CLAMP作品小説
旅の仲間の小狼、サクラ姫、モコナとはぐれて沙羅ノ国に落とされ、そこから更に夜魔ノ国へと移動させられた黒鋼とファイ。彼らは今、夜魔ノ国軍で夜叉王配下の傭兵として城下町の借家で暮らしている。旅の仲間達とはぐれたまま夜魔ノ国で暮らしはじめてから一ヶ月の時が経ったが、未だにはぐれた仲間達の行方は分からないままである。
そんな日々の中、ファイは台所に立って甑で蒸した強飯 でおにぎりを作っている真っ最中だ。ファイがなぜおにぎりを作っているのかというと、黒鋼が夜魔ノ国に来てからというもの好んでこのおにぎりという米を握った料理を好んで食しているのを見た事で、ならば自分で作って黒鋼に食べさせたいと思ったからである。
軽く水を切った両手に塩を軽くまぶし、蒸した強飯 を一個分のおにぎりに見合う量だけ取り、外側を軽く固める程度に握った……のはいいのだが、ここでファイの中に疑問が浮かぶ。黒鋼は鮭のおにぎりを好んで食していたのだが、ファイは夜魔ノ国の言葉が分からないが故に『鮭』と『酒』を同じものだと勘違いしてしまい、おにぎりの中央部分に焼き鮭ではなくお酒を入れてしまったのである。そうして酒を入れてしまったおにぎりを握って形を整えて鮭おにぎりならぬ酒おにぎりが完成し、ファイは黒鋼がいる居間に酒おにぎりを持っていく。
「くろ……さま……」
「……お前、その握り飯はなんだ?」
「こ……れ、くろ……さまに……食べ……ても……らい……たく……て、作……ったの」
ゆっくりと片言で話すファイ。なぜファイが片言なのかというと、言語翻訳機能を持つモコナとはぐれてしまったために黒鋼と言葉が通じなくなった事で夜魔ノ国の言葉を理解出来ないからである。黒鋼が問題なく夜魔ノ国の言葉が話せているのは夜魔ノ国の言語が黒鋼の故郷である日本国と同じだからだ。
それはさておき、黒鋼はファイが作ったおにぎりをしばらくの間見つめた後におにぎりを手にとって口の中に入れて咀嚼する。その瞬間、黒鋼の口の中に妙な味が広がっていく。
「……!!な、なんだこの変な味は!!」
「……へん……な……あ……じ?」
黒鋼に変な味と言われた事でファイは黒鋼が好んで食していた鮭おにぎりと何が違っていたのかと不安な表情に包まれていく。
「お前、この握り飯に何を入れたんだ?」
「え……えっ……と……くろ……さま……が……さけ……の……おに……ぎり……が好き……だから……さけ……を……入れ……たの」
不安な表情でそう答えるファイの姿に黒鋼はファイの行動を察する。こいつは俺が鮭の握り飯を好んで食していたのを見ていた、だからこそこいつは自分で鮭の握り飯を作って俺に振る舞おうとしたのだろう。だがこいつは夜魔ノ国の言葉が分からない、それ故に言葉の響きが同じ『鮭』と『酒』を同じものだと勘違いして握り飯に焼き鮭ではなく酒を入れた、それがこの握り飯の変な味の原因だろうと。
「……なるほどな」
