ヘビの命(単発まとめ)
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小さい頃から僕は道端に捨てられた動物達を見過ごせない質だった。どこからか拾ってきては可哀想だから何とかしてあげたいと言って泣いて親にせがみ、その子の幸せのためにと新しい家族を探した。そして大人になった今もそれは変わらない。親に頼ることは大人だからさすがにしなくなったけどね。
相棒に「ほんとに相棒は小さい頃から変わらないよね、その優しさがいつか漬け込まれることにならないかいつもぼく心配だよ」と拾う度に言われるので、まあ確かに優しすぎる自覚がないと言ったら嘘になる……けどそれに漬け込まれるほど僕は甘くないよと毎回そう言い返すのだ。
「……そう、僕は甘くない……甘くないんだよ……」
そうぽつりと繰り返し。
「だってこれは、捨てられてるから……可哀想だから……」
言い訳を並べて。
「だから、だから……」
帰り道の路地裏、そのつきあたりで捨てられたように倒れているそれに手を伸ばす。
「……ごめん相棒。やっぱ君の言う通りかも」
簡単に信念ってそうそう変えられるもんじゃないし、融通も効かないみたいだ。
……僕の存在に気付いた“それ”が虚ろな目で気怠そうに此方を見上げる。
「おいでよ、黒猫さん」
手を差し伸べると虚ろな目に光が戻り、驚いたような顔をしてから疑惑の目に変わった。何か言いたげに口を開いて、つぐむ。
そして恐る恐る、僕の手のひらを取った。
☆ ☆ ☆
「「ただいまー」」
「「ただいまー!」」
「おい遅いぞ、何してた」
機嫌の悪そうな声にうげ、と顔が歪む。その声の主がいるリビングに入るとソファーで如何にも機嫌が悪いですよと言わんばかりに足をたんたんと鳴らしながら睨み付けられて僕は隠すことなくため息をついた。
「遅いってたかだか五分とかじゃん……」
「その五分で料理の一品でも作れるだろ」
「うっわ、そういうこと言っちゃうんだ。じゃあお前が朝テレビで見てうまそうって言ってたからコンビニわざわざ寄って買ったデザートあげないからな」
「さすが気が利きますね貰いましょうか」
「はあ……お得意の猫被りがこうも露骨だと呆れちゃうね……」
不機嫌な顔が打って変わりにこにこと薄っぺらい笑顔を浮かべるけれど僕が渡す素振りを見せないことに痺れを切らしまた不機嫌そうな顔になる。忙しいやつだな。
そんな僕達には目もくれず「帰ってすることはー?」「「身体を拭く~~!」」と相棒と子供達が身体を拭いたり今しがた買ってきたものを冷蔵庫に入れるなどをしてくれている。この帰宅直後に言い合うやりとりがすっかり当たり前として日常に溶け込んでいるんだなと内心苦笑した。
「おい、寄越せ早く」
「今あげたら今食べるでしょ、ダメだよこれは夜ご飯食べてから」
「今食べようが後で食べようが変わらないだろ」
「夜ご飯食べれなくなるだろ!この前実際そうだったのを忘れたとは言わせないよ!だからダメ!」
「ちっ……」
渋々納得したのか大して興味もなさそうなニュース番組に視線を戻すのを見て僕はまったく……と思いながら夜ご飯の支度に取りかかる。
「君が手伝えば早く夜ご飯の用意は終わるしデザートも早く食べられると思うよー?」
キッチンで米を研ぎながら相棒がそう言うと
「おてつだい、ぼくたちもやるー」
「やるー!」
子供達が我先にとキッチンへと向かって行き「ありゃ、違う子達が釣れちゃったよ」と溢す相棒に声を出して笑ってしまった。
「ははっ……!さ、君はどうする?子供達は手伝ってくれるみたいだけど?」
まだ笑いの引かない顔で挑発的に僕が言えば「あーくそ」とがしがしと頭を搔き、
「……ちっ、手伝えばいいんだろ」
ソファーから立ち上がった!よしよし!
