MOTHER小説
一面に桃色の大地が広がる異世界マジカントの女王、クイーンマリーが忘れてしまった八つのメロディーを探すため、そしてイースターの町にボランティアに行って以降帰ってこないアナの母親の手掛かりを掴むために旅をしているニンテン、アナ、ロイドの三人。今日この日、彼らはアナの母親が行方知れずとなったイースターの町に到着した。この町では数ヶ月前から大人達が次々と行方不明になっていき、今は子供しかいない町となってしまっていた。そんな中、町で聞き込みを続けていると三人はガリクソンさんの家で不思議な赤ちゃんと出会う。この不思議な赤ちゃんはニンテン、アナと同様に超能力者で、二人は彼からテレポーテーションという一度行った町ならどこへでも行けるPSIの力を授かった後、この町の宿屋に泊まる事にしたのだが……
「パパは留守です。だからお金のことはわかんないけど、他はちゃんとやりますから、安心して泊まってください」
宿屋では行方不明となったオーナーの子供が全てを担当していた。ニンテン、アナ、ロイドの三人はこんな小さな子供が宿屋の全ての業務を担当しなければならない悲痛な現実に胸を痛めながらこの宿屋で今日一日の疲れを癒やす事にした。
そうしてお金以外の事は全てちゃんとすると言った少年は自身の母親の見様見真似で三人の夕飯を作ろうとするが、料理の基本が分からない少年は鍋に入れた食材を全て焦がしてしまい、その焦げ臭さに気付いた三人は直ぐ様キッチンへと駆け付け、少年に怪我がないかを確認する。
「怪我……はしてないみたいね。安心したわ」
少年に目線を合わせて少年に火傷などの怪我がなかった事に心から安堵するアナ。少年はそんなアナを見て泣き出してしまう。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!!お金の事以外はちゃんとするって約束したのに料理が出来なくて……!!」
少年は泣き出したのは自身の母親と同じように出来ない不甲斐なさを身に沁みて感じたからであった。アナはそんな少年の両頬を優しく両手で包む。
「そんな事……気にする事はないわ。貴方はまだまだ幼いのにも関わらず大人達がいなくなってしまったこの街の宿屋でご両親の代わりを一生懸命に頑張っていた……それ自体がとても凄い事なのよ」
アナは大人達が次々と行方不明になってから数ヶ月もの間ずっと必死に宿屋の業務を担当していた幼い少年を優しく励ました。アナのその言葉で少年の心に温かいものが感じられたが、完全にはまだ拭えないままだ。
「でも……お姉ちゃん達は疲れてここに泊まりにきてくれた……そんなお姉ちゃん達におもてなしできないのは嫌だよ……」
「うーん……そうだわ!ならこれからこの町のドラッグストアでお肉と野菜を買って、その材料で皆で夕飯を作りましょう!大丈夫、私が料理の基本を教えてあげるわ」
「いいの?お姉ちゃん、それからお兄ちゃん達も……」
「もちろんだよ!な、ロイド?」
「うん、皆で作ればきっと美味しいよ!」
「お姉ちゃん……それからお兄ちゃん達……ありがとう」
少年はアナの提案を心から嬉しく思い、四人でイースターの町に残された子供達の中で一番年上の少年が店番をしているドラッグストアで玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉、カレールーを購入した。そう、夕飯のメニューはカレーライスである。四人が買った材料を見た店番の少年は「俺もカレーが食べたい」と言い出し、更にドラッグストアを出た後もたくさんの子供達に囲まれて「僕もカレー食べたい!!」「私にもカレーを食べさせて!!」と言われて心を痛めたニンテン、アナ、ロイドの三人はそれを受け入れてニンテン、アナ、ロイド、宿屋の少年の四人で作る予定のカレーライスの材料をドラッグストアで追加購入し、イースターの町の子供達みんなでカレーライスを作り、外で食べる事にしたのである。
カレーライスの材料を購入し、早速野外炊飯の始まりだ。イースターの町の子供達はキャンプみたいで楽しいと久しぶりに心からの笑顔を見せた。まずはアナが使うPSI、PKファイアーで薪に火を起こし、ロイドが飯盒でご飯を炊き、ニンテンが包丁で玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉を食べやすい大きさに切り、アナが切った材料を鍋で炒めた後、鍋に材料が浸るくらいの水を煮ていく。子供達も彼ら三人に料理の基本を教わりながら楽しそうに調理を進めていく。