それならば黒鋼はこのおにぎりを作ったファイを責める気にはなれない。『鮭』と『酒』を間違えてしまったのは夜魔ノ国の言葉をファイが分からないが故のものであるし、何よりも黒鋼が好んでいる鮭おにぎりを作ろうと腕を振るってくれた、ファイの優しい気持ちを黒鋼はとても嬉しく感じたのだ。両親が亡くなり、諏訪が壊滅して白鷺城に移り、忍になって知世姫に仕えるようになってからというもの、自分のための食事を作ってもらうという事がなかった黒鋼にとってこれ以上に嬉しい事はない。ファイに対する感謝の気持ちが込み上げてきた黒鋼は酒おにぎりを完食し、そのままファイを優しく抱きしめる。
「くろ……さま……?」
「この握り飯、お前が俺のためにと作ってくれたんだろう?」
「う……うん……そう……だよ」
「変な味だったがすげぇ嬉しかった、礼を言う」
「で……でも……へんな……あ……じ、だっ……たん……で……しょ……う……?」
「それはお前が焼き鮭と酒を間違えてたからだな、それ以外は何も問題なかったぞ。米の固さと塩加減もちょうどよくて食いやすかったからな」
「ほん……とう……に?」
「ああ、握り飯に入れる鮭は焼き鮭っていう焼いた魚の事だ。もっと詳しく言えば塩に浸けた塩鮭を焼いて焼き鮭にしたのが握り飯の具になる」
「くろ……さま……が……食べ……て……いたさけ……の……おに……ぎり……って……お魚の……事……だった……ん……だね。オレ、お……ぼえた」
黒鋼に鮭おにぎりの作り方を教えてもらい、鮭おにぎりの作り方を覚えたファイ。次はきっと間違えずに黒鋼のために美味しく作る、そう決意したファイであった。
そして次の日の朝───
「なんかやけにいい匂いがすんな……って何作ってんだお前は!!」
黒鋼は布団から起き上がり、台所からのいい匂いにつられて台所へと向かうとファイが鮭おにぎりと芋がらと大根と豆の味噌汁とひじきの煮物の朝食を作っていた。
「くろ……さま、お……はよう。ちょう……ど、朝……ごは……ん、出来……た……とこ……ろだ……よ」
「そ、そうか。じゃあ食うか」
「う……ん」
黒鋼とファイは出来上がった朝食を木具膳に乗せて居間に運び、共に朝食を取り始める。早速と言わんばかりに鮭おにぎりを口に運んだ黒鋼はそのあまりの美味しさに思わず驚いた。
(な、何だこの美味さは……!?塩加減、米の固さ、焼き鮭の味と全てが完璧じゃねぇか……!!鮭の握り飯だけじゃねぇ、味噌汁もひじきの煮物も非の打ち所がなさすぎる、白鷺城の料理人どもが作る飯より遥かに美味いじゃねぇか、一体何なんだこいつの料理の腕は……!!)
昨日、自分が鮭おにぎりの作り方をちょっと教えただけなのにも関わらず鮭おにぎりはもちろんの事、大根と豆の味噌汁とひじきの煮物までもを完璧に作りこなしたファイの料理の腕前に黒鋼は驚かずにはいられない様子である。
(本気 でやべぇ、こいつの作る飯を毎日食いたい……。そのためには俺が日本国に帰れた時にこいつを俺の奥にして娶るか……って何考えてんだ俺は!こいつは男だぞ、というかそれ以前に俺は生涯知世姫にしか仕えねぇと決めた身、俺の身は主の御為 にあり主の壊所 だ、奥を娶るなんてありえねぇ!)
