第五章:メレッド
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「あたしは魔法薬製造会社メレッドの長、ブディードゥート。まあ、ボスって呼んでもらっても構わない」
大柄の女は堂々と名乗ってから、指先で弄んでいた鍵を胸元のポケットにしまい込む。
「ブディードゥート、探す手間が省けました。私はイェソド教会祓い師の、シャルへヴェット・フラムマと申します。あなたと話がしたい」
その声色は感情を抑え込もうと、彼が自身に冷静になるように言い聞かせているもののように聞こえた。
「はは、よぉく知ってるさ。探す手間が省けたってのァ、こっちのセリフだがね。いや、捕える手間まで省けたって方が正しいかもしれないなあ」
低く太い彼女の声が、後ろで構える従者たちの警戒を一層強くさせる。
彼女は余裕綽々といった笑顔を向けて、シャルへヴェットに尋ねた。
「それでなんだ?どういう話がしたい。内容に寄っちゃあ答えてやらんでもないよ」
「この組織は何を目的としているのか、教えていただけませんか」
「目的?」
復唱して、ブディードゥートは鋭い目で睨みを利かせる。彼女の片目には眼帯がされていたが、それでも十分にこちらを威圧した。
「それはもちろん、紫眼 の脅威に備えているのさ。あんたたちが仕掛けてきた時に、しっかり応戦できるようにだよ。あたしらは魔法で劣っていると思われているようだからさ、一番油断しているところを突いてやるんだ」
「仕掛ける?」
「とぼけるのか?魔導兵器を教えて魔物化の原因を作ったのはあんたたちだ。
あの装置のせいで魔物化が起こって、何百人、何千人、いやもっとかもしれない人々が犠牲になった。だけども、魔導兵器はどんどん世間に浸透した。そりゃそうだよなぁ、魔法に疎いあたしらは原因がそれだと気づけない。あんたたちの狙い通り」
魔導兵器をこの世界に浸透させ、魔物化を加速させる。この世界の人々が自滅の道を歩み、空っぽになった土地を紫眼 の新天地とする。
その紫眼 の目論みを、驚くべきことに彼女は読み解いていた。
シャルへヴェットもその事実に関しては、認めざるを得なかった。
まさしくその通りなのだ。
だからこそ、シャルヘヴェットはその計画を紫眼 に対して『間違っている』と訴えたい。
メレッドと同じく紫眼 のやり方に問題を感じている立場だが、メレッドはすでに、敵と見なして憎悪の念を抱いているようだった。
「驚いたろ?ここまでバレてることに。いや、仮にこれが妄想だったとしても、この状況を作った奴らは間違いなく敵だね」
「……」
現に魔導兵器は生活に欠かせないものになっている。それを利用して仕事をしている人々も大勢いる。
それが痛いほどわかってるため、せめてもの自身ができることとして赤眼を取り除いているのだ。
しかしその行動が、かえってブディードゥートの思いを逆なでするようなものだった。
「あたしも聞きたいンだけど、祓い師さまは、自分らが起こしてしまった過ちの尻拭いをしてるつもりなのかい?それとも魔物化の原因が自分らにあることは隠して、崇められるために自慰行為 してるってわけかい?」
この質問に、問われた本人よりも後ろの従者たちの方が腹を煮立たせた。
「そんな自己満のためにシャルへヴェット様は赤眼を治しに回ったりしねぇよ」
噛みつくテヴァを、シャルへヴェットが手で制止する。テヴァは納得いかないと眉を寄せるが、カナフにも小突かれて従った。
「紫眼 が魔導兵器を使って行おうとしたことと、私が魔物化を防ごうとしていることは全く関係していないことです」
「んん~……?」
シャルへヴェットの一言目に、ブディードゥートは疑念の相槌を入れた。
「私が赤眼を治すことが可能だったから、そうしているだけです。自分が紫眼 であるかどうかは、行動の理由にはなっていません」
「潔い綺麗事だね、シャルへヴェット・フラムマ」
「しかし、今の私の行動は魔物化が進行するこの世界において、応急処置程度のものにしかなりません。現に、すべての人間を治し切れているわけではないし、魔物化したら戻す術もわからない。おっしゃる通り、私の言動は今は綺麗事にすぎない」
表情を崩さないシャルへヴェットを、ブディードゥートはまどろっこしそうに首を回しながら見据えた。
シャルへヴェットは、詰まるところの重要な部分を彼女に訴えかけた。
「ですが、『魔導兵器を開発できた紫眼 という魔法に強い種族』であれば、その術、或いはほかの方向からの解決策を編み出せるかもしれません」
