にも礼儀あり、でしょ?」
「ふふ、そうね。じゃあ……ありがたく受けとるわ。
それじゃあんた達。私の作った衣装に恥じないようかっこよく決めてきなさい!」
「もちろん!」
「ああ」
「ばっちり決めてやるよ!」
「ありがとな」
そう言って俺達は解散した。
リボンと便利屋を見送り、事務所に戻る。もちろんこの格好だから今日は休みだ。
ガキどもがくる夕方まであと少し。配る菓子の最終確認でもするか……と大量に昨日と今日の午前中でラッピングした菓子に手をつける。
そこにカラ、とドアが開くことを知らせるベルが鳴る。
もう来たのか?と目を向けるとそこにいたのはヘビ探偵だった。
「ヘビ探偵?まだ外にいたんですか?」
「……」
俺の返答には答えずにじっ、と見つめられる。
「……ヘビ探偵?」
「……あっ、ごめん、なんでもない。ちょっとげんかんがきれいかかくにんしてたんだ。」
「ああ、そういうことでしたか。今配るお菓子の最終確認をしようとしていたところなのですが、手伝っていただけますか?」
「うん、わかった」
ひとつひとつ手に持ち、つけたリボンが崩れていないか確認していく。
「かわいいね」
「え?」
「あ、えっと、かわいくできたね」
「ええ、そうですね」
「こどもたち、よろこんでくれるといいね」
「喜んでくれますよ、昨日と今日で頑張ったじゃないですか。まあ、主に私がやりましたけど」
ヘビ探偵のラッピングはあまりにもいびつで昨日から何度も笑わされた。ヘビであるから確かにラッピングなどの器用なことはできないとわかってはいたが、あの不恰好さには笑ってしまうのだ。
思い出してまた笑いが込み上げてくる。
「ふっ、はは、すいません、笑ってないです」
怒られるかと思って謝ったが、ヘビ探偵は目を丸くして俺を見ているだけだった。
「……え、なんですか?」
「……ふふ、なんでもない」
と思いきやそう言ってふわりと笑う。
仮装をして気分でも高揚しているのだろうか、雰囲気までもがいつもと違う気がする。
「こどもたちがよろこんでくれるの楽しみだね、じょしゅ」
「え、ええ……そうですね」
だが、妙にその雰囲気が心地いい気もする。
……ご機嫌そうだからよしとするか。
――――さて、本番だが大成功と言っても過言ではなかった。
「トリック・オア・トリート!」と言いながらガキどもが扉を開けてきた瞬間俺達が出迎えの言葉を掛けるより前に「きゃー!!」だの「かっけー!!」だの興奮しながら大声を出して取り囲まれ中々菓子を渡し終えることが出来なかったが、なんとか全員に手渡ししてようやく今ガキどもを見送れたところだ。
頭につけた札を外しながら先ほどまでガキどもに可愛いと揉みくちゃにされていたヘビ探偵の前にしゃがむ。
「大丈夫ですか?」
「うん……へへ、みんなたのしそうだった、うれしそうだった。よかったあ」
「嵐のようでしたよ、まったく」
「でも、きみもたのしそうでよかった」
「え?」
「たくさんわらってた」
「……そんな笑ってましたか?」
「うん」
「……そう、ですか」
無自覚だった。そんな目に見えるほど俺は笑っていたのか?今思い返してもガキどもを制御することが出来ずに大変な思いをした記憶しかないのだが……
……でも、昔していたように表情を作るようなことをしていた記憶もない。
そうか、と口に出しながら口元を抑える。
「またわらってる」
「……楽しかった、みたいですね、私も」
「ぼくも、たのしかったよ」
「……陽も沈んで急に冷えてきましたね。もう中に入りましょう」
暖かい目で見られているのに居た堪れなくなり逃げるように事務所に入る。
「そうだ、今夜はパンプキンシチューにでもしましょうか。南瓜を貰いましたからね、ヘビ探偵は南瓜だけ切っていただけますか?」
自室に入り着替えながら話しかける。
しかし、当たり前に返ってくると思った返事は来る様子はなく。
「……ヘビ探偵?」
着替え終えてから、見回す。
