CLAMP作品小説
ここは日本国内にある小国、諏訪国。この諏訪国は飛王によって滅ぼされたが、かつてファイの名を名乗っていた魔術師、ユゥイを連れて日本国に帰国した黒鋼が天照の密命により諏訪国領主に、その妻のユゥイは諏訪国を守る姫巫女となった事で復興が進みつつある状態である。
しかしまだまだ人が住めるような状態ではない。諏訪の民達が安心して帰郷出来るようになるためには領主である黒鋼と姫巫女であるユゥイ、そして二人の子供達の存在が必要なのだ。
そんなわけで今日も黒鋼とユゥイは子供達に稽古をつけているのである。刀を得意とする黒曜と苺鈴は黒鋼が、母親の故国の西洋剣のレイピアと魔法を得意とする海、術と弓を得意とする阿洲花はユゥイが指導している。
そうして今日この日は諏訪国の姫巫女、ユゥイが海と阿洲花に魔法の鍛錬を行っているのだ。
「水の龍!!」
これは海が最近習得した龍の姿となった水を打ち放つ攻撃魔法だ。凄い水圧が訓練用のまとに命中し、まとを倒す事に成功する。
「凄ーい!凄いよぅ!!」
「か……母様……苦しい……」
ユゥイは海が『水の龍』の魔法を見事に訓練用のまとに命中させた事を喜び、娘の海を抱きしめてこれでもかというくらいに褒めている。
「あ、ごめんね。でも海の成長があまりにも著しいから母様嬉しくって嬉しくって」
「そんな大袈裟な……」
「ううん、全然大袈裟じゃないよぅ。その『水の龍』は諏訪の守り神の龍神様を模した魔法。諏訪国にとってそんな凄い魔法をまだ10歳の海が習得できるって本当に凄いことなんだよ」
「そ……そうなのかしら……?」
「そうだよぅ。海はきっと諏訪の龍神様に特別に愛されてるんだよ」
諏訪の守り神である龍神を模した『水の龍』の魔法を習得してすぐに完璧に使いこなす事が出来た海。この事実は決して大袈裟ではない、海は諏訪の守り神である龍神に特別に愛されている愛娘なんだとユゥイは信じて疑わない。
「海は本当に黒様にそっくりだからね〜。だから諏訪の龍神様も海の事を特別に愛してるんだと思うな」
「私……そんなに父様に似てる……かな?」
「似てるよ〜。誰よりも優しい心を持っていて優しいって言われたらそれを言ったらはぐらかすところとか、一度懐に入れた存在は絶対に見捨てないところとか、甘いものが苦手なところとか……」
「か……母様……」
ユゥイは愛娘の海が最愛の夫、黒鋼に似ている事が本当に嬉しくて海が黒鋼に似ている部分を話し出して止まらなくなっている。そんなユゥイに海は少し呆れている様子だ。
「海も黒様も本当に優しいから、自分達の中でだけでもオレの故国のセレスを失わないようにセレス語を覚えてくれたんだもんね。オレ……その事が本当に嬉しかったんだよ」
ユゥイの産まれた国ヴァレリアは滅び、その後アシュラ王に連れられて育った国のセレスも滅んでしまった。ユゥイが慣れ親しんできたヴァレリアとセレスの言語を失わせたくないと思った黒鋼と海はセレス語を覚え、黒鋼、ユゥイ、海の三人の時はセレス語で会話するようにしているのだ。
「母様、私は父様に流れる諏訪の血と母様に流れるヴァレリアの血、そして母様が育ったセレスの事を本当に誇りに思っているわ。だからそのヴァレリアとセレスの痕跡を絶対に失いたくなかったのよ」
「海……ありがとう……本当にありがとうね……」
自身のルーツである諏訪、ヴァレリア、そしてセレスを心から誇りに思う海の姿にユゥイは涙を流して海を抱きしめた。
そして次は阿洲花を指導している様子のユゥイだが───
「阿洲花、治癒魔法を使えるようになったの!?」
「そうなのじゃ!『癒しの風』っていう術で体の傷を治癒できるのじゃ!!」
阿洲花が習得した魔法『癒しの風』は風が対象を包み込んで体の傷を治癒する魔法だ。
「阿洲花……本当に……本当に凄いよ!!オレがどんなにやっても習得出来なかった回復魔法を使えるようになっただなんて!!」
阿洲花が治癒魔法を習得したという事実にユゥイは心からの驚きと喜びで阿洲花の両頬を包み、たくさん褒める。
「母上は回復の術が使えないのかや?」