「じゃあみんなでぱぱっと夜ご飯作るぞー!」
「おー!」
「「おー!」」
「……おー」
「声が小さいぞー?」
「っるせえ調子乗るな!」
――ヘビ探偵へ。
大きな黒猫を拾いました。
生意気だし口を開けば反発しかしてこないし、相棒には散々怒られたけどまあそこそこ皆で楽しく暮らしてます。今度紹介させてね、きっとびっくりするよ。
ゴーグルより。
★ ★ ★
【side黒猫】
縄張りに仕掛けられていた盗聴器を足元に投げ見せつけるように目の前で踏み潰せばへたりこんだ女は「ひっ」と小さく悲鳴をあげて無様にずりずりと後ろに下がっていく。なぜこいつは右肩を押さえているんだ?……ああ、俺がナイフを奪うのに関節を外したからか。加減はしたから外れただけで済んだ筈だ。俺の温情に感謝してほしい。
ゆっくり、ゆっくりと女に歩みを進める。
片手に女から先ほど奪ったナイフを持ちながら。
「なんでっ……!なんで邪魔するのよ!あんた、ゴーグルくんのなんなのよ!!」
「俺か?俺は……」
錯乱した女の甲高い声は実に耳障りだ。だが質問には答えてやるのが筋だろう。
『おいでよ、黒猫さん』
お節介でお人好しな甘過ぎる男の顔が脳裏に浮かんだ。
「……アイツの飼い猫だよ」
「はあっ……!?」
「やり過ぎたな、ストーカークン。見逃してやっていたのに……これ以上俺の御主人サマを傷付けるような行為及び俺の縄張りを荒らすのはやめてもらおう」
「いっ、意味わかんない、あんたおかしいんじゃ、っ」
「うるせえな」
後ろが壁となり逃げ場を失った女の首元を掴みナイフを振り上げればひゅ、と息を飲みまだ強情そうだったその瞳は絶望に染まる。人の生殺与奪を握る感覚は実に愉快だ。さて、どこまで脅してやろうか――――
「やりすぎだよブラックドクター」
「……今まで傍観していた癖によく言う」
振り向かずとも誰の声だか分かる。はは、と言葉だけで笑いながらずるずるとヘビ探偵が姿を現した。
こいつが来たなら脅しも終わりだな。適当に手を離し「いっ、!」と声をあげて倒れる女を尻目に自身のコートの汚れてしまった箇所を払い落とす。
「やだなあ、警察に連絡していたから遅れただけだよ?
……ああ、ごめんねゴーグルくんのストーカーさん。僕は彼の相棒ヘビくんじゃないんだ。囮に引っ掛かってくれてありがとう」
「そんなっ……」
「相棒ヘビくんを殺せばそのままその位置に成り代われると思ったの?馬鹿だなあ、浅はかだなあ。そんなわけないのにね。恋は盲目とは言うけれどやりすぎだよ、君」
まずヘビ探偵を窓から招き、誰にも気付かれずにゴーグルの部屋の正面玄関から出ていかせる。……そういやその作戦を聞いた時俺が「ゴーグル達に気付かれずにそんなことが本当に出来るのか?」と聞いたら「スニークは得意なんだ。スネークだけに」とクソくだらない冗談を言っていたな。口だけではなかったから良かったがこれでバレたりしていたら一発ぶん殴るどころじゃ済まさなかったな。……クソ冗談を思い出したら腹が立ってきた。話を戻そう。ゴーグルの部屋の玄関から出てきたヘビ探偵が適当に近所を歩き始める。するとクソヘビを相棒ヘビだと勘違いしたこの女は背後からナイフでまんまと殺そうとした。そして俺は打ち合わせ通りにナイフを振り下ろす寸前でその腕を掴み無力化……。実に単純な作戦だが盲目となった女を引っかけるには充分だった。ちなみにこの囮作戦をすることを知っているのはゴーグルにストーカーがいることを危惧しヘビ探偵に相談を持ち掛けた相棒ヘビしかいない。まあ俺が囮作戦に一枚噛むことは知らないだろうが。
ゴーグルはヘビに向けられるどんな感情にも敏感な癖に自分に向けられる好意、そして悪意には鈍感と来ている。純粋なアイツだからこそ相棒ヘビはアイツの知らないところで解決させたかったようだが下手すれば相棒ヘビが犠牲になるところだった。それでは本末転倒だろう。
……別にアイツにストーカーが存在してようがあからさまに私物まで盗られていることに気付いてなかろうが俺には関係ねえし首を突っ込むつもりはさらさらなかった。だが……。
