CLAMP作品小説

黒曜、海に続く三人目の子供を身籠ったユゥイ。今日はユゥイとユゥイのお腹の中にいる子供の健康状態を確認するための妊婦健診の日である。

「ユゥイさんの健康状態に異常はありませんし、お腹のお子も健やかに育っております」

「そうですか、安心しました」

「ですが、この時期にしてはお腹が凄く大きいですね。もしかしたらお子は双子かもしれませんよ、おめでたい事です」

「双子……」

医者は祝福するようにユゥイに話すがユゥイが産まれた国、ヴァレリアでかつてユゥイが片割れのファイと共に双子は凶兆だと言われ蔑まれてきた記憶が強く残るユゥイにとって医者の言葉は全く耳に入らず、頭が真っ白になった。



*   *   *



そして夕食を食べ終わり、黒曜と海が寝静まった後、黒鋼がユゥイに声をかける。

「おい」

「な、なぁに?黒様」

「お前、様子が変だぞ。何があったんだ」

「そ、そうかな?そんな事ないよぅ」

ユゥイの様子がおかしい事を指摘する黒鋼にユゥイは一度目の旅の時にしていた作り笑いで誤魔化そうとするが、黒鋼はユゥイのその態度に誤魔化される男ではない。

「俺がその作り笑いに誤魔化されると思うか?今日の夕飯は焼き魚と煮物を焦がして味噌汁もしょっぱかったぞ。お前がそういう風に料理の味付けを失敗するって事はお前に何かあった以外の何物でもねぇだろ、さっさと言いやがれ」

「……やっぱり黒様は誤魔化せないね」

これ以上作り笑いで誤魔化そうとしても無理だと察したユゥイは黒鋼を誤魔化す事を諦めて今日起こった事を話し始める。

「今日ね、妊婦健診の日だったんだ」

「腹の子に何か問題があったのか?それともお前に問題が?」

「ううん、お腹の子供は元気に育ってるしオレ自身も何も異常はないって」

「なら、どうしてそんなに不安そうにしてるんだ」

黒鋼は真っ直ぐユゥイを見つめて心配だと訴えてくる。そんな黒鋼の優しさにユゥイは堪えきれず、黒鋼の胸にすがりついて泣いてしまった。

「お、おい、どうしたんだ!!」

「黒様……、黒様っ……、ごめんなさい……、ごめんなさい……!!」

「謝るだけじゃ分からねぇだろ、さっさと不安に思ってる事を話せ」

「お腹の……、お腹の子供が……、双子かもしれないって……、言われてっ……!!」

ユゥイは泣きながらお腹の子供が双子かもしれないという事実を黒鋼に話した。双子という存在が深く心に傷を残すユゥイは嘆く。

「双子は凶兆……、双子は不幸を招く……、双子の皇女と皇子が産まれたから……、オレがいたからヴァレリアは滅んだ」

双子は凶兆、双子は不幸を招く、ヴァレリアで言われ続けた呪いの言葉がフラッシュバックし、自分が双子を産んだら日本国に不幸を招くと信じて疑わないユゥイの嘆きは止まらない。

「だから……、そんなオレが不幸を招く双子を産んだら……、日本国の作物は育たなくなって……、水は濁って……、人々に災いをもたらして日本国を滅ぼしてしまう……、黒様……、ごめんなさい……、黒曜と海……、日本国の人達……、そして君を不幸にしたくないのに……、双子を身籠ってしまってごめんなさい……!!」

双子は凶兆だというヴァレリアで言われ続けた呪いの言葉は今でもユゥイの深い心の傷だ。双子を身籠ってしまった事で日本国を滅ぼしてしまうと信じて疑わない絶望でユゥイの涙は止まらない。

「馬鹿野郎!!」

黒鋼は過去の傷がフラッシュバックして嘆き続けているユゥイの頬に機械の左手で平手打ちをした。

「黒様……?」

「俺は双子が嫌だなんて一言でも言ったか?言ってねぇだろうが、お前と俺の大切な子供が出来る事のどこが不幸なんだ」

「だ……、だってオレが産まれたから……、双子の皇女と皇子が産まれたからヴァレリアは滅んだんだよ。君はアシュラ王にオレの過去を見せられたんだからそれは分かってるでしょう?」

黒鋼はユゥイを諭すように、それでいて優しく語り始める。

「ああ、分かってる。だけどお前が産まれたあの国が滅んだのは決してお前とお前の片割れのせいじゃねぇ。あの国が滅んだのはあの国に起こる災いを全てお前とお前の片割れに押し付けた国民の狭量さと皇の力量不足だ。お前ら二人が産まれなかったとしても国民が狭量で上があの皇である限り早かれ遅かれあの国は自滅してただろう、だからお前とお前の片割れのせいじゃない」

「黒様……、本当にそう思ってるの……?」

「ああ、思ってる。俺だけじゃなく知世も、俺の父上と母上も生きていたら同じ事を言うだろう」

日本国を丸ごと結界を張って守り、大海のような広い心を持つ知世姫とかつて諏訪の領主と姫巫女として民達に慕われていた父と母を見てきた黒鋼だからこそヴァレリアの民の狭量さと皇の力量不足がよく分かるのだ。

「だから、お前があの国が滅んだ責任を感じる事は何もないんだ」

黒鋼はユゥイにヴァレリアが滅んだ責任を感じる事はないときっぱりと言い切った。

「黒様……、でもヴァレリアだけじゃなくてセレスも滅んだんだよ。オレの魔法で……、これはさすがに言い訳が出来ないでしょう?」

ヴァレリアが滅んだ事に関しては黒鋼の言葉で救われたユゥイだが、セレスが自分の魔法で滅びた事がまだ心に残っている。

「セレス国が滅んだのは飛王とかいう野郎がかけたお前の意志とは関係なく発動する呪いのせいだろう。アシュラ王が狂ったのも恐らくは飛王の野郎が理を壊した事が原因だろうしな、その飛王はもういない。だからお前が双子を産む事で日本国が滅びる事はねぇし、誰かに災いをもたらす事もないんだ。だからお前と俺の新たな子を……、お前に産んでほしい」

黒鋼はそう言うと優しくユゥイを抱きしめ、ユゥイの体と心に温もりを与える。そんな黒鋼の優しい言葉と温もりにユゥイの冷え切っていた体と心は温かさを取り戻していく。

「黒様……、本当に……、双子を産んでもいいの……?」

「おう、産んでほしいと思ってる。何せ日本国最強の忍と言われるこの俺の子供だぞ、仮にどんな凶兆があろうと跳ねのけるに決まってるだろ」

「そう……、だね。黒様はどんな辛い時でも跳ねのけて生きる事を掴みとってその上にオレの体も心も丸ごと救ってくれた。そんな黒様の血を受け継ぐ子供だもん、どんな凶兆があったとしても跳ねのけていくよね」

「当たり前だろう」



ユゥイを優しく諭す黒鋼の言葉で完全とは言わないまでも双子は凶兆、双子は不幸を招くと言われ続けてきたユゥイの心の傷は癒えていき、ユゥイは双子を産むと決心したのだった。



そうして時は流れて3月25日、双子の女の子が産まれた。髪の色は黒、瞳の色は紫の姉の方が阿洲花、髪色は黒、瞳の色は赤の妹の方が苺鈴と名付けられ、阿洲花はユゥイから魔力と弓の才能を、苺鈴は黒鋼から剣の才能を受け継いだのである───



END
10/19ページ
    スキ