……つい先ほどまでいたはずのヘビ探偵の姿はどこにもない。さっき一緒に事務所に入ったはずなのに。
洗面所、トイレ、ヘビ探偵の部屋、物置……すべての部屋を確認する。そのどこにも、ヘビ探偵はいない。
俺しかいない、静かな、事務所。
さっきまでの暖かい空気が嘘のようだ。
心が凍りつく。
「ヘビ探偵っ……!」
「ごめんごめん、戻ったよ」
……呑気な声が、玄関から聞こえた。
慌ててその声の方に向かう。
まだ仮装したままの、いつものマイペースな雰囲気を纏うヘビ探偵を見て脱力した。……脱力するほど、心が強張っていたことにも、同時に気付く。
「っなんで何も言わずに行くんです……!!」
「あー少しだけだから言わなくてもいいかなって思った……んだけど、その様子じゃ大分心配掛けたみたいだね。ごめん」
「謝るならもう金輪際やめてください」
「わかった、もうしない」
「……反省しているならいいです。それで、何をしに外に出たんですか。少しにしては時間が長かったですけど。また玄関が綺麗かどうか確認とか言いませんよね?」
「……お見送り」
「お見送り?誰の。まだ子供達でもいたんですか?」
「まあ、そんなとこ」
「……」
煮え切らない答えだ。
「はあ、僕お腹空いちゃった。ねえ助手」
「……なんです?」
「トリック・オア・トリート!」
いい笑顔で尾先を伸ばしてくる。子供が手を差し出して菓子をねだるのと同じように。
「……一緒にやったのでわかっているとは思いますが菓子なら配り終えましたし余りもないですよ」
「あ、そうだった。
じゃあトリック・オア・ディナーで!」
「実質食べる選択肢しか選ばせないですね」
「だってイタズラならもうしたようなもんだから」
「……そうなんですか?」
「お腹すいたよ助手クン、お手伝いするから早くディナーにしよう!」
一瞬殊勝な顔をしたかと思いきや、すっかり何事もなかったかのようににこにこといつもの笑顔を浮かべている。もうこれ以上の追及は無意味なようだ。
「まったく……。……パンプキンシチューにするつもりでしたがそれでいいですか?」
「異議なしっ、じゃあ南瓜は手元が危なげな助手の代わりに僕が切ってあげないとね」
「わざわざ言わなくてもそのつもりですよ。他の材料を先に切っていますから、ヘビ探偵は着替えてきてからお手伝いお願いします」
「了解」
さて、と。まずは野菜を並べるか。
「ああそうだ、助手」
声の方を向くと、廊下からヘビ探偵がこちらを見ていた。
「なんですか?」
「ふふ、ハッピーハロウィン!」
そう残して、洗面所へと消える。
今わざわざ言うことか?とも思ったが……。
……ええ、おかげさまで楽しかったですよ。
そう心の中で呟いた。
――――寸刻前。
ふ、と意識が戻る。
目の前には僕と同じ姿のヘビ。
そして徐々にその姿は元の……小さなヘビとなる。
……夕陽に照らされた僕達二匹の足元の影は、ひとつだけ。
「どうだった?」
優しく問い掛ける。
「……しあわせそうだった」
「……うん」
「よかった、って、思った」
「……うん」
気付いたのはたまたまだったのか、それとも必然だったのか。リボンちゃん達を見送る際、僕は視界の端でこちらを見るなにか、に気付いた。そしてそれが直感的に幽霊だということにも。
助手の目を盗み、その幽霊……小さなヘビと対話すると、その子は昔助手が幼い頃に殺してしまったヘビであると名乗った。
「ぼくのせいで、あの子はおかしくなっちゃったから……ぼくが、もっとつよければ。ヘビじゃ、なければ。きっと、あの子はまっすぐに大人になったはずなのにって、思ってた。
もう、ぼくのせいであの子はしあわせになれないのかもしれないって思ったら、すごく……心がいたかった……」
「……君は優しいね」
自分を殺したブラックドクターを恨むことなくただずっと、その彼の身を案じていたんだ。
その小さな身体で、魂で、成仏できないほどに。
悪かったのは己だと責めることすらしながら。
