Episode.1
side.カグラ
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黒い扉を潜った先は見渡す限りの荒野。視界を遮るものが何も無い。これじゃ私の得意な隠れながらという戦法は取れない。それならそれでやりようはいくらでもあるんですけどね。
「まず誰と誰がやる?」
「その前に、総当たりにするのかトーナメントにするのか決めたいんだけど」
総当たりはこの場に居る四人をそれぞれ相手する事になる。それは体力的にもしんどいから私はやりたくはない。手っ取り早くこの模擬戦を終えるならトーナメントですね。どうしても順序を付けたいのなら敗者戦でもやればいい。
「と、いう理由で私はトーナメントを推します」
「いいね、そうしよ」
何処から拾ってきたのか長い木の棒で、地面にガリガリとあみだくじを描き始めたアオイさん、でしたっけ。この……なんていうかぽやんとした銀髪の人は。
それぞれが好きな所に、それぞれの印を付けた後、反対側に適当に番号を振っていく。その横では紅髪の……ハルさんがトーナメント表を、彼は指で地面に描いている。誰がいきなり決勝戦のシード枠になるんでしょうか。
「レンとカグラ、ミヤビと俺、シード枠はアオイ」
と、いうことで私の相手はあの顔の濃いいけ好かないイケメンですね。その頬のタトゥーは何?って訊いてもどうせ教えてくれなさそう。
「どちらかが戦闘続行不能、もしくは降参した時点で試合終了。これでいいね?」
「あァ、構わねェ」
「えぇ」
色々と地面に落描きした地点から少し離れて、彼と距離を開けて対峙する。見たところ武器は無さそう。となると魔法タイプか?遠距離型なのか近距離型なのか。見極めは大事。
だけど、先手必勝。
魔力を集中させた左手を、空気を撫でるように真横に振り抜く。詠唱も要らない簡易的な魔法。ただ自分の魔力を刃として飛ばすだけのシンプルな魔法で、牽制といきましょう。
「こンなモンでオレを測るなよ」
「げっ、素手で……」
私が飛ばした魔力の刃は呆気なく叩き落とされた。それも素手で。ということは肉弾戦タイプ……?だとしたら間合いに入ってしまったら最後だ。
「考え事してる余裕なンか持たせねェぞ」
「──!」
目の前を黒い刃が掠めていく。いつの間にこんなに距離を詰められたのか。しっかりと姿を捉えていた筈なのに。彼の右手には黒い……アレは何だ?見た事のない形状の剣だ。柄から剣先まで全てが黒い。
咄嗟に袖に隠しているダガーで、襲い来る斬撃を弾けてはいるけど、防戦一方になってしまった。これはよろしくない。
「典型的な魔導師タイプだろお前」
「だったら何だっていうんですか……!」
一撃一撃が重たい。しかもこの人、おそらくわざと剣の軌道を見せている。私が弾きやすいように。つまり、この人は私で遊んでいる。……むかつく。
「ほら、お得意の魔法使ッてみろよ」
「言われなくてもそうします、よ!」
左手のダガーで剣を弾きつつ、敢えて踏み込んで彼の懐に潜り込む。そしてありったけの魔力を込めた右手を胸に押し当てながら、唱える。
「──"雷槍(ハスタ・フォルミニス)"!!」
轟音と閃光と共に彼の胸を私の魔力が貫く。本当は遠距離からぶん投げるようにして放つ魔法なんですけど。こんな至近距離で喰らって倒れない訳な……
「へェ……雷か。珍しい属性扱うンだな」
「う、そ……確かに心臓を……」
「嗚呼そうだな、お前の魔法はオレの心臓を貫いたよ」
「……っ!!」
ならば今度は物理的に貫くまで。左手のダガーを勢いに任せて彼の胸に突き立てる。と、同時に背中から腹に走る灼け付く痛み。いや、冷たい……?
「な、にこれ……こお、り……?」
透明な何かが私の腹から飛び出ていて、流れ出た血がぽたぽたと伝って地面に落ちていく。ふらつく身体をなんとか踏ん張って耐える。
「お前の敗因はオレのテリトリーに入ッた事だよ」
「うるさ、い……っ、まだ負けてなんかない……!」
「うるせェのはお前だよ」
振り落とされる黒い刃を避けるだけの気力はもうない。この氷はきっとただの氷じゃない。魔力を吸われているような、そんな感覚。引き抜こうにも上手く力が入らない。私が今出来ることは痛みに備えて目を強く瞑る事だけ。
「そこまで」
間近に聴こえた声に目を開けると、ハルさんが黒い刃を素手で掴んで制していた。痛そう。あぁ駄目だ。立っていられない。
「んもっ!やり過ぎ!カグラちゃんは本調子じゃないんだかんね?」
ミヤビの声がやけにうるさい。眠たいんだから静かにしてくださいよ。
「コイツが先に」
「そうだね、でも君と違ってこの子は──」
アオイさんの声を最後に私の意識は沈んでいった。
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