ヘビの命(単発まとめ)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
チャイムが鳴る。どうやら帰ってきたようだ。
ガスを一度止め玄関に向かう。
「おかえり」
ドアを開き、依頼から帰ってきたヘビ探偵を出迎えた。
「ただいま」
通常なら聞き逃してしまいそうな声量だがそれにももう慣れた。
「まだ夕食はできていないから先に風呂を済ませたまえ」
「ありがとう」
するすると浴室に向かう彼を一瞥してから夕食作りを再開する。
……まるで主婦のようだ、なんて考えはもうやめた。
あんな真似をした黒幕如きに居場所が、ましてや俺の正体を暴いたヘビ探偵から貰えていること事態がおかしいのだから。
……ヘビ探偵は基本口を開かない。あの旅館でもそうだった。必要最低限なことでしか口を開かないと思えば突拍子もないことを口にする。表情も乏しく思考がさっぱり読みとれない謎の生き物。それは俺を家に連れてくるときも、一緒に暮らしている今も同じだった。
「おはよう」、「いただきます」、「ごちそうさま」、「ありがとう」、「ただいま」、「おやすみ」。これしかしばらく聞いていない。
……飯を作る以上、美味しいの一言も追加してくれれば今後の献立のレパートリーの参考になるものだが。
……と考えているうちに料理が出来上がる。余計なことを考えていても勝手に手は動くものだから料理はいい。……一人で暮らしている頃は自炊の一つもしなかった俺が今やあれだけ下に見ていたヘビのために料理を作っているなんて過去の俺が知ったらどんな反応をするのだろうか、なんて考えても詮無きことなのだが、そんな無駄なことすら考えてもいい時間が今俺には与えられている。
……夕食は並べた。あとはヘビ探偵が上がってくるまでパソコンでも見て待っていようか。
……いや、待て。
……遅くないか?いつもなら五分ほどであがってくる筈なのだが今日は既に十五分を過ぎようしとている。
……まさか溺れて、
「ヘビ探偵っ」
慌ててソファから立ち上がり浴室に向かう。
……しかし浴室の照明は落ちそこにヘビ探偵の姿はなかった。
「っ、なんだ」
「ブラックドクター」
心臓が跳ねる。
「っ急に後ろから話しかけるな!!」
「……ごめん?」
いつの間にか後ろにいたヘビ探偵に疑問符を最後につけながら謝られた。
「……いや、すまん、俺が勝手な勘違いをしただけなんだ。お前が謝ることじゃない。
……夕食なら出来ている、食べよう」
「ありがとう」
テーブルに向かうヘビ探偵の後ろを歩く。
……紙袋を頭上に乗せている。仕事に使うものだろうか。
「それ、持つぞ。お前の机に置けばいいのだろう?」
ぴたりと目の前のヘビ探偵が停止する。
くるりと頭だけが振り返り、目が合う。数秒の間。
ふるふると頭を振ってから前を向きまた歩き出した。
何か言え――とは慣れたのでもう言わない。
言葉を期待するだけ無駄なのだ。……俺をここに置く真意を聞くことも。
「いただきます」
テーブルに座り、ヘビなりに行儀よく食べる。少なくともあの旅館にいたヘビ達よりも綺麗に食べる。一口が小さく、口の周りを汚さない。跳ねてテーブルクロスを汚すこともしない。
「……いただきます」
ヘビ探偵から視線を手元に戻し、俺も夕食に手をつける。ああ、今日も完璧な味付けだ。……俺の味覚が正しければの話だが。
先も言った通りこのヘビはごちそうさまは言えども美味しいも不味いも言わないので自分の腕前が分からないのだ。
「……」
「……」
勿論食事中に会話をすることもないわけで。
黙々と食事を済ませふと顔をあげるとヘビ探偵と目が合う。ごちそうさまの合図だ。
「ごちそうさま」
ほらな。
「……ごちそうさま。食器はいつものようにそのままにしてくれていい」
「ありがとう」
いつもならここで椅子から降りると業務用のデスクに向かいパソコンを触るのだが、
「ブラックドクター」
座ったままのヘビ探偵に名前を呼ばれる。そういえば先程も呼ばれた。……名前を呼ばれたのはここにきて始めてだ。
「……なんだ?」
食べ終わった食器をすべてシンクに置いてからヘビ探偵を見つめ返す、と、食べる前に彼が持ってきていた紙袋がテーブルの上に置かれた。
「……なんだこれは」
何も言わない。
「……俺にか?」
頷く。
