鏡よ鏡、我の問に応えよ

「っ、……くそ、」

完全なる不意打ちだった。というよりは俺が油断しきっていたという方が正しいか。身体に力が入らなくなってずるずると壁に凭れて座り込む。灼けつくような痛みが走る脇腹を手で押さえてみても、指の隙間から赤色は流れ出して止まらない。

「ふふ、痛い?」

項垂れる俺の頭上から降って来る声は聞き覚えのある声。寧ろ聞き間違える筈もない。霞んできた視界で見上げてみてもやはり見間違いではない。

「……なん、で……」

俺の仲間であり、相棒であるイチ。その手には俺の血で染まった小型のナイフ。

「どう?仲間に刺された気分は」
「……は、お前がイチじゃねぇ事くらい、猿でも分かる」

言葉ではそう言ってみたが、声も顔も体型もイチそのものだ。だけど彼はそんな人を蔑むような目をしない。不気味な笑みを浮かべたりしない。

「さて、仕上げもしなくては」

同じ目線になるようにしゃがんだソイツは、俺の胸元に何かを突き立てた。痛みは無い。だけど何かが入り込んで来るような気持ちの悪い感覚に、息の仕方が分からなくなっていく。咄嗟にソイツの腕を掴むが、上手く手に力が入らずずり落ちてしまう。

「は……」

気付けば俺の身体は地面に横たわっていて。腹の傷口から滲み出た赤色が地面をゆっくりと染めていく。

「ふふ、苦しいね?」
「な、……俺、?」

さっきまでイチの姿をしていたソイツは、俺の姿をしている。どういうことだ。そして俺の姿をしたソイツは俺のスーツのポケットから携帯を抜き取ると、誰かに電話を掛け始めた。

「イチ?少し話があるんだ」

俺の声で、俺の姿でイチに電話を掛けている。コイツが何者で、何を企んでいるのかは知らない。どうでもいい。ただこのままではイチが危ない。だめだ。それだけは。

ソイツの足首を掴んだが、すぐに蹴り払われ、その足が俺の腹を勢い良く踏み付ける。丁度、傷口の部分を。俺の喉から声にならない声が、鉄の味と共に漏れ出す。

「ん?嗚呼大丈夫、ちょっと止め刺しきれてなかったみたい。大丈夫大丈夫、もう仕留めたからさ」

頼む、気付いてくれ。それは俺じゃない。

「事務所で待ってて」

違う、違うんだ。イチ、逃げ……──


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