Episode.1
side.ハル
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どうやら俺はミヤビとの模擬戦で敗れたらしい。途中から記憶が途切れている。別に勝ち負けなどどうでも良かったから、特に気にすることでもない。ただ、ミヤビが急に豹変したことは少し気になる。あの目は……間違っても正気のそれではなかった。
「あ、起きてたんですね」
ノックもせずに入ってきたのはカグラ。俺に何か用だろうか。ずんずんと進んできた彼はベッドに座っている俺の服をぺろんと捲り上げた。……何してくれてんだこの男。
「外傷は癒えましたね。でも、中身は」
「い゛っ……!?」
「あぁすみません、治癒魔法掛け治しますね」
ぐっと腹辺りを押された拍子に走った激痛。咄嗟にカグラの肩を強く掴んでしまった。というかコイツも治癒魔法が使えるのか?あの魔法は教会に携わる人間しか使えないとされる希少魔法だったと記憶しているんだが。
「……私は教会の人間ではありませんよ」
俺の思考を読んだようにカグラがそう呟いた。別にそうだからと言って何かが変わるわけではない。あられもない噂に翻弄される苦しみは、俺が身に染みて解っている。
「まだ暫くは何度か掛け直す必要がありますね。……良かった、アンタまで人間離れしてるのかと思いましたよ」
「……」
「嗚呼違う、レンくん。彼、馬鹿みたいな速度で怪我が治ってたんですよ」
「……どういう……」
「言葉通りですよ。ハルさんがミヤビにやられた後、レンくんがあの馬鹿とやり合ったんです。でもレンくんもミヤビにやられちゃって」
俺が気を失っている間に起きた事を細かく教えてくれたカグラは、「私たちは皆化け物なのかもしれませんね」とまとめた。
それぞれが特化した何かを持ち合わせている、ということなのだろう。それが何かは、この先行動を共にしていれば自ずと分かることか。
それはそうと。
「例の"鍵玉"とやらの情報は何か進展あったのか?」
「その事でハルさんとこに来たんですよ」
カグラは懐から小さな鍵を取り出して見せる。金色の鍵で装飾にトパーズだろうか、黄金色の宝石が付いている。
「戻ったらこれが置かれてたんですよ」
「なら同じようにそれで繋がる世界に?」
「えぇ、おそらく」
「……他の奴らはなんて?」
「さっさと行こうって息巻いてますよ」
「だろうな」
なら話は早い。さっさとその世界とやらに行って目的の物を回収してこればいい。
「ハルさんはこの宝石に込められた意味を知ってますか?」
知らない、と答えるのが正解なのだろうか。それとも知っていると正直に答えて彼を安心させるのが正解なのだろうか。出逢って間も無い人間に気を遣う理由もないが、どうしてかカグラには言い淀んでしまう。
「……その宝石の意味が何であれ、俺たちが成すべき事は変わらない」
俺の言葉にカグラの眼が揺らいだ。そうか、俺たちはこの鍵を手に取ったところで、込められた魔力や意味を感じ取れない。だけどカグラは違う。模擬戦の為の鍵の効力を見抜いたのも彼だった。つまり、カグラはこの鍵が繋ぐ先を知っている。そしてそれは彼に縁のある地。そういうことなのだろう。
「ふふ、そうでしたね」
「……」
「完全回復してないのはハルさんだけですからね」
「え……?」
「だから貴方が治り次第、ってことです」
「……お前は?」
「ハルさんは知らないから教えてあげますけど、あの模擬戦から一週間経ってますよ」
「……嘘だろ」
「いーえ、嘘じゃありません。それほど、ミヤビから喰らった怪我が酷かったってことです」
寝込んでいたとしても2、3日程度だと思っていた。まさか一週間もだったとは。しかも一週間経っても治り切っていないということだ。寧ろそんな重傷を負ってよく生きていたな。……カグラのお陰か。
「……礼は言う」
「あは、治療費はこの鍵の先、"ゴルド"に眠る宝石にしましょうかね」
俺の知識では神を封じたという巨像が祀られていると云われている、"教会"の本拠地とも言える場所。俺も実際に訪れてこの目で見たことはない。ただ教会に属している者は皆、"ゴルド"を目指すという。
「"聖地ゴルド"、ね」
「えぇ、きっととんでもない宝石ですよ」
そう言いながら笑うカグラの声は、少し震えているようにも聴こえた。
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