Prologue
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「治療してくれた事はお礼を言います」
「いいってことよ」
カグラの言葉に誇らしげにするミヤビ。ドヤ顔、と表現するのが一番相応しい。
「さて、君に訊きたいんだけど」
「出口はあっちですよ」
カグラは立ち上がると指をさした方とは逆に歩き出し始める。慌ててその後をミヤビは追い掛ける。その様子にカグラの表情があからさまに怪訝なそれになる。
「……毒蜘蛛はワタシの獲物です」
「ひとりじゃ危ないよ?」
「迷子に言われたくないですね」
「でも君が居たら迷子にならなさそう」
現にカグラが先程指さした方はこの樹海の出口。コンパスが狂っているにも関わらず、どういう訳なのかカグラが迷子になる事は無さそうである。
「よくもまぁ普通のコンパスで"カーム"に入ろうと思いましたね」
「君の持ってるのは違うの?」
カグラは服のポケットから小さな水晶の破片のような物を取り出してみせる。カグラの手の平の上で淡く光っていたそれは彼が手をぐっと握って開くと、ある一点に向けて光の筋を放ち始める。
「なにこれ!すごい!」
ミヤビの目がキラキラと輝く。
「魔導方位磁石ですよ。魔力を込めれば北を光で教えてくれます」
「はひょー……初めて見た」
「"カーム"に入るなら必需品だと思いますけど」
「そんなのあるなんて知らなかったんだもん」
ミヤビが分かりやすく頬を膨らませるその様子にカグラは盛大な溜息を吐き出す。"なんで知らないんだ"と言いたげに首を小さく横に振りながら。
「じゃアンタはなんで此処に居るんですか」
「僕はアンタじゃなくてミ・ヤ・ビ!ちゃんと呼んでよね!」
「はいはい、じゃミヤビはどうしてこんな所に居るんですか?」
「さっきも言ったけど僕はここに住み着いてる毒蜘蛛を退治……──!」
話している途中にミヤビは何かに気が付き、はっと振り向いたその方には。
「……見付けた」
ミヤビの視線の先に佇む巨大な蜘蛛。その毒々しい紫色をした体躯は周りの木々と変わらず、脚の前2本は獲物を確実に仕留める為であろうか、鋭利な鎌のようになっている。紅い眼が薄暗い樹海の中で爛々と光っている。
「一旦退きましょう!何の対策も無しに闘える相手じゃない!」
「大丈夫、僕ならやれる」
その場を動こうとしないミヤビに徐々に近付いてくる毒蜘蛛。獲物を一瞬で仕留めるか、それとも毒で弱らせてから仕留めるか、吟味しているようにさえ見える。
「ミヤビ!」
カグラの怒声が響く。普段ならこんな命知らずひとり、捨て置いて逃げるのだがこのミヤビは自分の命の恩人とも言える人間。このまま見捨てて死んでしまったとなれば。と、思いつつもカグラはしっかりと木の上に避難している。
「君の武器はその鎌と毒息だ。僕はその両方を封じる事が出来る」
ミヤビは懐から和扇子を取り出すと、閉じたままの状態で剣のように持ち左から右へ一閃、真横に切るように振るった。すると木々がある一定の高さでなぎ倒れていく。
「は……?規格外過ぎる……」
毒蜘蛛はというと、なぎ倒れた木々と同じように一瞬で細切れになって地面に落ちており、カグラの目は信じられないとでもいうように大きく見開かれている。
「ね、出来たでしょ?」
「だってアイツには雷も効かなかったのに……」
自慢気なミヤビの隣に降り立ったカグラはやっぱり納得がいかないのか、バラバラになった毒蜘蛛の元へと歩み寄ってまじまじとその様子を眺め始める。
「カグラちゃんは雷を扱えるの?」
「カグラちゃ……えぇ、まぁ得意属性ですね」
「はひょー!すっごい!雷って扱える人珍しいよね!」
この世界には基本属性として、炎・水・風・土・氷・雷の6属性が存在しており、魔法や魔物の属性もこれに倣っている。
「アンタが見た事なかっただけでしょ。別に珍しくもありませんよ」
「えっ、そうなの?」
「こっちから言わせれば、アンタの魔法の方が珍しいですけどね。治癒魔法が使える人間なんてそれこそ教会の人間くらいしか……、アンタ教会の人間なんですか?」
カグラのいう教会とは街にひとつは拠点がある機関。主に冒険者や住民の治療や、街に魔物が寄り付かないように結界を施したりするのが役目である。
「ん?違うよ?……あぁでもそうなるのかな」
「アンタの素性なんて知ったこっちゃないんですけど、とにかく討伐は終わったんで、さっさとこんな森おさらばしましょう」
カグラが毒蜘蛛討伐完了の証拠としてその外殻の一部を剥ぎ取って、ミヤビの元へと戻る。
「ん?」
「何してるんです?帰るんでしょ?」
「えっ、一緒に居てくれるの!?」
「これを納めるまでは。ていうかアンタ、ひとりで帰れないでしょ」
「えへっ」
2人は並んで森の中を歩き出した。
「筈なんですけど」
「おっかしいねぇ」
2人は森の中とは似ても似つかないだだっ広い草原に突っ立っていた。何がどうなってこうなったのか。2人は同じ方向に揃って首を傾げる。
「……あの建物はなんですか?」
「えっ!?僕に訊かれてもわかんないよ!?」
少し遠くにぽつんと建っている真四角い建物。白い外壁である事も相俟って、見ようによっては豆腐のようなそれ以外に周りには何もない。
「取り敢えずアレ目指しますか」
2人は謎の建築物を目指して草原を歩き始める。
