ちびまる子ちゃん小説



大人になってからも、ずっとずっと仲良しでいようね───


*   *   *


「まる子、たまちゃんから電話だよ」

「はーい」

私、さくらももこは静岡県清水市に住んでいる高校三年生のごくごく普通の女の子。高校三年生になったというのに小学生の時からのあだ名、ちびだからちび丸、そして女の子だから子をつけて『まる子』というあだ名は未だに健在だよ。高校生最後の夏休みの今年は漫画家になるという夢のために夏休み中ずっと漫画を描いている毎日。そんな私にたまちゃんから電話がかかってきた。

「もしもし。たまちゃん、久しぶり。元気だった?えっ、今日会えないかって?うん、いいよ。じゃあ今から支度してすぐ行くよ」

私が小学一年生の頃からの大親友、たまちゃんから会いたいとお誘いの電話がきて、久しぶりにたまちゃんに会う事になり、普段着の半袖Tシャツ長ズボンからワンピースに着替え、ボサボサの髪も三つ編みにして整え、更に帽子も被ってたまちゃんの家に向かう。

「まるちゃん、いらっしゃーい!」

「こんにちは、たまちゃん」

あれ?気のせいかな。なんかたまちゃん少し大人っぽくなったみたい……

「まるちゃん、暑かったでしょ。縁側が涼しいからかき氷でも食べようよ」

「うん」

*   *   *

「あー!冷たくて生き返る〜!!」

「美味しいね、まるちゃん」

私はイチゴ味、たまちゃんはブルーハワイ味のかき氷を満喫している。縁側の風鈴の音とセミの鳴き声もこれでもかというくらいに夏だという事をアピールしているように思う。

「なんかまるちゃん、ちょっと会わない間に少し大人っぽくなったみたい」

「えっ!?たまちゃんこそ大人っぽくなったみたいだよ」

「……そっか。もしかしたら私、この数日間で少し大人になったかも」

「何かあったの?」

「……実は私、今年もアメリカに行ってたんだ。それで一昨日帰ってきたの。それでね、卒業したらアメリカに留学する事にしたんだ。一緒に短大に行こうって言ってたのに……ごめん」

「……そんな謝らなくていいよ、自分の人生だもん。自分で決めなきゃ……」

「……まるちゃん、ありがとう」

「ありがとうなんて言わないで。私もたまちゃんに言わなきゃならない事があるんだ」

「まるちゃんも?」

「私も自分の人生をどう歩むべきか、ずっと悩んでいたんだ……最近までずっと」

私はこれから小学生の頃から抱いている大切な夢を子供のお遊びなんかじゃない本当の意味でたまちゃんに打ち明けるんだ。

「この半年間いろいろ悩んで疲れたよ。でもやっと自分らしい道が少し見えてきた気がするんだ」

「何?何かやってるの?」

「私……ね。漫画を描いてるんだ。本気でなりたいんだ、漫画家に」

「まるちゃん、小学生の時からずっとなりたいって言ってたもんね」

「うん。今『りぼん』に投稿する漫画を描いてる最中なんだ。それで……短大を卒業するまでの二年間でどうにかデビューできればいいなって思ってるんだ。それで卒業したら東京に行きたい。無謀で無茶な夢かもしれないけど、この気持ちはもう止まらないの」

「分かるよ、まるちゃんの気持ち。私もアメリカに行きたい気持ち止められないもん……」

「たまちゃん……」

「……近ければいいのにね。アメリカと東京が……」

「うん……」

たまちゃんがアメリカに行ってしまう……来年の今頃はもうたまちゃんは日本にいないんだ。短大に行っても就職しても結婚してもたまちゃんとはずっと一緒にいられると思ってた……だけど、私が漫画家になりたい気持ちを止められないのと同じようにたまちゃんもアメリカに行きたい気持ちを止められないんだ。私とたまちゃんはそれぞれの夢のために離れ離れになるんだね……私とたまちゃんがこうして一緒にいられるのも今年で最後なんだ。そう思うと私はたまちゃんの方を向けなかった……



