忌み子と自殺趣味
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残りの肉まんを持ってきてくれたナオミちゃんに礼を言って受け取る。
乱歩さんもありがとねーと言っていた。
「そういやこの肉まんどうしたの?」
『お得意様から頂いたみたいです。なかなか美味しいですよね。』
「そうだね。あっつ。」
まだほくほくと湯気がたつ肉まんを美味しそうに頬張っている乱歩さん。
すると一言。
「白板に書いてあるのが候補なのかい?」
『はい。そんな感じです。』
「へぇ…。」
そう言うと、肉まんを食べ終えたようでご馳走様、と手を合わせていた。
「この時間に食べれる肉まん屋さん探してこよー。」
「おや、行かれるんですか?」
「うん。ない智恵絞って頑張ってるしねー。まぁ、適当に頑張ってね。」
そう言って太宰さんの言葉を流した乱歩さんは、コテコテという足音を伴って去っていった。
「すまない、所用を思い出した。少し行ってくる。」
そう国木田さんが言った。
すぐに戻ってくると言って、国木田さんも会議室をあとにした。
残った一同は白板を再度見つめた。
『やっぱり、谷崎くんの案が無難でいいんじゃないですか?』
「まぁ、たしかに。この当たりが妥当だよね。」
太宰さんもそのように言った。
谷崎くんと国木田さんが戻る前に決まってしまったが、どの案にしようも、無難なのはこれしか無かった。
まぁ、異論はないだろう…。
白板の【社内ニ於ケル厄介事ノ解決】の上に花丸が書かれた。
「あれ?乱歩さんはもう行かれたンですか?」
そう云いながら、戻ってきた谷崎くん。
手元には、急須があった。遅いと思っていたが、お湯を沸かしていたのだろう。だから、時間がかかったのだろうな。
そろそろ無くなりかけている皆のお茶を入れてくれた。
太宰さんが谷崎くんに、うんそうだよーと、告げると、本当にすぐ国木田さんが戻ってきた。所用とは一体何だったのだろう。まぁ、気にしても意味が無いだろうが。
「厄介事…何がいいかな。」
こう告げた太宰さんにより一同はまた考え込む。細かなことが決まってないからな…。
「昇降機(エレベ-タ-)の調子が悪いのだよね。」
「管理会社に問い合せましょう。」
「手術室の備品が切れかけていてねェ。」
「通いの薬屋さんにお願いしときますね!」
『冷蔵庫に入っている謎のモノなんですけど。』
「それはそっとしておきましょう。」
「事務員さんが、昼食時に丁度いい店屋物が欲しいって云ってましたが……。」
「新人に蕎麦屋でも開店させる心算か?」
ちょうどいい規模の厄介事が転がっているわけでもなく、皆はまた考え込んでしまった。
「何だか議論が最初に戻っちまったねェ。」
与謝野女医が不満げに云った。
「何かもうちょっと規模のでかい問題はないもんかね。」
「社長がまだ独身なンですが……。」
「規模がでかすぎる!」
一同は頭を悩ませ、互いに顔を見合わせた。
そして、結局「なければ作るしかない」という結論に至ったのであった。
事件の偽装。
つまり、狂言である。
誰かが偽の事件を起こして、その場に偶々居合わせた新人に問題を擦りつければよい。そうすれば、新人の実力試しにもなるだろう。
それしかない、そういう空気になった。
私だってそれがいいと思っている。
いい加減、考えるのも面倒になってきたところだし。
「待て。」
国木田さんの声がその空気の中響いた。
どうしたというのだろう。
「狂言も結構だが、ここで根本的な問題を示したい。太宰だ。」
そう云うと、国木田さんは太宰さんを見た。太宰さんは嬉しそうに自分を指さした。
「私?」
ああ、国木田さんのいうことが分かった気がする。
自分だけ損な役回りをしないようにさり気なく他人に押し付けるだろう。
太宰さんなら、やりかねない。
