コードギアス(短編)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
看病してくる上司の話。
「ぶえっくしゅ……! うう、今日は冷えますね……」
季節は寒い冬の日、風邪気味になってしまった私はしきりにくしゃみをしていた。デスクの隣にあるゴミ箱の中は、早くも鼻をかんだティッシュでいっぱいだ。 通りがかったロイドさんが、私のゴミ箱を見てギョッとする。
「あらぁ、夢主くんもしかして風邪?」
「はい、昨日から鼻風邪っぽくて……熱は無いので大丈夫だと思います」
「そ〜ぉ? ならいいけどさ、無理はダメだよ〜」
そう言うなりロイドさんはそのまま自分の持ち場へと戻っていった。正直、研究以外のことを歯牙にもかけないロイドさんがここまで心配してくれるなんて意外だったけれど。
その日の昼下がり、私は一人で研究資料の整理を行っていた。今日中に終わらせなければ明日に響いてしまうくらいの量なのに、なかなか手が進まない。頭がぼーっとする。額に手を当ててみると、案の定いつもより熱い気がする。体温計が無いからわからないけるど、少なくとも平熱ではないはずだ。
なんとか仕事を進めようとペンを握ったものの、すぐに手を止めてまた机に突っ伏してしまう。この調子では作業効率は期待できないどころか、むしろ悪化してしまいそうだ。仕方なく私は椅子から立ち上がり、ふらふらとロイドさんの所に向かおうとして、そのまま意識を手放した。
「……、くん、夢主くん、起きて!」
ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、仮眠室の天井が目に入った。それから心配そうな表情のロイドさんが。
「あ、あれ、私……」
「まったくもう、びっくりしたよぉ。いきなり倒れるんだもん! 僕は無理しないでって言ったのに〜」
「すみません……」
「僕が受け止めたからよかったけど、倒れた拍子に頭でも打ったら大変なんだから!」
ロイドさん、成人女性が倒れこんでくるのを受け止められるだけの筋力はあるんだ。意識のない人間なんて支えるだけでも大変なのに。そんなことを考えながらぼんやりとしていると、いつの間にかロイドさんの顔がすぐそこにあった。
「ほら、とりあえず、お水飲んでぇ!」
渡されたコップを受け取り、一気に飲み干す。冷たい水が喉を通り抜ける感覚が心地よい。少し落ち着いたところで改めて礼を言う。
「ありがとうございます、助かりました」
「ほんとだよぉ、もう。具合が悪いときはちゃんと言ってよね。一応上司なんだしさぁ」
どれくらい気絶していたのかわからないけれど、横になって少しだけ回復したし、早く仕事に戻らないと。
そのままベッドから降りようとする私の額に、ロイドさんはぴとりと手のひらを当てた。
「まさか仕事に戻ろうだなんて思ってないでしょうねぇ。まだ熱だって下がってないのに」
「うっ……バレちゃいましたか……」
「まぁね。僕の権限でしばらく休んでもらうから」
「あの、せめて今日の分の仕事だけは……」
「だ~め! 上司命令だからね〜」
こうして私はしばらくの間、仕事を休むことになったのだった。
~~~~~~~~~~~~~
それから数日後。相変わらず熱は下がらないし、病院で貰った薬も効いている気がしないし。何よりずっと一人で寝込んでいるのは孤独で仕方がない。
ぼうっとした頭で放り出してしまった仕事のことばかり考えていると、唐突にインターホンが鳴った。
「はい……?」
ふらふらと玄関に移動してドアを開けると、そこにはロイドさんの姿があった。なにやら大きな袋を抱えている。
「あ〜やっと出てくれたぁ。夢主くん、全然連絡つかないからさぁ、死んじゃったかと思ったよ」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ」
「ごめんごめん〜」
いつも通りの軽口を叩きつつ部屋の中に招き入れると、彼は抱えていた荷物をドサリと机に置いた。
「これ、差し入れ持ってきたんだけど食べれそう? ゼリーとかプリンとか色々買ってきたからさ、好きなの選んでね」
「あ、ありがとうございます」
「あとこっちは冷えピタね〜」
そう言って取り出したのは冷却シート。わざわざ買いに行ってくれたのだろうか? ありがたいけれど申し訳ない。
「すみません、こんなにたくさん……」
「いいのいいの、気にしないで。それより……」
ロイドさんは唐突に腰を曲げると、私の額に自分の額をこつん、と当ててきた。眼鏡の下の綺麗な瞳が、まつ毛の一本一本までよく見える。
「まだ熱あるでしょお。早く元気になるんだよ~」
「はい、わかってます。すみません、心配かけて」
「謝ることじゃないけどさ〜」
そう言いつつも額を離そうとはせず、じっと見つめてくるものだから、私の方が耐えられなくなって目を逸らす。すると今度は、彼の手が頬に添えられた。ひんやりとした手が気持ちいい。
「無理しないって、約束できる~?」
「わかりました……」
「わかればいいの! それじゃ、無理しないようにねえ」
それだけ言うと、ロイドさんはそのまま帰っていった。風邪、うつしてないといいけれど。
そんなことを考えながらまだ熱い額に冷えピタを貼った。ロイドさんの手と同じくらい、ひんやりした。
4/4ページ