「うん、オレはどんなにやっても回復魔法だけが習得できなかったの。オレが覚えられるのは攻撃系の魔法だけだったんだ。だから阿洲花が回復魔法を使えるようになって本当に嬉しい」
ユゥイにこれでもかというくらいにたくさん褒められて阿洲花はご満悦の様子だ。
「これで父上が魔物退治で怪我をしてもこの術で治癒する事が出来るのじゃ!」
「そうだねぇ、黒様が怪我をして魔物退治から帰ってきても阿洲花の『癒しの風』の魔法があればすぐに治療出来るねぇ」
阿洲花の父上を治療出来るという誇らしげな言葉にユゥイは本当に嬉しそうだ。
「阿洲花は優しくて人の痛みが分かるから回復魔法を習得出来たんだよ」
「母上?」
先程までの心から嬉しそうな表情から一転して陰りのある表情になるユゥイ。そんなユゥイの表情の変化に阿洲花は不安そうな顔になる。
「オレは阿洲花と違って優しくない、ただ弱いだけの人間だ。だから回復魔法が使えないんだろうな……」
努力でたくさんの魔法を習得してきたユゥイだが、どんなに努力しても回復魔法だけは習得できなかった。回復魔法が使えない、その事実はユゥイの一番のコンプレックスなのである。
「そんな事ないのじゃー!!」
「阿洲花?」
ユゥイの自分は優しくなんかない、ただ弱いだけという言葉を阿洲花は思いきり否定し始めた。
「母上はとってもとっても優しいのじゃ!いつもわらわ達家族に美味しいご飯を作ってくれるし、美味しい菓子も作ってくれるし、わらわに勉学を教えてくれたり、わらわの髪を優しく梳かしてくれたり、それに……わらわが新しい術を覚えるとこうしてたくさん褒めてくれるのじゃー!!」
阿洲花はこれでもかというくらいに自分がユゥイに与えてもらった事を力説する。
「母上がたくさんたくさん褒めてくれるから……わらわは鍛錬も勉学も頑張れるのじゃ!!だから自分を優しくなんかないなんていうのはやめてほしいのじゃ……」
言いたい事を思いきり言った阿洲花はユゥイに抱きつき、泣き出してしまう。ユゥイはそんな阿洲花の黒髪を優しく撫でた。
「阿洲花……阿洲花はそんなにオレの事を愛してくれるんだ……。阿洲花にこんなに愛されて幸せだよ」
ユゥイはそう言い、阿洲花に柔らかい笑顔を見せる。ユゥイのその笑顔に阿洲花は先程までの泣き顔から一転し、自身もユゥイに笑顔を見せた。
「母上がそんなに回復の術を使えるようになりたいのなら、これからはわらわが母上に回復の術を教える師になるのじゃ!だから元気を出すのじゃ!!」
「阿洲花が……オレの師に……?」
「そうなのじゃ!!わらわはまだまだ未熟で母上にいろんな事を教えてもらってばかり、だから回復の術の事だけでもわらわが母上に教える側になるのじゃ!!」
阿洲花は自信満々に自分がユゥイの回復魔法の師になるのだと主張する。
「阿洲花が回復魔法をオレに教えてくれるんだ?」
「そうなのじゃ!だから母上は大船に乗ったつもりでいるのじゃ!!」
「そっか……ならお願いしちゃおうかな」
阿洲花の優しい気持ちを嬉しく思ったユゥイは阿洲花をぎゅっと抱きしめ返した。
* * *
「って事があったんだよ、黒様」
「そうか」
子供達が寝静まった夜、黒鋼とユゥイは同じ布団に入り今日の出来事を語り合っている。
「海は諏訪の守り神である龍神様を模した水の魔法が使えて、阿洲花はオレがどんなにやっても習得出来なかった回復魔法をすぐに習得して……二人ともきっとオレを超える魔術師になるよ」
ユゥイは心から海と阿洲花の成長を嬉しく思い、自分を超える魔術師になれる事は間違いないと太鼓判を押し、黒鋼に自慢する。
「そうか、黒曜と苺鈴も成長が著しいぞ。黒曜は天魔・空龍閃、苺鈴は天魔・空龍閃を習得して使いこなしてみせたからな」
「天魔・空龍閃に天魔・空龍閃を!?それは凄いよ!」
「ああ、大したもんだ。正直言って俺よりも見込みがあると思っている。俺が黒曜や苺鈴くらいの時はまだ使いこなせなかったからな」
「そうなの!?それは成長が楽しみだねぇー……」
「おう」