「アイツらを引き離そうとした時点でテメエは終わりだよ。二度とアイツらに近付くな」
乱雑にナイフを放り投げる。さらさら当てるつもりはなかったが「ひっ」とまたつい先ほど聞いたような小さい悲鳴をあげて大袈裟に仰け反る様子を見るとまあ、再犯はさすがにないだろうと予測する。
……遠くから聞こえてきたサイレンが聞こえ始めた。「ありがとう、ちゃんと適当に警察には説明するからもう帰っていいよブラックドクター」
「それはどうも、では――」
「ブラックドクター」
早々に立ち去ろうとする俺を引き留める。おい、帰っていいと言ったのはテメエだろうがクソヘビ。隠すことなく嫌な顔をしたが知らん振りをしてヘビ探偵は口を開いた。
「彼らにはずっと一緒にいて貰わないとね。人とヘビを繋ぐ架け橋になる稀有な存在に死なれては困るんだ、ヘビ族の地位をあげるためにも。だからまた彼らに何かあったらちゃんと協力してね」
「……ああ」
あくまで指名手配されている俺は基本あの縄張りから外に出ず身を隠している。それでも危険を冒してこの囮作戦に協力したのはコイツにその条件で見逃されているからもあるが何よりも……。
「……アイツらを傍で守るのが俺の罰で、贖罪だからな」
俺の返答に満足そうに頷く忌々しいヘビ探偵に背を向け今度こそ帰路につく。
『えっ、出掛けるの!?……まあ何か理由があるんだろうね。今日はシチューにするつもりだから、冷める前にきちんと帰って来てよね』
『今日はデザートもあるからね!』
『いってらっしゃい!』
『きをつけてね!』
……家を出る前、ゴーグルとヘビ達に掛けられた声を思い出す。自分には分不相応な温かい声を。
歪で不安定な関係を始めたのはアイツからだ。それでも俺はこの真綿で首を絞めるような、凍えた心をゆっくりと溶かすような、古傷をじわじわとえぐるような、自分は一人ではないという安心感が湧いてくるようなこの苦くも甘い感覚を手放したいと思えないところまで来てしまった。
……飼い猫は飼い猫らしく飼い主の待つ家に戻ろうじゃないか。腹も減ったしな。
食欲のそそる匂いがする。そういや晩飯はシチューだったな。……献立にいちいち心が躍る人間ではなかった筈なのだがそれもそうか。今の俺は飼い猫なのだから。
扉を開く。
「「おかえり!」」
「「おかえりなさーい!」」
想像通りの温かい声と笑顔につられる。
「……ただいま」
【お人好しの男に拾われた黒猫が幸せになる話】
相棒に「ほんとに相棒は小さい頃から変わらないよね、その優しさがいつか漬け込まれることにならないかいつもぼく心配だよ」と拾う度に言われるので、まあ確かに優しすぎる自覚がないと言ったら嘘になる……けどそれに漬け込まれるほど僕は甘くないよと毎回そう言い返すのだ。
「……そう、僕は甘くない……甘くないんだよ……」
そうぽつりと繰り返し。
「だってこれは、捨てられてるから……可哀想だから……」
言い訳を並べて。
「だから、だから……」
帰り道の路地裏、そのつきあたりで捨てられたように倒れているそれに手を伸ばす。
「……ごめん相棒。やっぱ君の言う通りかも」
簡単に信念ってそうそう変えられるもんじゃないし、融通も効かないみたいだ。
……僕の存在に気付いた“それ”が虚ろな目で気怠そうに此方を見上げる。
「おいでよ、黒猫さん」
手を差し伸べると虚ろな目に光が戻り、驚いたような顔をしてから疑惑の目に変わった。何か言いたげに口を開いて、つぐむ。
そして恐る恐る、僕の手のひらを取った。
☆ ☆ ☆
「「ただいまー」」
「「ただいまー!」」
「おい遅いぞ、何してた」
機嫌の悪そうな声にうげ、と顔が歪む。その声の主がいるリビングに入るとソファーで如何にも機嫌が悪いですよと言わんばかりに足をたんたんと鳴らしながら睨み付けられて僕は隠すことなくため息をついた。
「遅いってたかだか五分とかじゃん……」
「その五分で料理の一品でも作れるだろ」
