CLAMP作品小説

一度目の旅ではじめて訪れた国である阪神共和国に小狼、黒鋼、ファイ、モコナの一行は再び訪れ、一行が以前に阪神共和国を訪れた時に知り合った空汰と嵐夫妻、ゴーグルチームのリーダーの浅黄笙悟、そのメンバーの一人である斉藤正義、お好み焼き店「鶴橋 風月」の店員の木之本桃矢と月城雪兎、人気アイドルのプリメーラは再び阪神共和国を訪れた一行を歓迎した。

これはそんなこんなで一行が再び阪神共和国を訪れてから一週間がたったある日、ファイは貴重なオフの日であるプリメーラと喫茶店でガールズトークをしている最中だ。

「それにしても、あなたが実は女の子だったなんて本当に驚いたわー!」

「以前阪神共和国に来た時は魔法で外見も声も男に変えてたからねぇ」

「このあたしとした事が全く気づかなかったわ……、それでそれで、どうして女の子に戻ったの?」

「うーん……、それを話すとなると凄く長くなるし、オレと黒様とのこれまでの関係性についても一から話すことになるけど……、いい?」

「黒様……、って黒鋼の事よね?あなたと黒鋼は今付き合っているのね」

「うん、そうだよ。今は黒様とは婚約者って関係なんだ」

「こ……、婚約者!?以前のあなた達は全然仲良さそうに見えなかったわよ!?」

「あの時はまだ次元を超える旅が始まったばかりの時で黒様と知り合って間もなかったからねー、あれから旅の中で色々あって今の関係になったんだよぅ」

「あなたと黒鋼が赤の他人から婚約者になるまでの関係性の変化かぁ……、知りたい知りたいっ!!」

プリメーラは身を乗り出して一行が旅した中での出来事、そしてファイと黒鋼の関係性の変化について知りたいとわくわくした表情でファイに訴え、ファイはそんなプリメーラに今までの旅で起こった様々な出来事、そして自分と黒鋼の関係性について語り始めた。



小狼、サクラ、黒鋼、ファイ、モコナの旅の一行がはじめて出会って次元を超える旅が始まり、そのはじめての次元が阪神共和国だった事、その次に訪れた高麗国ではじめて黒鋼と共闘する事になったがその時は互いにソリが合わなかった事、それから先に訪れる事になる桜都国で自身の命を軽く扱った時、黒鋼に「まだ命数 尽きてねぇのに 自分から生きようとしねぇ奴がこの世で一番嫌ぇなんだよ」と嫌悪感を露にされて「……じゃあオレ 君の一番嫌いなタイプだね」と返して心の内を見せることなく飄々と振る舞って笑顔を取り繕っていた事を話した。

「……なんだかそこまでの話だとソリが合わなくて相性最悪だとしか思えないんだけど……」

「あははー、そうだねぇ。でもね、その桜都国の白詰草クローバーっていう酒場で黒様に『オレはずっと待ってたからなぁ、連れてってくれる誰かを』ってつい言っちゃったんだよ。今思うとオレはあの時から無意識にオレをここじゃないどこかへ連れてってくれる人は黒様であってほしいって思ってたのかもー」

「ここじゃないどこかへ連れてってほしかったって……、どういう事なの?」

「それはこれからの話を聞いていれば分かるよー、続き聞きたい?」

「聞かせて聞かせて!!」

プリメーラにねだられたファイは先ほどの話の続きを話す。



一行がそれから小狼とサクラとモコナ、黒鋼とファイで沙羅ノ国に離れてたどり着き、その直後に黒鋼とファイは沙羅ノ国の過去である夜魔の国に飛ばされて小狼、サクラ、モコナとはぐれたまま半年間に渡って夜魔の国軍で傭兵としての生活をする事になってファイは夜魔の国の言葉が分からず、黒鋼が夜魔の国の言葉を理解できた事から黒鋼が周囲とコミュニケーションを取ってファイは口が利けない設定で半年を乗り切った事を話した。