「包丁を使う時は軽く指を曲げて猫の手にする、僕覚えた!」
「肉は焼き目がついて玉ねぎはしんなりするまで炒める、私覚えた!」
「食材を煮ている時に表面に出る灰汁は丁寧にすくい取る、俺覚えた!」
「カレールーを入れるのは具材が柔らかくなってから、あたし覚えた!」
野外炊飯の体験でたくさんの事を覚えた子供達、ニンテン、アナ、ロイド、宿屋の少年が全て自分達の手で作った特製カレーライスが完成し、満天の星空の下で皆で食べはじめた。果たしてそのお味は……
「美味しいー!」
「美味しいよ!」
「こんな美味しいカレーライス、はじめてだよ!」
「美味しすぎて何皿でもおかわりできちゃうー!」
自分達の手で火を起こし、お米を炊き、材料を切り、炒めて、煮たカレーライスは子供達にとって想像を遥かに超える美味しさだった。そしてそれはニンテン、アナ、ロイドの三人にとっても同じである。
「ねえ、ニンテン、アナ」
「どうした?ロイド」
「どうしたの?」
「このカレーライス……凄く美味しくて僕が今まで十一年生きてきた中で食べた全ての食事の中で一番美味しい食事だよ。でも……なんでこんなに美味しいのかなって不思議でいっぱいなんだ」
「不思議でいっぱい?ぼくには分かるよ、このカレーライスがロイドの今までの人生の中で食べてきた食事の中で一番美味しい理由」
「そうね、なんとなくだけど……私も分かるわ」
「ニンテンもアナもこのカレーライスがとびきり美味しい理由が分かるのかい?」
「ええ、分かるわ。このカレーライスが普段の食事以上に美味しいのはきっと、私達とイースターの町の子供達みんなで一生懸命作ったっていう気持ちが込められているからよ」
「それからもう一つ、夜の雲ひとつない満天の星空を眺めながら食べているからだな!これはインドア派の君は今まで体験しなかった事だろう?」
ロイドはアナとニンテンが話したこのカレーライスが最高に美味しい理由を聞いてはっとする。
「子供達みんなで作って満点の星空の下で食べているから……そうか、つまり皆で協力して作った努力の味と大自然の中で食べるっていう二つが組み合わさってとびきり美味しい最高のカレーライスが出来たっていう事か」
「ふふっ、そういう事になるわね」
「アウトドアの楽しさを学べてよかったな、ロイド!」
「うん。ニンテン、アナ、ありがとう。部屋にこもってばかりだった頃には分からなかった事を教えてくれて」
ニンテン、アナ、ロイドの三人はイースターの町の子供達と皆でカレーライスを食べながら心からの至福の時間を共有し、楽しい夜は更けていく。ちなみに満点の星空の下で食べたカレーライスはロイドだけでなく、ニンテンとアナ、そしてイースターの町の子供達にとっても今まで生きてきた人生の中で食べてきた食事の中で最も美味しい食事だった───
そして夜が明け、ニンテン、アナ、ロイドと子供達の別れの日である。
「お兄ちゃん達……行っちゃうの?」
宿屋の少年がイースターの町の子供達の気持ちを代弁するかのように寂しそうな顔で言う。その寂しそうな顔に三人、特にアナは心を痛めるが行方不明になってしまった子供達の父親と母親を救い出すためにはここで立ち止まってはいられない。
「皆のパパとママは必ずぼく達が探して救い出してみせるよ!」
「そのためにもここを旅立たないといけないんだ」
「だから……私達の旅の安全を祈ってくれる?」
行方不明になってしまったイースターの町の大人達を救出する決意をニンテン、ロイド、アナの順に宿屋の少年に誓った。三人の強い決意の前に宿屋の少年は笑顔を作って三人に約束する。
「うん!お兄ちゃん達の無事を祈ってる!だから……だから僕達のパパとママを必ず助けて!!」
「うん、君達のパパとママを必ず救い出してみせるよ!!」
ニンテンはそう言って宿屋の少年の髪をくしゃくしゃにして励ました。
「ニンテンとアナと僕で皆のパパとママを取り戻したその時はカレーライスでお祝いしよう!」
「そうね、是非そうしましょう!」
ニンテンに続き、ロイドとアナも宿屋の少年を励まし元気づける。イースターの町の子供達のパパとママを取り戻したらカレーライスでお祝いしようという約束に宿屋の少年から不安な気持ちが消えていく。
「うん!絶対に……絶対に約束だよ!!」