……そして僕はそんなに心配するなら一緒に過ごしてみたらどうだと提案し、渋る子ヘビさんをどうにか説得して僕の身体を貸した。こんなことリボンちゃんやゴーグルくん、そして助手に言ったら後先考えず何をしたのかと酷く怒られてしまいそうだからこの事実は墓場まで持っていくつもりだけど。
「……やさしく、ないよ。やさしいのは、ヘビたんていさんだよ」
「僕も優しくないよ。僕がしているのは偽善だ。彼のしたことは到底許されるべきじゃない。でも僕はそう分かっていながら彼を保護した。だから僕も、許されるべきじゃない。だからもし恨むなら、僕を恨んで。僕を連れていって」
「そんなこと、しないよ、だってぼくはあの子をうらんでない。ヘビたんていさんも、うらんでない」
「……うん、そうだね。君はそんな子じゃない」
優しく微笑む子ヘビさんに、胸が締め付けられる。
僕はどんな顔をすればいいのだろう。君を殺した彼を保護する僕は君の前で笑っていいのかな。
いくら君が彼を恨んでないと言ったところで、その事実は是とならない。
「ヘビたんていさん、わらってよ」
「え……」
「わらって、いいんだよ。
ううん……わらってほしい。ヘビたんていさんのえがおが、あの子のなによりのしあわせみたいだから」
「……それは、ちょっと恥ずかしいけど。
君がそういうなら……笑わないといけないね」
……見透かされてるみたいだ。僕よりも一回り以上は離れていそうな子供に。
「……からだ、かしてくれてありがとう。こんなに楽しいハロウィンがさいごに……あの子といっしょにすごせて、よかった。たくさん話せてよかった。あの子のいろんな顔が見れて、うれしかった」
「……元気でね」
「ヘビたんていさんも。あの子をこれからもしあわせにしてあげて」
「もちろん、まかせてよ」
「……じゃあ、ばいばい」
「うん……ばいばい、子ヘビさん」
光に包まれ粒子となり、その姿が薄れていく。
……成仏、したんだ。
「……戻らないと」
ほんの少ししか時間は経っていない筈だけど、もしかしたら助手は酷く心配しているかもしれない。
……少し、助手を理解した気がする。
旅館事件後、彼を拾って当初の頃は恐るおそるといった態度ではあったが、僕を心配するようなことはなかった。けど、一緒に過ごすようになって暫くしてから彼が僕に対して過保護気味になってきた、その理由。
これが、彼の本質なのだろう。
ヘビは、人よりいとも容易く死んでしまう存在だから。身を持って体現したから。
まったく、僕はそんなやわじゃないんだけどな。
そう思いながら玄関を開けようとしたとこで、中から僕を呼ぶ声が聴こえた。
ああ、これはやばそうな声色だ……。
慌てずひとつ深呼吸をして、顔と心を整える。
……大丈夫、安心して。
君が見守り続けた彼は僕がこれからも責任を持って大切にする。
ずっとこれからも幸せに過ごしてもらうつもりだから、どうか雲の上から見ていてよ。
「よし、」
気合いをいれてから、扉を開いた。
『HAPPY HALLOWEEN』
「うん、ばっちり!」
「問題ない」
「おれも」
「……おいほんとに俺この衣装でいいのか?」
「なに、私の仕立てに文句あるの?」
「いや、全然ないけどよ……?いいのか?かぼちゃ被るだけとかじゃなくて」
「あら、あんたの仮装に吸血鬼を提案したヘビ探偵に意見?」
「そんなことさせるわけないでしょ、君は便利屋の顔なんだから。ばっちりかっこよくその格好で子供達を出迎えてあげてね、吸血鬼ハンターさん?」
「お……おう……任せろよ」
「緊張してんのかよだっせえ」
「しし、してねえわ!!!」
「というか吸血鬼ハンターだとまるで吸血鬼を狩るハンターの意図になりそうだな」
「それはツッコんじゃ駄目なやつだよ」
今日はハロウィンだ。
この町の風習でハロウィンの日になるとガキどもが列をなし、『トリック・オア・トリート』と言ってこの町で店を構えている人々の元にやってくる。そして待ち受ける我々は仮装をしてそれを出迎え菓子をやる。ヘビ探偵事務所も便利屋も例外ではない。
