箱
¨
仕事が終わって帰路の途中、家の近所のコンビニの外で煙草を蒸す彼の後ろ姿を発見。彼も仕事を終えて多分今日の酒でも買いにコンビニに寄ったんだろう。どうせなら一緒に帰ろう、と声を掛けに歩き出した時だった。
彼の元に見知らぬ女性が近寄っていく。そして何かを話している。こちらからは彼の表情は見えない。女性がそれはそれは楽しそうに話しているのが見えるだけだ。
暫く遠目に様子を観察していると、女性は去っていった。手を振るその女性に彼も手を振り返していた。知り合いなんだろうか。だとしてもこの少しの違和感は間違いじゃないような気がする。
「やっほ~お疲れ様」
「んお、ビックリした」
俺が背後から声を掛けたせいで驚いた彼はその大きな目を真ん丸にして、少し俺から遠ざかった。反射的なものとはいえ、ちょっとだけ寂しい。いや、後ろから声を掛けた俺が悪い。
「ねぇ、さっきの女の人知り合い?」
「さっきの?……あぁ、いや、全然知らない」
「あんなに親しげに話してたのに?」
「初対面だね」
俺の知らない内に彼のファンクラブでも出来たのか?いやいや、そんな冗談はさて置き、あの女性のあの表情と行動は少し気を付けた方がいいような。
「なに、嫉妬した?」
「そういうのじゃないです」
「いてっ」
からかうような笑いを含んだ声に、図星を付かれて負けたような気がして少しムカつく。から、額にデコピンをかましてやった。
「いいから帰りましょ。どうせお酒買ったんでしょ」
「勿論、御前のもあるよ」
「いや俺は」
「……──」
彼が急に俺ではない何処かを凝視し始めた。俺の前に制するように手を出しながら。一体何だと言うんだと、考える前に俺もその正体に気付く。
"視線"の正体に。
「……え」
「取り敢えずバラバラに帰ろうか。御前がターゲットになるのは避けたい」
「は?いや、俺としては貴方をひとりにしたくないんですけど」
「俺が先を歩くから、御前はアレの後ろを歩けばいい」
何か事を起こそうとした時に御前が取り押さえてくれればいい、と彼は続けた。俺を信頼してくれているということでいいんだろうか。そう自惚れることにしよう。
「分かりました」
俺と彼はコンビニから別々の方向へと歩き出す。予想通り、さっきの女性だ。ソイツが彼の後をつけている。その後ろを少し離れた距離感を保ちながら俺もつける。
『ねぇ、まさかそのまま馬鹿正直に家に帰るつもりじゃないよね?』
メッセージアプリで彼に連絡を入れる。直ぐに既読がついて返事が送られてくる。
『俺を何だと思ってんだ』
『いや一応確認』
『適当なとこで撒くよ』
『了解』
確かに歩いている道は家には向かっていない。何処に行くつもりなのかは知らないが、あちこち曲がる。だが俺が追えているという事はあの女性も。
暫くして女性がぴたりと立ち止まった。そして道のど真ん中できょろきょろと挙動不審な程に辺りを見渡し始めた。咄嗟に俺は電柱の影に隠れて様子を伺う。
「もう、そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃないのよ。私と貴方の仲じゃないの」
何を言ってるんだあの女性。頭おかしいのか。とにかく、女性が彼を見失った事は分かった。それでいい。さっさと俺も帰ろう。
「貴方、彼のお友達ね?」
背後から聴こえた声にぎょっとして、背筋が凍り付いた。しかもご丁寧に腕を掴まれている。しまった。
「ねぇ教えてちょうだい、彼は私の事なんて言ってるの?愛してるって言ってるのよね?そうでしょう?」
本能でヤバいと察した俺は力の限りに女性の手を振り解いて、距離を取るために数歩後退った。女性の表情はなんていうか、キマってるという言葉が適切だ。薬でもやっているのかというくらいだ。