イースターの町の子供達に見送られながらイースターの町を後にするニンテン、アナ、ロイドの三人。三人の旅路は更に過酷で険しいものになっていくが、イースターの町の子供達との温かい交流が三人の決意を更に強くし、その意志の強さがこれから待ち受ける厳しい旅路を乗り越える揺るぎない原動力となるのであった───
END
「パパは留守です。だからお金のことはわかんないけど、他はちゃんとやりますから、安心して泊まってください」
宿屋では行方不明となったオーナーの子供が全てを担当していた。ニンテン、アナ、ロイドの三人はこんな小さな子供が宿屋の全ての業務を担当しなければならない悲痛な現実に胸を痛めながらこの宿屋で今日一日の疲れを癒やす事にした。
そうしてお金以外の事は全てちゃんとすると言った少年は自身の母親の見様見真似で三人の夕飯を作ろうとするが、料理の基本が分からない少年は鍋に入れた食材を全て焦がしてしまい、その焦げ臭さに気付いた三人は直ぐ様キッチンへと駆け付け、少年に怪我がないかを確認する。
「怪我……はしてないみたいね。安心したわ」
少年に目線を合わせて少年に火傷などの怪我がなかった事に心から安堵するアナ。少年はそんなアナを見て泣き出してしまう。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!!お金の事以外はちゃんとするって約束したのに料理が出来なくて……!!」
少年は泣き出したのは自身の母親と同じように出来ない不甲斐なさを身に沁みて感じたからであった。アナはそんな少年の両頬を優しく両手で包む。
「そんな事……気にする事はないわ。貴方はまだまだ幼いのにも関わらず大人達がいなくなってしまったこの街の宿屋でご両親の代わりを一生懸命に頑張っていた……それ自体がとても凄い事なのよ」
アナは大人達が次々と行方不明になってから数ヶ月もの間ずっと必死に宿屋の業務を担当していた幼い少年を優しく励ました。アナのその言葉で少年の心に温かいものが感じられたが、完全にはまだ拭えないままだ。
「でも……お姉ちゃん達は疲れてここに泊まりにきてくれた……そんなお姉ちゃん達におもてなしできないのは嫌だよ……」
「うーん……そうだわ!ならこれからこの町のドラッグストアでお肉と野菜を買って、その材料で皆で夕飯を作りましょう!大丈夫、私が料理の基本を教えてあげるわ」
「いいの?お姉ちゃん、それからお兄ちゃん達も……」
「もちろんだよ!な、ロイド?」
「うん、皆で作ればきっと美味しいよ!」
「お姉ちゃん……それからお兄ちゃん達……ありがとう」
少年はアナの提案を心から嬉しく思い、四人でイースターの町に残された子供達の中で一番年上の少年が店番をしているドラッグストアで玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉、カレールーを購入した。そう、夕飯のメニューはカレーライスである。四人が買った材料を見た店番の少年は「俺もカレーが食べたい」と言い出し、更にドラッグストアを出た後もたくさんの子供達に囲まれて「僕もカレー食べたい!!」「私にもカレーを食べさせて!!」と言われて心を痛めたニンテン、アナ、ロイドの三人はそれを受け入れてニンテン、アナ、ロイド、宿屋の少年の四人で作る予定のカレーライスの材料をドラッグストアで追加購入し、イースターの町の子供達みんなでカレーライスを作り、外で食べる事にしたのである。
カレーライスの材料を購入し、早速野外炊飯の始まりだ。イースターの町の子供達はキャンプみたいで楽しいと久しぶりに心からの笑顔を見せた。まずはアナが使うPSI、PKファイアーで薪に火を起こし、ロイドが飯盒でご飯を炊き、ニンテンが包丁で玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉を食べやすい大きさに切り、アナが切った材料を鍋で炒めた後、鍋に材料が浸るくらいの水を煮ていく。子供達も彼ら三人に料理の基本を教わりながら楽しそうに調理を進めていく。
「包丁を使う時は軽く指を曲げて猫の手にする、僕覚えた!」
「肉は焼き目がついて玉ねぎはしんなりするまで炒める、私覚えた!」
「食材を煮ている時に表面に出る灰汁は丁寧にすくい取る、俺覚えた!」
「カレールーを入れるのは具材が柔らかくなってから、あたし覚えた!」
