師走を過ごそう
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日もとてもいい湯だった。
ぽかぽかと身体が心地よく暖かいことに気分がいい。昔のクソ旅館のクソ詐欺温泉を忘れてやってもいいと思えるほど今の俺はこの旅館の温泉が気に入っている。
毎日俺がミミズだからという理由でクソみてえな上司連中から低賃金でこき使われ精神ともに疲労する身体を俺はこの旅館の温泉で癒している。いや、むしろそれだけが楽しみでここのところ生きていると言ってもいいかもしれない。
師走だからか仕事の量も社長を中心とする上司連中の罵倒も多く毎日に嫌気がさしているがこの温泉に浸かった日の夜だけは前向きになれた。また明日から生きるために、温泉に入るために稼ぎに行こうとも思える。
鼻唄を歌いながらいちご牛乳でも飲もうかとロビーに向かったとき。
「ミミズじゃねえか」
ばったりと目の前から、あのクソ社長連中が歩いてきた。
「お前もここの温泉使ってんのか。まあいい湯だもんなあ」
「……そうっすね」
せっかくのいい気分が台無しになる。最悪の夜だ。
「でもミミズと一緒の湯に入ると思うといい湯も途端に価値が落ちるなあ!なあお前ら?」
「仰る通り、そもそもミミズ如きが温泉に入るのも、はは!烏滸がましいというもの。あれは我々人間が入るものでありミミズは……そうですね、雨の日に自分の身体を洗うくらいが丁度いいのではないでしょうか?ねえ?」
「ははは!だがそれだとそんな汚いミミズが毎日うちに働きに来ることになるじゃないか、そうなったらうちの会社の品位が落ちるというものよ」
「どこの働き先もないようなミミズを拾っている時点で社長の品位は高いですよ」
クソ野郎共が。往来で差別発言するやつらに品位なんてあるわけないだろ。言い返したいことは山ほどあるがぐっと堪える。ここで言い返せばこいつらの言う通り働く場所がなくなってしまうからだ。
そもそもこの旅館は人間とヘビは別の温泉に入るよう用意されているのに俺が入っているからと貶すのは違うだろう、そもそも。旅館まで貶すのは、違うだろ。
さっきまでのいい気分が嘘のように身体と心が冷えていく。
ひたすら俺を見下す発言を繰り返す連中から離れることも出来ずただ押し黙っていると、
「お客様」
後ろからの声に振り返る。
「……ババア」
ちらりと俺を見たがすぐに視線は正面の社長どもに戻された。
「お客様、大変申し訳ありませんが利用規約をよくお読みになっていないようね」
「……は?」
「読んでいますよ」
「なら先程から止まらないミミズへの悪口はなんなのか、説明頂けるのかしら?」
「な、」
「利用規約、この旅館でのヘビやムカデ、ミミズなどを差別するような発言は禁止とする」
「!?」
「まさか、ヘビやミミズでも読めるのに人間様が読んでいないなんてことはないだろう?」
「っそんな規約必要ねえだろ!たかがミミズどもに!」
「そう思うなら金輪際ここを利用しなくて結構、こちらも利用規約読まずに破るような常識の通じない客は願い下げだよ。お帰り願えるかしら」
「っ……!!くそ!胸クソ悪い、二度と来るか!」
「しゃ、社長!」
ばたばたと帰っていく社長どもを唖然として見送る。
「ふん、脚を鳴らして帰るなんて品位の欠片もないわね。お里が知れるわ」
ババアの言葉にぼおっとした脳が覚醒し、仰ぎ見る。
「……おいクソババア」
「なんだいクソミミズ」
「……あんな利用規約、なかっただろ」
「あるわよ。だって今作ったから」
「……はあ!?今だあ!?」
「私を誰だと思ってるの?この旅館のおかみよ。
……ああ、勘違いしないでちょうだい。ミミズを下に見るような客はうちのヘビ達も馬鹿にしてくるに間違いない。あの子らの仕事に支障を出さないためにも初めからそういう客をふるいにかけるために作るべきねと思っただけよ」
「……」
「それじゃ、私忙しいから。まあないと思うけどもし感謝のひとつでも抱いたなら毎日来て金を落としていきなさい」
言いたいことだけ言って振り返らずに去っていくおかみの後ろ姿を見つめる。
「……ババアのくせになんなんだよ」
