白銀の百合
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地面に紫色の綺麗な花弁が落ちている。こんなに綺麗な色をしている花があるのか。だけど周りを見渡しても同じ様な花弁を持つ花は見当たらない。拾いあげて見てみても俺は花に詳しくないから分からない。
「……べっ、」
洗面台に落ちる赤い花弁。燃えるように鮮やかな赤色が白いシンクに無駄に映える。拾ってきた紫色のものと一緒に飾ったらなんだか良いインテリアになりそうだ。
いつからか、俺の口から?喉から?花弁が出てくる様になった。咳込む度に数枚。遂にマジシャンにでもなったか、と冗談を言っている場合では無い。これが結構にしんどいのだ。ちゃんと吐き出さないと喉を詰まらせて窒息しかねない。
あらゆる病院に行ったが明確な原因は分からなかった。そりゃそうだろう、俺だってこんな症状のある病気なんて訊いたことがない。それにいつだって花弁を出せるわけでもない。出て来るのは決まって──
「こっち見過ぎ」
「……いや、惚れ惚れする造形してるなって」
「なんだそれ」
彼と会った後だ。他愛ない会話をして笑い合って。そうして愉しい時間を過ごした後に、俺の口からは赤い花弁が吐き出される。勿論、彼の前で出した事は無い。こんなの見せられるわけがない。
日に日に吐き出す花弁の量が増えている事を自覚したのはつい最近のこと。数枚だったそれは今やちょっとした花束を作れそうな量だ。俺の身体の中でどうやって精製しているのか。胃の中に花壇でも出来ているんだろうか。
「ッ、は……」
花弁の量が増えるにつれて、体調そのものも優れないようになってきている。酷い眩暈で立てなくなることも増えた。やっぱり胃の中に花壇があって、それに栄養が盗られているとかそういう事なんじゃないのか。
「大分顔色悪いけどホントに大丈夫なのか?」
「ちょっと飲み過ぎただけだから」
「……なら良いんだけど」
大丈夫ではない。確実に。だって花弁吐き出すんだぞ。今の俺はびっくり面白人間なんだぞ。だけど、大丈夫だと言うしかないじゃないか。彼に余計な心配は掛けたくない。
そう思った瞬間だった。
何かがせり上がってくる感覚。ヤバい。彼の前で吐き出すわけにはいかない。だけど、立ってもいられない。その場に崩れ落ちるように座り込んで、口を片手で押さえて耐えるしかない。でも耐えられない。
一頻り咳込んだ俺の手の中に落ちている赤い花弁。手だけじゃ収まらないそれらは地面にも落ちている。地面がやたら視界に近いということは俺は倒れているのか。
「──!──!!」
彼が俺の身体を揺すっている。こんなに慌てている彼を見るのは初めてかもしれない。でもこんな俺を見られたくはなかった。墓場まで持っていくつもりだったのに。
意識が徐々に遠のいていくにつれて、彼の声も、視界も消えていった。
次に意識が浮上して最初に視界に映ったのは白い天井。それとぷらんとぶら下がる点滴パック。あぁそうか、そうだった。俺は倒れたんだったか。
俺の右手を握ってベッドに突っ伏してる彼の姿もある。可愛らしい寝顔がこちらを向いている。そんな姿さえ愛しい。でもこの感情は蓋をしておかないと。
「っ、けほ…」
治っているわけもない。それは分かっていた。何せどの病院に行っても原因不明だったのだから。多分俺はこれからも花弁を吐き続けるのだろう。
「……ん?」
ふと自分の手に受け止めた花弁を見ると、いつもの赤いそれではない。寧ろ花弁どころじゃない。花そのもの。進行すると変わるとかあるのか?
「知ってるか?ソレ、両想いになると白銀の百合になるんだよ」
いつの間にか起きていた彼がそう言う。まだ頭がぼんやりとしているのか、彼の言葉が理解出来ない。
「花吐き病っつって、片想い拗らせた奴がなんの」
「……」
「アンタ、俺の事好きだったんだな」
「……へ?」
それはそうだ、が。なんでそれを彼が分かるんだ。いや、俺が分かりやすいだけか?それは認める。
「俺はてっきり別の奴を好いてんのかと思ってたよ」
「違、俺が好きなのは……」
「ん?」
「……うん」
「ま、言わなくてもコイツが証明してくれたよ」
ひらひらと彼の手に摘まれた白銀の百合の花。あれ?俺から出た奴?じゃないな。俺から吐き出されたものは俺の手の中にまだある。……どういうことだ?
「とにかく、まずはゆっくり身体休めようぜ」
「ん、む」
彼の柔らかい唇が俺のそれに触れる。そして頭を少し乱暴に撫でられる。
「さっさと退院しろよな」
病室を出て行く彼の耳が真っ赤になっているのが見えた。
「飾るなよこんなモン」
「プリザーブドフラワーにしたの」
白銀の百合がふたつ。同じクリアケースの中で仲良く寄り添って咲いている。
fin.