野外炊飯の体験でたくさんの事を覚えた子供達、ニンテン、アナ、ロイド、宿屋の少年が全て自分達の手で作った特製カレーライスが完成し、満天の星空の下で皆で食べはじめた。果たしてそのお味は……
「美味しいー!」
「美味しいよ!」
「こんな美味しいカレーライス、はじめてだよ!」
「美味しすぎて何皿でもおかわりできちゃうー!」
自分達の手で火を起こし、お米を炊き、材料を切り、炒めて、煮たカレーライスは子供達にとって想像を遥かに超える美味しさだった。そしてそれはニンテン、アナ、ロイドの三人にとっても同じである。
「ねえ、ニンテン、アナ」
「どうした?ロイド」
「どうしたの?」
「このカレーライス……凄く美味しくて僕が今まで十一年生きてきた中で食べた全ての食事の中で一番美味しい食事だよ。でも……なんでこんなに美味しいのかなって不思議でいっぱいなんだ」
「不思議でいっぱい?ぼくには分かるよ、このカレーライスがロイドの今までの人生の中で食べてきた食事の中で一番美味しい理由」
「そうね、なんとなくだけど……私も分かるわ」
「ニンテンもアナもこのカレーライスがとびきり美味しい理由が分かるのかい?」
「ええ、分かるわ。このカレーライスが普段の食事以上に美味しいのはきっと、私達とイースターの町の子供達みんなで一生懸命作ったっていう気持ちが込められているからよ」
「それからもう一つ、夜の雲ひとつない満天の星空を眺めながら食べているからだな!これはインドア派の君は今まで体験しなかった事だろう?」
ロイドはアナとニンテンが話したこのカレーライスが最高に美味しい理由を聞いてはっとする。
「子供達みんなで作って満点の星空の下で食べているから……そうか、つまり皆で協力して作った努力の味と大自然の中で食べるっていう二つが組み合わさってとびきり美味しい最高のカレーライスが出来たっていう事か」
「ふふっ、そういう事になるわね」
「アウトドアの楽しさを学べてよかったな、ロイド!」
「うん。ニンテン、アナ、ありがとう。部屋にこもってばかりだった頃には分からなかった事を教えてくれて」
ニンテン、アナ、ロイドの三人はイースターの町の子供達と皆でカレーライスを食べながら心からの至福の時間を共有し、楽しい夜は更けていく。ちなみに満点の星空の下で食べたカレーライスはロイドだけでなく、ニンテンとアナ、そしてイースターの町の子供達にとっても今まで生きてきた人生の中で食べてきた食事の中で最も美味しい食事だった───
そして夜が明け、ニンテン、アナ、ロイドと子供達の別れの日である。
「お兄ちゃん達……行っちゃうの?」
宿屋の少年がイースターの町の子供達の気持ちを代弁するかのように寂しそうな顔で言う。その寂しそうな顔に三人、特にアナは心を痛めるが行方不明になってしまった子供達の父親と母親を救い出すためにはここで立ち止まってはいられない。
「皆のパパとママは必ずぼく達が探して救い出してみせるよ!」
「そのためにもここを旅立たないといけないんだ」
「だから……私達の旅の安全を祈ってくれる?」
行方不明になってしまったイースターの町の大人達を救出する決意をニンテン、ロイド、アナの順に宿屋の少年に誓った。三人の強い決意の前に宿屋の少年は笑顔を作って三人に約束する。
「うん!お兄ちゃん達の無事を祈ってる!だから……だから僕達のパパとママを必ず助けて!!」
「うん、君達のパパとママを必ず救い出してみせるよ!!」
ニンテンはそう言って宿屋の少年の髪をくしゃくしゃにして励ました。
「ニンテンとアナと僕で皆のパパとママを取り戻したその時はカレーライスでお祝いしよう!」
「そうね、是非そうしましょう!」
ニンテンに続き、ロイドとアナも宿屋の少年を励まし元気づける。イースターの町の子供達のパパとママを取り戻したらカレーライスでお祝いしようという約束に宿屋の少年から不安な気持ちが消えていく。
「うん!絶対に……絶対に約束だよ!!」
イースターの町の子供達に見送られながらイースターの町を後にするニンテン、アナ、ロイドの三人。三人の旅路は更に過酷で険しいものになっていくが、イースターの町の子供達との温かい交流が三人の決意を更に強くし、その意志の強さがこれから待ち受ける厳しい旅路を乗り越える揺るぎない原動力となるのであった───
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