後ろに立つ従者たちも、彼が祓い師として活動する本来の目的については聞かされていない。
個人的な問題として明かしてもらえなかったその目的を、二人は身を乗り出しそうなところをこらえてじっと耳をすませた。
「今の私にはまだ方法が見つかっていませんが、紫眼 の中にはもっと魔法に詳しい者もいます。私は、紫眼 がこの世界に利益をもたらしながら、共存できるようにしたいと計画してるのです」
「ほう、あんたは紫眼 の動きには沿ってないと。はぁ〜ん?で、あたしらが、あんたの計画の邪魔しないように話を付けに来たってわけか。あんたの思い通りに連中が力を貸すって保証がありゃ、乗ってやらないこともないがなあ」
ブディードゥートは檻の中のピウスを指して、
「ただ、魔物化を治す方法を何年も研究させているが、進展があるんだかないんだか……怪しい紫眼 も見ているからなぁ」
と鼻で笑うと、背負っていた大剣を引き抜き、地面に叩きつけた。
「まあ、せっかく夢物語な計画を話していただいたんだ。今度はこちらの現実的な計画の話といこうか」
「……ぜひ、お聞かせ願います」
「あはは、強がらなくてもいいぞ」
見せつけられた剣に、テヴァも腰の剣を引き抜き、カナフも拳を構える。
攻撃したら百パーセント敵になるというシャルへヴェットの言葉が、ギリギリ彼らを踏み止まらせていた。
「一つ目はさっきも言ったが、紫眼 が仕掛けてきたときに対抗できうる力の開発だ。魔力を上げたり、強力な結界を作ったり、優秀なあたしの研究員たちが日々成果を積み重ねている。
二つ目はあんたも言ってた魔物化を戻す術を見つけることだ。そのために一番有効なのは、魔法に詳しい紫眼 だろ?だからこうして協力してもらってるわけさ」
明らかに弱々しく様変わりしたピウスの姿を見やって、シャルへヴェットは彼女に問う。
「協力という言い方にしては、やり方がなってないのでは」
「お、説教か?」
ブディードゥートが部屋に反響するほどの大声で笑った。
「そもそもを考えてくれ。あたしは紫眼 のことが大っ嫌いなんだ。なのにちゃんとした部屋と食事を与えているんだぞ?それだけこちらも広い心で接してやってるんだ。
今だって、とっととあんたを捕まえてどう使ってやろうか考えたいところを、こうして話をしてやってる。優しいなぁ」
「あなたの考える紫眼 の力を貸す、というのは、紫眼 があなたの『思い通りに』研究や実験を請け負うということですか。そうなのであれば、私の意にはそぐわない」
「無理だろう。傷つけられたモンが、にこにこ手を繋ぐようになんのは」
ぞろぞろと廊下の方から足音が響く。
開いたままの扉から、数十人の剣を持った人々が姿を現した。服装は白衣ではなく、テフィラーと同じような黒いスーツで固められている。
「今やっと、あんたを捕まえてどうするか決まったよ」
ブディードゥートは全員に聞こえるように、檻の方を見やって声を張った。
「シャルへヴェット・フラムマは殺さない。その使えない紫眼 の代わりにしよう!」
「な……」
ブディードゥートが駆け付けた一人に指示を送ると、壁に隠されていたハンドルが全身を使って大きく回される。
ゴンという大きな音を立ててそれは動き始めると、連動した先は、檻の中に設置された魔物の柵だった。
「イ、イマ……!」
声を震わせてピウスが彼女の名を呼ぶ。
隙間から這い出ようと激しく体当たりを始める魔物に、もう女性の面影は皆無だ。
魔物を封じ込めていた檻が、ゆっくりと上がっていく。
「ダメッ!」
カナフが瞬時にハンドルを回す男のもとへ抵抗に走るが、同時に動いた別の構成員に刃で阻まれてしまう。
「さあ、人食いショーだよ!滅多に見れるもんじゃあないよ。ああでも、あんたたちは魔物が人を襲うとこなんてたくさん見てるか」
起伏激しくころころと表情を変えながら、ブディードゥートは剣を持ち上げた。
「共食いって言った方が残酷かな!傷つけられた側がいかに仲良くする気になれないか、しっかり思い知るとイイよ」
「ピウスさん!」
シャルへヴェットは、檻の中のピウスを振り返る。
ピウスは柵を背に立ち上がり、迫ってくる魔物に叫んだ。
「イマ!ああ、そんな」
呼びかけても当然、返事をすることも、反応することもない。
躊躇いなく振り下ろされた腕を、ピウスは瞬時に魔法の壁を作りだし防ぐ。
すぐに距離を置くが、魔物は机やベッドをなぎ倒し、餌を目の前に吠えた。
何度も呼びかけるが、それを繰り返すだけだ。