どうする、走って逃げるか?身体能力は男である俺の方が絶対に上だ。だが逃げたとして解決するような事でもない。
「そうよ、そうに違いないわ。これ、これを彼に渡してくださる?彼恥ずかしがって受け取ってくれないのよ」
女性が持っていたのは紙袋。その中から小箱を取り出すと俺に渡そうと近寄ってくる。怖い。普通に怖い。その小箱の中身もどうせろくなモンじゃない。
「あぁそうね?あなたが彼をおかしくしてるのね?そうね、そうに違いないわ」
女性は小箱と紙袋を地面に捨てるように落とすと、ポケットから小型ナイフを取り出して、ゆらゆらと揺らし始める。落ちた小箱の蓋が開いて中身が見えたが、アレは見ていいモンじゃない。
「彼に近寄らないで!彼は私のなのよ!?」
手に持ったナイフをぶんぶんと振り回しながら、こちらに寄ってくる女性をどうしたら良いんだ。距離を保ちながらの後退りも意味が無い。かと言って走り出したら多分あちらも走り出す。なら、逆にこっちから仕掛けるか?いやそれだと俺が捕まる。
「っく……」
気が付けば袋小路。しまった。ゆらゆらと揺れながら歩いてくる女性はもう控えめに言ってホラーだ。目を大きくかっ開いたまま、けたけたと笑っている。狂っているとしか言いようがない。
「彼を返して!彼は私だけのものなの!」
返すも何も多分最初から彼女のものではない。彼がこんな……と言うと失礼かもしれないが、こんな奴と付き合う訳が無い。
ヒステリックな奇声をあげながら迫る銀色の切っ先。あんな小さな刃物でも刺さったら痛いどころじゃない。あぁ、入院生活か……なんて半ば諦めて襲い掛かるであろう痛みに備えて目を瞑った。
けど、待てども待てども痛みは襲ってこない。それどころか何かに包まれているような感覚。おそるおそる目を開けると、視界に映るのは見慣れたネックレスのトップ。
「……え?」
「え?じゃねぇよ馬鹿」
彼が俺を片腕で抱き締めていて、もう片方の腕は俺の背後の壁に着かれている。ちょっと壁ドンみたいな状態。とかそんな事を言ってる場合じゃない。あの女性は。
「会いに来てくれたのね!嬉しいわ!ほら、いきましょう!?私と一緒に!!」
「……行くって何処にだよ、地獄か?」
彼の肩越しに見える女性の手に握られているナイフの刃が、赤い。……赤い。見間違いじゃない。
「そんな男なんかじゃなくて私と行きましょう!?」
「っせぇな、アンタがこれから行くのは豚箱だよ」
「嫌よ!!私はあなたと一緒に!!」
「っ──……」
ぐい、と強く腕を引っ張られて投げられるように突き放されて、突然のことにバランスを崩して尻もちをついた。
「ねぇ!!ほら!!早く!!いきましょう!?」
「っせ、ぇ……な、……馬鹿のひとつ覚えみてぇに……」
壁に背中を預けて立つ彼の足元にぽたぽたと赤い液体が垂れている。ナイフが、彼の腹に。こいつが。この女が。彼を。いや、嫌だ。やめろ。やめてくれ。
引き抜いたナイフを逆手に持ち直した女はその手を大きく振り上げた。もう片方の手をまるで狙いを定めるかのように彼の胸板に当てて。
突き飛ばしてでも何してでも止めなくちゃならないのに、身体が動かない。尻もち着いたままのお尻から根でも生えたかのように。
「はーい、そこまで」
その刃は振り落とされることはなかった。現れた私服警官、だろうか。長身で青みがかったサングラスを掛けた男性が振り上げた女性の腕を掴んでいる。
もうひとり、こちらは小柄でゆるふわパーマだ。小柄、と言ってももうひとりが身長高いからそう見えるだけかもしれない。
「404より本部、被疑者確保完了。……負傷者1名、至急救急の手配を要請する」
「嫌よ!離して!!私は彼と一緒に!!」
「はいはい、お話は署でじっくり聞いたげるから」