……恐る恐る中身を確認しようとする俺を置いてヘビ探偵は緩やかな動きでデスクに向かっていく。なんなんだ一体。
……中身を見る。随分と厳重に包装されているな。
紙袋の中に更に紙袋。そして更に小さな箱を紙袋から出そうとするとかさりと封筒が一通落ちてきた。
『BLACK Doctorへ』と書かれた封筒を開き、中の便箋を読む。ヘビとは思えない達筆な字が並んでいた。
『いつも家事ありがとう。
お礼と言ってはなんだけどプレゼントを用意しました。といっても僕には人が喜ぶものなんて分からないので店員さんにいつもご飯を作ってくれる人にプレゼントがしたい、と伝えたところ是非これをと勧められたのでこれにしました。気に入らなかったら売って何か好きなものを買ってください。
いつも言葉が足りなくてごめん。家に帰るとおかえりって言ってご飯が用意されている喜びを毎日感じています。ここに来てくれてありがとう。ヘビ探偵より。』
呆然とし言葉を失う。不器用にも程があるだろ……。
……そっとプレゼントの箱を開ける。
箱の大きさで予想はしていたが……そこに収まっていたのは見るからに値段の張りそうなダイヤモンドのネックレスで。
……言葉が足りなかったんだろどうせ!そりゃそうだよな、店員もご飯を作ってくれる人にプレゼントなんて言われたら恋人もしくは配偶者へのプレゼントだと思うだろうからな!
頭を抱える。よくわかった。こいつが単に口数の少ない不器用なヘビだということが。
「おい」
ヘビ探偵のデスクに詰め寄る。
慌てる素振り一つ見せずゆったりとした動作でこちらを見た。
「……これは、ありがたく貰っておくがプレゼントは今後必要ないからな」
俺の言葉になにか言おうとして口を閉じる。
「……プレゼントよりも飯の感想をよこせ。一言でいい。不味いでも美味いでも甘すぎるだのしょっぱすぎるでもいいから」
……しばらくの硬直のあと、ゆっくりと頷いた。
「……わかればいい」
保護されている身だ、別に口数が少なくてもいい。真意がわからなくてもいい。ただ飯の感想のひとつ要求するくらいはいいだろう。
ひとまずその肯定に満足して皿を洗おうとキッチンに向かおうとして、
「いつも美味しい」
いつもより少し大きめに聞こえたその声に不覚にも頬が緩んだ。
ガスを一度止め玄関に向かう。
「おかえり」
ドアを開き、依頼から帰ってきたヘビ探偵を出迎えた。
「ただいま」
通常なら聞き逃してしまいそうな声量だがそれにももう慣れた。
「まだ夕食はできていないから先に風呂を済ませたまえ」
「ありがとう」
するすると浴室に向かう彼を一瞥してから夕食作りを再開する。
……まるで主婦のようだ、なんて考えはもうやめた。
あんな真似をした黒幕如きに居場所が、ましてや俺の正体を暴いたヘビ探偵から貰えていること事態がおかしいのだから。
……ヘビ探偵は基本口を開かない。あの旅館でもそうだった。必要最低限なことでしか口を開かないと思えば突拍子もないことを口にする。表情も乏しく思考がさっぱり読みとれない謎の生き物。それは俺を家に連れてくるときも、一緒に暮らしている今も同じだった。
「おはよう」、「いただきます」、「ごちそうさま」、「ありがとう」、「ただいま」、「おやすみ」。これしかしばらく聞いていない。
……飯を作る以上、美味しいの一言も追加してくれれば今後の献立のレパートリーの参考になるものだが。
……と考えているうちに料理が出来上がる。余計なことを考えていても勝手に手は動くものだから料理はいい。……一人で暮らしている頃は自炊の一つもしなかった俺が今やあれだけ下に見ていたヘビのために料理を作っているなんて過去の俺が知ったらどんな反応をするのだろうか、なんて考えても詮無きことなのだが、そんな無駄なことすら考えてもいい時間が今俺には与えられている。
……夕食は並べた。あとはヘビ探偵が上がってくるまでパソコンでも見て待っていようか。
……いや、待て。
……遅くないか?いつもなら五分ほどであがってくる筈なのだが今日は既に十五分を過ぎようしとている。
……まさか溺れて、
「ヘビ探偵っ」
慌ててソファから立ち上がり浴室に向かう。
……しかし浴室の照明は落ちそこにヘビ探偵の姿はなかった。
「っ、なんだ」
「ブラックドクター」
心臓が跳ねる。
「っ急に後ろから話しかけるな!!」
