CLAMP作品小説
「黒様」
「なんだ」
「これからオレが君の産まれ故郷を守る姫巫女になるんだと思うと嬉しくて」
天照の勅命により、諏訪国領主となった黒鋼と諏訪国を守る結界を張る姫巫女となったかつてファイの名を名乗っていた魔術師、ユゥイ。諏訪国は黒鋼とユゥイ、二人の子供達、部下達の力で以前から再興と魔物退治が進み、今では魔物が出没する事は少なくなってきているがまだまだ人が住めるような状態ではない。諏訪の民達が安心して帰郷出来るようになるためには領主である黒鋼と姫巫女であるユゥイの存在が必要なのだ。
そうして二人は今、かつて黒鋼が住んでいた生家近くを歩きながら眺めている。
「姫巫女ってのはこの地を丸ごと結界で守らなきゃならない苦労の多い立場だぞ、それになるのが嬉しいって本気で思ってるのか」
黒鋼の母は諏訪国前姫巫女だった。黒鋼は結界を張って諏訪国の全てを外敵から守らなければならなかった立場の母の苦労を身をもって知っているからこそ、新たな諏訪国姫巫女となるユゥイを心配せずにはいられない様子だ。しかしユゥイはそんな黒鋼の心配をよそに心の底から諏訪国姫巫女になる事を喜んでいる。
「本気だよ。オレね、諏訪の姫巫女になれる事が心から嬉しくて嬉しくて仕方がないんだよ」
「どうしてだ」
「だってね、諏訪は君が産まれて、育った場所なんでしょう?君はオレにとって一番大切な大好きな人で……、その一番大切な大好きな君の大事な故郷とそこに住む民達をオレの魔力で守れる事が本当に嬉しくてたまらないんだ」
ユゥイは嬉しさのあまり涙を流す。ユゥイにとっては呪いとも言える強大な魔力。自身の強大な魔力は不幸を招くものでしかないと思っていたユゥイにとって、その魔力で結界を作って大切な存在である黒鋼の故郷の諏訪、そして黒鋼が大事に思っている諏訪の民を守る事が出来るという事はこれ以上ないくらいの幸せだった。
「オレは産まれてからずっと自分の強すぎる魔力が嫌で嫌で仕方がなかった、オレの魔力は誰かを傷つけるものでしかなかったから……。でも今はオレが強い魔力を持ったのは君と一緒に諏訪を守るためだったんじゃないかなって思えるんだ」
だってそれは強い魔力を持つオレにしか出来ない事だからとユゥイは自信満々に黒鋼に言う。
「こうして諏訪を守るために強大な魔力を持って産まれたのなら、今では寧ろその事に感謝してるんだ。だってこの強大な魔力があるから君と諏訪国と諏訪の民達を守れるんだよ」
ユゥイはそう言いながら心からの幸せを表現するようにふわりと微笑んだ。
「てめぇの魔力に感謝してる……、そう思えるようになったんだな」
黒鋼はユゥイの長い金髪を優しく撫でる。自身の強大な魔力を不幸を招くものだと信じて疑わず、強大な魔力を持つ事を嫌がり続けていたユゥイが自身の魔力に感謝していると思えるようになった事が黒鋼にとって嬉しくてたまらないのだ。
「うん、桜都国の白詰草 で聞いた織葉さんが歌ったあの歌の歌詞にあった『あなたのしあわせになりたい』っていう願いが叶えられるんだもん。あの歌は正にオレが長い間願っていた事そのものを歌っていたから」
自分の存在が常に誰かにとっての不幸になると思い続けていたユゥイにとって諏訪の姫巫女となり、自身の魔力で結界を張って黒鋼の故郷である諏訪を守れる事はユゥイが長年願っていた『あなたのしあわせになりたい』という願いが叶った瞬間なのだ。
「だからね黒様、オレは諏訪の姫巫女になれる事を心から嬉しいと思ってるんだ。大切な君の故郷とそこに住む民達を守れるし、オレを見放さないでずっと守ってくれた君に恩返しが出来るんだから」
ユゥイはそう言い、黒鋼の機械の左手と生身の右手の両手を自身の両手で包み込む。黒鋼はそんなユゥイの左頬にキスを落とし、言う。
「お前が諏訪の姫巫女になる事を嬉しいと思ってる事は分かった。けどな、決して無茶はするな、お前は前科が多すぎるからな」
「黒様ってばー、昔の事を言うのはなしだよぅ。オレが倒れれば諏訪の守りが崩れるんだから自分の命を失うなんて出来ないって分かってるよ」
「分かってるならいいが」
「うん、分かってるよ黒様。これから二人で新しい諏訪を作っていこうね」
「ああ」
新しい諏訪を作り上げていく事を誓い合う諏訪国領主黒鋼と諏訪国姫巫女ユゥイ。諏訪の龍神はこの二人ならきっと諏訪をかつて以上にいい国にするだろうと信じ、優しく見守っていた───