「うっわ、そういうこと言っちゃうんだ。じゃあお前が朝テレビで見てうまそうって言ってたからコンビニわざわざ寄って買ったデザートあげないからな」
「さすが気が利きますね貰いましょうか」
「はあ……お得意の猫被りがこうも露骨だと呆れちゃうね……」
不機嫌な顔が打って変わりにこにこと薄っぺらい笑顔を浮かべるけれど僕が渡す素振りを見せないことに痺れを切らしまた不機嫌そうな顔になる。忙しいやつだな。
そんな僕達には目もくれず「帰ってすることはー?」「「身体を拭く~~!」」と相棒と子供達が身体を拭いたり今しがた買ってきたものを冷蔵庫に入れるなどをしてくれている。この帰宅直後に言い合うやりとりがすっかり当たり前として日常に溶け込んでいるんだなと内心苦笑した。
「おい、寄越せ早く」
「今あげたら今食べるでしょ、ダメだよこれは夜ご飯食べてから」
「今食べようが後で食べようが変わらないだろ」
「夜ご飯食べれなくなるだろ!この前実際そうだったのを忘れたとは言わせないよ!だからダメ!」
「ちっ……」
渋々納得したのか大して興味もなさそうなニュース番組に視線を戻すのを見て僕はまったく……と思いながら夜ご飯の支度に取りかかる。
「君が手伝えば早く夜ご飯の用意は終わるしデザートも早く食べられると思うよー?」
キッチンで米を研ぎながら相棒がそう言うと
「おてつだい、ぼくたちもやるー」
「やるー!」
子供達が我先にとキッチンへと向かって行き「ありゃ、違う子達が釣れちゃったよ」と溢す相棒に声を出して笑ってしまった。
「ははっ……!さ、君はどうする?子供達は手伝ってくれるみたいだけど?」
まだ笑いの引かない顔で挑発的に僕が言えば「あーくそ」とがしがしと頭を搔き、
「……ちっ、手伝えばいいんだろ」
ソファーから立ち上がった!よしよし!
「じゃあみんなでぱぱっと夜ご飯作るぞー!」
「おー!」
「「おー!」」
「……おー」
「声が小さいぞー?」
「っるせえ調子乗るな!」
――ヘビ探偵へ。
大きな黒猫を拾いました。
生意気だし口を開けば反発しかしてこないし、相棒には散々怒られたけどまあそこそこ皆で楽しく暮らしてます。今度紹介させてね、きっとびっくりするよ。
ゴーグルより。
★ ★ ★
【side黒猫】
縄張りに仕掛けられていた盗聴器を足元に投げ見せつけるように目の前で踏み潰せばへたりこんだ女は「ひっ」と小さく悲鳴をあげて無様にずりずりと後ろに下がっていく。なぜこいつは右肩を押さえているんだ?……ああ、俺がナイフを奪うのに関節を外したからか。加減はしたから外れただけで済んだ筈だ。俺の温情に感謝してほしい。
ゆっくり、ゆっくりと女に歩みを進める。
片手に女から先ほど奪ったナイフを持ちながら。
「なんでっ……!なんで邪魔するのよ!あんた、ゴーグルくんのなんなのよ!!」
「俺か?俺は……」
錯乱した女の甲高い声は実に耳障りだ。だが質問には答えてやるのが筋だろう。
『おいでよ、黒猫さん』
お節介でお人好しな甘過ぎる男の顔が脳裏に浮かんだ。
「……アイツの飼い猫だよ」
「はあっ……!?」
「やり過ぎたな、ストーカークン。見逃してやっていたのに……これ以上俺の御主人サマを傷付けるような行為及び俺の縄張りを荒らすのはやめてもらおう」
「いっ、意味わかんない、あんたおかしいんじゃ、っ」
「うるせえな」
後ろが壁となり逃げ場を失った女の首元を掴みナイフを振り上げればひゅ、と息を飲みまだ強情そうだったその瞳は絶望に染まる。人の生殺与奪を握る感覚は実に愉快だ。さて、どこまで脅してやろうか――――
「やりすぎだよブラックドクター」
「……今まで傍観していた癖によく言う」
振り向かずとも誰の声だか分かる。はは、と言葉だけで笑いながらずるずるとヘビ探偵が姿を現した。
こいつが来たなら脅しも終わりだな。適当に手を離し「いっ、!」と声をあげて倒れる女を尻目に自身のコートの汚れてしまった箇所を払い落とす。
「やだなあ、警察に連絡していたから遅れただけだよ?