完全にファイが作る料理に胃袋を掴まれてしまった黒鋼はファイへの想いと主である知世姫への忠誠心で揺れ動き、混乱状態になってしまった。そんな黒鋼の様子を見たファイは不安げな顔で黒鋼に問う。
「……オレ……の……りょう……り……なに……か……しっ……ぱ……い……して……た?」
混乱状態に陥っている黒鋼の様子にファイは自分の料理が失敗していたのかと不安でたまらない様子だ。ファイのその問いで正気を取り戻した黒鋼は真っ直ぐにファイの目を見すえ、答える。
「お前の料理は何も失敗してねぇよ、寧ろ美味すぎて驚いちまったんだ」
「ほ……ん……とう……?」
「ああ、今食っているこの飯が俺の今までの人生で食ってきた飯の中で一番美味いと思う」
また料理を失敗してしまったかもと不安な気持ちのファイに対し、黒鋼は嘘偽りのない正直な気持ちを伝えた。
「くろ……さまに……うまい……って……いっ……て……もら……えて……うれし……い」
自分の作った料理を黒鋼に美味いと言ってもらえたファイはいつも見せているような作り笑いではなく、心の底からの満面の笑みを黒鋼に見せる。見るたびに黒鋼を苛立たせていたお面を張り付けたような作り笑いではない本当の笑顔のファイに黒鋼の心臓がドクンと高鳴った。
「そ、そうかよ」
「うん……だか……ら、こ……れから……まい……にち……ごはん……作……るね」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く黒鋼にこれから毎日黒鋼のためにご飯を作ると約束するファイ。そんな愛らしいファイの姿に俺のために毎日飯を作るだなんてそんなの俺の奥も同然じゃないかとまたまたファイへの想いと主である知世姫への忠誠心で揺れ動いて混乱状態になってしまった黒鋼であった───
END
そんな日々の中、ファイは台所に立って甑で蒸した
軽く水を切った両手に塩を軽くまぶし、蒸した
「くろ……さま……」
「……お前、その握り飯はなんだ?」
「こ……れ、くろ……さまに……食べ……ても……らい……たく……て、作……ったの」
ゆっくりと片言で話すファイ。なぜファイが片言なのかというと、言語翻訳機能を持つモコナとはぐれてしまったために黒鋼と言葉が通じなくなった事で夜魔ノ国の言葉を理解出来ないからである。黒鋼が問題なく夜魔ノ国の言葉が話せているのは夜魔ノ国の言語が黒鋼の故郷である日本国と同じだからだ。
それはさておき、黒鋼はファイが作ったおにぎりをしばらくの間見つめた後におにぎりを手にとって口の中に入れて咀嚼する。その瞬間、黒鋼の口の中に妙な味が広がっていく。
「……!!な、なんだこの変な味は!!」
「……へん……な……あ……じ?」
黒鋼に変な味と言われた事でファイは黒鋼が好んで食していた鮭おにぎりと何が違っていたのかと不安な表情に包まれていく。
「お前、この握り飯に何を入れたんだ?」
「え……えっ……と……くろ……さま……が……さけ……の……おに……ぎり……が好き……だから……さけ……を……入れ……たの」
不安な表情でそう答えるファイの姿に黒鋼はファイの行動を察する。こいつは俺が鮭の握り飯を好んで食していたのを見ていた、だからこそこいつは自分で鮭の握り飯を作って俺に振る舞おうとしたのだろう。だがこいつは夜魔ノ国の言葉が分からない、それ故に言葉の響きが同じ『鮭』と『酒』を同じものだと勘違いして握り飯に焼き鮭ではなく酒を入れた、それがこの握り飯の変な味の原因だろうと。
「……なるほどな」
それならば黒鋼はこのおにぎりを作ったファイを責める気にはなれない。『鮭』と『酒』を間違えてしまったのは夜魔ノ国の言葉をファイが分からないが故のものであるし、何よりも黒鋼が好んでいる鮭おにぎりを作ろうと腕を振るってくれた、ファイの優しい気持ちを黒鋼はとても嬉しく感じたのだ。両親が亡くなり、諏訪が壊滅して白鷺城に移り、忍になって知世姫に仕えるようになってからというもの、自分のための食事を作ってもらうという事がなかった黒鋼にとってこれ以上に嬉しい事はない。ファイに対する感謝の気持ちが込み上げてきた黒鋼は酒おにぎりを完食し、そのままファイを優しく抱きしめる。