「言葉が分からない上に互いにソリが合わない相手と半年も一緒だなんて……、あたしだったらとても耐えられないわ〜……」

「あはは、オレも最初はそう思ったんだ。でもね、黒様は言葉が分からなくて不安なオレを一人にする事なくずっと一緒にいてくれたんだよ。今思うとその優しさを見てオレは黒様に心を奪われちゃったのかなぁって感じてるんだ」

「……なるほど、確かに見知らぬ場所で言葉が通じない時に離れる事なくずっと一緒にいてくれたのなら惹かれていくのも当然かもね、続きを聞いてもいい?」

「うん、続きを話すねぇ」

ファイは更に黒鋼との馴れ初めの続きを話し出す。


次に訪れたピッフル国で黒鋼に「この旅が楽しい」という感情を素直に伝え、自身も気付いていなかった自分の心の変化を黒鋼に気付かれた事、次に訪れたレコルト国で仲間のピンチを乗り切るために使う事を禁じていた魔法を使って黒鋼をはじめとする仲間達を大事に想って気を許すようになっていった事、その次の国の東京で心を失った小狼を引き留めようとして逆に左目を抉られ瀕死の重傷を負ってそのまま死ぬつもりだったけど黒鋼がそれを許してはくれず、ファイを吸血鬼にすることで命を長らえさせた事を話した。

「なんだか一気に急展開になってきたわね……、小狼が心を失ったって言ってたけどそれって今あなた達と一緒にいる小狼じゃなくて以前一緒にいた小狼なのよね?」

「うん、そうだよ。以前一緒にいた小狼君が離脱するのと同時に今一緒にいる小狼君が加入したんだ」

「それからあなたは黒鋼に吸血鬼にされたって言ったけど、吸血鬼ってあの不老不死で太陽と聖水が弱点のあの吸血鬼?」

「そうだよ、でも吸血鬼が不老不死で太陽と聖水が弱点っていうのは伝説上だけの話なんだけどね」

「それであなたは生きる事を望んでなかったのに黒鋼に吸血鬼にされて無理矢理生かされる事になったんだ」

「そうなんだよ、それでオレはオレを助けた黒様と黒様に知らず知らずのうちに心を許しきっていた自分を許容出来なくて黒様と距離を置こうと決めて『黒鋼』って呼ぶようになったんだ……」

「あなたにとって黒鋼の事をちゃんと名前で呼ぶ事が拒絶のサインだったのね」

「うん……、その時の事は今思い出しても凄く辛いし、黒様を愛してしまった今のオレにあんな風に黒様を拒絶するなんてとても出来ないよ。それからね……」

「それから?」

更にファイは話し出した。



東京の次に訪れたインフィニティでも変わらずに黒鋼と距離を置いたままで、そんなある日アシュラ王が目覚めるという事件が起こってファイにとって二度と戻りたくなかったセレス国に行かなければいけない状況になり、ファイは確実にセレス国に向かうための対価として自身の視力を次元の魔女、壱原侑子に渡そうとしたけれどそんな自分を黒鋼は許さず、モコナがファイと黒鋼と『小狼』とモコナで4分の1の対価を払おうと言ってくれて皆で払った4分の1の対価でセレス国に向かい、ファイが逃げ続けなければならない理由であるアシュラ王と再会し、狂気に堕ちファイを殺そうとしたアシュラ王を黒鋼が倒した事、それからファイにかけられた呪いにより閉じてゆくセレス国からファイを連れ出すために黒鋼が自らの左腕と愛刀を犠牲にしてファイにかけられた呪いを解き、ファイの心も体も救出した事を話した。



「情報量が多すぎてちんぷんかんぷんだわ……、あなたが逃げ続けなければならない理由である王様を黒鋼が倒して、その上あなたにかけられた呪いを解くために自らの左腕と愛刀を犠牲にするだなんて……、とても並大抵の覚悟で出来る事じゃないわよ……、あなた、とても黒鋼に愛されてるのね」

