Episode.1



side.レン
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じたばたともがいていた紫色のペンギンのような謎の生物。十中八九魔物の類だろう。だが長年この世界に生きていて初めて見る。まだまだオレの知らない事がこの世界にはあるという事か。

「んべっ」

そのペンギンとやらにオレともうひとり、謎の銀髪の男が何処かに転送されたワケだが。この謎の男の事も気になるが今は目の前にある建築物への興味が強い。どの年代にもこんなものは存在していなかった。こんな、なんだ、真四角のつるんとした建築物など。

「ってて……あのペンギン今度会ったらただじゃおかねぇぞ……」

盛大に尻もちを付いていた男が悪態を付きながら立ち上がってきた。やはりコイツはどれだけ見ても普通の人間ではない。姿形は人間のソレだが魂が違う、とでも言えばいいだろうか。これも初めて見る存在だ。

「んお、なんじゃこの建物」
「知らン」
「すっげぇ、とうふみてぇ」

ぽかんとアホ面を引っ提げているコイツの身なりは確か、遠い島国の民族衣装だったか。腰に提げた得物も。オレの相棒と同じモノかは知らんが、出処は同じだろう。

「な、取り敢えず入ってみようぜ」
「な……オイ、引ッ張るな、離せ」

オレの腕を掴んで何を警戒するでもなく、真っ白い真四角の建築物の扉を開けて中に進んでいく。危機感とか無いのかこのおとぼけ白髪は。

扉の内側は西洋によく見られる屋敷の大広間が一番近い造りだ。外観からは分からなかったが、吹き抜けになっているこの広間をぐるりと囲むように二階部分があり、ここから見える扉は五枚。それと一階部分、正面に大きめの扉。その横に不自然な黒さの扉が一枚。どう見てもあの真四角い外観とは異なる間取りだ。

……となると、この建物には何かしらの魔法が掛けられていると推測出来る。空間拡張、認識阻害、思い付くものは複数あるがそのどれかは分からないし、おそらく特定する必要もない。

「あれ!お客さん!?」

二階部分から声が聴こえて見上げるとひょろっとした男が居た。この屋敷の主人が何かか。ソイツはそのままひらっと二階の柵を越えてオレらの前に降り立った。

「ねぇねぇっ、君たちもあのペンギンに貰ったの?」

近くに来るとこの男の方がオレより少し背が高い。し、色々と距離感が近い。何故オレの手を握っているんだ。離せよ。白髪といいコイツといい、馴れ馴れしい奴しか居ないのか。

「……ァあ?」
「はひょっ、ごめん!」

ぱっと手を離したその男がオレをじぃと見詰める。

「あっ、ごめんね?綺麗なタトゥーだからつい見ちゃった。僕はミヤビ!ミヤビ・ヴェルデ!ミヤビって呼んでね!」

とんとん、と自分の左頬を指で叩きながら満面の笑みで自己紹介を勝手にかましてきたこの男。ミヤビというらしい。さっきオレ達の目の前に降りて来た時、コイツからは着地の音が一切聴こえなかった。相当な手練ということか。

「君たちは?名前なんていうの?んー……まずはそっちのおじいちゃん」
「おれ別にじじぃじゃな……まぁいいや、おれは柳瀬 碧(ヤナセ アオイ)だよ」
「ヤナセが名前ってこと?」
「あ、そっか逆なのか。んや、柳瀬は苗字。えーとなんていうんだっけか」

ファミリーネーム、そうオレが言い掛けた時に後ろの扉、つまりこの建物の玄関の扉が開いた。そこに立っていたのはひとりの男。

「あ、住人居るパターンね?成程OK、よし帰」
「待て」

引き返そうとするその男の腕を掴んで戻す。その燃えるような紅い髪、紅い瞳。そして左頬の刀傷の痕。見間違える筈が無い。

「ハル」

その男の名を呼ぶと、ぴく、と僅かに反応した。

「誰かと間違えてるんじゃないかな」

嫌に冷たい声色でそう言い放った彼はオレの腕を振り払うと、さっさと扉から出ていこうと取手に手を掛けたその時だった。

「──ッ!?」

バチバチと閃光と火花が飛び散り、ハル──いや、今は紅髪とでも呼ぶか。ソイツの手を思い切り弾いた。これには流石にオレも、あとの二人も。そして弾かれた本人も驚きの色が隠せない。

「あー……ちょっと大きめの静電気かな?じゃ気を取り直して、」

再び紅髪が取手に手を掛けるが結果は同じ。痛みがあるであろう手をぷらんとさせて、こちらをゆっくりと振り返ったその男は一言「どうしよう」と呟いた。

まさにその通りだ。オレたちはこの屋敷に閉じ込められたと言って相違ない。出入口となり得るのは玄関の扉一枚だけ。他の窓ははめ殺しになっていて開かない。割ってしまえばいい、と考えた白髪──ヤナセが試しにカタナで斬り付けたがビクともしなかった。

「え、とりあえずあっちの部屋行く?」
「後ろにも横にも行けねェなら前に進むしかねェよ」
「あっちはね、なんかすごい生活空間って感じだよ」

そうか、ミヤビは先に二階に居た。広間には階段は見当たらないからあの大きな扉の向こうも見ているわけか。ミヤビの言う通り、扉を開けた先に広がっていたのは確かに生活空間。一通りの家具や魔導具が揃った一般家庭の住居という具合だ。オレたちにまるでここに住めとでも言うように鎮座しているそれらは、どれも真新しい。

「で、あっちの奥に階段があって、そこから二階に行けるよ」
「確認だけど、ミヤビ?はここの住人ではないんだよね?」
「うん、違うね。森歩いてたらここに居たの」
「……森?」
「そう!もうひとり、あっカグラちゃんっていうんだけどね?」

ヤナセとミヤビとの会話が長くなりそうな上に、おそらく大した情報も得られないと踏んだのか、紅髪の男の姿がない。二階に行ったのだろうか。

アイツには色々と訊きたい事がある。オレも二階へ向かうとしよう。


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