今までヘビ探偵はそれこそ先ほど話に出たオバケかぼちゃを被るだけだったり、シーツを被っているだけで済ませていたらしいが……よくハンターにかっこよく出迎えて、なんて言えたものだ。ほら、内緒だよ、とでも言いたげな視線をこちらに向けている。
今年は俺、そしてハンターとムカデの働く便利屋も出来たということで張り切ってリボンに今日のための衣装を発注したらしい。
俺はキョンシー(今は邪魔になるので札はつけていない)、ヘビ探偵はキョンシーに対となる導士。ハンターは吸血鬼、ムカデはその吸血鬼の相棒チックなコウモリの羽、そしてシルクハットを被っている。
「みんなよく似合ってるわ、さすが私ね。いい仕事するわ」
「自分でいうのかよ」
「でもこんなかっこいい衣装、本当にありがとうリボンちゃん。これは謝礼だよ」
「もう、別にいいのに」
「駄目だよ、いい仕事にはそれ相応のお礼をすべきだよ!それに、親しき仲にも礼儀あり、でしょ?」
「ふふ、そうね。じゃあ……ありがたく受けとるわ。
それじゃあんた達。私の作った衣装に恥じないようかっこよく決めてきなさい!」
「もちろん!」
「ああ」
「ばっちり決めてやるよ!」
「ありがとな」
そう言って俺達は解散した。
リボンと便利屋を見送り、事務所に戻る。もちろんこの格好だから今日は休みだ。
ガキどもがくる夕方まであと少し。配る菓子の最終確認でもするか……と大量に昨日と今日の午前中でラッピングした菓子に手をつける。
そこにカラ、とドアが開くことを知らせるベルが鳴る。
もう来たのか?と目を向けるとそこにいたのはヘビ探偵だった。
「ヘビ探偵?まだ外にいたんですか?」
「……」
俺の返答には答えずにじっ、と見つめられる。
「……ヘビ探偵?」
「……あっ、ごめん、なんでもない。ちょっとげんかんがきれいかかくにんしてたんだ。」
「ああ、そういうことでしたか。今配るお菓子の最終確認をしようとしていたところなのですが、手伝っていただけますか?」
「うん、わかった」
ひとつひとつ手に持ち、つけたリボンが崩れていないか確認していく。
「かわいいね」
「え?」
「あ、えっと、かわいくできたね」
「ええ、そうですね」
「こどもたち、よろこんでくれるといいね」
「喜んでくれますよ、昨日と今日で頑張ったじゃないですか。まあ、主に私がやりましたけど」
ヘビ探偵のラッピングはあまりにもいびつで昨日から何度も笑わされた。ヘビであるから確かにラッピングなどの器用なことはできないとわかってはいたが、あの不恰好さには笑ってしまうのだ。
思い出してまた笑いが込み上げてくる。
「ふっ、はは、すいません、笑ってないです」
怒られるかと思って謝ったが、ヘビ探偵は目を丸くして俺を見ているだけだった。
「……え、なんですか?」
「……ふふ、なんでもない」
と思いきやそう言ってふわりと笑う。
仮装をして気分でも高揚しているのだろうか、雰囲気までもがいつもと違う気がする。
「こどもたちがよろこんでくれるの楽しみだね、じょしゅ」
「え、ええ……そうですね」
だが、妙にその雰囲気が心地いい気もする。
……ご機嫌そうだからよしとするか。
――――さて、本番だが大成功と言っても過言ではなかった。
「トリック・オア・トリート!」と言いながらガキどもが扉を開けてきた瞬間俺達が出迎えの言葉を掛けるより前に「きゃー!!」だの「かっけー!!」だの興奮しながら大声を出して取り囲まれ中々菓子を渡し終えることが出来なかったが、なんとか全員に手渡ししてようやく今ガキどもを見送れたところだ。
頭につけた札を外しながら先ほどまでガキどもに可愛いと揉みくちゃにされていたヘビ探偵の前にしゃがむ。
「大丈夫ですか?」
「うん……へへ、みんなたのしそうだった、うれしそうだった。よかったあ」
「嵐のようでしたよ、まったく」
「でも、きみもたのしそうでよかった」
「え?」
「たくさんわらってた」
「……そんな笑ってましたか?」
「うん」
「……そう、ですか」