地面に紫色の綺麗な花弁が落ちている。こんなに綺麗な色をしている花があるのか。だけど周りを見渡しても同じ様な花弁を持つ花は見当たらない。拾いあげて見てみても俺は花に詳しくないから分からない。
「……べっ、」
洗面台に落ちる赤い花弁。燃えるように鮮やかな赤色が白いシンクに無駄に映える。拾ってきた紫色のものと一緒に飾ったらなんだか良いインテリアになりそうだ。
いつからか、俺の口から?喉から?花弁が出てくる様になった。咳込む度に数枚。遂にマジシャンにでもなったか、と冗談を言っている場合では無い。これが結構にしんどいのだ。ちゃんと吐き出さないと喉を詰まらせて窒息しかねない。
あらゆる病院に行ったが明確な原因は分からなかった。そりゃそうだろう、俺だってこんな症状のある病気なんて訊いたことがない。それにいつだって花弁を出せるわけでもない。出て来るのは決まって──
「こっち見過ぎ」
「……いや、惚れ惚れする造形してるなって」
「なんだそれ」
彼と会った後だ。他愛ない会話をして笑い合って。そうして愉しい時間を過ごした後に、俺の口からは赤い花弁が吐き出される。勿論、彼の前で出した事は無い。こんなの見せられるわけがない。
日に日に吐き出す花弁の量が増えている事を自覚したのはつい最近のこと。数枚だったそれは今やちょっとした花束を作れそうな量だ。俺の身体の中でどうやって精製しているのか。胃の中に花壇でも出来ているんだろうか。
「ッ、は……」
花弁の量が増えるにつれて、体調そのものも優れないようになってきている。酷い眩暈で立てなくなることも増えた。やっぱり胃の中に花壇があって、それに栄養が盗られているとかそういう事なんじゃないのか。
「大分顔色悪いけどホントに大丈夫なのか?」
「ちょっと飲み過ぎただけだから」
「……なら良いんだけど」
大丈夫ではない。確実に。だって花弁吐き出すんだぞ。今の俺はびっくり面白人間なんだぞ。だけど、大丈夫だと言うしかないじゃないか。彼に余計な心配は掛けたくない。
そう思った瞬間だった。
何かがせり上がってくる感覚。ヤバい。彼の前で吐き出すわけにはいかない。だけど、立ってもいられない。その場に崩れ落ちるように座り込んで、口を片手で押さえて耐えるしかない。でも耐えられない。
一頻り咳込んだ俺の手の中に落ちている赤い花弁。手だけじゃ収まらないそれらは地面にも落ちている。地面がやたら視界に近いということは俺は倒れているのか。
「──!──!!」
彼が俺の身体を揺すっている。こんなに慌てている彼を見るのは初めてかもしれない。でもこんな俺を見られたくはなかった。墓場まで持っていくつもりだったのに。
意識が徐々に遠のいていくにつれて、彼の声も、視界も消えていった。
次に意識が浮上して最初に視界に映ったのは白い天井。それとぷらんとぶら下がる点滴パック。あぁそうか、そうだった。俺は倒れたんだったか。
俺の右手を握ってベッドに突っ伏してる彼の姿もある。可愛らしい寝顔がこちらを向いている。そんな姿さえ愛しい。でもこの感情は蓋をしておかないと。
「っ、けほ…」
治っているわけもない。それは分かっていた。何せどの病院に行っても原因不明だったのだから。多分俺はこれからも花弁を吐き続けるのだろう。
「……ん?」
ふと自分の手に受け止めた花弁を見ると、いつもの赤いそれではない。寧ろ花弁どころじゃない。花そのもの。進行すると変わるとかあるのか?
「知ってるか?ソレ、両想いになると白銀の百合になるんだよ」
いつの間にか起きていた彼がそう言う。まだ頭がぼんやりとしているのか、彼の言葉が理解出来ない。
「花吐き病っつって、片想い拗らせた奴がなんの」
「……」
「アンタ、俺の事好きだったんだな」
「……へ?」
それはそうだ、が。なんでそれを彼が分かるんだ。いや、俺が分かりやすいだけか?それは認める。
「俺はてっきり別の奴を好いてんのかと思ってたよ」
「違、俺が好きなのは……」
「ん?」
「……うん」
「ま、言わなくてもコイツが証明してくれたよ」
ひらひらと彼の手に摘まれた白銀の百合の花。あれ?俺から出た奴?じゃないな。俺から吐き出されたものは俺の手の中にまだある。……どういうことだ?
「とにかく、まずはゆっくり身体休めようぜ」
「ん、む」
彼の柔らかい唇が俺のそれに触れる。そして頭を少し乱暴に撫でられる。
「さっさと退院しろよな」
病室を出て行く彼の耳が真っ赤になっているのが見えた。
「飾るなよこんなモン」
「プリザーブドフラワーにしたの」
白銀の百合がふたつ。同じクリアケースの中で仲良く寄り添って咲いている。
fin.