……ああ、ごめんねゴーグルくんのストーカーさん。僕は彼の相棒ヘビくんじゃないんだ。囮に引っ掛かってくれてありがとう」
「そんなっ……」
「相棒ヘビくんを殺せばそのままその位置に成り代われると思ったの?馬鹿だなあ、浅はかだなあ。そんなわけないのにね。恋は盲目とは言うけれどやりすぎだよ、君」
まずヘビ探偵を窓から招き、誰にも気付かれずにゴーグルの部屋の正面玄関から出ていかせる。……そういやその作戦を聞いた時俺が「ゴーグル達に気付かれずにそんなことが本当に出来るのか?」と聞いたら「スニークは得意なんだ。スネークだけに」とクソくだらない冗談を言っていたな。口だけではなかったから良かったがこれでバレたりしていたら一発ぶん殴るどころじゃ済まさなかったな。……クソ冗談を思い出したら腹が立ってきた。話を戻そう。ゴーグルの部屋の玄関から出てきたヘビ探偵が適当に近所を歩き始める。するとクソヘビを相棒ヘビだと勘違いしたこの女は背後からナイフでまんまと殺そうとした。そして俺は打ち合わせ通りにナイフを振り下ろす寸前でその腕を掴み無力化……。実に単純な作戦だが盲目となった女を引っかけるには充分だった。ちなみにこの囮作戦をすることを知っているのはゴーグルにストーカーがいることを危惧しヘビ探偵に相談を持ち掛けた相棒ヘビしかいない。まあ俺が囮作戦に一枚噛むことは知らないだろうが。
ゴーグルはヘビに向けられるどんな感情にも敏感な癖に自分に向けられる好意、そして悪意には鈍感と来ている。純粋なアイツだからこそ相棒ヘビはアイツの知らないところで解決させたかったようだが下手すれば相棒ヘビが犠牲になるところだった。それでは本末転倒だろう。
……別にアイツにストーカーが存在してようがあからさまに私物まで盗られていることに気付いてなかろうが俺には関係ねえし首を突っ込むつもりはさらさらなかった。だが……。
「アイツらを引き離そうとした時点でテメエは終わりだよ。二度とアイツらに近付くな」
乱雑にナイフを放り投げる。さらさら当てるつもりはなかったが「ひっ」とまたつい先ほど聞いたような小さい悲鳴をあげて大袈裟に仰け反る様子を見るとまあ、再犯はさすがにないだろうと予測する。
……遠くから聞こえてきたサイレンが聞こえ始めた。「ありがとう、ちゃんと適当に警察には説明するからもう帰っていいよブラックドクター」
「それはどうも、では――」
「ブラックドクター」
早々に立ち去ろうとする俺を引き留める。おい、帰っていいと言ったのはテメエだろうがクソヘビ。隠すことなく嫌な顔をしたが知らん振りをしてヘビ探偵は口を開いた。
「彼らにはずっと一緒にいて貰わないとね。人とヘビを繋ぐ架け橋になる稀有な存在に死なれては困るんだ、ヘビ族の地位をあげるためにも。だからまた彼らに何かあったらちゃんと協力してね」
「……ああ」
あくまで指名手配されている俺は基本あの縄張りから外に出ず身を隠している。それでも危険を冒してこの囮作戦に協力したのはコイツにその条件で見逃されているからもあるが何よりも……。
「……アイツらを傍で守るのが俺の罰で、贖罪だからな」
俺の返答に満足そうに頷く忌々しいヘビ探偵に背を向け今度こそ帰路につく。
『えっ、出掛けるの!?……まあ何か理由があるんだろうね。今日はシチューにするつもりだから、冷める前にきちんと帰って来てよね』
『今日はデザートもあるからね!』
『いってらっしゃい!』
『きをつけてね!』
……家を出る前、ゴーグルとヘビ達に掛けられた声を思い出す。自分には分不相応な温かい声を。
歪で不安定な関係を始めたのはアイツからだ。それでも俺はこの真綿で首を絞めるような、凍えた心をゆっくりと溶かすような、古傷をじわじわとえぐるような、自分は一人ではないという安心感が湧いてくるようなこの苦くも甘い感覚を手放したいと思えないところまで来てしまった。
……飼い猫は飼い猫らしく飼い主の待つ家に戻ろうじゃないか。腹も減ったしな。
食欲のそそる匂いがする。そういや晩飯はシチューだったな。……献立にいちいち心が躍る人間ではなかった筈なのだがそれもそうか。今の俺は飼い猫なのだから。
扉を開く。
「「おかえり!」」
「「おかえりなさーい!」」
想像通りの温かい声と笑顔につられる。
「……ただいま」
【お人好しの男に拾われた黒猫が幸せになる話】