ヘビの命(単発まとめ)
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「ムカデくん、ハンターくんのこときらいなの?」
「嫌いだな」
「ふうん、いやよいやよも好きのうちって言うし愛のかたちは人それぞれなのね」
マセガキ、という言葉は飲み込む。
「わたしはすきだよ、ハンターくんのこと」
「は?やめとけあんなおとぼけクソハンター」
「だっておもしろいし、やさしいし、あと……おもしろいし」
「いいところ面白いか優しいしかでてきてねえじゃねえか」
「だからさ、」
使っていた色鉛筆をおいて、スケッチブックに描いたばかりのそれをオレに見せつけるように両手で持った。
「なかなおり、しようよ」
……スケッチブックの中でオレとハンターが手を繋いで笑っている。夢中になって何を描いてたかと思えばしょーもないものを。まったくこのガキは。
「ケンカしてる一人と一匹にめんどうを見られるこっちの身にもなってよ」
むっとしながらそう言われてうぐ、と言葉につまる。
あまりにも正論。金を貰って依頼として来ているのだからこれは仕事中なのだ。仕事中に私情を挟むのは社会で働く者として確かに問題である。
わかってはいるが……
「うぐぐぐぐ……」
プライドが邪魔をする。
「まーいいや。一番どうすればいいかわかってないのはムカデくんとハンターくんなんだろーし」
立ち上がる娘を見上げる。
「わたし、ハンターくんのお手伝いしてくるからムカデくんこの部屋のお片付けよろしくね」
たたっとキッチンに小走りで向かう娘を見送りながら、オレは溜め息をついた。年下のガキに気を遣われるなんて情けないにも程がある。
ああくそ、それもこれも全部あいつのせいだ、ハンター!
……話は先週に遡る。
先週便利屋に舞い込んだ仕事。それは一週間家を留守にせざるをえなくなってしまった両親からの娘の面倒を住み込みで見て欲しいという依頼だった。以前ヘビ探偵の世話になってから困ったことをよく相談するらしく今回も留守にしている間娘をどうすればいいかヘビ探偵に相談したところ、オレ達便利屋の話を聞いたのでお願いすることにした、らしい。ありがたい話だがヘビ探偵は本当に人の信頼を得るのが上手すぎるだろ。どうなってんだあいつ。
……まあそれはさておき、依頼内容を話しに便利屋に来た両親はヘビやムカデに対する偏見も持っておらず終始物腰柔らかな態度で育ちの良さが垣間見えた。
多すぎるのでは?という依頼金を渡されさすがにこんなにはもらえないとオレ達は日和ったが大事な娘を預ける、そして人様に自分の娘を見てもらうことの申し訳なさを含めるとこれくらいは出させて欲しいとごり押され謹んで受け取ったくらいだ。ヘビ探偵に見られたら笑われそうなくらいの態度で。
肝心の五歳になるという娘と言えばオレのことを怖がることはせずまじまじと見ていたし何も問題になりそうなこともなくこの仕事は実に割のよすぎる仕事に思えた。
そうなるはず、だったのだ。
娘を任される前日となる夜、オレとハンターが些細なことで大喧嘩をしなければ。
☆
「ハンターくん」
「んあ?」
下から見上げる依頼主の小娘を見た。
ハンターくん、なんてこっ恥ずかしい呼び方は心底やめてほしいのだがそれを初めて呼ばれたときに言ったら「ハンターくんはハンターくんでしょ?」と曇りなき眼で言われたのでこれは訂正するのもめんどくさいと諦めたのは記憶に新しい。
「どうした、ムカデに飽きたのか?」
「ううん、手伝いに来たの。ムカデくんはリビングお掃除してくれるから」
「ああ、そういう。つってもなあ、別にお前が手伝えることなんてないぞ。あと焼くだけだしな」
生地が出来上がりあとは焼くだけのアップルパイを小娘の目線まで落とし見せる。毎日作ってくださいと頼まれたものだ。この娘の好物らしい。
「そう。じゃあわたしの話し相手になってよ。ハンターくんに聞きたいことがあるの」
「俺に?……ガキの話し相手には向いてねえぞ俺」
「しつもんに答えてくれればいいから。ほら、早くそれをオーブンにいれて」
「はいはい待ってろって」
オーブンに入れ、50分のタイマーで設定する。