*   *   *



夏休みが終わり二学期が始まっても、私は毎日漫画を描いていた。そんな調子だったので、学校では授業中も休み時間も眠っていた。漫画を描く時以外で起きているのはたまちゃんと一緒に帰る時だけ。

「まるちゃん、夏休みに描いてた漫画の成績っていつ発表なの?」

「十月三日に発売の『りぼん』だよ」

「じゃあもうすぐだね、ドキドキするね」

「うん……ホントに今回は凄くドキドキしてる。夏休みからずっと次の作品も描いているんだけど、ふとこんな作品が通用するのかとか……こんなに夢中になってしまって、全然ダメだったらもう立ち直れないんじゃないか……とかね。発表が近づくにつれて、どんどん不安がつのってきてるんだ……」

「まるちゃん、今はきっとうまくいくってそう信じていてもいいんじゃない?もしダメだったらまたその時考える事にしない?」

「……うん、そうだね……ダメだったらなんて……あんまり考えない方がいいよね」

「私は考えないよ。まるちゃんは絶対に漫画家になれるっ」

「……たまちゃん、ありがとう……」

たまちゃんの励ましで私は元気と希望を貰えた。本当にありがとう、たまちゃん。



*   *   *



あれから二ヶ月が過ぎた十一月。十月三日に発売された『りぼん』の漫画スクールで最終候補の一歩手前のランク「もうひと息賞」を入賞し、デビューに確実に近づいた私は今まで以上に漫画を描く事を決意する。今日の帰り道、その事をたまちゃんに報告したんだ。

「まるちゃん、凄いね。二作目も入賞したんだね!!デビューも近いね」

「……いや、デビューはまだしばらくムリだと思うよ。でも、できれば短大一年でデビューして短大二年の間に漫画描きながらバイトして、卒業するまでの間に上京するためのお金を貯めたいんだ。それが理想なんだけどね……」

「きっとできるよ。まるちゃん一年後にはデビューするって。来年の十一月にはもうプロだよ!!なんかもうドキドキしてきちゃった」

「たまちゃん、気が早いね……多分そんなにうまくはいかないと思うよ」

……来年の十一月にはもうたまちゃんは近くにいないんだ。こうして話してるとつい忘れてしまいそうになるけど……

「じゃあまた明日ね。漫画頑張ってね」

寂しい……

「うん、また明日ね」

また明日って言えなくなる日がくる……



*   *   *



あれから三作目も『りぼん』に投稿して入賞し、りぼん編集部の人から電話がかかってきて「期待しているから頑張れ」と励ましの言葉を貰った私は確実に夢に近づいているんだ、期待に答えられるように頑張ろう、絶対に漫画家になるんだという決意を新たにした。

「えっ!?りぼん編集部の人から電話がかかってきたの!?」 

「うん」

「凄いねっ、デビューも近いよ、きっと」

「いや、まだそれはちょっといつになるか分かんないけど……でも、今私の人生の中でも凄いチャンスがきてるのは感じてるんだ。だからとにかく頑張ってみるよ。もしかしたら一生で一度しかないチャンスかもしれないから」

「まるちゃん、偉いね。ここ数ヶ月で凄く大人になった気がするよ」

「そんな事ないよ。私はただ毎日漫画を描いているだけだし、学校では居眠りばっかりしてるし」

「まるちゃん……あっ、チャイムだ。じゃあまたあとでね」

「今日も一緒に帰ろうね」



*   *   *



それから私の短大合格が決まり、最後の冬休みもずっと漫画を描き続けて三学期が始まり、今は漫画を描く事以外の趣味はない。進路も決まっていてあとは卒業するだけという事もあってずっと漫画を描き続けた。少しずつ暖かくなっている季節の気配も忘れて、描いているうちに春がきて、私は高校を卒業した。
そして春休みになり、たまちゃんと一緒に花見に出かけた。