「……ごめん?」
いつの間にか後ろにいたヘビ探偵に疑問符を最後につけながら謝られた。
「……いや、すまん、俺が勝手な勘違いをしただけなんだ。お前が謝ることじゃない。
……夕食なら出来ている、食べよう」
「ありがとう」
テーブルに向かうヘビ探偵の後ろを歩く。
……紙袋を頭上に乗せている。仕事に使うものだろうか。
「それ、持つぞ。お前の机に置けばいいのだろう?」
ぴたりと目の前のヘビ探偵が停止する。
くるりと頭だけが振り返り、目が合う。数秒の間。
ふるふると頭を振ってから前を向きまた歩き出した。
何か言え――とは慣れたのでもう言わない。
言葉を期待するだけ無駄なのだ。……俺をここに置く真意を聞くことも。
「いただきます」
テーブルに座り、ヘビなりに行儀よく食べる。少なくともあの旅館にいたヘビ達よりも綺麗に食べる。一口が小さく、口の周りを汚さない。跳ねてテーブルクロスを汚すこともしない。
「……いただきます」
ヘビ探偵から視線を手元に戻し、俺も夕食に手をつける。ああ、今日も完璧な味付けだ。……俺の味覚が正しければの話だが。
先も言った通りこのヘビはごちそうさまは言えども美味しいも不味いも言わないので自分の腕前が分からないのだ。
「……」
「……」
勿論食事中に会話をすることもないわけで。
黙々と食事を済ませふと顔をあげるとヘビ探偵と目が合う。ごちそうさまの合図だ。
「ごちそうさま」
ほらな。
「……ごちそうさま。食器はいつものようにそのままにしてくれていい」
「ありがとう」
いつもならここで椅子から降りると業務用のデスクに向かいパソコンを触るのだが、
「ブラックドクター」
座ったままのヘビ探偵に名前を呼ばれる。そういえば先程も呼ばれた。……名前を呼ばれたのはここにきて始めてだ。
「……なんだ?」
食べ終わった食器をすべてシンクに置いてからヘビ探偵を見つめ返す、と、食べる前に彼が持ってきていた紙袋がテーブルの上に置かれた。
「……なんだこれは」
何も言わない。
「……俺にか?」
頷く。
……恐る恐る中身を確認しようとする俺を置いてヘビ探偵は緩やかな動きでデスクに向かっていく。なんなんだ一体。
……中身を見る。随分と厳重に包装されているな。
紙袋の中に更に紙袋。そして更に小さな箱を紙袋から出そうとするとかさりと封筒が一通落ちてきた。
『BLACK Doctorへ』と書かれた封筒を開き、中の便箋を読む。ヘビとは思えない達筆な字が並んでいた。
『いつも家事ありがとう。
お礼と言ってはなんだけどプレゼントを用意しました。といっても僕には人が喜ぶものなんて分からないので店員さんにいつもご飯を作ってくれる人にプレゼントがしたい、と伝えたところ是非これをと勧められたのでこれにしました。気に入らなかったら売って何か好きなものを買ってください。
いつも言葉が足りなくてごめん。家に帰るとおかえりって言ってご飯が用意されている喜びを毎日感じています。ここに来てくれてありがとう。ヘビ探偵より。』
呆然とし言葉を失う。不器用にも程があるだろ……。
……そっとプレゼントの箱を開ける。
箱の大きさで予想はしていたが……そこに収まっていたのは見るからに値段の張りそうなダイヤモンドのネックレスで。
……言葉が足りなかったんだろどうせ!そりゃそうだよな、店員もご飯を作ってくれる人にプレゼントなんて言われたら恋人もしくは配偶者へのプレゼントだと思うだろうからな!
頭を抱える。よくわかった。こいつが単に口数の少ない不器用なヘビだということが。
「おい」
ヘビ探偵のデスクに詰め寄る。
慌てる素振り一つ見せずゆったりとした動作でこちらを見た。
「……これは、ありがたく貰っておくがプレゼントは今後必要ないからな」
俺の言葉になにか言おうとして口を閉じる。
「……プレゼントよりも飯の感想をよこせ。一言でいい。不味いでも美味いでも甘すぎるだのしょっぱすぎるでもいいから」
……しばらくの硬直のあと、ゆっくりと頷いた。
「……わかればいい」
保護されている身だ、別に口数が少なくてもいい。真意がわからなくてもいい。ただ飯の感想のひとつ要求するくらいはいいだろう。
ひとまずその肯定に満足して皿を洗おうとキッチンに向かおうとして、
「いつも美味しい」
いつもより少し大きめに聞こえたその声に不覚にも頬が緩んだ。