「飲み物はミルクティーでいいんだよな」
「うん」
冷蔵庫からミルクティーを取り出し、コップに注いで娘がいつも座る位置のテーブルの上に置く。
ムカデにも休憩しようぜと声をかけようとして――口を閉じる。自分の分のコーヒーを入れて、娘と正反対になる椅子に座った。
「で、何が聞きたいんだ?」
「ムカデくんとのケンカのげんいん」
「……」
「なかなおり、してくれないとこまる。ギスギスはもういや」
「あー……それは、悪かったな」
頬を掻く。別にムカデの機嫌が悪かろうが俺には知ったことではないから放っておいたがこいつの気持ちを忘れていた。こいつのほうが俺達の私情なんて知ったことではないだろうに。
「原因はなに?」
「わかればこんな引き摺ってねえよ」
「ちゃんと思い出して。ずるずる引き摺ったらなかなおりできるものもできなくなっちゃう」
「んなこといわれてもなあ、わかんねえものは……」
そういいながら思い起こしてみる。確か明らかにムカデの態度がおかしくなったのは……。
「……先週の、依頼から帰ってきたとき、か?」
「うん」
「帰ったら、いや、そのときはまだ普通だったな。……俺がなんか言ったら、なんか機嫌悪くなった、ような」
「何を言ったの?」
「別になんでもないぞ?まあでもその日のことはよく覚えてんな。その日の依頼、俺だけで動いたんだけどよ、依頼主の女から依頼料とは別にプレゼント貰ったんだよ。ケーキなんだけどよ、本当に助かりました、これはほんのお礼ですって。すげーその女別嬪だったんだが、これは俺にも春が来たか?って一瞬期待しちまって」
「うわあ」
思い出していい気分に浸る俺に水をさすようにげんなりした声を上げるガキを思わず睨み付ける。
「な、なんだよ」
「なるほどなあ、よくわかったよ」
「は?」
「わたし、ハンターくんのことよくしらないけどなんとなくわかるよ。そのおねえさんから貰ったもの、ムカデくんに見せびらかしたんだ」
「そりゃ見せるだろ。いい女から貰ったもんだぞ?自慢するのが男の性ってもんだ」
「で、まあムカデのお前には一生こういうのは貰えないだろうなとか言ったんだ」
「別にいつもそういうやり取りしてるぞ」
「デリカシーないなあハンターくん。もういいよ、それ以上墓穴ほる前に口閉じて」
「いやお前が聞いたんだろうが!!」
全力でツッコんだが、ガキは目を閉じ顔をしかめながらぶつぶつと独り言を言い始めた。こいつ、大人しいだけかと思っていたが大分変人だぞ……。
☆
「ムカデくん」
面倒を見て四日目。昼を食べ、ひらがなの練習をする娘の横でテレビの再放送を見ながらぼおっとしていたのだが、娘はオレの手を急に掴み名前を呼んだ。
「あ、な、なんだどうした」
「こっち」
「ちょ、おいひっぱるな!」
ずるずると引き摺られるようにキッチンに向かう。嫌だそっちはあいつが、
「ハンターくん、アップルパイは今日いいよ」
「は?いやでもリンゴ切っちまったし」
「それはそのまま食べるから、はい、キッチンでてって。命令。今日はわたしとムカデくんがせんりょーします」
「はあ?」
困惑する目がオレを見る。知らねえオレが一番聞きてえわ。そう思いながら目をそらす。
「……はいはいじゃあ俺はリビングにいるからな、なんかあったら、てかなんかある前に声かけろよ」
「ん」
小娘とオレだけがキッチンに取り残される。
「……はあ。で、なにすんだよオレとお前で」
「これ」
娘が手に持っていた子供用タブレット、その画面に映るページを見せられる。
「作ろ?」
「……は?」
にっこり笑う娘にオレはただ間抜けな顔を浮かべるしか出来なかった。
☆
人ん家の留守を任されたものの毎日掃除をして四日目ともなれば、特にすることもなくなった。風呂もトイレもピカピカにしてしまったし、本当にやることがない。
……テレビの再放送から目を離し、キッチンを伺うものの、声しか聞こえないしその声も聞き取れはしない。ムカデの声が機嫌悪そうなことくらいしかわからん。
……そういえば暫くまともに話してなければ目も合わせてないな。さっきもすぐに逸らされた。
いつまで意地を張るつもりだよあのクソムカデは……。
いや、悪いのは俺……なのか?
