第五章:メレッド
――戦況はやや押され気味といった具合だ。
シャルヘヴェット、テヴァ、カナフ、それぞれ傷を作りながらも少しずつ敵の数を減らしているが、構成員らも気づいた頃に起き上がり、また攻撃を仕掛けてくる。
いっそのこと、容赦のない相手に合わせてこちらも息の根を止めるつもりで動けば楽なのかもしれないが、いくら敵であっても人を救う使命で動く彼らにそれは憚られた。
しかし、そろそろ檻の中で魔物の攻撃を防ぐピウスの魔力が持たないのではないか、とシャルヘヴェットは懸念していた。
想像以上に持ちこたえるシャルヘヴェットたちに、ブティードゥートも少し疲れを見せ始める。
「魔法が使えないのに、ここまでやるとは。恐れ入ったよ」
「最初っから私たち従者は、魔法なんて使えませんから!」
カナフが威勢よく大声で返す。
「はン、大したガキだね!魔導兵器のくせ――」
言い切る前に、シャルヘヴェットは今まで狙わなかったブディードゥートの顔面に向かって、素早く剣を突きつけた。
彼女は体勢を崩しながらも大剣でそれを防ぎ、まだ喋ってんだろが!と怒鳴りつける。
シャルヘヴェットはそれもお構いなしに剣を振るうが、ブティードゥートも負けじと大剣を振り回し、次々攻撃が打たれては防がれていく。
「いい加減、鍵を渡せ!」
「いい加減に捕まってくれるかい!」
時々巨大な剣の刃先が体を掠り、血を滲ませ、じわじわとシャルヘヴェットの体力を奪った。
一進一退の攻防、剣の重なりで痺れる腕、落ちる汗に、呼吸は絶えず苦しい。
勝敗を分かつ一手が決まるより、気力比べをしているような気分だった。
――その時、見慣れた蹴り技がブティードゥートの後頭部を襲った。
「ぐっ――!」
前かがみにふらつくと、ブティードゥートは頭を押さえて振り返る。
「なんだァ……!?」
「は?なんで倒れないのよっ」
乱入してきたのはツェルだった。
彼女は無駄のない動きで足技を繋ぐ。思わず、周りの人間はその軽快な技の連続に目を奪われた。
小柄な体格を活かした素早い一撃、一撃に、しっかりと重みが乗っている。
ブティードゥートは連撃を受けて片膝をついた。
「ぐっ……何モンだ、あんたは!」
シャルヘヴェットはこの技を知っていた。
そう、散々背中を支えてもらった、一番互いを活かせる動きだ。
彼の中のわずかにあった疑いが、確信に変わる。
「――ツェル、後ろ十二時の方向です!」
シャルヘヴェットの掛け声に、ツェルはハッとして翻ると、背後から迫ってきた男を殴り飛ばす。
それからシャルヘヴェットの方に目をやり、
「五時に上方!」
と彼女が言い返すと、今度はシャルヘヴェットが後ろを見ずに剣を手に振り向き、構成員の攻撃を弾き返した。
距離を詰めると頭を狙って気絶させ、ツェルの声でまたくるりと旋回する。
「下から大振り来ます!」
「足元、引いてください!」
二人が互いに声を掛け合い背後の視線を補う戦い方に、従者二人は呆気に取られた。まさに連携だ。
「なんなんだあれ」
テヴァは正体の分からないツェルを怪訝そうに眺めながらも、その的確な指示と動きには純粋に感心していた。
彼女の加勢で一気に戦況が追い風に変わる。
シャルヘヴェットは上体を崩したままのブティードゥートに迫り、彼女が身を起こしたタイミングを狙って、胸ポケットの鍵を奪い取った。
「な、この野郎!」
ブティードゥートは即座にシャルヘヴェットの肩を掴み、地面に押し倒した。
起き上がろうとするシャルヘヴェットに馬乗りになり、腕を押え付ける。
しかしそれとほぼ同時に、シャルヘヴェットは近くにいたテヴァに向かって鍵を滑らせた。受け取ったテヴァが檻の扉へ、傷もお構い無しに敵を薙ぎ倒して突破する。
鍵を奪われた状況に反して、ブディードゥートはニヤリと笑みを浮かべた。
「ハァハァ……今更、いいさ、あんなもん」
シャルヘヴェットを押さえ付けたままブティードゥートは恍惚として、腕を握った手に力を込めた。
「長々と遊んじまったね……」
「っ……この力も薬か……」
「はは、よくできてるだろ。ウチの薬はさ」
もがいてもビクともしないブティードゥートの体に、シャルヘヴェットは為す術がない。捕まった腕がミシミシと嫌な音を立てる。
ツェルが助けに入ろうとした時、檻が大きな音を立てて開き、ピウスと魔物が外に出た。
魔物の唸り声が部屋中に鳴り響く。
魔物は檻から出ると、ブティードゥート目掛けて大口を開けて突進してきた。
「――ッ……!?」
その口は彼女の左肩を一瞬にして食い潰し、ブティードゥートは悲鳴をあげてシャルヘヴェットの上から遠のく。
隙を見て、シャルヘヴェットはすぐそばの魔物と距離をとり、顔を見上げた。
「イマ、さん……」
改めて近くで見る魔物の姿に、かつての穏やかなイマの面影は微塵も残っておらず、シャルヘヴェットは苦渋の色をうかべ剣を取る。
「……」
切るのか?
