Episode.1




side.レン
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ミヤビとやらの様子がおかしい。確かによく笑う奴ではあったが、あんな不気味な笑い方は明らかにおかしい。ハルとの戦闘の中で、アイツの中の理性か何かが吹っ飛んだか。

「ひひっ」

ハルとの時とは違って、攻撃の全てがオレの急所を狙うような動きだ。手早くコイツを無力化して地面に血塗れで転がるハルをどうにかしてやらねぇと。

「余所見だなんて悲しいなぁ?ちゃんと僕を見てよ!」

コイツの操る魔法の属性は風。局所的に研ぎ澄まされたソレならまだオレのカタナで弾ける。が、動けないハルにこれ以上風が届かないようにするには、どうしても後手後手になってしまう。

「チッ……」

弾き切れない刃が徐々にオレの身体を刻んでいく。このままじゃ、オレがというよりハルがもたない。あんなに血を流して無事なワケがない。早く、早くどうにか。なのに突破口が見付からない。

しかし風魔法というのは厄介だ。使い方によっては自身の身体能力を強化出来る。多分コイツはそれをやっている。オレの氷魔法で動きを止めてやろうとしても、ことごとく躱されてしまう。

「クソ……ッ」

苛立ちが募る一方だ。オレが飛ばした氷の礫も掠らないのはどういう了見だ。風で弾いているのか?だとしたら弾けない程の威力を叩き込むしかない。

右手に構えた黒刀を左手に持ち替え、右手に新しく氷で剣を生成し、放たれる無数の風の刃を叩き落としながら徐々に距離を詰めていく。

「ひひっ」

ミヤビの持つ扇子が開いた。なんだ?何をするつもりだ?と警戒した筈が意味をなさなかった。氷の剣は粉々に砕け、黒刀は弾かれ左手から離れ、オレの身体からは鮮血が舞う。

「もうおしまい?」
「……ッ、かは……クソ……化けモンかよてめェ……」
「化け物?それはそこに転がってるやつでしょ?」

ミヤビはオレではなく、オレの後ろで地面に伸びているハルを指差す。ゆっくりと近付いてくるミヤビに、咄嗟に氷の礫を放つが簡単に手で払われてしまう。傷が深いのか思うように息が出来ない。痛みで魔法も上手く扱えない。剣を生成しようとして、形にならずにバラバラと落ちていく。

「化け物は退治しなきゃ」

ミヤビの目にはオレは映っちゃいない。何故ハルを化け物呼ばわりしているのか知ったこっちゃねぇが、オレも形振り構ってられねぇ。

「模擬戦はおしまいにしよ」

聴こえてきた声に振り返ると、いつの間にそこに居たのかハルの傷の手当をしているヤナセとカグラの姿。あのふたりなら任せても良さそうだ。

問題はアイツだ。どうすりゃ止まるんだ。

そんな憂いはものの一瞬だけだった。さっきまでオレの後ろに居た筈のヤナセが、オレとミヤビとの間に立っている。いや、ミヤビは地面に伏している。

何が起こったのか一切分からない。ヤナセが何かをしたのは間違いないだろうが、その何かを一切この目で捉える事が出来なかった。コイツは何者なんだ……?

「さ、みんな手当てしないと。カグラ、だっけ?君はその人おねがいね。おれはこのふたり担当」

このふたり、はオレとミヤビの事か。呆気に取られて力が抜け、地面にへたり込んだオレに手が差し出される。ヤナセの手だ。無骨な手。だが柔らかそうな。いや、カタナを扱う割には綺麗な手をしている。……不思議な男だ。



元の屋敷に戻ってきたオレ達はそれぞれ手当てを受ける。どう見ても一番重傷を負ったのはハルだ。その彼の手当てはカグラがやっている。

どうやらカグラは属性に関係なく魔法を満遍なく扱えるらしく、額に汗を滲ませながらハルへ治癒魔法を掛けている。

本来、魔法には適正属性というものが存在している。オレならば氷だ。適正属性に合った属性の魔法以外は基本扱う事が出来ないとされている。というのがこの世界の一般常識。現にオレは氷魔法以外は使えない。魔力──精神力のようなものを、氷という形以外に出力出来ないからだ。つまり、カグラはその魔力の属性変換を簡単にやってのけている。産まれ持った資質なのか、努力の賜物なのかは知らないが、特別なチカラであることは確かだ。

「次はアンタです」
「……いや、オレは」
「痩せ我慢するタイプですか?」

それは御前もだろう、と言いたかったがコイツをノックダウンさせたのはオレという手前、ぐっと飲み込むことにした。

経験出来ないから分からないが、おそらく適正属性以外の属性の魔法を扱うには相当な魔力が消費される。治癒魔法は確か……光属性だったか。6種の基本属性の外側にある特殊な属性。

「じっとしててくださいよ。あんまりこれ使うの慣れてないんですから」

ミヤビが扱う治癒魔法、アレは本人の特殊能力の類になる。カグラが使うものとは根本的に発動までの仕組みが違う、とオレの傷を癒しながらカグラは話す。

「てかアンタ、なんかハルさんより治しやすいんですけど」
「……あ?」
「いや、感覚が」

オレの見立てだとここに集められた5人はそれぞれ何かしら特殊なチカラを持っている。ミヤビは治癒能力。カグラは全属性。ヤナセもハルも何かしらある。

そしてオレは。

「あれ、ここまだ魔法掛けてないのにもう治ってる?」
「あンま人の身体ベタベタ触ンな」
「……あんなざっくりやられてたのに」

人並み外れた自己治癒力、とでも言っておこうか。



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