わからん。というか考えるのもめんどくさい。だがこのまま訳のわからんことであいつと喧嘩しているほうが余計面倒なのも事実で。ああくそ!
「ハンターくん」
はっとする。いつの間にか目の前に娘がいた。
「あ、わりぃ、なんかあったか?」
「洗濯物取り込まないと。もう夕方だよ」
「は?……うわマジだいつのまに!」
慌てて洗濯物を取り込む。昔の刑事ドラマが再放送されていたはずのテレビからは夕方のニュース番組が聞こえてきている。
「電気もつけずにぼーっとしてたの?」
「……うるせえ」
ぱたんと洗濯物を取り込むために開けた窓を閉める。
「占領は終わったのか?夕飯作らないとだろ」
「うん、終わったから声をかけた」
「ムカデは?」
「キッチン。ほら、早く来て」
「な、なんだなんだ」
子供の弱い力でぐいぐいと腕を引かれる。
その力に従い引かれるがままキッチンに向かうと、テーブルの上のムカデとそしてその前に鎮座するチョコレートでコーティングされたケーキが目に入った。
「わたしとムカデくんで作ったの」
……俺をわざわざ追い出してムカデとケーキを作る?どういう意図だ?ガキの発想はわからねえ……。
「味はほしょーするよ。ね、ムカデくん」
「……当たり前だろ」
「ほらほら、食べよう。ハンターくん切り分けてね。あ、今日だけは夜ご飯前にお菓子は駄目とかそういうのはなし。今食べて欲しいから」
「……はいはい」
素直に切り分け、用意された小皿に取り分ける。
「いただきまーす」
「いただきます」
フォークで一口分をすくい、口にいれる。
「……うま」
子供が作ったものだ、甘すぎるものを想像していた。しかしこれはビター……というほど苦くはないが甘すぎないチョコレートで作られているのか食べやすい糖度で舌に馴染む。
「え、うまいな?今までくったケーキの中で一番うまいぞ、どうなってんだ……」
「!当たり前だろバーカ!」
「は?」
突然の罵倒にムカデを見る。ばっちりと目があった。
「オレが作ったんだからうまいに決まってんだろうが。あとてめえと一緒に住んでどんだけ経ったと思ってんだ、てめえの好きな味くらい知ってるわ!」
目を逸らさず、どや顔でそう言われてぽかんとする。
なん、なんだ?機嫌が治った、のか?
