｢新人は根性がいるからねェ｣


与謝野女医がそう云い案を上げたが刳すぎな上に痛い系のテストになっていた。
痛い系から離れてくださいと告げる谷崎くんに次はこういった。


｢じゃあ、妾と日本酒の飲み比べをして勝ったら合格。｣

｢アルハラ！｣

『それ以前に、彼は未成年何じゃないですか…？孤児院にいたぐらいですし。』

｢それもそうだねェ…。｣


気付けば太宰さんが白板に【アルハラ】と書き込んでいた。いや、だから無理だろう…。


｢ねぇ、先刻から黙りこくっている国木田君。そろそろ真打ち登場といこうじゃないか。先輩として、何かしら彗星のごとく輝く意見を垂れるならば、今をおいて他にないよ？｣

｢……お前の『持ち上げておいてからの神速の梯子外し』を知悉している俺からすれば、今の台詞で立つのはやる気ではなく鳥肌だが。｣

｢そう？それなら、薙澄沙ちゃんは？薙澄沙ちゃんも若いとはいえ先輩でしょう？｣

『私は無難な【社内ニ於ケル厄介事ノ解決】でいいと思いますけど…。』

｢そっか。何の案もないんだね…。｣

『無難なのが一番ですよ。』

｢…太宰を倒せたら合格というのはどうだ。｣


私と太宰さんが話している間に案を固めたようだ。
成る程、国木田さんらしい…。
谷崎くんも感心したようにぽんと手を打っていた。


｢…他には。｣

｢太宰をぎゃふんと云わせ、これまでの悪さを反省させられたら合格。｣

｢成る程ですねぇ…。｣

｢他には。｣

｢太宰を……！こう、木の板の間か何かに挟んで上下からぎゅうぎゅうと圧力を掛け、高温の蒸気を吹き付けながら細い針を何本も刺しらたまに電流をながしながら耳元でこう『お前のせいだ、お前のせいだ。』と繰り返し、それからこう、こう……！｣


国木田さんはおそろしく熱の入った動作で、身振り手振りで空中の見えない何かを叩き、捻り、揺すっていた。
きっと太宰さんであろう何かを血走った目でいたぶっているのであろう…。

会議に現在参加している全員引いた。


｢えーと……何か、ごめん。｣

｢でも反省はしてませんよね太宰さん。｣

｢うん。｣


そこは、嘘でもいいから反省していると言った方がいいのではと思った。

国木田さんはまだ空中を殴ったりしていた。

…誰か国木田さんを止めてあげて。


コンコンと会議室にノックの音が響いた。


｢失礼いたします。皆様、会議お疲れ様ですわ。お得意様から差し入れをいただいたものですから、少しお手をお休めになって、おひとついかがかしら？｣


入ってきたのはナオミちゃんだった。珍しく遅くまで残っているのかと思ったら、谷崎くんもそう思ったみたいで先に帰ったと思ってたと云った。


｢兄様と一緒に帰ろうと思って、待っていましたの。｣


ああ、なんと健気な妹なんだろう。
ナオミちゃんは手馴れた様子で机の上に緑茶と肉まんを置いていってくれた。
出来立てのようで、善い匂いのする湯気を立てていた。
そして彼女はいつも通り、妹とは思えぬ行動をした。

会議室の全員は見なかったふりをした。

彼らにとっては日常茶飯事なのだ。
谷崎くんも実の妹だと云っている。そして、ナオミちゃんも実の兄だと云っている。

パッと見たことろ似ているところはないが…。

その上、ナオミちゃんに関しては谷崎くんに対し、場所も構わず人目も憚らずに肉体的接触を試みている。
まぁ、それに反応する谷崎くんを楽しんでいるような気配しかないが…。

そんなことを考えている間に目の前の2人は素晴らしい世界を作っていく。
出来立てであろう肉まんよりも熱い世界だろう…。
この2人は本当に血縁関係があって兄妹の二人暮らしは大丈夫なのかと聞く人は居なかった。
聞いてみてあっさり認められたらどう反応すればいいのだろう。
私にはわからない。


｢肉まんおいしいです！｣


賢治くんは気にせず肉まんを食べていたようだ。
やっぱり、なにかズレている。


｢ねぇ、ナオミちゃん。序でに何かひとつ、案を出していっては如何かな？｣


太宰さんが提案した。
まぁ、新しい無難な意見が貰えればそれになる可能性もあるだろうしなと思った。


｢今、新人の入社試験について、皆で意見を出し合っているのだよ。｣

｢まぁ、それは素敵ですわ。でも私なんかに思いつきますかしら――。｣

｢案だからね、何でも大歓迎だよ。ナオミちゃんが得意な領域の話題でいいよ。｣

｢ばっ｣


国木田さんが表情だけで太宰さんを抑制しに行ったが時既に遅し。


｢そうですわね――｣


ナオミちゃんは小首を傾げて少し考え、頬を染めながら三つほど案を出した。









残念ながら、ちょっとここに書けるような内容ではなかった。