話を聞いていて左腕が痛くなってきたプリメーラであった。

「黒鋼が自分の左腕と愛刀を犠牲にしてでもあなたを救い出して連れ出してくれた……、って事はあなたが黒鋼に対して以前言った『オレはずっと待ってたからなぁ、連れてってくれる誰かを』っていう言葉は叶ったって事なのね、あなたの願いが他ならぬ黒鋼によって叶えられて本当によかったって思うわ」

プリメーラは心の底からファイが言っていた連れてってくれる誰かを待っていたという願いが叶えられた事を喜んでくれているようだ。ファイはそんなプリメーラを見つめ、話を続ける。



それからセレス国を命からがら脱出して黒鋼の主人である知世姫の導きで黒鋼の故郷である日本国で治療をして黒鋼が一命をとりとめ、目を覚ました黒鋼に黒鋼が左腕を犠牲にファイを助けたことに対してこれまでファイの自己犠牲を嫌ってきた黒鋼への意趣返しを込めて一発ぶん殴ることで和解した事、それから黒鋼に対し「自分の命と引き換えにするようなものは渡さないよ」と約束して自身の魔力を対価として次元の魔女、壱原侑子に払い、黒鋼の義手を貰った事を話した。

「あなたの魔力を対価にして黒鋼は義手を得たわけね。それにしてもそうしないとあなたを助けられないからといってもためらいなく左腕を切り落とす黒鋼も、自分が持っている魔力全てを差し出して黒鋼の義手を貰うあなたも差し出すものがとても重すぎるわよ……、正に本当の大恋愛ってやつね」

「大恋愛……かぁ、オレも黒様もお互いが初恋だから他の恋がどういうものか分からないけれどプリメーラちゃんからしたら黒様とオレの馴れ初めは大恋愛って事になるんだね」

「あたしだけじゃなくて世の女の子達全員があなたと黒鋼の馴れ初めを大恋愛だと思うわよ…‥、話が壮大過ぎてすっかり忘れていたけどあなたはいつ女の子に戻ったの?」

「オレが女の子に戻ったのは黒様の義手を貰うために次元の魔女さんにオレが持ってた魔力を全て差し出した時だよー、魔法で外見と声を男に変えてたから魔力がなくなったと同時に女に戻っちゃったんだ。その時に黒様がこう言ってくれたの」

「なんて言ってくれたの?」

「『俺はお前という存在自体に惚れたんだからお前が男だろうと女だろうと俺にとってたいした問題じゃねぇ』ってね」

ファイは赤くなった顔を両手で押さえながら言う。

「『お前という存在自体を愛しているからお前の性別は関係ない』ねぇ、本当に凄いわね、まるで大海のような深い愛だわ……。はぁ〜……、あたしも笙悟君にそんな風に愛されたいなぁ」

頬杖をつきながらプリメーラは言う。プリメーラは黒鋼とファイの壮大な馴れ初め話にお腹がいっぱいのようだ。そんなお腹いっぱいのプリメーラにファイは爆弾発言を投下する。

「それからね、黒様と初体験しちゃったんだ〜」

「は……、初体験ですってぇ!?初体験って……、セ○○スの事よね?」

「うん、そうだよぅ。黒様が優しく丁寧にオレの体を触ってくれてキスも優しくしてくれてね……、そんな黒様が愛しくてたまらなくて初めての時の痛みよりも黒様と一つになって結ばれた事が嬉しくて幸せな気持ちでいっぱいになって体も心も満たされたんだ〜、ってプリメーラちゃん?」

顔を赤らめながらのファイの爆弾発言にプリメーラは目に涙を浮かべ、悔しそうな顔を浮かべた。

「セ……、セ○○スだなんてっ……!あたしだって……、あたしだってまだ笙悟君とした事ないのにーっ!!きーっ、くやしいーっ!!」

数々の黒鋼とファイの馴れ初め話だけでもお腹いっぱいだったプリメーラだが、黒鋼とファイが初体験を経験済みというトドメの爆弾発言にプリメーラはファイに対する完全な敗北感を感じずにはいられなかったという───



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