「ふふー、よかった、大成功だね」
娘がにこにこしながら俺達を見る。
「大成功って、なんの話だ」
「なかなおり、できたでしょ?」
「……したのか?」
ムカデを再度見つめる。
「あ?あー、まあ。オレは寛大だからな」
「いやお前の機嫌の悪かった原因なんだったんだよ!!」
「知らねえ黙って残りもくえ」
「ハンターくん、わたしのもあげる。わたしあまいケーキが好きだから」
「は?じゃあなんでこれ作ったんだよ」
「んー?ないしょー」
「二人してなんなんだお前ら……!」
「ああよかった、これで残りのおるすばん、安心して三人で遊べるね」
……俺の言葉は無視されたが、弾むような楽しそうな声を出す娘にこれ以上詮索する気も沸かず、大人しくそのうまいケーキを再度口に含んだ。
<参考:3/14の誕生花とその意味>
カモミール 親交、仲直り
ベゴニア 愛の告白、片思い、親切
イベリス 甘い思い出
「嫌いだな」
「ふうん、いやよいやよも好きのうちって言うし愛のかたちは人それぞれなのね」
マセガキ、という言葉は飲み込む。
「わたしはすきだよ、ハンターくんのこと」
「は?やめとけあんなおとぼけクソハンター」
「だっておもしろいし、やさしいし、あと……おもしろいし」
「いいところ面白いか優しいしかでてきてねえじゃねえか」
「だからさ、」
使っていた色鉛筆をおいて、スケッチブックに描いたばかりのそれをオレに見せつけるように両手で持った。
「なかなおり、しようよ」
……スケッチブックの中でオレとハンターが手を繋いで笑っている。夢中になって何を描いてたかと思えばしょーもないものを。まったくこのガキは。
「ケンカしてる一人と一匹にめんどうを見られるこっちの身にもなってよ」
むっとしながらそう言われてうぐ、と言葉につまる。
あまりにも正論。金を貰って依頼として来ているのだからこれは仕事中なのだ。仕事中に私情を挟むのは社会で働く者として確かに問題である。
わかってはいるが……
「うぐぐぐぐ……」
プライドが邪魔をする。
「まーいいや。一番どうすればいいかわかってないのはムカデくんとハンターくんなんだろーし」
立ち上がる娘を見上げる。
「わたし、ハンターくんのお手伝いしてくるからムカデくんこの部屋のお片付けよろしくね」
たたっとキッチンに小走りで向かう娘を見送りながら、オレは溜め息をついた。年下のガキに気を遣われるなんて情けないにも程がある。
ああくそ、それもこれも全部あいつのせいだ、ハンター!
……話は先週に遡る。
先週便利屋に舞い込んだ仕事。それは一週間家を留守にせざるをえなくなってしまった両親からの娘の面倒を住み込みで見て欲しいという依頼だった。以前ヘビ探偵の世話になってから困ったことをよく相談するらしく今回も留守にしている間娘をどうすればいいかヘビ探偵に相談したところ、オレ達便利屋の話を聞いたのでお願いすることにした、らしい。ありがたい話だがヘビ探偵は本当に人の信頼を得るのが上手すぎるだろ。どうなってんだあいつ。
……まあそれはさておき、依頼内容を話しに便利屋に来た両親はヘビやムカデに対する偏見も持っておらず終始物腰柔らかな態度で育ちの良さが垣間見えた。
多すぎるのでは?という依頼金を渡されさすがにこんなにはもらえないとオレ達は日和ったが大事な娘を預ける、そして人様に自分の娘を見てもらうことの申し訳なさを含めるとこれくらいは出させて欲しいとごり押され謹んで受け取ったくらいだ。ヘビ探偵に見られたら笑われそうなくらいの態度で。
肝心の五歳になるという娘と言えばオレのことを怖がることはせずまじまじと見ていたし何も問題になりそうなこともなくこの仕事は実に割のよすぎる仕事に思えた。
そうなるはず、だったのだ。
娘を任される前日となる夜、オレとハンターが些細なことで大喧嘩をしなければ。
☆
「ハンターくん」
「んあ?」
下から見上げる依頼主の小娘を見た。
ハンターくん、なんてこっ恥ずかしい呼び方は心底やめてほしいのだがそれを初めて呼ばれたときに言ったら「ハンターくんはハンターくんでしょ?」と曇りなき眼で言われたのでこれは訂正するのもめんどくさいと諦めたのは記憶に新しい。
「どうした、ムカデに飽きたのか?」
「ううん、手伝いに来たの。ムカデくんはリビングお掃除してくれるから」
「ああ、そういう。つってもなあ、別にお前が手伝えることなんてないぞ。あと焼くだけだしな」
生地が出来上がりあとは焼くだけのアップルパイを小娘の目線まで落とし見せる。毎日作ってくださいと頼まれたものだ。この娘の好物らしい。