END
「なんだ」
「これからオレが君の産まれ故郷を守る姫巫女になるんだと思うと嬉しくて」
天照の勅命により、諏訪国領主となった黒鋼と諏訪国を守る結界を張る姫巫女となったかつてファイの名を名乗っていた魔術師、ユゥイ。諏訪国は黒鋼とユゥイ、二人の子供達、部下達の力で以前から再興と魔物退治が進み、今では魔物が出没する事は少なくなってきているがまだまだ人が住めるような状態ではない。諏訪の民達が安心して帰郷出来るようになるためには領主である黒鋼と姫巫女であるユゥイの存在が必要なのだ。
そうして二人は今、かつて黒鋼が住んでいた生家近くを歩きながら眺めている。
「姫巫女ってのはこの地を丸ごと結界で守らなきゃならない苦労の多い立場だぞ、それになるのが嬉しいって本気で思ってるのか」
黒鋼の母は諏訪国前姫巫女だった。黒鋼は結界を張って諏訪国の全てを外敵から守らなければならなかった立場の母の苦労を身をもって知っているからこそ、新たな諏訪国姫巫女となるユゥイを心配せずにはいられない様子だ。しかしユゥイはそんな黒鋼の心配をよそに心の底から諏訪国姫巫女になる事を喜んでいる。
「本気だよ。オレね、諏訪の姫巫女になれる事が心から嬉しくて嬉しくて仕方がないんだよ」
「どうしてだ」
「だってね、諏訪は君が産まれて、育った場所なんでしょう?君はオレにとって一番大切な大好きな人で……、その一番大切な大好きな君の大事な故郷とそこに住む民達をオレの魔力で守れる事が本当に嬉しくてたまらないんだ」
ユゥイは嬉しさのあまり涙を流す。ユゥイにとっては呪いとも言える強大な魔力。自身の強大な魔力は不幸を招くものでしかないと思っていたユゥイにとって、その魔力で結界を作って大切な存在である黒鋼の故郷の諏訪、そして黒鋼が大事に思っている諏訪の民を守る事が出来るという事はこれ以上ないくらいの幸せだった。
「オレは産まれてからずっと自分の強すぎる魔力が嫌で嫌で仕方がなかった、オレの魔力は誰かを傷つけるものでしかなかったから……。でも今はオレが強い魔力を持ったのは君と一緒に諏訪を守るためだったんじゃないかなって思えるんだ」
だってそれは強い魔力を持つオレにしか出来ない事だからとユゥイは自信満々に黒鋼に言う。
「こうして諏訪を守るために強大な魔力を持って産まれたのなら、今では寧ろその事に感謝してるんだ。だってこの強大な魔力があるから君と諏訪国と諏訪の民達を守れるんだよ」
ユゥイはそう言いながら心からの幸せを表現するようにふわりと微笑んだ。
「てめぇの魔力に感謝してる……、そう思えるようになったんだな」
黒鋼はユゥイの長い金髪を優しく撫でる。自身の強大な魔力を不幸を招くものだと信じて疑わず、強大な魔力を持つ事を嫌がり続けていたユゥイが自身の魔力に感謝していると思えるようになった事が黒鋼にとって嬉しくてたまらないのだ。
「うん、桜都国の
自分の存在が常に誰かにとっての不幸になると思い続けていたユゥイにとって諏訪の姫巫女となり、自身の魔力で結界を張って黒鋼の故郷である諏訪を守れる事はユゥイが長年願っていた『あなたのしあわせになりたい』という願いが叶った瞬間なのだ。
「だからね黒様、オレは諏訪の姫巫女になれる事を心から嬉しいと思ってるんだ。大切な君の故郷とそこに住む民達を守れるし、オレを見放さないでずっと守ってくれた君に恩返しが出来るんだから」
ユゥイはそう言い、黒鋼の機械の左手と生身の右手の両手を自身の両手で包み込む。黒鋼はそんなユゥイの左頬にキスを落とし、言う。
「お前が諏訪の姫巫女になる事を嬉しいと思ってる事は分かった。けどな、決して無茶はするな、お前は前科が多すぎるからな」
「黒様ってばー、昔の事を言うのはなしだよぅ。オレが倒れれば諏訪の守りが崩れるんだから自分の命を失うなんて出来ないって分かってるよ」
「分かってるならいいが」
「うん、分かってるよ黒様。これから二人で新しい諏訪を作っていこうね」
「ああ」
新しい諏訪を作り上げていく事を誓い合う諏訪国領主黒鋼と諏訪国姫巫女ユゥイ。諏訪の龍神はこの二人ならきっと諏訪をかつて以上にいい国にするだろうと信じ、優しく見守っていた───
END
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