無自覚だった。そんな目に見えるほど俺は笑っていたのか?今思い返してもガキどもを制御することが出来ずに大変な思いをした記憶しかないのだが……
……でも、昔していたように表情を作るようなことをしていた記憶もない。
そうか、と口に出しながら口元を抑える。
「またわらってる」
「……楽しかった、みたいですね、私も」
「ぼくも、たのしかったよ」
「……陽も沈んで急に冷えてきましたね。もう中に入りましょう」
暖かい目で見られているのに居た堪れなくなり逃げるように事務所に入る。
「そうだ、今夜はパンプキンシチューにでもしましょうか。南瓜を貰いましたからね、ヘビ探偵は南瓜だけ切っていただけますか?」
自室に入り着替えながら話しかける。
しかし、当たり前に返ってくると思った返事は来る様子はなく。
「……ヘビ探偵?」
着替え終えてから、見回す。
……つい先ほどまでいたはずのヘビ探偵の姿はどこにもない。さっき一緒に事務所に入ったはずなのに。
洗面所、トイレ、ヘビ探偵の部屋、物置……すべての部屋を確認する。そのどこにも、ヘビ探偵はいない。
俺しかいない、静かな、事務所。
さっきまでの暖かい空気が嘘のようだ。
心が凍りつく。
「ヘビ探偵っ……!」
「ごめんごめん、戻ったよ」
……呑気な声が、玄関から聞こえた。
慌ててその声の方に向かう。
まだ仮装したままの、いつものマイペースな雰囲気を纏うヘビ探偵を見て脱力した。……脱力するほど、心が強張っていたことにも、同時に気付く。
「っなんで何も言わずに行くんです……!!」
「あー少しだけだから言わなくてもいいかなって思った……んだけど、その様子じゃ大分心配掛けたみたいだね。ごめん」
「謝るならもう金輪際やめてください」
「わかった、もうしない」
「……反省しているならいいです。それで、何をしに外に出たんですか。少しにしては時間が長かったですけど。また玄関が綺麗かどうか確認とか言いませんよね?」
「……お見送り」
「お見送り?誰の。まだ子供達でもいたんですか?」
「まあ、そんなとこ」
「……」
煮え切らない答えだ。
「はあ、僕お腹空いちゃった。ねえ助手」
「……なんです?」
「トリック・オア・トリート!」
いい笑顔で尾先を伸ばしてくる。子供が手を差し出して菓子をねだるのと同じように。
「……一緒にやったのでわかっているとは思いますが菓子なら配り終えましたし余りもないですよ」
「あ、そうだった。
じゃあトリック・オア・ディナーで!」
「実質食べる選択肢しか選ばせないですね」
「だってイタズラならもうしたようなもんだから」
「……そうなんですか?」
「お腹すいたよ助手クン、お手伝いするから早くディナーにしよう!」
一瞬殊勝な顔をしたかと思いきや、すっかり何事もなかったかのようににこにこといつもの笑顔を浮かべている。もうこれ以上の追及は無意味なようだ。
「まったく……。……パンプキンシチューにするつもりでしたがそれでいいですか?」
「異議なしっ、じゃあ南瓜は手元が危なげな助手の代わりに僕が切ってあげないとね」
「わざわざ言わなくてもそのつもりですよ。他の材料を先に切っていますから、ヘビ探偵は着替えてきてからお手伝いお願いします」
「了解」
さて、と。まずは野菜を並べるか。
「ああそうだ、助手」
声の方を向くと、廊下からヘビ探偵がこちらを見ていた。
「なんですか?」
「ふふ、ハッピーハロウィン!」
そう残して、洗面所へと消える。
今わざわざ言うことか?とも思ったが……。
……ええ、おかげさまで楽しかったですよ。
そう心の中で呟いた。
――――寸刻前。
ふ、と意識が戻る。
目の前には僕と同じ姿のヘビ。
そして徐々にその姿は元の……小さなヘビとなる。
……夕陽に照らされた僕達二匹の足元の影は、ひとつだけ。
「どうだった?」
優しく問い掛ける。
「……しあわせそうだった」
「……うん」
「よかった、って、思った」
「……うん」