「そう。じゃあわたしの話し相手になってよ。ハンターくんに聞きたいことがあるの」
「俺に?……ガキの話し相手には向いてねえぞ俺」
「しつもんに答えてくれればいいから。ほら、早くそれをオーブンにいれて」
「はいはい待ってろって」
オーブンに入れ、50分のタイマーで設定する。
「飲み物はミルクティーでいいんだよな」
「うん」
冷蔵庫からミルクティーを取り出し、コップに注いで娘がいつも座る位置のテーブルの上に置く。
ムカデにも休憩しようぜと声をかけようとして――口を閉じる。自分の分のコーヒーを入れて、娘と正反対になる椅子に座った。
「で、何が聞きたいんだ?」
「ムカデくんとのケンカのげんいん」
「……」
「なかなおり、してくれないとこまる。ギスギスはもういや」
「あー……それは、悪かったな」
頬を掻く。別にムカデの機嫌が悪かろうが俺には知ったことではないから放っておいたがこいつの気持ちを忘れていた。こいつのほうが俺達の私情なんて知ったことではないだろうに。
「原因はなに?」
「わかればこんな引き摺ってねえよ」
「ちゃんと思い出して。ずるずる引き摺ったらなかなおりできるものもできなくなっちゃう」
「んなこといわれてもなあ、わかんねえものは……」
そういいながら思い起こしてみる。確か明らかにムカデの態度がおかしくなったのは……。
「……先週の、依頼から帰ってきたとき、か?」
「うん」
「帰ったら、いや、そのときはまだ普通だったな。……俺がなんか言ったら、なんか機嫌悪くなった、ような」
「何を言ったの?」
「別になんでもないぞ?まあでもその日のことはよく覚えてんな。その日の依頼、俺だけで動いたんだけどよ、依頼主の女から依頼料とは別にプレゼント貰ったんだよ。ケーキなんだけどよ、本当に助かりました、これはほんのお礼ですって。すげーその女別嬪だったんだが、これは俺にも春が来たか?って一瞬期待しちまって」
「うわあ」
思い出していい気分に浸る俺に水をさすようにげんなりした声を上げるガキを思わず睨み付ける。
「な、なんだよ」
「なるほどなあ、よくわかったよ」
「は?」
「わたし、ハンターくんのことよくしらないけどなんとなくわかるよ。そのおねえさんから貰ったもの、ムカデくんに見せびらかしたんだ」
「そりゃ見せるだろ。いい女から貰ったもんだぞ?自慢するのが男の性ってもんだ」
「で、まあムカデのお前には一生こういうのは貰えないだろうなとか言ったんだ」
「別にいつもそういうやり取りしてるぞ」
「デリカシーないなあハンターくん。もういいよ、それ以上墓穴ほる前に口閉じて」
「いやお前が聞いたんだろうが!!」
全力でツッコんだが、ガキは目を閉じ顔をしかめながらぶつぶつと独り言を言い始めた。こいつ、大人しいだけかと思っていたが大分変人だぞ……。
☆
「ムカデくん」
面倒を見て四日目。昼を食べ、ひらがなの練習をする娘の横でテレビの再放送を見ながらぼおっとしていたのだが、娘はオレの手を急に掴み名前を呼んだ。
「あ、な、なんだどうした」
「こっち」
「ちょ、おいひっぱるな!」
ずるずると引き摺られるようにキッチンに向かう。嫌だそっちはあいつが、
「ハンターくん、アップルパイは今日いいよ」
「は?いやでもリンゴ切っちまったし」
「それはそのまま食べるから、はい、キッチンでてって。命令。今日はわたしとムカデくんがせんりょーします」
「はあ?」
困惑する目がオレを見る。知らねえオレが一番聞きてえわ。そう思いながら目をそらす。
「……はいはいじゃあ俺はリビングにいるからな、なんかあったら、てかなんかある前に声かけろよ」
「ん」
小娘とオレだけがキッチンに取り残される。
「……はあ。で、なにすんだよオレとお前で」
「これ」
娘が手に持っていた子供用タブレット、その画面に映るページを見せられる。
「作ろ?」
「……は?」
にっこり笑う娘にオレはただ間抜けな顔を浮かべるしか出来なかった。
☆
人ん家の留守を任されたものの毎日掃除をして四日目ともなれば、特にすることもなくなった。風呂もトイレもピカピカにしてしまったし、本当にやることがない。
……テレビの再放送から目を離し、キッチンを伺うものの、声しか聞こえないしその声も聞き取れはしない。ムカデの声が機嫌悪そうなことくらいしかわからん。
……そういえば暫くまともに話してなければ目も合わせてないな。さっきもすぐに逸らされた。
いつまで意地を張るつもりだよあのクソムカデは……。
いや、悪いのは俺……なのか?
