Prologue
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更に場所は変わりここは"カーム"と名付けられた樹海。気候こそその名の通り一年を通して穏やかではあるのだが、そのお陰なのか木々が鬱蒼と茂っており、一度方向を見失ってしまえば抜け出す事は叶わないという。故にこの樹海を住処にしている生物の生態などは未知数なのだ。
そんな樹海に一人の男が迷い込んでしまっている。
明るい茶髪に長めの前髪を黒いピンで留めたその男は、和と中が混ざった様な服装。アーモンド型の目の色は綺麗な翡翠色をしている。
「……これは、迷ったかな」
男はぽつりとぼやく。どの方向を見ても男の視界に映るのはもさもさと元気よく育った木々のみ。空を覆う枝葉のせいで太陽の位置すら分からない。
「コンパス……は、ぐるぐるしてんねぇ……」
方角を報せる頼みの綱のコンパスも役立たずである。樹海と呼ばれる場所の多くは火山の麓に広がる。この"カーム"の樹海の傍にも"ブシオン"という休火山がある。要は元は磁気鉄を多く含む溶岩なのだ。この磁気鉄がコンパスを狂わせるという理屈である。
「んー……どうし…、ん?」
男が何かに気付いて、はっとした表情で静止しないコンパスから顔を上げて一点を見詰めた後、その方へと歩みを進めていく。そしてその歩みは徐々に走りへと変わる。
「──!やっぱり!」
男の目線の先には倒れている人の姿。だがこの樹海だ。生きているそれとは限らない。それでも男は駆け寄る。
「これは……毒か、それなら……」
倒れていたその人はぐったりとして微動だにしないが、微かに息はある事を確認出来る。男は手慣れた様子でその人の状態を一通り診察すると、小さな声で何かを呟く。魔法の発動に必要な詠唱である。
「──"黄連(オウレン)"」
男がその言葉を発すると、男の手がぼんやりと淡い緑色に光り出す。倒れている人の胸元にその手を当ててゆっくりと離すと、手に着いていくようにその人から毒々しい紫色の塊が滲み出て来る。
「ふぅ……、これで毒はよし、と。後は傷の手当だね」
滲み出た紫の塊をぎゅっと握り潰した男は、今度は両手を翳す。同じように淡い緑色に光り出した両手と共に、倒れているその人が負っている傷がみるみる内に癒えていく。
「ん……」
「あ、気が付いた?でもまだ動いちゃダメだよ。毒と傷は無くなっても体力までは治せないからね」
「アンタ、は……」
「僕?僕はミヤビっていうの。君は?君はなんでこんな所に居たの?」
「……カグラ、です。アンタこそ、なんで……」
倒れていたのは若い男。ミヤビと名乗った男と歳はそう変わりなさそうではある。カグラと名乗った男は鮮やかな金髪が緩くウェーブしている。彼の眼は髪の色と同じ様な金色をしているが、右眼は金色ではなく朱い。オッドアイというそれであろう。
「僕はそうだな、迷子かな」
「そんな堂々と言う事ですか……?」
あっけらかんとして迷子と言うミヤビ。その様子に身体を起こしながら呆れたように溜息をつくカグラ。
「それより、その毒は何に受けたの?」
「……知らないんですか?
この森に住み着いた毒蜘蛛を」
「あ!僕もそれ討伐しようと思ってて」
「迷子ですか」
「そう、迷子になっちゃったの」
カグラの溜息がまた静かな樹海に響く。
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更に場所は変わりここは"カーム"と名付けられた樹海。気候こそその名の通り一年を通して穏やかではあるのだが、そのお陰なのか木々が鬱蒼と茂っており、一度方向を見失ってしまえば抜け出す事は叶わないという。故にこの樹海を住処にしている生物の生態などは未知数なのだ。
そんな樹海に一人の男が迷い込んでしまっている。
明るい茶髪に長めの前髪を黒いピンで留めたその男は、和と中が混ざった様な服装。アーモンド型の目の色は綺麗な翡翠色をしている。
「……これは、迷ったかな」
男はぽつりとぼやく。どの方向を見ても男の視界に映るのはもさもさと元気よく育った木々のみ。空を覆う枝葉のせいで太陽の位置すら分からない。
「コンパス……は、ぐるぐるしてんねぇ……」
方角を報せる頼みの綱のコンパスも役立たずである。樹海と呼ばれる場所の多くは火山の麓に広がる。この"カーム"の樹海の傍にも"ブシオン"という休火山がある。要は元は磁気鉄を多く含む溶岩なのだ。この磁気鉄がコンパスを狂わせるという理屈である。
「んー……どうし…、ん?」
男が何かに気付いて、はっとした表情で静止しないコンパスから顔を上げて一点を見詰めた後、その方へと歩みを進めていく。そしてその歩みは徐々に走りへと変わる。
「──!やっぱり!」
男の目線の先には倒れている人の姿。だがこの樹海だ。生きているそれとは限らない。それでも男は駆け寄る。
「これは……毒か、それなら……」
倒れていたその人はぐったりとして微動だにしないが、微かに息はある事を確認出来る。男は手慣れた様子でその人の状態を一通り診察すると、小さな声で何かを呟く。魔法の発動に必要な詠唱である。
「──"黄連(オウレン)"」
男がその言葉を発すると、男の手がぼんやりと淡い緑色に光り出す。倒れている人の胸元にその手を当ててゆっくりと離すと、手に着いていくようにその人から毒々しい紫色の塊が滲み出て来る。
「ふぅ……、これで毒はよし、と。後は傷の手当だね」
滲み出た紫の塊をぎゅっと握り潰した男は、今度は両手を翳す。同じように淡い緑色に光り出した両手と共に、倒れているその人が負っている傷がみるみる内に癒えていく。
「ん……」
「あ、気が付いた?でもまだ動いちゃダメだよ。毒と傷は無くなっても体力までは治せないからね」
「アンタ、は……」
「僕?僕はミヤビっていうの。君は?君はなんでこんな所に居たの?」
「……カグラ、です。アンタこそ、なんで……」
倒れていたのは若い男。ミヤビと名乗った男と歳はそう変わりなさそうではある。カグラと名乗った男は鮮やかな金髪が緩くウェーブしている。彼の眼は髪の色と同じ様な金色をしているが、右眼は金色ではなく朱い。オッドアイというそれであろう。
「僕はそうだな、迷子かな」
「そんな堂々と言う事ですか……?」
あっけらかんとして迷子と言うミヤビ。その様子に身体を起こしながら呆れたように溜息をつくカグラ。
「それより、その毒は何に受けたの?」
「……知らないんですか?
この森に住み着いた毒蜘蛛を」
「あ!僕もそれ討伐しようと思ってて」
「迷子ですか」
「そう、迷子になっちゃったの」
カグラの溜息がまた静かな樹海に響く。
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