「そうだ。このままいけば、社外に迷惑が掛からぬよう、社内で事件を偽装する線で固まるだろう。そして誰かが、騒動を準備し問題を演出することになるだろう。そこまでは善い。しかし。」
「しかし?」
「全員、そもそもの事の次第を思い出してほしい。今回の新人勧誘騒動は、他の誰でもない太宰が云い出したことだ。災害指定猛獣などという野蛮な代物を、捕縛するでも保護するでもなく、よりによって探偵社に入社させるなどという恐ろしい発想は、ひとえにこのワカメ脳による適当な思いつきだ。」
ワカメ脳か、なかなかセンスあるな。
笑いだしそうであったが、ここは我慢しなければ。
それほどでも、と云う太宰さんは笑って頭を掻いていた。
「褒めていない。無論俺も、そこからの再考まで進言する気はない。社長が許可を出したことだからな。」
国木田さんらしい意見だ。
「だが、俺は太宰の性質を厭というほど知っている。こういう場合の太宰の遣り口はきわめて明確だ。」
国木田さんはそこで言葉を切り、会議室内を見回してから、云った。
「『思いつきは必ず実現する。ただし面倒な部分はさりげなく他人に押し付ける』。――違うか太宰。」
太宰さんは、大当たりとでも言うようににやりと笑って頷いた。
「バレてたか、流石は国木田君。」
「褒められても嬉しくない。兎に角、俺はこいつの遣り口のせいで何度も煮え湯を飲まされてきたのだ。押しつけ、転嫁、責任回避。煽てておいての梯子外し。今度は騙されぬと固く誓っても、いつの間にか太宰の思い通りの軌道(レ-ル)の上を走らされている。おかげで俺は太宰と組んだこの二年、散々な思いばかりしてきた。寒中のドブ浚いをする羽目になったり、百貨店の女子更衣室に落下したり、飲まされすぎて記憶を失って他人の寝所で目が覚めたり。」
『散々でしたね、国木田さん…。』
「アンタら二人そんな面白いコトになってたのかい。」
「国木田さんは心が強いのですね!」
二年間、大変であっただろう。
その中に、私がいなかったことが何よりの救いかもしれない。
今度から報酬の甘いものを控えるようにしようか…。
乱歩さんもありがとねーと言っていた。
「そういやこの肉まんどうしたの?」
『お得意様から頂いたみたいです。なかなか美味しいですよね。』
「そうだね。あっつ。」
まだほくほくと湯気がたつ肉まんを美味しそうに頬張っている乱歩さん。
すると一言。
「白板に書いてあるのが候補なのかい?」
『はい。そんな感じです。』
「へぇ…。」
そう言うと、肉まんを食べ終えたようでご馳走様、と手を合わせていた。
「この時間に食べれる肉まん屋さん探してこよー。」
「おや、行かれるんですか?」
「うん。ない智恵絞って頑張ってるしねー。まぁ、適当に頑張ってね。」
そう言って太宰さんの言葉を流した乱歩さんは、コテコテという足音を伴って去っていった。
「すまない、所用を思い出した。少し行ってくる。」
そう国木田さんが言った。
すぐに戻ってくると言って、国木田さんも会議室をあとにした。
残った一同は白板を再度見つめた。
『やっぱり、谷崎くんの案が無難でいいんじゃないですか?』
「まぁ、たしかに。この当たりが妥当だよね。」
太宰さんもそのように言った。
谷崎くんと国木田さんが戻る前に決まってしまったが、どの案にしようも、無難なのはこれしか無かった。
まぁ、異論はないだろう…。
白板の【社内ニ於ケル厄介事ノ解決】の上に花丸が書かれた。
「あれ?乱歩さんはもう行かれたンですか?」
そう云いながら、戻ってきた谷崎くん。
手元には、急須があった。遅いと思っていたが、お湯を沸かしていたのだろう。だから、時間がかかったのだろうな。
そろそろ無くなりかけている皆のお茶を入れてくれた。
太宰さんが谷崎くんに、うんそうだよーと、告げると、本当にすぐ国木田さんが戻ってきた。所用とは一体何だったのだろう。まぁ、気にしても意味が無いだろうが。
「厄介事…何がいいかな。」