このまま剣を振ると、もうイマさんはそこで――……。
この距離で、この剣で、どこにどう動けば目の前の魔物を葬れるのか、シャルヘヴェットはわかっていた。
わかっていたはずなのに。動くはずなのに、腕が、ひどく重い。
振り上げようとした剣先が魔物の腕に弾かれ、続けてもう片方の巨大な腕が、シャルヘヴェットの体を軽々と弾き飛ばした。
鉄製の柵に背中から打ち付けられ、がしゃんと鈍い音を鳴らしてその場に崩れ落ちる。
「シャルヘヴェット様!」
柵の傍にいたテヴァが叫んだ。
次々に敵に迫られ、駆け寄る隙は与えてもらえないが、テヴァは襲いかかってくる構成員らの隙間からシャルヘヴェットの姿を覗く。
近くだったからわかったのかもしれない。彼の困惑する表情が、テヴァにははっきりと見えた。
「……!」
何度も共に感染地で魔物と対峙してきたが、あんな顔を見るのは初めてだった。
そう、いつもなら苦悩しながらも、その奥に意志を感じ取れる『揺らがなさ』があるのだ。この人は動けるし、この人について行けばいいという、絶対的な安心感が。
魔物はまだ彼を狙っている。
恐らくこのままでは、シャルヘヴェットは太刀打ちできない。そう思えた。そういう顔をしていた。
傷が重なってじくじく痛む腕を押さえつけて、テヴァは剣を強く握り直す。
あの魔物になってしまったヒトが、シャルヘヴェットにとってどんな存在であったかは知らない。
目の前には、彼女を懸命に人に戻そうともがいていたピウスもいる。そして何より、その人はアディンの母親だ。
きっと、同じだったのだろう。
テヴァの父を目の前で切ると決めたあの時、シャルヘヴェットは同じ選択を迫られ、あの重たい剣を振るっていたのだ。
(ああ……あなたはこんな気分の悪い思いを、何度も何度も繰り返してきたんすね)
本当にこんなこと、気分が悪くて仕方がない。
誰かに言われて振るっている剣とはわけが違う。
己が、今、振るわなくてはならないと決断して振るう、自らの剣だ。
自分がしゃしゃりでてきていい場ではないとも思う。
(けど、シャルヘヴェット様の『願い』は――)
もし俺が判断に迷って動けなくなった時は、代わりに『決断』してくれませんか。
「……っ」
大きく息を吸って、左の拳で胸の真ん中をどんと強く叩いた。
「カナフッ!」
テヴァは目一杯の声でカナフを呼ぶと、剣を構えて魔物に直進した。
間に割り込む敵を、呼び声とともに駆けつけたカナフがはじき返し、道を開ける。
刃でえぐられた傷くらい、走れるのなら気にしない。とにかく目の先へ。
今、俺が切るべきは――。
振り上げた刃が魔物の喉元にあたった時、嫌に重たく沈み込むような、肉にも似た、ぐにゃりとした感触が伝った。
それ自体、魔物を葬った時に味わったことのある感触のはずだったが、なんだかもっと嫌なものを切ったような、そんな気持ちの悪さがそこにはあった。
腕に伝わる重たさを押し切り、空を裂いた剣が魔物の頭を切り離すと、それは光の粒となって消えていく。
呼吸を荒くして、テヴァは静かにその光を見送った。
時間としては僅かながら、その光の行方を辿れなくなくなるまで見届けると、シャルへヴェットとピウスの方を一瞥し、まともに顔も見れずに視線を床にずらす。
「……ごめんなさい」
この言葉は違うなと過ったが、どうしても、この言葉しか出てこなかった。