愛する子供達の成長を心から嬉しく思い、語り合う二人。黒鋼とユゥイの子供の成長自慢は止まる事なく夜通し語り明かしたのだった───
END
しかしまだまだ人が住めるような状態ではない。諏訪の民達が安心して帰郷出来るようになるためには領主である黒鋼と姫巫女であるユゥイ、そして二人の子供達の存在が必要なのだ。
そんなわけで今日も黒鋼とユゥイは子供達に稽古をつけているのである。刀を得意とする黒曜と苺鈴は黒鋼が、母親の故国の西洋剣のレイピアと魔法を得意とする海、術と弓を得意とする阿洲花はユゥイが指導している。
そうして今日この日は諏訪国の姫巫女、ユゥイが海と阿洲花に魔法の鍛錬を行っているのだ。
「水の龍!!」
これは海が最近習得した龍の姿となった水を打ち放つ攻撃魔法だ。凄い水圧が訓練用のまとに命中し、まとを倒す事に成功する。
「凄ーい!凄いよぅ!!」
「か……母様……苦しい……」
ユゥイは海が『水の龍』の魔法を見事に訓練用のまとに命中させた事を喜び、娘の海を抱きしめてこれでもかというくらいに褒めている。
「あ、ごめんね。でも海の成長があまりにも著しいから母様嬉しくって嬉しくって」
「そんな大袈裟な……」
「ううん、全然大袈裟じゃないよぅ。その『水の龍』は諏訪の守り神の龍神様を模した魔法。諏訪国にとってそんな凄い魔法をまだ10歳の海が習得できるって本当に凄いことなんだよ」
「そ……そうなのかしら……?」
「そうだよぅ。海はきっと諏訪の龍神様に特別に愛されてるんだよ」
諏訪の守り神である龍神を模した『水の龍』の魔法を習得してすぐに完璧に使いこなす事が出来た海。この事実は決して大袈裟ではない、海は諏訪の守り神である龍神に特別に愛されている愛娘なんだとユゥイは信じて疑わない。
「海は本当に黒様にそっくりだからね〜。だから諏訪の龍神様も海の事を特別に愛してるんだと思うな」
「私……そんなに父様に似てる……かな?」
「似てるよ〜。誰よりも優しい心を持っていて優しいって言われたらそれを言ったらはぐらかすところとか、一度懐に入れた存在は絶対に見捨てないところとか、甘いものが苦手なところとか……」
「か……母様……」
ユゥイは愛娘の海が最愛の夫、黒鋼に似ている事が本当に嬉しくて海が黒鋼に似ている部分を話し出して止まらなくなっている。そんなユゥイに海は少し呆れている様子だ。
「海も黒様も本当に優しいから、自分達の中でだけでもオレの故国のセレスを失わないようにセレス語を覚えてくれたんだもんね。オレ……その事が本当に嬉しかったんだよ」
ユゥイの産まれた国ヴァレリアは滅び、その後アシュラ王に連れられて育った国のセレスも滅んでしまった。ユゥイが慣れ親しんできたヴァレリアとセレスの言語を失わせたくないと思った黒鋼と海はセレス語を覚え、黒鋼、ユゥイ、海の三人の時はセレス語で会話するようにしているのだ。
「母様、私は父様に流れる諏訪の血と母様に流れるヴァレリアの血、そして母様が育ったセレスの事を本当に誇りに思っているわ。だからそのヴァレリアとセレスの痕跡を絶対に失いたくなかったのよ」
「海……ありがとう……本当にありがとうね……」
自身のルーツである諏訪、ヴァレリア、そしてセレスを心から誇りに思う海の姿にユゥイは涙を流して海を抱きしめた。
そして次は阿洲花を指導している様子のユゥイだが───
「阿洲花、治癒魔法を使えるようになったの!?」
「そうなのじゃ!『癒しの風』っていう術で体の傷を治癒できるのじゃ!!」
阿洲花が習得した魔法『癒しの風』は風が対象を包み込んで体の傷を治癒する魔法だ。
「阿洲花……本当に……本当に凄いよ!!オレがどんなにやっても習得出来なかった回復魔法を使えるようになっただなんて!!」
阿洲花が治癒魔法を習得したという事実にユゥイは心からの驚きと喜びで阿洲花の両頬を包み、たくさん褒める。
「母上は回復の術が使えないのかや?」
「うん、オレはどんなにやっても回復魔法だけが習得できなかったの。オレが覚えられるのは攻撃系の魔法だけだったんだ。だから阿洲花が回復魔法を使えるようになって本当に嬉しい」