こう告げた太宰さんにより一同はまた考え込む。細かなことが決まってないからな…。
「昇降機(エレベ-タ-)の調子が悪いのだよね。」
「管理会社に問い合せましょう。」
「手術室の備品が切れかけていてねェ。」
「通いの薬屋さんにお願いしときますね!」
『冷蔵庫に入っている謎のモノなんですけど。』
「それはそっとしておきましょう。」
「事務員さんが、昼食時に丁度いい店屋物が欲しいって云ってましたが……。」
「新人に蕎麦屋でも開店させる心算か?」
ちょうどいい規模の厄介事が転がっているわけでもなく、皆はまた考え込んでしまった。
「何だか議論が最初に戻っちまったねェ。」
与謝野女医が不満げに云った。
「何かもうちょっと規模のでかい問題はないもんかね。」
「社長がまだ独身なンですが……。」
「規模がでかすぎる!」
一同は頭を悩ませ、互いに顔を見合わせた。
そして、結局「なければ作るしかない」という結論に至ったのであった。
事件の偽装。
つまり、狂言である。
誰かが偽の事件を起こして、その場に偶々居合わせた新人に問題を擦りつければよい。そうすれば、新人の実力試しにもなるだろう。
それしかない、そういう空気になった。
私だってそれがいいと思っている。
いい加減、考えるのも面倒になってきたところだし。
「待て。」
国木田さんの声がその空気の中響いた。
どうしたというのだろう。
「狂言も結構だが、ここで根本的な問題を示したい。太宰だ。」
そう云うと、国木田さんは太宰さんを見た。太宰さんは嬉しそうに自分を指さした。
「私?」
ああ、国木田さんのいうことが分かった気がする。
自分だけ損な役回りをしないようにさり気なく他人に押し付けるだろう。
太宰さんなら、やりかねない。
「そうだ。このままいけば、社外に迷惑が掛からぬよう、社内で事件を偽装する線で固まるだろう。そして誰かが、騒動を準備し問題を演出することになるだろう。そこまでは善い。しかし。」
「しかし?」
「全員、そもそもの事の次第を思い出してほしい。今回の新人勧誘騒動は、他の誰でもない太宰が云い出したことだ。災害指定猛獣などという野蛮な代物を、捕縛するでも保護するでもなく、よりによって探偵社に入社させるなどという恐ろしい発想は、ひとえにこのワカメ脳による適当な思いつきだ。」
ワカメ脳か、なかなかセンスあるな。
笑いだしそうであったが、ここは我慢しなければ。
それほどでも、と云う太宰さんは笑って頭を掻いていた。
「褒めていない。無論俺も、そこからの再考まで進言する気はない。社長が許可を出したことだからな。」
国木田さんらしい意見だ。
「だが、俺は太宰の性質を厭というほど知っている。こういう場合の太宰の遣り口はきわめて明確だ。」
国木田さんはそこで言葉を切り、会議室内を見回してから、云った。
「『思いつきは必ず実現する。ただし面倒な部分はさりげなく他人に押し付ける』。――違うか太宰。」
太宰さんは、大当たりとでも言うようににやりと笑って頷いた。
「バレてたか、流石は国木田君。」
「褒められても嬉しくない。兎に角、俺はこいつの遣り口のせいで何度も煮え湯を飲まされてきたのだ。押しつけ、転嫁、責任回避。煽てておいての梯子外し。今度は騙されぬと固く誓っても、いつの間にか太宰の思い通りの軌道(レ-ル)の上を走らされている。おかげで俺は太宰と組んだこの二年、散々な思いばかりしてきた。寒中のドブ浚いをする羽目になったり、百貨店の女子更衣室に落下したり、飲まされすぎて記憶を失って他人の寝所で目が覚めたり。」
『散々でしたね、国木田さん…。』
「アンタら二人そんな面白いコトになってたのかい。」
「国木田さんは心が強いのですね!」
二年間、大変であっただろう。
その中に、私がいなかったことが何よりの救いかもしれない。
今度から報酬の甘いものを控えるようにしようか…。