暴れる女性をものともせずに連れていく長身の人。残ったもうひとりは壁に凭れながら地面に座り込んで項垂れたまま、動かない彼の様子を確認している。俺は、それを見ているだけで何も出来ない。
「急所は外れてる。脈も呼吸もある。だから命に別状はない筈だ」
そんな俺を気遣ってなのか、そう言うその人の手は何故か少し震えているようにも見えた。
────……
「あの女、逮捕された後精神病棟に行ったらしいですよ」
「ふぅん」
病院のベッドの上で俺が差し入れたりんごを頬張っている彼。相変わらずリスみたいな食べ方。あの警察の人が言っていた通り、命に別状は何もなかった。凶器が小型ナイフだったのが幸いしたらしい。
あの女性が明らかに正常ではなかったのは目の当たりにしたから分かる。ひたすらに「一緒にいこう」と繰り返していたのも、おそらくは。
「箱の中身、訊きました?」
「……箱?」
「あ、なら知らない方が良いです」
「そう?それはそうとさ、俺あん時突き飛ばしたっていうか投げ飛ばしたっていうか、……ごめんね?おしり大丈夫だった?」
「俺のキュートなお尻に痣出来てしかもふたつに割れました」
「え、ごめん。咄嗟であぁするしかなくて」
「分かってますよ、だから別に怒ってなんていません」
寧ろ彼には感謝しなくてはならない。背中側からも刺された傷があったと医者から聞かされ、最初に抱き締めてくれたあの時にはもう彼に凶刃から守られていたわけだ。あの赤くなった刃は見間違いなどではなかった。
「にしてもストーカー……ですか」
「……今回のはちょっと度が過ぎてた」
「今回の"は"?」
「……やべ」
もそもそ布団に隠れようとする彼に、少し笑った。
「で、箱ってなに?」
「……女が貴方にあげようとしてた物ですよ」
「ふぅん?」
「アレは最早呪いの箱です」
「……」
あんなものは知らない方がいい。
fin.
仕事が終わって帰路の途中、家の近所のコンビニの外で煙草を蒸す彼の後ろ姿を発見。彼も仕事を終えて多分今日の酒でも買いにコンビニに寄ったんだろう。どうせなら一緒に帰ろう、と声を掛けに歩き出した時だった。
彼の元に見知らぬ女性が近寄っていく。そして何かを話している。こちらからは彼の表情は見えない。女性がそれはそれは楽しそうに話しているのが見えるだけだ。
暫く遠目に様子を観察していると、女性は去っていった。手を振るその女性に彼も手を振り返していた。知り合いなんだろうか。だとしてもこの少しの違和感は間違いじゃないような気がする。
「やっほ~お疲れ様」
「んお、ビックリした」
俺が背後から声を掛けたせいで驚いた彼はその大きな目を真ん丸にして、少し俺から遠ざかった。反射的なものとはいえ、ちょっとだけ寂しい。いや、後ろから声を掛けた俺が悪い。
「ねぇ、さっきの女の人知り合い?」
「さっきの?……あぁ、いや、全然知らない」
「あんなに親しげに話してたのに?」
「初対面だね」
俺の知らない内に彼のファンクラブでも出来たのか?いやいや、そんな冗談はさて置き、あの女性のあの表情と行動は少し気を付けた方がいいような。
「なに、嫉妬した?」
「そういうのじゃないです」
「いてっ」
からかうような笑いを含んだ声に、図星を付かれて負けたような気がして少しムカつく。から、額にデコピンをかましてやった。
「いいから帰りましょ。どうせお酒買ったんでしょ」
「勿論、御前のもあるよ」
「いや俺は」
「……──」
彼が急に俺ではない何処かを凝視し始めた。俺の前に制するように手を出しながら。一体何だと言うんだと、考える前に俺もその正体に気付く。
"視線"の正体に。
「……え」
「取り敢えずバラバラに帰ろうか。御前がターゲットになるのは避けたい」
「は?いや、俺としては貴方をひとりにしたくないんですけど」
「俺が先を歩くから、御前はアレの後ろを歩けばいい」
