CLAMP作品

チィに連れられてセレス国に移動したサクラの体を取り戻すためにファイと黒鋼と『小狼』とモコナの三人と一モコナの皆で四分の一ずつ対価を払い、インフィニティの次の移動先をセレス国に確定させてセレス国へと向かったファイと黒鋼と『小狼』とモコナ。そのセレス国でファイが今まで逃げ続けていた存在であるアシュラ王と戦って黒鋼がとどめを刺し、サクラの体を取り戻す事に成功した。

アシュラ王が息を引き取った後、サクラの体と『ファイ』の体が光と共に同時に浮かび上がり、更に『ファイ』が抱いていたフローライトの石が砕けた。フローライトの中にあったのはサクラの羽根だった。フローライトの中にあったサクラの羽根にはファイが忘れてしまっていたヴァレリアの谷での本当の出来事が記憶されていたのだ。本当の記憶を思い出したファイは朽ちていく『ファイ』の体を前に謝罪した。全てが終わったと思ったその時、飛王がファイにかけたもう一つの呪いが発動したのである。

「世界が……閉じる……。オレの魔法で……」

「どういう事だ!?」

「ここから出られなくなる……」

そのもう一つの呪いとはセレス国の存在するこの世界、すなわちこの次元の全てがファイの魔力によって閉じ、出られなくなってしまうというものだ。この呪いはファイ自らの手でアシュラ王を殺す事が出来なければファイの意志とは関係なく発動してしまうもので、黒鋼がアシュラ王にとどめを刺した事で呪いの発動条件を満たしたのである。

「出るぞ、ここから!!」

黒鋼は左手でファイを引っ張ろうとするが、ファイは一気に体力を落とし、大幅に弱っていってしまう。

「……オレの魔力は使えば使う程強くなるものじゃなかったみたいだ。おそらく魔力を使う程オレは……死に近づいてる」

ファイが話した衝撃の事実に黒鋼は動揺を隠せない。こうしている間にも呪いによってファイの魔力は削られていき、残り少なくなっていく。

「けれど……まだ魔力は残ってる。小狼君、サクラちゃんとモコナを離さないで」

「何をするつもりだ!」

「ここから……出る」

ファイは残り少ない魔力を使い、『小狼』とサクラとモコナを閉じられていく世界から脱出させ、更に黒鋼も脱出させようとするが魔力が足りず、ファイは血を吐いてしまった。このままでは黒鋼とファイを始末しようと企む飛王の思惑通りになってしまう。

「しゃおら……ん、モコナのお耳の飾り……とって……」

「!?」

飛王の罠により弱ってしまっているモコナが最後の力を振り絞って『小狼』に願った。

「もう一人のモコナが今夢で教えてくれたの……。お願い……」

「分かった」

モコナの願いを聞き入れた『小狼』はモコナの耳飾りを取る。するとモコナの耳飾りの魔法具が光り、閉じられていく世界に穴を開けて残った黒鋼とファイを出そうとするが、閉じられていく世界から抜け出す事が出来たのは黒鋼のみであった。閉じられていく世界から抜け出す事が出来た黒鋼だが、ファイと共に脱出しなければ意味がないと言わんばかりにファイの腕を掴んで離さない。けれどこの呪いはファイの魔力、すなわちファイ自身を核としているが故にファイが出る事は叶わないのだ。

「行け!」

自分が絶対に出る事が出来ないと分かっているファイは一緒に脱出する事を諦めずにいる黒鋼にオレの事はおいて行けと命令する。その時、黒鋼の頭の中に黒鋼の主である知世姫が訴えかけてきた。


『共に行きたいと心から願うなら、その方と同じ魔の力を持つものを引き換えに』


黒鋼は知世姫の言いたい事を瞬時に理解する。ファイと一緒に閉じられていく世界から脱出したいと願うならファイの魔力がかけられた自身の左腕を引き換えにしろという事だと。つまりファイを救うためには黒鋼自身の左腕、すなわち剣士として命そのものである利き腕を切り捨てなければならないという事だ。黒鋼にとって左腕は利き腕というだけではなく、両親を殺された事で我を失って暴走した所を知世姫に鎮められた時に付けられた左手の傷が残る特別な部分でもある。黒鋼はその左腕を切り落とす事に一瞬躊躇してしまった。



黒鋼の一瞬の躊躇の間に閉じられていく世界はファイ一人を残し、完全に閉じてしまう。世界が完全に閉じられた事で先程まで黒鋼が強く掴んでいたはずのファイの腕と黒鋼の左腕が離れ離れとなり、閉じられた世界と閉じられた世界の外とで離れ離れになってしまい、もう二度と触れる事は叶わなくなってしまった。

「嘘だろ……そんな……!!」

「そんなっ……ファイ……ファイー!!」

黒鋼は一瞬の躊躇でファイを連れ出す事が出来なかった事実に目の前が真っ暗になり、モコナはファイが閉じられた世界に一人残されてしまった最悪の事態を目の前にして泣きじゃくりながらファイの名を叫んでいる。黒鋼はファイにいつか絶対に必ずお前を迎えに行くからそれまで待ってろと叫びながら『小狼』、サクラ、モコナの三人と一モコナでモコナの移動魔法で次の世界に移動する。閉じられた世界にファイを一人残して……


黒鋼、『小狼』、サクラ、モコナが去った後、閉じられた世界の中でファイは一人呟く。

「黒鋼、君と一緒に過ごした日々はオレにとってはじめての楽しい日々だったよ。君に会えて本当によかった。今まで散々君を騙して振り回してごめんね。君はどこまでも優しいからオレを連れ出せなかった事を一生後悔するだろうけど……そんな事は気にしなくていいんだよ。だってこれでアシュラ王と『ファイ』と一緒にあの世に行けるんだから……オレにとってこれでよかったんだよ。だからどうか……小狼君とサクラちゃんとモコナを守って……そして飛王を必ず……必ずやっつけて……ね……」

ファイが呟いた言葉は黒鋼に向けた想いそのものだった。黒鋼に向けた想いを全て言い終えるとファイの体から魔力が全てなくなり、ファイは血を吐きながら閉じられた世界の中で永遠の眠りについてしまった。

「諏訪の若造は始末しそこねたが、魔術師を始末できただけでも良しとするか。あの魔術師も最後の最後まで我が願いのために利用されて哀れなものだな」

小狼一行の旅を仕組み、小狼一行をずっと監視している飛王。ファイの最期の姿を確認した飛王の高笑いがどこまでも、どこまでも響き渡っていく───



END
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