Episode.1




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模擬戦をやるだなんて面倒な事になった。鍵玉集めとやらの時点で面倒だというのに。ていうか何故みんなそんなやる気に満ち溢れているんだ。適当に手を抜いてさっさと終わらせよう。

これみよがしに六人がけのテーブルの上に置いてあった、金色の鍵。俺たちがそれぞれ持っているらしい鍵よりは一回り大きいそれを、今まで何処に居たのか、金髪の男が手に取って「成程」と何かを納得している。

「カグラちゃん!もう大丈夫なの?」
「えぇ、お陰様で。……で、誰です?この人達は」

この男がカグラか。右眼に黒い眼帯をしている彼はなんていうか、色白で線が華奢だ。

「じゃ改めて、僕はミヤビ・ヴェルデ!森で迷ってたらカグラちゃんに助けて貰ったんだよね」

ミヤビと名乗った男はこの五人の中で一番長身だ。東洋の胡散臭い薬師みたいな服装。あと身振り手振りも大きければテンションもうるさい。

「不本意ながらそこのバカに助けられたのは、私の方なんですよね。あぁ、私はカグラ・ユーニウスと申します。職は……ハンター、とでも言っておきましょう」

ハンターとは各街にある冒険者向けの施設──ギルドを介して魔物討伐や素材収集などを請け負う人間たちの事だ。それぞれの地域特有の仕事はあるだろうが、大体のシステムはおそらくこの世界共通だろう。

「おれは柳瀬 碧。あ、君らの感じで言うならアオイ ヤナセになるんかな?」

銀髪の男は"ヤマト"出身なのか。着ているのもその国の民族衣装だし、腰に提げているのもそうだ。ファミリーネームが先に来るのも"ヤマト"の特徴だ。ただ"ヤマト"は謎多き島国で、俺も昔の文献を読んで得た知識しかない。

「……レン=ウィステリア。特に他に言うことはない」

黒髪で左頬に悪魔の羽のようなタトゥーを入れた男。この男は要注意だな。何か、普通の人間とは違う気がする。俺のことを知っていそう、というより知っているんだろう。だけど俺は彼のことは知らない。過去に会っていたとしても一切記憶にない。

「最後は俺ね。俺の名前はハルだけど、そこの彼が言うハルとは別人だと思うよ。俺は彼のことを知らないからね」

自分が忘れているだけの可能性もある。だがこんなに分かりやすく濃い顔、一度見たら忘れようが無さそうだ。

「で?模擬戦ってどこでやんの?」
「外には出られないし、屋敷の中で暴れるわけにもいかないよね」
「その為の鍵がこれですよ」

カグラが金色の鍵を俺たちに見せる。彼曰く、どうやらこの鍵には転移魔法が込められているらしく、扉に使えば対応した場所へと繋がる仕様だという。

「でもその扉はどれ?」
「多分黒い奴じゃない?あれだけ他の扉とはなんか違うっていうかさ、なんか違うの」
「何が言いてェのかさッぱりだがまァ……分からンでもない」

確かに一階にひとつだけ異質な真っ黒な扉があった。ミヤビが言うのはアレの事だろう。鍵穴があったかどうかまでは見ていないが、二階の扉にもそれぞれ鍵穴があったし多分間違いない。

「じゃ、試してみましょ」



カグラが早速、例の黒い扉の鍵穴に金色の鍵を差し込む。すると不思議な事に鍵は光の粒となって消えてしまった。使い捨ての鍵なんてそんな事あるのか。

「……なんかでてきた」

扉の前に現れた小さな黒いペンギン。目が何処にあるのか分からない。というか何だコイツは。

「どこにつなげる?」

ペンギンは何処からかカードのような物がリングで纏められ束になったものを出して、アオイに見せている。それを俺も横から覗き込む。だがアオイがぱらぱらと捲っても一枚を除いて白紙だ。

「これしかないし、これでいいんだよな?」
「多分」

アオイが文字が書かれた一枚を指差して見せると、ペンギンは数回頷いた後、扉にその手をぺんっとスタンプのように押し付けた。何をしているんだろう。俺が想像していたのは鍵を差し込んで、開けたらその空間に繋がっていて、という感じだったのだけど。

「あっちはくんれんようの とくべつなくうかん。だけどうけたキズはこっちにもどってもそのまま。こっちにもどるときは これでぼくをよんでね」

ぺふっとアオイの手に何か小さな真ん丸の石ころのような物が置かれる。カグラが横から「召喚石ですか」と割り込んでその石を手に取って観察を始めた。俺には本当にただの石ころにしか見えない。

「よく分かんないけどこれで模擬戦出来るんでしょ?早く行こ!ほらほら!」

ペンギンが開けた扉の向こう側へと、ミヤビにぐいぐいと押されて進んでいく。

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