ユゥイにこれでもかというくらいにたくさん褒められて阿洲花はご満悦の様子だ。
「これで父上が魔物退治で怪我をしてもこの術で治癒する事が出来るのじゃ!」
「そうだねぇ、黒様が怪我をして魔物退治から帰ってきても阿洲花の『癒しの風』の魔法があればすぐに治療出来るねぇ」
阿洲花の父上を治療出来るという誇らしげな言葉にユゥイは本当に嬉しそうだ。
「阿洲花は優しくて人の痛みが分かるから回復魔法を習得出来たんだよ」
「母上?」
先程までの心から嬉しそうな表情から一転して陰りのある表情になるユゥイ。そんなユゥイの表情の変化に阿洲花は不安そうな顔になる。
「オレは阿洲花と違って優しくない、ただ弱いだけの人間だ。だから回復魔法が使えないんだろうな……」
努力でたくさんの魔法を習得してきたユゥイだが、どんなに努力しても回復魔法だけは習得できなかった。回復魔法が使えない、その事実はユゥイの一番のコンプレックスなのである。
「そんな事ないのじゃー!!」
「阿洲花?」
ユゥイの自分は優しくなんかない、ただ弱いだけという言葉を阿洲花は思いきり否定し始めた。
「母上はとってもとっても優しいのじゃ!いつもわらわ達家族に美味しいご飯を作ってくれるし、美味しい菓子も作ってくれるし、わらわに勉学を教えてくれたり、わらわの髪を優しく梳かしてくれたり、それに……わらわが新しい術を覚えるとこうしてたくさん褒めてくれるのじゃー!!」
阿洲花はこれでもかというくらいに自分がユゥイに与えてもらった事を力説する。
「母上がたくさんたくさん褒めてくれるから……わらわは鍛錬も勉学も頑張れるのじゃ!!だから自分を優しくなんかないなんていうのはやめてほしいのじゃ……」
言いたい事を思いきり言った阿洲花はユゥイに抱きつき、泣き出してしまう。ユゥイはそんな阿洲花の黒髪を優しく撫でた。
「阿洲花……阿洲花はそんなにオレの事を愛してくれるんだ……。阿洲花にこんなに愛されて幸せだよ」
ユゥイはそう言い、阿洲花に柔らかい笑顔を見せる。ユゥイのその笑顔に阿洲花は先程までの泣き顔から一転し、自身もユゥイに笑顔を見せた。
「母上がそんなに回復の術を使えるようになりたいのなら、これからはわらわが母上に回復の術を教える師になるのじゃ!だから元気を出すのじゃ!!」
「阿洲花が……オレの師に……?」
「そうなのじゃ!!わらわはまだまだ未熟で母上にいろんな事を教えてもらってばかり、だから回復の術の事だけでもわらわが母上に教える側になるのじゃ!!」
阿洲花は自信満々に自分がユゥイの回復魔法の師になるのだと主張する。
「阿洲花が回復魔法をオレに教えてくれるんだ?」
「そうなのじゃ!だから母上は大船に乗ったつもりでいるのじゃ!!」
「そっか……ならお願いしちゃおうかな」
阿洲花の優しい気持ちを嬉しく思ったユゥイは阿洲花をぎゅっと抱きしめ返した。
* * *
「って事があったんだよ、黒様」
「そうか」
子供達が寝静まった夜、黒鋼とユゥイは同じ布団に入り今日の出来事を語り合っている。
「海は諏訪の守り神である龍神様を模した水の魔法が使えて、阿洲花はオレがどんなにやっても習得出来なかった回復魔法をすぐに習得して……二人ともきっとオレを超える魔術師になるよ」
ユゥイは心から海と阿洲花の成長を嬉しく思い、自分を超える魔術師になれる事は間違いないと太鼓判を押し、黒鋼に自慢する。
「そうか、黒曜と苺鈴も成長が著しいぞ。黒曜は天魔・空龍閃、苺鈴は天魔・空龍閃を習得して使いこなしてみせたからな」
「天魔・空龍閃に天魔・空龍閃を!?それは凄いよ!」
「ああ、大したもんだ。正直言って俺よりも見込みがあると思っている。俺が黒曜や苺鈴くらいの時はまだ使いこなせなかったからな」
「そうなの!?それは成長が楽しみだねぇー……」
「おう」
愛する子供達の成長を心から嬉しく思い、語り合う二人。黒鋼とユゥイの子供の成長自慢は止まる事なく夜通し語り明かしたのだった───
END
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