CLAMP作品小説

『小狼』、サクラ、黒鋼、ファイ、モコナの一行がチェスの国ことインフィニティに来てから三ヶ月。彼らは今、心を失ってしまった小狼が殺戮と破壊を繰り返した国への復興のために優勝賞金を得ようと『小狼』、黒鋼、ファイはチェスの駒として、サクラはそのマスターとして四人一組でチェストーナメントに参加している。チェストーナメントに参加するのは夜の時間帯のため、昼間の今はそれぞれが好きに行動していて『小狼』と黒鋼は街に食材を買いに行き、サクラはチェストーナメントに備えて自室で体を休めるために眠っている。今、リビングにいるのはファイとモコナだけだ。

以前からファイに聞くべき事があったモコナは今がチャンスだとばかりにファイに話しかける。

「ねぇ、ファイ……」

「どうしたの?モコナ」

黒鋼に対して渾名呼びをやめ、距離をとっているファイだがそれ以外のメンバーには今までと変わらずに柔らかい笑みを向けている。モコナに対してもその柔らかい笑みは健在だ。

「ファイに聞きたい事があるの。いい?」

「うん、いいよ」

モコナはずっとファイに聞きたかった事を話し始める。

「ファイは東京で吸血鬼になってからずっと黒鋼を避けてるよね。それまではファイと黒鋼、仲良しだったのに……、どうしてなの?」

ファイが東京で吸血鬼になってから黒鋼の事を避けていると指摘したモコナ。その指摘にファイの柔らかい笑みは一瞬にして崩れた。そんなファイに構わずモコナは続ける。

「桜都国にいる時にモコナ、ファイに言ったよね。『笑ってても違う事考えてる』って。だけどね、黒鋼と一緒にいる時のファイは確かに心から笑っていたんだよ」

「………………」

話し続けるモコナに対してファイは沈黙を貫く。

「それなのにどうして……、どうして黒鋼を避けるようになったの?ファイ……、本当は黒鋼の事が好きで好きで仕方がないはずなのに……!!」

「!!」

モコナはついにファイが心の奥底に隠しているであろう気持ちを指摘した。モコナに痛いところを指摘されたファイは激しい目つきでモコナを睨み、言う。

「オレがあの忍者さんの事を好きだって?馬鹿な事言わないでよモコナ。モコナから見てオレがあの忍者さんと仲が良いように見えたのは全部旅を円満に進めるためのオレの演技だったんだよ。人の気持ちに敏感なモコナがあの演技に簡単に騙されるなんて思わなかったな。それだけオレの演技が上手だったって事か」

「嘘……、ファイと黒鋼が仲良しだったのがファイの演技だったなんて……、そんなの嘘なの……!!」

「嘘じゃないよ。本当のオレはあの忍者さんが心の底から嫌いで嫌いで仕方ないんだ。でもそれを小狼君、サクラちゃん、モコナに見せるのはまずいでしょう?心配させちゃうからね。だからあの忍者さんと仲が良く見えるように振る舞ってただけで今のオレの態度こそがあの忍者さんに対する本当の気持ちなんだよ」

ファイは早口でまくしたてるようにモコナに言い続ける。

「それにね、桜都国であの忍者さんはオレに刀を向けながら『まだ命数尽きてねぇのに、自分から生きようとしねぇ奴がこの世で一番嫌ぇなんだよ』って言ったんだ。あの忍者さんはオレを嫌ってるんだよ。まぁオレもあの忍者さんの事が大嫌いだからおあいこだけどね。モコナ、これで分かったでしょう?分かったらもう二度とあの忍者さんの事をオレに言わないでね」

自分が言いたい事を一方的にモコナに言ったファイ。そんなファイはほんの一瞬、寂しそうな表情をする。その一瞬の寂しそうな顔をモコナは見逃さなかった。

「黒鋼がファイを嫌っているなんてあり得ないよ!!だって黒鋼は東京でファイが死にそうになった時、絶対にファイを死なせない、死なせたくないって必死だったもん!!黒鋼はファイの事が心から好きなんだよ、そして本当はファイも黒鋼の事……」

「もう言わないでモコナ!!」

ファイは『本当はファイも黒鋼の事が心から好き』と言おうとしたモコナを怒鳴りつけて自室に行くためにソファーから立ち上がった。そんなファイの後ろ姿を見つめたモコナは泣きながらファイに言う。

「ファイ……、逃げないで……、自分の本当の気持ちから逃げないでよ……」

「ごめん……、モコナ……」

ファイは小さな声でモコナに謝ると自室に閉じこもってしまい、リビングには泣きじゃくるモコナだけが残された。



以前はサクラの羽根を取り戻すという目的のために気持ちが一つだった一行だが、今は完全に全員の気持ちがバラバラになってしまった。

『小狼』、サクラ、黒鋼、ファイ、モコナの一行の絆、そして黒鋼とファイの仲は以前のように元に戻れるのだろうか?それは神だけが知っている───



END
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