「――もらった!!!」
不意に時の流れが戻ったかのように、ブティードゥートの声がシャルヘヴェットのすぐそばで響く。
「シャルヘヴェット様!」
遠くからカナフの叫び声が聞こえた。
詰め寄ったブティードゥートの大剣がシャルヘヴェットの腹に差し掛かったその時、彼女は横から強い圧を受けて、剣を離すと転がった。
「……殺すのは私の予定だろう」
離れたところからブティードゥートに投げかけられた声は、ピウスのものだった。
彼は喪失感で力の入らない自らと、同じく呆然としていたシャルヘヴェットを叩き起こすように声を張って呼びかける。
「シャル!今、この部屋の魔法無効化が解けているみたいだ!」
「!」
「なに!?そんなはずはない!」
ブティードゥートは焦りを浮かべて起き上がる。今、彼女を浮かせたのはピウスの風魔法だった。
怒りのままブティードゥートはピウスの方へ重たい体を走らせた。
その通路を遮るように、ピウスは風を細かく操って今日に足を取る。繰り返し体勢を崩し、食われた片方の肩のダメージにも影響を受ける彼女はまともに前に走れない。
「クソッ、小癪なことすんじゃないよ!」
ピウスの言った通り、部屋の魔法無効化が解除されていた。
カナフやテヴァにも、武器型の魔導兵器を最大限に活用できるチャンスが巡ってきた。ツェルは早速、魔導銃を取り出し構える。
圧倒的優勢に出たが、それでも敵も敵ながら魔導兵器の武器を携えており、何度も起き上がる構成員たちをなかなか押し切れない。
だが、その大量の構成員たちも次の瞬間、足元から迫る冷気に凍てつかされ、間もなく全身が氷の柱に覆われてしまった。
部屋の温度が冷気によって急速に冷え込む。
「はあ、はあ……間に合ったわ……」
「テフィラー!?」
ブディードゥートが彼女の姿を捉え、声を上擦らせた。
「あんた何を!」
肩で息をしながら、扉の先から現れたのはテフィラーだった。
シャルヘヴェット、テヴァ、カナフ、それぞれ傷を作りながらも少しずつ敵の数を減らしているが、構成員らも気づいた頃に起き上がり、また攻撃を仕掛けてくる。
いっそのこと、容赦のない相手に合わせてこちらも息の根を止めるつもりで動けば楽なのかもしれないが、いくら敵であっても人を救う使命で動く彼らにそれは憚られた。
しかし、そろそろ檻の中で魔物の攻撃を防ぐピウスの魔力が持たないのではないか、とシャルヘヴェットは懸念していた。
想像以上に持ちこたえるシャルヘヴェットたちに、ブティードゥートも少し疲れを見せ始める。
「魔法が使えないのに、ここまでやるとは。恐れ入ったよ」
「最初っから私たち従者は、魔法なんて使えませんから!」
カナフが威勢よく大声で返す。
「はン、大したガキだね!魔導兵器のくせ――」
言い切る前に、シャルヘヴェットは今まで狙わなかったブディードゥートの顔面に向かって、素早く剣を突きつけた。
彼女は体勢を崩しながらも大剣でそれを防ぎ、まだ喋ってんだろが!と怒鳴りつける。
シャルヘヴェットはそれもお構いなしに剣を振るうが、ブティードゥートも負けじと大剣を振り回し、次々攻撃が打たれては防がれていく。
「いい加減、鍵を渡せ!」
「いい加減に捕まってくれるかい!」
時々巨大な剣の刃先が体を掠り、血を滲ませ、じわじわとシャルヘヴェットの体力を奪った。
一進一退の攻防、剣の重なりで痺れる腕、落ちる汗に、呼吸は絶えず苦しい。
