ジョジョの奇妙な冒険(短編)
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死に死に死んで死の終りに冥し
「そんなに魘されて何かあったのか、花京院」
エジプトへ向かう旅の途中、とある安宿に泊まった時だったか。夜中にふと物音がして目が覚めたんだ。スタンド攻撃か、と思うとぼんやりしていた頭も一気に冴えて、音が聞こえてくる花京院の部屋に迷いなく押し入った。だがそこには敵の姿なんて見えやしなかった。暴れていやがったのは眠っている花京院だったんだ。あまりの魘され方に、おれは躊躇なく体を揺さぶった。
「っ……、ごめんよ、承太郎。悪い夢を見たんだ」
目が覚めたあとの花京院は、見たことがないくらい憔悴しきっていた。涙か鼻水か知らないが顔はぐちゃぐちゃで、どこか放心状態だった。そういえば花京院は前にも魘されていたことがあったな、精神的に弱っているんじゃあないかと心配になって、夢の内容を聞いてしまった。今思えば好奇心もあっただろうが。花京院はしばらく言い渋っていたけが、やがてベッドの縁に腰掛けて、ぽつぽつと喋り出した。
「昔の恋人が、夢に出てきたんだ」
昔、といってもほんの一年前とか、それくらいの。少なくとも承太郎と同じ学校に転校する前の話さ。恋人なんて大層な関係じゃあない、ただの幼馴染かもしれないけれど、確かに僕たちは愛し合っていたんだ。
夢主といってね、本当に愛らしい子だった。中学に入ってから仲良くなったんだけれど、生まれつき身体が弱かったらしくて、入退院を繰り返していたんだ。彼女にプリントを届けに行ったり、授業のまねごとなんかをしてやっているうちに、次第と仲良くなった。
彼女の病状は思わしくないようで、高校に入ってからはほとんど入院していた気がするよ。それでも病気が治ったら一緒に出かけるんだとか、そういった呑気な約束を交わしていたんだ。僕がエジプトへ家族旅行へ行くことになった時も、彼女は笑って見送ってくれたさ。ベッドから身体を起こすのも辛いくらいの病状で、本当は一緒に過ごしたかっただろうに。ああ、惚気じゃあないんだ。最後まで聞いてほしい。
旅行先で忌々しい肉の芽を植え付けられて、承太郎やジョースターさんを始末することしか考えられなくなって、彼女のことを放ったらかしにしてしまったんだ。結局、それから一度も彼女には会いに行かなかった。何故かはよく覚えていないが、忘れていたのかもしれない。情けないだろう、こんな男。
君が肉の芽を除去してくれた時、真っ先に夢主のことを思い出したんだ。エジプトへ行ったのが数ヶ月前だろう? それから一度も彼女には会っていない。考えるだけで恐ろしかったよ。こんなことを言ってはいけないだろうけれど、彼女はエジプトへ行った時点でもうかなり弱っていたんだ。あと一ヶ月持つかどうかだな、なんてのは素人の僕でもわかるくらいにやつれていたんだよ。
結論から言えば、夢主は死んでしまった。エジプトに行ったっきり、一度も病室を訪れない僕を心待ちにしながら。葬式も何もかもとっくに終わっていたし、電話口の彼女の親御さんも、どうして今更、なんて動揺が隠し切れていなくてね。
この旅の途中、僕も承太郎も、仲間たちも何度も何度も死にかけただろう。それを実感する度に思うんだ。一人で死ぬのは辛いだろう、って。僕は彼女にそれを強いたというのに、心のどこかで怯えているんだ。でも、でもだ。それならいっそ、一思いに殺してほしいとも思ってしまうんだ。彼女が居るならきっと、天国だって地獄だって悪くないと思えてしまうんだ。絶対に負けられない戦いなのはわかっているさ、それでも諦めのような気持ちが這い寄ってきて、無意識に死んでもいいと思ってしまうんだ。
「なあ、承太郎。日本に戻ったら、僕は彼女の墓前に花を手向けに行こうと思うんだ。それまで絶対に、僕を死なせないでほしい。夢主のためにもDIOを絶対に倒さなくちゃあならないんだ」
「お前もくだらねえ仇討ちか、花京院」
長話の終わりに、煙草を咥えた。煙の向こう側で、花京院は何も言わずにただ泣いていた。
花京院の墓は、彼女と同じ故郷にあるんだろうか。
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