わからん。というか考えるのもめんどくさい。だがこのまま訳のわからんことであいつと喧嘩しているほうが余計面倒なのも事実で。ああくそ!
「ハンターくん」
はっとする。いつの間にか目の前に娘がいた。
「あ、わりぃ、なんかあったか?」
「洗濯物取り込まないと。もう夕方だよ」
「は?……うわマジだいつのまに!」
慌てて洗濯物を取り込む。昔の刑事ドラマが再放送されていたはずのテレビからは夕方のニュース番組が聞こえてきている。
「電気もつけずにぼーっとしてたの?」
「……うるせえ」
ぱたんと洗濯物を取り込むために開けた窓を閉める。
「占領は終わったのか?夕飯作らないとだろ」
「うん、終わったから声をかけた」
「ムカデは?」
「キッチン。ほら、早く来て」
「な、なんだなんだ」
子供の弱い力でぐいぐいと腕を引かれる。
その力に従い引かれるがままキッチンに向かうと、テーブルの上のムカデとそしてその前に鎮座するチョコレートでコーティングされたケーキが目に入った。
「わたしとムカデくんで作ったの」
……俺をわざわざ追い出してムカデとケーキを作る?どういう意図だ?ガキの発想はわからねえ……。
「味はほしょーするよ。ね、ムカデくん」
「……当たり前だろ」
「ほらほら、食べよう。ハンターくん切り分けてね。あ、今日だけは夜ご飯前にお菓子は駄目とかそういうのはなし。今食べて欲しいから」
「……はいはい」
素直に切り分け、用意された小皿に取り分ける。
「いただきまーす」
「いただきます」
フォークで一口分をすくい、口にいれる。
「……うま」
子供が作ったものだ、甘すぎるものを想像していた。しかしこれはビター……というほど苦くはないが甘すぎないチョコレートで作られているのか食べやすい糖度で舌に馴染む。
「え、うまいな?今までくったケーキの中で一番うまいぞ、どうなってんだ……」
「!当たり前だろバーカ!」
「は?」
突然の罵倒にムカデを見る。ばっちりと目があった。
「オレが作ったんだからうまいに決まってんだろうが。あとてめえと一緒に住んでどんだけ経ったと思ってんだ、てめえの好きな味くらい知ってるわ!」
目を逸らさず、どや顔でそう言われてぽかんとする。
なん、なんだ?機嫌が治った、のか?
「ふふー、よかった、大成功だね」
娘がにこにこしながら俺達を見る。
「大成功って、なんの話だ」
「なかなおり、できたでしょ?」
「……したのか?」
ムカデを再度見つめる。
「あ?あー、まあ。オレは寛大だからな」
「いやお前の機嫌の悪かった原因なんだったんだよ!!」
「知らねえ黙って残りもくえ」
「ハンターくん、わたしのもあげる。わたしあまいケーキが好きだから」
「は?じゃあなんでこれ作ったんだよ」
「んー?ないしょー」
「二人してなんなんだお前ら……!」
「ああよかった、これで残りのおるすばん、安心して三人で遊べるね」
……俺の言葉は無視されたが、弾むような楽しそうな声を出す娘にこれ以上詮索する気も沸かず、大人しくそのうまいケーキを再度口に含んだ。
<参考:3/14の誕生花とその意味>
カモミール 親交、仲直り
ベゴニア 愛の告白、片思い、親切
イベリス 甘い思い出
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