勝敗を分かつ一手が決まるより、気力比べをしているような気分だった。
――その時、見慣れた蹴り技がブティードゥートの後頭部を襲った。
「ぐっ――!」
前かがみにふらつくと、ブティードゥートは頭を押さえて振り返る。
「なんだァ……!?」
「は?なんで倒れないのよっ」
乱入してきたのはツェルだった。
彼女は無駄のない動きで足技を繋ぐ。思わず、周りの人間はその軽快な技の連続に目を奪われた。
小柄な体格を活かした素早い一撃、一撃に、しっかりと重みが乗っている。
ブティードゥートは連撃を受けて片膝をついた。
「ぐっ……何モンだ、あんたは!」
シャルヘヴェットはこの技を知っていた。
そう、散々背中を支えてもらった、一番互いを活かせる動きだ。
彼の中のわずかにあった疑いが、確信に変わる。
「――ツェル、後ろ十二時の方向です!」
シャルヘヴェットの掛け声に、ツェルはハッとして翻ると、背後から迫ってきた男を殴り飛ばす。
それからシャルヘヴェットの方に目をやり、
「五時に上方!」
と彼女が言い返すと、今度はシャルヘヴェットが後ろを見ずに剣を手に振り向き、構成員の攻撃を弾き返した。
距離を詰めると頭を狙って気絶させ、ツェルの声でまたくるりと旋回する。
「下から大振り来ます!」
「足元、引いてください!」
二人が互いに声を掛け合い背後の視線を補う戦い方に、従者二人は呆気に取られた。まさに連携だ。
「なんなんだあれ」
テヴァは正体の分からないツェルを怪訝そうに眺めながらも、その的確な指示と動きには純粋に感心していた。
彼女の加勢で一気に戦況が追い風に変わる。
シャルヘヴェットは上体を崩したままのブティードゥートに迫り、彼女が身を起こしたタイミングを狙って、胸ポケットの鍵を奪い取った。
「な、この野郎!」
ブティードゥートは即座にシャルヘヴェットの肩を掴み、地面に押し倒した。
起き上がろうとするシャルヘヴェットに馬乗りになり、腕を押え付ける。
しかしそれとほぼ同時に、シャルヘヴェットは近くにいたテヴァに向かって鍵を滑らせた。受け取ったテヴァが檻の扉へ、傷もお構い無しに敵を薙ぎ倒して突破する。
鍵を奪われた状況に反して、ブディードゥートはニヤリと笑みを浮かべた。
「ハァハァ……今更、いいさ、あんなもん」
シャルヘヴェットを押さえ付けたままブティードゥートは恍惚として、腕を握った手に力を込めた。
「長々と遊んじまったね……」
「っ……この力も薬か……」
「はは、よくできてるだろ。ウチの薬はさ」
もがいてもビクともしないブティードゥートの体に、シャルヘヴェットは為す術がない。捕まった腕がミシミシと嫌な音を立てる。
ツェルが助けに入ろうとした時、檻が大きな音を立てて開き、ピウスと魔物が外に出た。
魔物の唸り声が部屋中に鳴り響く。
魔物は檻から出ると、ブティードゥート目掛けて大口を開けて突進してきた。
「――ッ……!?」
その口は彼女の左肩を一瞬にして食い潰し、ブティードゥートは悲鳴をあげてシャルヘヴェットの上から遠のく。
隙を見て、シャルヘヴェットはすぐそばの魔物と距離をとり、顔を見上げた。
「イマ、さん……」
改めて近くで見る魔物の姿に、かつての穏やかなイマの面影は微塵も残っておらず、シャルヘヴェットは苦渋の色をうかべ剣を取る。
「……」
切るのか?