何か事を起こそうとした時に御前が取り押さえてくれればいい、と彼は続けた。俺を信頼してくれているということでいいんだろうか。そう自惚れることにしよう。
「分かりました」
俺と彼はコンビニから別々の方向へと歩き出す。予想通り、さっきの女性だ。ソイツが彼の後をつけている。その後ろを少し離れた距離感を保ちながら俺もつける。
『ねぇ、まさかそのまま馬鹿正直に家に帰るつもりじゃないよね?』
メッセージアプリで彼に連絡を入れる。直ぐに既読がついて返事が送られてくる。
『俺を何だと思ってんだ』
『いや一応確認』
『適当なとこで撒くよ』
『了解』
確かに歩いている道は家には向かっていない。何処に行くつもりなのかは知らないが、あちこち曲がる。だが俺が追えているという事はあの女性も。
暫くして女性がぴたりと立ち止まった。そして道のど真ん中できょろきょろと挙動不審な程に辺りを見渡し始めた。咄嗟に俺は電柱の影に隠れて様子を伺う。
「もう、そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃないのよ。私と貴方の仲じゃないの」
何を言ってるんだあの女性。頭おかしいのか。とにかく、女性が彼を見失った事は分かった。それでいい。さっさと俺も帰ろう。
「貴方、彼のお友達ね?」
背後から聴こえた声にぎょっとして、背筋が凍り付いた。しかもご丁寧に腕を掴まれている。しまった。
「ねぇ教えてちょうだい、彼は私の事なんて言ってるの?愛してるって言ってるのよね?そうでしょう?」
本能でヤバいと察した俺は力の限りに女性の手を振り解いて、距離を取るために数歩後退った。女性の表情はなんていうか、キマってるという言葉が適切だ。薬でもやっているのかというくらいだ。
どうする、走って逃げるか?身体能力は男である俺の方が絶対に上だ。だが逃げたとして解決するような事でもない。
「そうよ、そうに違いないわ。これ、これを彼に渡してくださる?彼恥ずかしがって受け取ってくれないのよ」
女性が持っていたのは紙袋。その中から小箱を取り出すと俺に渡そうと近寄ってくる。怖い。普通に怖い。その小箱の中身もどうせろくなモンじゃない。
「あぁそうね?あなたが彼をおかしくしてるのね?そうね、そうに違いないわ」
女性は小箱と紙袋を地面に捨てるように落とすと、ポケットから小型ナイフを取り出して、ゆらゆらと揺らし始める。落ちた小箱の蓋が開いて中身が見えたが、アレは見ていいモンじゃない。
「彼に近寄らないで!彼は私のなのよ!?」
手に持ったナイフをぶんぶんと振り回しながら、こちらに寄ってくる女性をどうしたら良いんだ。距離を保ちながらの後退りも意味が無い。かと言って走り出したら多分あちらも走り出す。なら、逆にこっちから仕掛けるか?いやそれだと俺が捕まる。
「っく……」
気が付けば袋小路。しまった。ゆらゆらと揺れながら歩いてくる女性はもう控えめに言ってホラーだ。目を大きくかっ開いたまま、けたけたと笑っている。狂っているとしか言いようがない。
「彼を返して!彼は私だけのものなの!」
返すも何も多分最初から彼女のものではない。彼がこんな……と言うと失礼かもしれないが、こんな奴と付き合う訳が無い。
ヒステリックな奇声をあげながら迫る銀色の切っ先。あんな小さな刃物でも刺さったら痛いどころじゃない。あぁ、入院生活か……なんて半ば諦めて襲い掛かるであろう痛みに備えて目を瞑った。
けど、待てども待てども痛みは襲ってこない。それどころか何かに包まれているような感覚。おそるおそる目を開けると、視界に映るのは見慣れたネックレスのトップ。
「……え?」
「え?じゃねぇよ馬鹿」