気付いたのはたまたまだったのか、それとも必然だったのか。リボンちゃん達を見送る際、僕は視界の端でこちらを見るなにか、に気付いた。そしてそれが直感的に幽霊だということにも。
助手の目を盗み、その幽霊……小さなヘビと対話すると、その子は昔助手が幼い頃に殺してしまったヘビであると名乗った。
「ぼくのせいで、あの子はおかしくなっちゃったから……ぼくが、もっとつよければ。ヘビじゃ、なければ。きっと、あの子はまっすぐに大人になったはずなのにって、思ってた。
もう、ぼくのせいであの子はしあわせになれないのかもしれないって思ったら、すごく……心がいたかった……」
「……君は優しいね」
自分を殺したブラックドクターを恨むことなくただずっと、その彼の身を案じていたんだ。
その小さな身体で、魂で、成仏できないほどに。
悪かったのは己だと責めることすらしながら。
……そして僕はそんなに心配するなら一緒に過ごしてみたらどうだと提案し、渋る子ヘビさんをどうにか説得して僕の身体を貸した。こんなことリボンちゃんやゴーグルくん、そして助手に言ったら後先考えず何をしたのかと酷く怒られてしまいそうだからこの事実は墓場まで持っていくつもりだけど。
「……やさしく、ないよ。やさしいのは、ヘビたんていさんだよ」
「僕も優しくないよ。僕がしているのは偽善だ。彼のしたことは到底許されるべきじゃない。でも僕はそう分かっていながら彼を保護した。だから僕も、許されるべきじゃない。だからもし恨むなら、僕を恨んで。僕を連れていって」
「そんなこと、しないよ、だってぼくはあの子をうらんでない。ヘビたんていさんも、うらんでない」
「……うん、そうだね。君はそんな子じゃない」
優しく微笑む子ヘビさんに、胸が締め付けられる。
僕はどんな顔をすればいいのだろう。君を殺した彼を保護する僕は君の前で笑っていいのかな。
いくら君が彼を恨んでないと言ったところで、その事実は是とならない。
「ヘビたんていさん、わらってよ」
「え……」
「わらって、いいんだよ。
ううん……わらってほしい。ヘビたんていさんのえがおが、あの子のなによりのしあわせみたいだから」
「……それは、ちょっと恥ずかしいけど。
君がそういうなら……笑わないといけないね」
……見透かされてるみたいだ。僕よりも一回り以上は離れていそうな子供に。
「……からだ、かしてくれてありがとう。こんなに楽しいハロウィンがさいごに……あの子といっしょにすごせて、よかった。たくさん話せてよかった。あの子のいろんな顔が見れて、うれしかった」
「……元気でね」
「ヘビたんていさんも。あの子をこれからもしあわせにしてあげて」
「もちろん、まかせてよ」
「……じゃあ、ばいばい」
「うん……ばいばい、子ヘビさん」
光に包まれ粒子となり、その姿が薄れていく。
……成仏、したんだ。
「……戻らないと」
ほんの少ししか時間は経っていない筈だけど、もしかしたら助手は酷く心配しているかもしれない。
……少し、助手を理解した気がする。
旅館事件後、彼を拾って当初の頃は恐るおそるといった態度ではあったが、僕を心配するようなことはなかった。けど、一緒に過ごすようになって暫くしてから彼が僕に対して過保護気味になってきた、その理由。
これが、彼の本質なのだろう。
ヘビは、人よりいとも容易く死んでしまう存在だから。身を持って体現したから。
まったく、僕はそんなやわじゃないんだけどな。
そう思いながら玄関を開けようとしたとこで、中から僕を呼ぶ声が聴こえた。
ああ、これはやばそうな声色だ……。
慌てずひとつ深呼吸をして、顔と心を整える。
……大丈夫、安心して。
君が見守り続けた彼は僕がこれからも責任を持って大切にする。
ずっとこれからも幸せに過ごしてもらうつもりだから、どうか雲の上から見ていてよ。
「よし、」
気合いをいれてから、扉を開いた。
『HAPPY HALLOWEEN』
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