廊下にぽつりと俺の声が響いた。
十二日目 ……最悪な夜になったと思ったのによ
ぽかぽかと身体が心地よく暖かいことに気分がいい。昔のクソ旅館のクソ詐欺温泉を忘れてやってもいいと思えるほど今の俺はこの旅館の温泉が気に入っている。
毎日俺がミミズだからという理由でクソみてえな上司連中から低賃金でこき使われ精神ともに疲労する身体を俺はこの旅館の温泉で癒している。いや、むしろそれだけが楽しみでここのところ生きていると言ってもいいかもしれない。
師走だからか仕事の量も社長を中心とする上司連中の罵倒も多く毎日に嫌気がさしているがこの温泉に浸かった日の夜だけは前向きになれた。また明日から生きるために、温泉に入るために稼ぎに行こうとも思える。
鼻唄を歌いながらいちご牛乳でも飲もうかとロビーに向かったとき。
「ミミズじゃねえか」
ばったりと目の前から、あのクソ社長連中が歩いてきた。
「お前もここの温泉使ってんのか。まあいい湯だもんなあ」
「……そうっすね」
せっかくのいい気分が台無しになる。最悪の夜だ。
「でもミミズと一緒の湯に入ると思うといい湯も途端に価値が落ちるなあ!なあお前ら?」
「仰る通り、そもそもミミズ如きが温泉に入るのも、はは!烏滸がましいというもの。あれは我々人間が入るものでありミミズは……そうですね、雨の日に自分の身体を洗うくらいが丁度いいのではないでしょうか?ねえ?」
「ははは!だがそれだとそんな汚いミミズが毎日うちに働きに来ることになるじゃないか、そうなったらうちの会社の品位が落ちるというものよ」
「どこの働き先もないようなミミズを拾っている時点で社長の品位は高いですよ」
クソ野郎共が。往来で差別発言するやつらに品位なんてあるわけないだろ。言い返したいことは山ほどあるがぐっと堪える。ここで言い返せばこいつらの言う通り働く場所がなくなってしまうからだ。
そもそもこの旅館は人間とヘビは別の温泉に入るよう用意されているのに俺が入っているからと貶すのは違うだろう、そもそも。旅館まで貶すのは、違うだろ。
さっきまでのいい気分が嘘のように身体と心が冷えていく。
ひたすら俺を見下す発言を繰り返す連中から離れることも出来ずただ押し黙っていると、
「お客様」
後ろからの声に振り返る。
「……ババア」
ちらりと俺を見たがすぐに視線は正面の社長どもに戻された。
「お客様、大変申し訳ありませんが利用規約をよくお読みになっていないようね」
「……は?」
「読んでいますよ」
「なら先程から止まらないミミズへの悪口はなんなのか、説明頂けるのかしら?」
「な、」
「利用規約、この旅館でのヘビやムカデ、ミミズなどを差別するような発言は禁止とする」
「!?」
「まさか、ヘビやミミズでも読めるのに人間様が読んでいないなんてことはないだろう?」
「っそんな規約必要ねえだろ!たかがミミズどもに!」
「そう思うなら金輪際ここを利用しなくて結構、こちらも利用規約読まずに破るような常識の通じない客は願い下げだよ。お帰り願えるかしら」
「っ……!!くそ!胸クソ悪い、二度と来るか!」
「しゃ、社長!」
ばたばたと帰っていく社長どもを唖然として見送る。
「ふん、脚を鳴らして帰るなんて品位の欠片もないわね。お里が知れるわ」
ババアの言葉にぼおっとした脳が覚醒し、仰ぎ見る。
「……おいクソババア」
「なんだいクソミミズ」
「……あんな利用規約、なかっただろ」
「あるわよ。だって今作ったから」
「……はあ!?今だあ!?」
「私を誰だと思ってるの?この旅館のおかみよ。
……ああ、勘違いしないでちょうだい。ミミズを下に見るような客はうちのヘビ達も馬鹿にしてくるに間違いない。あの子らの仕事に支障を出さないためにも初めからそういう客をふるいにかけるために作るべきねと思っただけよ」
「……」
「それじゃ、私忙しいから。まあないと思うけどもし感謝のひとつでも抱いたなら毎日来て金を落としていきなさい」
言いたいことだけ言って振り返らずに去っていくおかみの後ろ姿を見つめる。
「……ババアのくせになんなんだよ」
廊下にぽつりと俺の声が響いた。
十二日目 ……最悪な夜になったと思ったのによ