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「治療してくれた事はお礼を言います」
「いいってことよ」
カグラの言葉に誇らしげにするミヤビ。ドヤ顔、と表現するのが一番相応しい。
「さて、君に訊きたいんだけど」
「出口はあっちですよ」
カグラは立ち上がると指をさした方とは逆に歩き出し始める。慌ててその後をミヤビは追い掛ける。その様子にカグラの表情があからさまに怪訝なそれになる。
「……毒蜘蛛はワタシの獲物です」
「ひとりじゃ危ないよ?」
「迷子に言われたくないですね」
「でも君が居たら迷子にならなさそう」
現にカグラが先程指さした方はこの樹海の出口。コンパスが狂っているにも関わらず、どういう訳なのかカグラが迷子になる事は無さそうである。
「よくもまぁ普通のコンパスで"カーム"に入ろうと思いましたね」
「君の持ってるのは違うの?」
カグラは服のポケットから小さな水晶の破片のような物を取り出してみせる。カグラの手の平の上で淡く光っていたそれは彼が手をぐっと握って開くと、ある一点に向けて光の筋を放ち始める。
「なにこれ!すごい!」
ミヤビの目がキラキラと輝く。
「魔導方位磁石ですよ。魔力を込めれば北を光で教えてくれます」
「はひょー……初めて見た」
「"カーム"に入るなら必需品だと思いますけど」
「そんなのあるなんて知らなかったんだもん」
ミヤビが分かりやすく頬を膨らませるその様子にカグラは盛大な溜息を吐き出す。"なんで知らないんだ"と言いたげに首を小さく横に振りながら。
「じゃアンタはなんで此処に居るんですか」
「僕はアンタじゃなくてミ・ヤ・ビ!ちゃんと呼んでよね!」
「はいはい、じゃミヤビはどうしてこんな所に居るんですか?」
「さっきも言ったけど僕はここに住み着いてる毒蜘蛛を退治……──!」
話している途中にミヤビは何かに気が付き、はっと振り向いたその方には。
「……見付けた」
ミヤビの視線の先に佇む巨大な蜘蛛。その毒々しい紫色をした体躯は周りの木々と変わらず、脚の前2本は獲物を確実に仕留める為であろうか、鋭利な鎌のようになっている。紅い眼が薄暗い樹海の中で爛々と光っている。
「一旦退きましょう!何の対策も無しに闘える相手じゃない!」
「大丈夫、僕ならやれる」
その場を動こうとしないミヤビに徐々に近付いてくる毒蜘蛛。獲物を一瞬で仕留めるか、それとも毒で弱らせてから仕留めるか、吟味しているようにさえ見える。
「ミヤビ!」
カグラの怒声が響く。普段ならこんな命知らずひとり、捨て置いて逃げるのだがこのミヤビは自分の命の恩人とも言える人間。このまま見捨てて死んでしまったとなれば。と、思いつつもカグラはしっかりと木の上に避難している。
「君の武器はその鎌と毒息だ。僕はその両方を封じる事が出来る」
ミヤビは懐から和扇子を取り出すと、閉じたままの状態で剣のように持ち左から右へ一閃、真横に切るように振るった。すると木々がある一定の高さでなぎ倒れていく。
「は……?規格外過ぎる……」
毒蜘蛛はというと、なぎ倒れた木々と同じように一瞬で細切れになって地面に落ちており、カグラの目は信じられないとでもいうように大きく見開かれている。
「ね、出来たでしょ?」
「だってアイツには雷も効かなかったのに……」
自慢気なミヤビの隣に降り立ったカグラはやっぱり納得がいかないのか、バラバラになった毒蜘蛛の元へと歩み寄ってまじまじとその様子を眺め始める。
「カグラちゃんは雷を扱えるの?」
「カグラちゃ……えぇ、まぁ得意属性ですね」
「はひょー!すっごい!雷って扱える人珍しいよね!」
この世界には基本属性として、炎・水・風・土・氷・雷の6属性が存在しており、魔法や魔物の属性もこれに倣っている。
「アンタが見た事なかっただけでしょ。別に珍しくもありませんよ」
「えっ、そうなの?」
「こっちから言わせれば、アンタの魔法の方が珍しいですけどね。治癒魔法が使える人間なんてそれこそ教会の人間くらいしか……、アンタ教会の人間なんですか?」
カグラのいう教会とは街にひとつは拠点がある機関。主に冒険者や住民の治療や、街に魔物が寄り付かないように結界を施したりするのが役目である。
「ん?違うよ?……あぁでもそうなるのかな」
「アンタの素性なんて知ったこっちゃないんですけど、とにかく討伐は終わったんで、さっさとこんな森おさらばしましょう」
カグラが毒蜘蛛討伐完了の証拠としてその外殻の一部を剥ぎ取って、ミヤビの元へと戻る。
「ん?」
「何してるんです?帰るんでしょ?」
「えっ、一緒に居てくれるの!?」
「これを納めるまでは。ていうかアンタ、ひとりで帰れないでしょ」
「えへっ」
2人は並んで森の中を歩き出した。
「筈なんですけど」
「おっかしいねぇ」
2人は森の中とは似ても似つかないだだっ広い草原に突っ立っていた。何がどうなってこうなったのか。2人は同じ方向に揃って首を傾げる。
「……あの建物はなんですか?」
「えっ!?僕に訊かれてもわかんないよ!?」
少し遠くにぽつんと建っている真四角い建物。白い外壁である事も相俟って、見ようによっては豆腐のようなそれ以外に周りには何もない。
「取り敢えずアレ目指しますか」
2人は謎の建築物を目指して草原を歩き始める。
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