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ガウェラン


ゆらゆらと揺れる陽炎と、滴り落ちる血と汗。

ぐらぐらと定まらない視界と、遠のく音と声。

ひらひらとはためく紫と、煌めく湖の騎士と剣。


嗚呼、私はこの男に敗けたのだ。



『蒼天に死す』



「朝…」

英霊としてカルデアに召喚されてから、何度も迎えた朝。

"眠る"という概念がなくなったこの身体でも夢は見られるらしい、ということに気づいたのはいつ頃のことだったか。

まぁ白昼夢のような、しかも悪夢に近いものしか見たことは無いが。


…私だけ、だろうか。

彼は、あの男は、あの日の事を忘れたのだろうか。

私は死してなお、囚われて縛られているのに。

狂ったような、それでいて透明で鋭利な、しかし脆くて指先が少しでも触れたら崩れてしまいそうな。


そこまで考えて、そのよく分からない気持ちに蓋をして立ち上がる。

今日も同じ一日が始まった。



____キャメロット


嗚呼、最悪だ。


蒼く晴れ渡った空。

眼前には風をうけてたなびく紫。

嫌でも今朝の悪夢を思い出す。

そうだ、あの日もこんな空で、私と彼は。


「…イン卿、ガウェイン卿!」


私の名前を呼ぶ声にハッと意識が引き戻される。


「どうかしましたか、ガウェイン卿」


やめろ、

やめてくれ、

その眼に私を映さないでくれ。


「…すみません。少し疲れているのかもしれませんね」


渇いた笑いでその場を濁す。

濁せているのかも怪しいところだが仕方ない。

…彼には、彼にだけは、この不可解な気持ちに気づいて欲しくないのだ。


「顔色が悪い。あまり無理をなさらないでください」

「…ええ、肝に銘じておきます」


歩き出す彼。

立ち止まった私。

嗚呼、まるであの時みたいだ。

王から離反して、自分の愛する者のために歩き出した彼。

復讐心に取り憑かれ、自分の愛する者と愛する忠義の間で身動きできなくなった私。

あの時、私は確かに彼を憎んでいた。

そして、確かに彼を愛していた。

愛していたのだ。苦しいほどに。



「…ランスロット」


きっと届きはしないと声を零した。

なのに、


「ガウェイン」


彼はくるりとこちらを向いて私の名を呼んだ。

そして、少し笑ってこう言ったのだ。


「私が貴方を殺した、あの日のようだ」


嗚呼、彼は忘れてなどいなかった。

あの日の記憶は、彼の中でも生きていたのだ。

傷のように。呪いのように。


「…ランスロット、貴方はあの日を後悔していますか」

「いいえ、全く」

「そうですか…それなら、いいのです」

「ガウェイン、貴方はどうです?」

「しているように見えますか?」

「…無いでしょうね」

「その通りです」


後悔などあるわけが無い。

あの日、あの蒼天の下で。

私は愛する彼に敗けたのだ。

自分の愛の為に戦った彼に。


「ランス、私は貴方を慕っていましたよ」

「今となっては、死んでしまった想いですが」

「亡骸でよければ、貰っていただけませんか」


あの日の貴方と私の白昼夢も共に。
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