「くろ……さま……?」
「この握り飯、お前が俺のためにと作ってくれたんだろう?」
「う……うん……そう……だよ」
「変な味だったがすげぇ嬉しかった、礼を言う」
「で……でも……へんな……あ……じ、だっ……たん……で……しょ……う……?」
「それはお前が焼き鮭と酒を間違えてたからだな、それ以外は何も問題なかったぞ。米の固さと塩加減もちょうどよくて食いやすかったからな」
「ほん……とう……に?」
「ああ、握り飯に入れる鮭は焼き鮭っていう焼いた魚の事だ。もっと詳しく言えば塩に浸けた塩鮭を焼いて焼き鮭にしたのが握り飯の具になる」
「くろ……さま……が……食べ……て……いたさけ……の……おに……ぎり……って……お魚の……事……だった……ん……だね。オレ、お……ぼえた」
黒鋼に鮭おにぎりの作り方を教えてもらい、鮭おにぎりの作り方を覚えたファイ。次はきっと間違えずに黒鋼のために美味しく作る、そう決意したファイであった。
そして次の日の朝───
「なんかやけにいい匂いがすんな……って何作ってんだお前は!!」
黒鋼は布団から起き上がり、台所からのいい匂いにつられて台所へと向かうとファイが鮭おにぎりと芋がらと大根と豆の味噌汁とひじきの煮物の朝食を作っていた。
「くろ……さま、お……はよう。ちょう……ど、朝……ごは……ん、出来……た……とこ……ろだ……よ」
「そ、そうか。じゃあ食うか」
「う……ん」
黒鋼とファイは出来上がった朝食を木具膳に乗せて居間に運び、共に朝食を取り始める。早速と言わんばかりに鮭おにぎりを口に運んだ黒鋼はそのあまりの美味しさに思わず驚いた。
(な、何だこの美味さは……!?塩加減、米の固さ、焼き鮭の味と全てが完璧じゃねぇか……!!鮭の握り飯だけじゃねぇ、味噌汁もひじきの煮物も非の打ち所がなさすぎる、白鷺城の料理人どもが作る飯より遥かに美味いじゃねぇか、一体何なんだこいつの料理の腕は……!!)
昨日、自分が鮭おにぎりの作り方をちょっと教えただけなのにも関わらず鮭おにぎりはもちろんの事、大根と豆の味噌汁とひじきの煮物までもを完璧に作りこなしたファイの料理の腕前に黒鋼は驚かずにはいられない様子である。
(
完全にファイが作る料理に胃袋を掴まれてしまった黒鋼はファイへの想いと主である知世姫への忠誠心で揺れ動き、混乱状態になってしまった。そんな黒鋼の様子を見たファイは不安げな顔で黒鋼に問う。
「……オレ……の……りょう……り……なに……か……しっ……ぱ……い……して……た?」
混乱状態に陥っている黒鋼の様子にファイは自分の料理が失敗していたのかと不安でたまらない様子だ。ファイのその問いで正気を取り戻した黒鋼は真っ直ぐにファイの目を見すえ、答える。
「お前の料理は何も失敗してねぇよ、寧ろ美味すぎて驚いちまったんだ」
「ほ……ん……とう……?」
「ああ、今食っているこの飯が俺の今までの人生で食ってきた飯の中で一番美味いと思う」
また料理を失敗してしまったかもと不安な気持ちのファイに対し、黒鋼は嘘偽りのない正直な気持ちを伝えた。
「くろ……さまに……うまい……って……いっ……て……もら……えて……うれし……い」
自分の作った料理を黒鋼に美味いと言ってもらえたファイはいつも見せているような作り笑いではなく、心の底からの満面の笑みを黒鋼に見せる。見るたびに黒鋼を苛立たせていたお面を張り付けたような作り笑いではない本当の笑顔のファイに黒鋼の心臓がドクンと高鳴った。
「そ、そうかよ」
「うん……だか……ら、こ……れから……まい……にち……ごはん……作……るね」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く黒鋼にこれから毎日黒鋼のためにご飯を作ると約束するファイ。そんな愛らしいファイの姿に俺のために毎日飯を作るだなんてそんなの俺の奥も同然じゃないかとまたまたファイへの想いと主である知世姫への忠誠心で揺れ動いて混乱状態になってしまった黒鋼であった───
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