CLAMP作品小説

セレス国の魔術師、ファイ・D・フローライトはこの旅に纏わる全ての事を知っているが故に一行に言えない事がたくさんあって嘘をつき続けていたが、自らの過去に決着をつけて一行に嘘をつく必要がなくなり、以前のような笑ったお面を貼り付けたような作り笑いをしなくなったのである。



しかし、この旅に纏わる事以外でファイがついていた嘘が黒鋼の義手を貰うための対価として魔力を侑子に差し出した事で判明したのだった。それはファイの性別が女性である事だった───



「お前……、女だったんだな」

「うん、名前だけじゃなくて体も『ファイ』になりきるために魔法を使って男の体になっていたんだ。だから魔力がなくなると同時に女に戻っちゃったみたい」

二人が今いるのは白鷺城の黒鋼に用意された部屋だ。黒鋼の義手を貰うための対価として魔力を侑子に差し出してファイが女性に戻った時に黒鋼、『小狼』、モコナ、封真、知世姫、天照、蘇摩がいて本来はその時に説明しようと思ったのだが、その後すぐに星史郎が表れて『小狼』と星史郎の戦いに突入し、更にそれから夢の中にいるさくらの魂を取り戻すために『小狼』と小狼の戦いが始まり、その上さくらがカイルに攫われたりとそれどころではなかったため、落ち着いた今こうして黒鋼とファイの二人でファイの性別が女性であった事について話している最中なのである。

「あれ?黒様オレが女だったって事に全然驚いてないね、なんだか意外だなぁ」

黒様なら凄く驚くと思ったのにと笑いながら話すファイ。黒鋼はそんなファイを見つめ、言う。

「なんでお前が女だっていう事で驚く必要があるんだ」

黒鋼はきっぱりと真顔で言い切った。

「……え?だってだって、オレ、自分の性別を偽ってたんだよ?そこは驚くところでしょう?」

「俺にとっててめぇの性別なんて対した問題じゃねぇんだよ、俺はてめぇの存在自体に心底惚れたんだからな」

顔を真っ赤にしながらファイに告白する黒鋼。そんな黒鋼の姿にファイはとまどいを隠せない。

「黒様……、オレの事が好きなの……?」

「ああ、だから俺にとってお前がお前である事が何よりも重要なんだよ。お前が男だろうと、女だろうと、お前が俺よりも何倍も生きててずっと年上だろうとお前がお前である事には何も変わりねぇだろ」

まっすぐにファイを見つめて真剣に言い切る黒鋼。ファイという存在自体を愛している黒鋼にとってファイがファイである事こそが一番大切な事なのである。

「オレという存在自体を好きだからオレがオレである事が何よりも重要……、かぁ。それって大海のような深い愛だね、黒様にそんな風に愛されるなんて凄く嬉しくて幸せだな……」

ファイは黒鋼に全身全霊で愛されている事に喜び、幸せを感じているが心に引っかかっている事があるようで幸せそうな表情から一転して寂しそうな表情を黒鋼に見せた。

「でも……、でもね黒様。オレは自分の願いのために君のお父様とお母様を殺めて君の故郷を滅ぼした飛王の一手として動いていたんだよ、そんなオレが黒様に愛される資格なんてないよ……」

黒鋼の父と母を殺め、諏訪を滅ぼした飛王。飛王にかけられた呪いは解け、今は飛王の一手ではなくなったファイだが『ファイ』を生き返らせたいという願いのためとはいえ、過去に飛王の一手として動いていた事は今もファイの心に深く汚点として残っている。

「あのなぁ、お前が飛王の手駒になったのは片割れを生き返らせたいっていうお前の願いを飛王に利用されたからであって、お前自身が好き好んで飛王の手駒になったわけじゃねぇだろうが。その上お前は飛王に記憶を操作されてお前の意志とは関係なく発動する呪いまでかけられたんだからな、お前は飛王に脅されてた被害者だ」

「黒様……」

「それを言うなら俺だって飛王の手駒になるところだったのを知世に救われたから飛王の手駒にならずに済んだだけだ。だからお前が飛王の手駒として動いていた事で自分を攻める必要は何もねぇんだよ」

飛王の一手として動き、一行に嘘をつき続けていたファイを飛王に利用されていただけの被害者だと言い切った黒鋼。そんな黒鋼の強い言葉にファイの心は傷が癒え、温かさで満ちていく。

「話を戻すとだな……、俺はお前を心底愛してんだ。お前に触れたくて仕方ねぇ、駄目か?」

黒鋼は顔を真っ赤にし、ファイを抱きしめながら言った。

「黒様……。うん、いいよ。オレも黒様にたくさん触ってもらいたい。でもね、オレこういう事は初めてだから……、優しくしてね?」

「……おう」



自らの過去に決着をつけ、黒鋼の愛を受け入れたファイ。この後二人は一つになって身も心も結ばれ、互いを想い合う気持ちが更に強固となるのであった。



そして後日、『小狼』とモコナもファイの性別が女性である事を黒鋼と同様にファイがファイである事に変わりはないとすんなりと受け入れたという───



END
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