「今年も綺麗だねぇ、たまちゃん」

「去年は一緒にさくら見なかったよね」

「うん、私あの頃初投稿の漫画を描いていたんだ。あの頃必死で描いて悩んでて……さくらが咲いているのも忘れてたなぁ……」

「私も……進路の事凄く悩んでて……」

「一年って早いね……」

来年はもうここでたまちゃんと一緒にさくらは見れない……もしかしたら、ここでこのさくらを一緒に見るのは最後かも……

「スミレもけっこう咲いてるね」

「うん……」

これから私達は違う場所で何回も春を迎えるんだ……そう思うと最後かもしれないのにたまちゃんの顔もさくらもスミレもちゃんと見る事ができずにいるうちに夕方になり、たまちゃんとバイバイする時間になってしまった。

「じゃあらまたね」

「うん、またね」

「まるちゃん、私アメリカ行くの六月だから。まだ何回も会えるよ」

「そ……そうだよね……」

「また連絡するね」

「うん」

私、泣きそうな顔してたかな……



*   *   *



春休みが終わり、いよいよ短大の生活が始まった。更に上京資金を貯めるためにデパートのはちみつ屋さんでバイトを始めた。私は短大とバイトの忙しさで中々たまちゃんに会えずにいる。

「もしもしたまちゃん。この前会えなくてごめんね。土・日もバイトに行ってるんだ。うん……定休日が隔週の水曜日なんだ。でも明日の水曜日はバイト休みだから、学校が終わったら必ず会いに行くよ。じゃあまたね」

たまちゃんがもうすぐ行っちゃうのに……私バイトを優先してるなんて……夢も大事だけど、たまちゃんだって大事なのに……

そうしてあっという間に月日が流れ、たまちゃんがアメリカに行く六月になってしまった。今日はたまちゃんと一緒に喫茶店に来ている。こうしてたまちゃんと過ごせる日も残り僅かだ……

「もう荷物全部アメリカに送ってあるんだね」

「来週の今頃はもうアメリカで暮らしているなんて……なんか全然実感ないよ」

「………………」

「まるちゃん……出発の日、空港まで見送りに来てくれる?バイトあるでしょ?」

「もちろん行くよ。その日はバイト休むって前から言ってあるし」

もっとたまちゃんと一緒にいたい、このまま時は止まってしまえばいいのにと思っても時間は残酷なものであっという間に夕方になってしまった。

「たまちゃん、私達小さい頃よく手を繋いで歩いてたよね」

「うん、そうだね」

「いつから繋がなくなったっけ?」

「多分中学に入った頃からかな」

「なんで繋がなくなっちゃったんだろうね……」

「久しぶりに手を繋いで帰ろうよ」

たまちゃんの手……懐かしい感触。

「まるちゃん、私ずっと前ね、ちょっぴり漫画家になりたかったんだよ」

「え、そうだったの!?」

「ずっとずっと前ね、なりたかったっていうか憧れてただけだけど……」

……そうかもね、一緒に『りぼん』読んでたし……たまちゃんも漫画大好きだったもんね。

「だから……あの頃の私の夢をまるちゃんに託すよ。凄く楽しみにしてるからね」

「分かった……頑張るよ」

「……まるちゃん」

「……ごめん……私……まだ泣いてないから……だって……泣いたら……たまちゃん……」

「……そうだよ、泣いたら私……アメリカ行けなくなっちゃうよ……だから……まるちゃん、空港でも、泣いちゃダメだよ……」

「……うん、分かった……」

「それから……今までどうもありがとう」

たまちゃん……!!ばかっ。たまちゃんのばか……そんな事言うなんて……大好き……

「……ま……まだ……泣いてないから」

「……じゃあいいけど」



*   *   *



たまちゃんがアメリカに旅立った。私は約束通り、泣かなかった。たまちゃんも「じゃあまたね」と言って、泣かないで去った。私は自分が泣いていないのが不思議だった。あまりにもいつものさよならと同じだったから、また明日もたまちゃんに会える気がして……

