ジョジョの奇妙な冒険(短編)
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The Sickness unto Death
ぬるい二人分の呼気、静寂のBGMはかすか、エアコンの稼働音。空っぽの部屋をサーチライトのように視線が行き来して、かち合った瞬間に表情が綻ぶ。
もう何度目だろうか今夜は、出しっぱなしの発泡酒はすっかり温まってしまった。彼女は、本題をデザートの手前まで大事に取り置く癖がある。
「また別れたの」
「男とか?」
「うん」
プロシュートはため息を吐いた。内臓から直接せぐり上げたかのような質量が、部屋をほんの少しだけ狭くした。夢主はその毒に中てられることもなく、相変わらずへらへらと頬を緩ませる。
「テメェは男を選り好みしすぎだ、白馬の王子様でも探してんのか」
「私だって別れたくてあれこれ欠点を探してる訳じゃないんだよ、ただ近くにいると嫌だなあってところばっかり目について嫌いになっちゃうだけ」
「それを理想が高ェって言うんだよ」
まるで夢主の言葉が予測できたかのようにプロシュートは言い返した。実際、夢主はいつもそうだ。タバコが嫌だとかいびきがうるさいのが気に食わないとかそういう理由で簡単に男と別れては、また新しい男を作っての繰り返し。そのループには「彼氏と別れた後、プロシュートに愚痴を垂れる」というのも当然のように組み込まれている。
プロシュートとしてはそれが気に食わなかった。だからこそ夢主には辛く言う節がある。夢主はそれを理解しているのかしていないのかへらへらしてばかりだが。
「いい加減お前も身を固めろよ。いつまでもフラフラ遊んで一喜一憂するなんてみっともねえ」
「だから、それができないから困ってんじゃん……結婚なんて全然考えてないし」
「それじゃあ一生寂しく独りモンだぜ」
「そんなあ。もっと優しく慰めてくれてもいいのに」
「テメェみたいな女、甘やかしたらつけ上がるだろうが」
「そうだけどさぁ…」
むくれる彼女の横顔を眺めながら、プロシュートは煙草に火をつけようとして、一瞬迷った末にその手を止めた。夢主が自分のことを兄のようにしか見ていないというのは、普段の振る舞いからして安易に予測できることだったから。代わりに彼は飲みかけの発泡酒を一気に呷ると、立ち上がってキッチンに向かった。冷蔵庫を開ける音が聞こえたかと思うと、すぐに缶ビールが二本差し出される。
「ほらよ」
「え? 何これ」
「俺からの奢りだ」
「ありがと」
冷えた缶を当てて頬の熱を冷ましている夢主を見つめながら、プロシュートは再びぬるい溜息を吐いた。
「さっさと良い男見つけろよ、いつまでもこんな話に付き合ってられるほど暇じゃあねえ」
「そんなカリカリしないでよ、あ、もしかして」
夢主は半ばやけくそになりながら酒を呷ると、まるで決定的な証拠を見つけてやったとでも言わんばかりの得意げな顔で言い放つ。
「タバコ、辞めたでしょ。そりゃイライラするよ」
「……今日は気分じゃねえだけだ」
プロシュートは図星でも突かれたかのようなリアクションを取って、頭を抱えるようにして項垂れた。
死に至る病は、ドアを閉め切るよりも早く迎えに来た。
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