あの出来事を忘れられないままやってきた夜。
これから会議室に行かなければならないと思うと気が重い。


｢あれ、薙澄沙さん今からですか？｣

『賢治くん。』


廊下で賢治くんにばったりあった。
ああ、これはサボれないな…。


｢今からなら一緒に行きましょう！｣

『はい。』


まぁ、太宰さんの事だからあまり気にしたいだろう。
気にするのは私ぐらいだ。

会議室のドアを元気よく開け挨拶するその後に続き私も部屋に入った。
部屋には、太宰さん、谷崎くん、国木田さん、与謝野女医がいた。
白板には、私たちが来るまでに出たであろう案が書かれている。

【依頼解決ノ合否】
【社内ニ於ケル厄介事ノ解決】

まぁ、なんと無難な案が出ていることでしょう。
変人の巣窟である探偵社では珍しいことだ。写真にでも収めておこうか…。


｢僕と腕相撲をして勝てばいいんだとおもいます！｣


不意に後ろから聞こえてきた賢治くんの発言により参加者全員が真顔で無言になった。
太宰さんまでもだ。

この時全員思った。



これは無理だ。



賢治くんの異能『雨ニモ負ケズ』は身体強化の異能であり怪力である。
怪力自慢の力士3人と勝負をしたことがあったが3人同時に綺麗な放物線を描いて飛んでいった。
一体落下地点はどこだったのだろうか。探そうと思ったが骨の折れる作業になりそうなのでやめた記憶がある。

その賢治くんと腕相撲。

敦くんの腕がポロッと取れただ事ではすまない映像が頭の中で流れた。


これは無理だ。


谷崎くんが口を挟んだが与謝野女医は善いかもとつぶやくのを聞き背筋が凍った。


｢ほ、他にないかな？｣


と、谷崎くんが聞いたが時間がかかりすぎる案や賢治くんならではの案ばかり出てどれも却下になりそうだったが、太宰さんは白板に『豊臣秀吉』と書き込んでいた。

1晩で建物を作るのは…。
普通の人では難しいだろう。




敦くんの入社試験の案はなかなかまとまらなかった。
より正しく健やかな新人を選出するために一致団結して議論に熱を入れた
――訳ではなく、単に全員の個性が特殊すぎ｢ほどほど｣の案が全くでなかったためである。

私は思った。






帰りたい。