そうしてたまちゃんと別れた後、私は家に帰って漫画の続きを描き始める。

「えーと、次は、八枚目からだね……」

たまちゃん……今頃どこ飛んでいるのかな……

(そうだ……たまちゃんヒコーキの中でサザン聴くって言ってたから、私も聴こう)

私はサザンオールスターズの曲が録音されたカセットテープをラジカセにかけた。サザンオールスターズの曲を聴けば聴くほどたまちゃんと過ごした思い出が次々と頭の中によみがえってくるよ……

〜♪〜♬〜♪

「まるちゃん、ベストテン観た?サザンの新曲!」

「観た観た、凄いカッコイイね!」

〜♪〜♬〜♪

「たまちゃん、ツチノコ探そうか」

「うん、そうしよう!」

〜♬〜♪〜♪

「お前らいつも一緒にいるなぁ」

「そうだよ」

「仲いいからね」

「大人になってもずーっと一緒だよね」

「うん、ずーっと一緒だよね」

ずーっと……

「アメリカが近ければいいのにね」

〜♪〜♪〜

「まるちゃん、泣いちゃダメだよ……泣いたら私、アメリカ行けなくなっちゃうからね」

〜♪〜♪〜

たまちゃん、私、泣くよ。今から泣くよ。もう泣いても、いいよね……たまちゃん、たまちゃん、たまちゃん……!!寂しいよぉ……たまちゃん……!!うわあぁぁぁぁぁん……!!



*   *   *



たまちゃんから手紙が届いた。

『まるちゃんへ。お元気ですか?私は毎日こちらの学校で元気に過ごしています。
まるちゃんがいないのが寂しいけれど、新しい友達も少しできました。
まだまだ覚えなくてはならない事がたくさんあって大変だけど、まるちゃんも頑張っているんだから……と思って私も頑張ります。
じゃあ、またね!!
たまえより』

(たまちゃん……元気そうだね。私も頑張ってるよ……頑張っているけど……)

なかなかデビューできなくて少し不安になってきてる。漫画家を目指すのって、凄く孤独だ。仲間もいないし、先生もいないし、誰も励ましてくれないし作業も地味だし……

(一人ぼっちで夜中に描いていると、不安で涙が出そうになるよ。でも頑張らなきゃ、投稿者が挫けてる場合じゃないよね)

プロになったらもっと大変なんだ、一生頑張る覚悟をしないと。私……あんまり頑張り屋じゃないけど、これだけは頑張るよ。

(あー三時か……もう寝よう)



*   *   *



なかなかデビューできなくて不安と焦りを感じながら漫画を描き続ける日々……漫画家の夢の事でお母さんと口論になったある日、私に一本の電話がかかってきたのだ。

「もしもし、さくらです」

「こんばんは、りぼん編集部の山本です。おめでとうございます。デビューが決まりましたよ」

「………………!!」

あまりの衝撃で胸がいっぱいで返事ができない……

「……あの、何て言っていいか……」

これは……夢が叶ったっていう事なのかな?それともやっと夢が始まったんだろうか……?

「はい……頑張ります……ありがとうございました……」

私のデビューを告げる電話の後、部屋に入って自分の机を見た時、急に涙がこぼれそうになった。

(嬉しい……私、漫画家になれるんだ……!!)

『たまちゃんへ。たまちゃん、手紙ありがとう。今日は、私にとって最高に嬉しい日でした。『りぼん』のデビューが決まったのです。
嬉しくてまだ信じられなくて、手紙を書く手も震えています。
たまちゃん、あのね、私の漫画にいつかたまちゃんの事を描きたいと思います。たまちゃんと私が仲良く楽しく過ごした日々の事を……
まだ、いつになるか分からないけど、そういうのが描けるように頑張るよ。もし描けたら、すぐに本を送るからね。
まる子より』



END
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