奇縁

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『お、あの様子は』

最近ハマっている流行りのMMO。あ、MMOっていうのは、ゲームのジャンルのひとつで。簡単に言えばゲームの中に創られた仮想空間に、その世界の住人として自身が入り込んで楽しむ。RPGはあくまで世界の登場人物になり切って遊ぶんだけど、MMOはもうひとりの自分を作ってその世界で動くものが多い。後は同じ時間と空間──サーバーに大人数が同時に居るのも特徴か。

で、俺はその流行りのMMOに今日も今日とてログインしたわけで。サービス開始から結構経っているからか、最初の拠点の街にもあまり初心者の姿は見られない。皆それなりに装備を整えた中級者から熟練者という風貌だ。かく言う俺もしっかり配信されている分のクエストは全部こなしてしまって、最近ここにログインするのは殆どただの日常の日課。生き物の習性みたいなものだ。

だけど今日は新しい事がひとつ。

見るからに初期装備のアバターが街をうろちょろしている。このゲームはアカウントを作って30日は初心者マークがアイコンとして頭上に表示される。ちゃんとその初期装備くんの頭上にも若葉マークが浮かんでいる。これはプレイヤーがすぐ辞めてしまわないように、ゲーム側が色々と期間限定で恩恵を与えている仕組み。例えば、経験値ボーナスだとか、PK──プレイヤーキラーの対象にされないだとか。もう暫く見ていなかった初心者マークに少しだけ心が踊った。

が、俺たち先駆者は余計なお世話はしない。勿論、サポートが必要だと頼まれればするが、基本はこちらから声を掛けることはしない。人それぞれの楽しみ方というものかある。アドバイスと言いながらアレコレ指示する厄介な奴にはなりたくない。

と、いうわけで。俺はその初期装備くんを暫く眺めてみることにした。初めてこの世界に来た時は見るもの全てが面白そうで、でも何も分からなくて。ただメインのストーリーの目的地がぽんとミニマップに表示されるだけだ。しかもそれも街のNPCに聞き回ってやっと始まる。その辺はちょっとこの手のゲームに慣れていないと不親切だな、と俺も思うし、サービス開始直後はちょっと燃え……話題にもなった。

案の定トコトコとあちこち歩いてはお店の前で立ち止まったり、飾りとして設置されている家屋の扉に体当たりしたり、植え込みに突っ込んだり、おもむろに武器を天高く掲げてみたり。ちょっと見てて面白い。

やがて初期装備くんは街の出口の門へと向かっていった。この街の出口は2箇所。片方は初心者用とでもいうか、最初のメインクエストの目的地方面。反対側は、少し冒険に手馴れてきた人たちがこなすクエストの目的地方面。彼が向かったのは後者。つまり危険。そりゃどっちがどっちだなんて分からないよな。分かる。俺も最初にやらかしたよ。

『み゚っ』

言い忘れていたがこのゲーム、ボイスチャット機能がデフォルトでONになっている。没入感を高める為なのか、対象に近付くだけでソイツと話せる。勿論普通のチャットもあるがこちらはこの世界では「部屋」だの「個室」だの言われ、主に周りに聞かれたくない時に使われる。

『あー……』

街の外に出て早速エンカウント、というか、その辺を彷徨いてるモンスターにちゃんとやられたらしく、棺桶がどーんと道のど真ん中に鎮座している。こうなったら他プレイヤーに蘇生してもらうか、荷物の大半を失ってリスタートするかしかない。流石に可哀想だし、蘇生してあげますか。丁度俺のジョブは賢者だしね。

『ほい、と』

蘇生魔法を棺桶に向けて放つと、ぽんっと可愛い音を立てて棺桶から初期装備くんに変わる。なんでこんなエフェクトなのかは俺も分からない。某RPGだとなんか天から光が注がれて……って感じなのに。

『あ、ありがとうゴザイマス?』
『いえいえ、偶々通り掛かっただけなんで』

この様子だと何が起きたのか分かってないって感じだな。簡単に説明すると、深々とお辞儀をする彼。この人、なんだか見た目が知り合いに似ているような気が。このゲーム、ユーザーネームはお互いにフレンドにならないと見えない仕様になっている為、目の前の蘇生したてほやほやくんが、その知り合い通りの人なのかは分からない。……というか彼はゲームなんてしなさそうだし。したとしても、彼は下調べとかすっっっごいしそうだし。

『あの、もし迷惑じゃなかったらこのゲームの事、色々教えてください』
『教えられる程上手くないですよ』

やんわりと断ってみる。ほら、自分でアレコレ試すのが醍醐味だったりするし。っていう言い訳を心の中で唱える。でも頼られることに対して悪い気はしない。

『えっと、あ、そうだ。フレンド申請しても良いですか?』

おぉ……、ぐいぐい来る。初心者とフレンドになるメリットはこちらには一切無い。けれどここで断るのは可哀想だ。彼がこの先ずっとプレイするとも限らないし、フレンド登録くらいは良いか、と承諾した。

フレ申ぐいぐいくんのユーザーネームは、showbeat。あれ、なんか聞き馴染みのある語感。

『なんてお呼びしましょう?』
『好きに呼んでくれればいいですよ』
『じゃ、にのさんって呼びますね!』

俺のユーザーネームは2-3。そうね、そう呼ぶよね。うん。ボイスチャット機能に標準装備のボイスチェンジャー。これがあって本当に良かった。プライバシーの観点からこのボイチェンは外れない仕様になっていて、自分の声がどんな声で相手に聴こえているかは、自分では分からない。そう言えばフレンドに「お前の声女の子みたいになってんぞ」って笑われた事あったな……。彼のそのままの声で耳元で囁かれたらどうにかなってしまう。いや、beatくんが彼なのかは分からないけども。

『何かあったら頼らせてもらいますね』
『いつでも。大体この時間はログインしてますから』
『わかりました!』

キラキラエフェクトがあったら間違いなく彼の周りに飛んでいる。というか貼り付けたい。そんな曇り無き眼で俺を見詰めないでおくれ。

この日はすぐに彼がログアウトしたので、俺は引き続き散策という名のデイリークエスト消化に勤しんだ。



───……


「なぁ、このゲームってさ、やっぱメイン進めんのがいいの?」
「……へ?」

楽屋でスマホ片手に話し掛けてきた彼。このゲーム、とはあのMMOだ。確かにスマホと連携が出来て、ちょっとしたクエストならスマホからやった方が楽な時もある。が、それを。ゲームなんて縁が無さそうな彼が。

「……それ、貴方も始めたんですか?」
「うん、お前がやってんの見て面白そうだなって」
「めっ……ずらし……明日世界滅ぶんじゃないの」
「んなっ、んてこと言うのさ」
「はいはい、ごめんなさいね。ジョブは?何にしたの?」
「ジョブ?」
「戦士とか魔法使いとかあるでしょ」
「えっと、踊り子?」
「なんで??」
「さぁ?」
「はぁ……踊り子じゃ強い攻撃手段ないでしょ。ほら、転職できるとこ街にあるから、そこ行って」
「え、どこ」
「あぁもう、貸して」

彼の手からスマホを奪い取り、操作していく。そして転職出来る施設のNPCがユーザーネームを読み上げる。

『よく来なすった、showbeatよ』



fin...?
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