彼が俺を片腕で抱き締めていて、もう片方の腕は俺の背後の壁に着かれている。ちょっと壁ドンみたいな状態。とかそんな事を言ってる場合じゃない。あの女性は。
「会いに来てくれたのね!嬉しいわ!ほら、いきましょう!?私と一緒に!!」
「……行くって何処にだよ、地獄か?」
彼の肩越しに見える女性の手に握られているナイフの刃が、赤い。……赤い。見間違いじゃない。
「そんな男なんかじゃなくて私と行きましょう!?」
「っせぇな、アンタがこれから行くのは豚箱だよ」
「嫌よ!!私はあなたと一緒に!!」
「っ──……」
ぐい、と強く腕を引っ張られて投げられるように突き放されて、突然のことにバランスを崩して尻もちをついた。
「ねぇ!!ほら!!早く!!いきましょう!?」
「っせ、ぇ……な、……馬鹿のひとつ覚えみてぇに……」
壁に背中を預けて立つ彼の足元にぽたぽたと赤い液体が垂れている。ナイフが、彼の腹に。こいつが。この女が。彼を。いや、嫌だ。やめろ。やめてくれ。
引き抜いたナイフを逆手に持ち直した女はその手を大きく振り上げた。もう片方の手をまるで狙いを定めるかのように彼の胸板に当てて。
突き飛ばしてでも何してでも止めなくちゃならないのに、身体が動かない。尻もち着いたままのお尻から根でも生えたかのように。
「はーい、そこまで」
その刃は振り落とされることはなかった。現れた私服警官、だろうか。長身で青みがかったサングラスを掛けた男性が振り上げた女性の腕を掴んでいる。
もうひとり、こちらは小柄でゆるふわパーマだ。小柄、と言ってももうひとりが身長高いからそう見えるだけかもしれない。
「404より本部、被疑者確保完了。……負傷者1名、至急救急の手配を要請する」
「嫌よ!離して!!私は彼と一緒に!!」
「はいはい、お話は署でじっくり聞いたげるから」
暴れる女性をものともせずに連れていく長身の人。残ったもうひとりは壁に凭れながら地面に座り込んで項垂れたまま、動かない彼の様子を確認している。俺は、それを見ているだけで何も出来ない。
「急所は外れてる。脈も呼吸もある。だから命に別状はない筈だ」
そんな俺を気遣ってなのか、そう言うその人の手は何故か少し震えているようにも見えた。
────……
「あの女、逮捕された後精神病棟に行ったらしいですよ」
「ふぅん」
病院のベッドの上で俺が差し入れたりんごを頬張っている彼。相変わらずリスみたいな食べ方。あの警察の人が言っていた通り、命に別状は何もなかった。凶器が小型ナイフだったのが幸いしたらしい。
あの女性が明らかに正常ではなかったのは目の当たりにしたから分かる。ひたすらに「一緒にいこう」と繰り返していたのも、おそらくは。
「箱の中身、訊きました?」
「……箱?」
「あ、なら知らない方が良いです」
「そう?それはそうとさ、俺あん時突き飛ばしたっていうか投げ飛ばしたっていうか、……ごめんね?おしり大丈夫だった?」
「俺のキュートなお尻に痣出来てしかもふたつに割れました」
「え、ごめん。咄嗟であぁするしかなくて」
「分かってますよ、だから別に怒ってなんていません」
寧ろ彼には感謝しなくてはならない。背中側からも刺された傷があったと医者から聞かされ、最初に抱き締めてくれたあの時にはもう彼に凶刃から守られていたわけだ。あの赤くなった刃は見間違いなどではなかった。
「にしてもストーカー……ですか」
「……今回のはちょっと度が過ぎてた」
「今回の"は"?」
「……やべ」
もそもそ布団に隠れようとする彼に、少し笑った。
「で、箱ってなに?」
「……女が貴方にあげようとしてた物ですよ」
「ふぅん?」
「アレは最早呪いの箱です」
「……」
あんなものは知らない方がいい。
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