このまま剣を振ると、もうイマさんはそこで――……。
この距離で、この剣で、どこにどう動けば目の前の魔物を葬れるのか、シャルヘヴェットはわかっていた。
わかっていたはずなのに。動くはずなのに、腕が、ひどく重い。
振り上げようとした剣先が魔物の腕に弾かれ、続けてもう片方の巨大な腕が、シャルヘヴェットの体を軽々と弾き飛ばした。
鉄製の柵に背中から打ち付けられ、がしゃんと鈍い音を鳴らしてその場に崩れ落ちる。
「シャルヘヴェット様!」
柵の傍にいたテヴァが叫んだ。
次々に敵に迫られ、駆け寄る隙は与えてもらえないが、テヴァは襲いかかってくる構成員らの隙間からシャルヘヴェットの姿を覗く。
近くだったからわかったのかもしれない。彼の困惑する表情が、テヴァにははっきりと見えた。
「……!」
何度も共に感染地で魔物と対峙してきたが、あんな顔を見るのは初めてだった。
そう、いつもなら苦悩しながらも、その奥に意志を感じ取れる『揺らがなさ』があるのだ。この人は動けるし、この人について行けばいいという、絶対的な安心感が。
魔物はまだ彼を狙っている。
恐らくこのままでは、シャルヘヴェットは太刀打ちできない。そう思えた。そういう顔をしていた。
傷が重なってじくじく痛む腕を押さえつけて、テヴァは剣を強く握り直す。
あの魔物になってしまったヒトが、シャルヘヴェットにとってどんな存在であったかは知らない。
目の前には、彼女を懸命に人に戻そうともがいていたピウスもいる。そして何より、その人はアディンの母親だ。
きっと、同じだったのだろう。
テヴァの父を目の前で切ると決めたあの時、シャルヘヴェットは同じ選択を迫られ、あの重たい剣を振るっていたのだ。
(ああ……あなたはこんな気分の悪い思いを、何度も何度も繰り返してきたんすね)
本当にこんなこと、気分が悪くて仕方がない。
誰かに言われて振るっている剣とはわけが違う。
己が、今、振るわなくてはならないと決断して振るう、自らの剣だ。
自分がしゃしゃりでてきていい場ではないとも思う。
(けど、シャルヘヴェット様の『願い』は――)
もし俺が判断に迷って動けなくなった時は、代わりに『決断』してくれませんか。
「……っ」
大きく息を吸って、左の拳で胸の真ん中をどんと強く叩いた。
「カナフッ!」
テヴァは目一杯の声でカナフを呼ぶと、剣を構えて魔物に直進した。
間に割り込む敵を、呼び声とともに駆けつけたカナフがはじき返し、道を開ける。
刃でえぐられた傷くらい、走れるのなら気にしない。とにかく目の先へ。
今、俺が切るべきは――。
振り上げた刃が魔物の喉元にあたった時、嫌に重たく沈み込むような、肉にも似た、ぐにゃりとした感触が伝った。
それ自体、魔物を葬った時に味わったことのある感触のはずだったが、なんだかもっと嫌なものを切ったような、そんな気持ちの悪さがそこにはあった。
腕に伝わる重たさを押し切り、空を裂いた剣が魔物の頭を切り離すと、それは光の粒となって消えていく。
呼吸を荒くして、テヴァは静かにその光を見送った。
時間としては僅かながら、その光の行方を辿れなくなくなるまで見届けると、シャルへヴェットとピウスの方を一瞥し、まともに顔も見れずに視線を床にずらす。
「……ごめんなさい」
この言葉は違うなと過ったが、どうしても、この言葉しか出てこなかった。
「――もらった!!!」
不意に時の流れが戻ったかのように、ブティードゥートの声がシャルヘヴェットのすぐそばで響く。
「シャルヘヴェット様!」
遠くからカナフの叫び声が聞こえた。
詰め寄ったブティードゥートの大剣がシャルヘヴェットの腹に差し掛かったその時、彼女は横から強い圧を受けて、剣を離すと転がった。
「……殺すのは私の予定だろう」
離れたところからブティードゥートに投げかけられた声は、ピウスのものだった。
彼は喪失感で力の入らない自らと、同じく呆然としていたシャルヘヴェットを叩き起こすように声を張って呼びかける。
「シャル!今、この部屋の魔法無効化が解けているみたいだ!」
「!」
「なに!?そんなはずはない!」
ブティードゥートは焦りを浮かべて起き上がる。今、彼女を浮かせたのはピウスの風魔法だった。
怒りのままブティードゥートはピウスの方へ重たい体を走らせた。
その通路を遮るように、ピウスは風を細かく操って今日に足を取る。繰り返し体勢を崩し、食われた片方の肩のダメージにも影響を受ける彼女はまともに前に走れない。
「クソッ、小癪なことすんじゃないよ!」
ピウスの言った通り、部屋の魔法無効化が解除されていた。
カナフやテヴァにも、武器型の魔導兵器を最大限に活用できるチャンスが巡ってきた。ツェルは早速、魔導銃を取り出し構える。
圧倒的優勢に出たが、それでも敵も敵ながら魔導兵器の武器を携えており、何度も起き上がる構成員たちをなかなか押し切れない。
だが、その大量の構成員たちも次の瞬間、足元から迫る冷気に凍てつかされ、間もなく全身が氷の柱に覆われてしまった。
部屋の温度が冷気によって急速に冷え込む。
「はあ、はあ……間に合ったわ……」
「テフィラー!?」
ブディードゥートが彼女の姿を捉え、声を上擦らせた。
「あんた何を!」
肩で息をしながら、扉の先から現れたのはテフィラーだった。
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