「ブディードゥートッ!」
シャルへヴェットが彼女に怒りの目を向けると、ブディードゥートは楽し気に笑った。
「それだよ!さあ、仲良しは終わりだ。こっちもこっちで楽しくやろうじゃないか!」
魔法の使えない部屋で、シャルへヴェットは迫るブディードゥートを前に腰の剣を抜く。
彼女の手にする剣は見るからに重厚な大剣だというのに、ブディードゥートは大柄な体を活かしてそれを軽々と振り回す。
細い剣では受け流すのが精いっぱいなところに、部下の構成員が追って切りかかる。
「シャルへヴェット様!」
テヴァが滑り込みながらその構成員に足を引っかけると、よろめいたところを狙って剣の柄で頭を殴った。
ばたりと倒れこむが、また入れ替わるように他の構成員が振りかぶってくる。
鈍い刃と刃の擦り合う音が部屋中に鳴り響く。
カナフも応戦して、器用に両足を旋回させると敵を薙ぎ払った。
「鍵をとろうったってそうはいかないよ」
ピウスの様子に目を配りつつ、ブティードゥ―トの腕の間から鍵を取り上げようと踏み込むシャルへヴェットだが、彼女の大振りながら隙のない動きに遮られてしまう。
その動きを観察して、ブディードゥートはにやりとした。
「他所を気にしてる暇なんてあんたにゃないよっ」
「ぐっ!」
ブディードゥートは右足でシャルへヴェットのみぞおちに蹴りを入れ、よろめかせたと同時に髪をわしづかむ。
顔を寄せると、彼女はシャルへヴェットの頬に人差し指を突きつけた。
「大人しく協力しますと言えば、キレーな顔を傷つけないでおいてやるよ」
「っ……お断りです」
悪態をついて返され、ブディードゥートはそのまま地面に頭を叩き付ける。
「シャルへヴェット様ッ」
振り返ったテヴァもその一瞬を突かれ、構成員に突き飛ばされると転がり込んだ。
カナフが対峙した相手を蹴り上げ、急いで加勢する。
シャルへヴェットはすぐに体勢を立て直すと、ブディードゥートの次の攻撃を咄嗟に避けて、鼻血を拭った。
睨みつけられたブディードゥートは頬を紅潮させ、身をくねらせる。
「いいねぇ。たっぷりとあたしらを恨みな紫眼 」
不気味なねっとりとした声が、部屋一帯にこだました。
「あたしは魔法薬製造会社メレッドの長、ブディードゥート。まあ、ボスって呼んでもらっても構わない」
大柄の女は堂々と名乗ってから、指先で弄んでいた鍵を胸元のポケットにしまい込む。
「ブディードゥート、探す手間が省けました。私はイェソド教会祓い師の、シャルへヴェット・フラムマと申します。あなたと話がしたい」
その声色は感情を抑え込もうと、彼が自身に冷静になるように言い聞かせているもののように聞こえた。
「はは、よぉく知ってるさ。探す手間が省けたってのァ、こっちのセリフだがね。いや、捕える手間まで省けたって方が正しいかもしれないなあ」
低く太い彼女の声が、後ろで構える従者たちの警戒を一層強くさせる。
彼女は余裕綽々といった笑顔を向けて、シャルへヴェットに尋ねた。
「それでなんだ?どういう話がしたい。内容に寄っちゃあ答えてやらんでもないよ」
「この組織は何を目的としているのか、教えていただけませんか」
「目的?」
復唱して、ブディードゥートは鋭い目で睨みを利かせる。彼女の片目には眼帯がされていたが、それでも十分にこちらを威圧した。
「それはもちろん、
「仕掛ける?」
「とぼけるのか?魔導兵器を教えて魔物化の原因を作ったのはあんたたちだ。
あの装置のせいで魔物化が起こって、何百人、何千人、いやもっとかもしれない人々が犠牲になった。だけども、魔導兵器はどんどん世間に浸透した。そりゃそうだよなぁ、魔法に疎いあたしらは原因がそれだと気づけない。あんたたちの狙い通り」
魔導兵器をこの世界に浸透させ、魔物化を加速させる。この世界の人々が自滅の道を歩み、空っぽになった土地を
その
シャルへヴェットもその事実に関しては、認めざるを得なかった。
まさしくその通りなのだ。
だからこそ、シャルヘヴェットはその計画を
メレッドと同じく
「驚いたろ?ここまでバレてることに。いや、仮にこれが妄想だったとしても、この状況を作った奴らは間違いなく敵だね」
「……」
現に魔導兵器は生活に欠かせないものになっている。それを利用して仕事をしている人々も大勢いる。
それが痛いほどわかってるため、せめてもの自身ができることとして赤眼を取り除いているのだ。
しかしその行動が、かえってブディードゥートの思いを逆なでするようなものだった。
「あたしも聞きたいンだけど、祓い師さまは、自分らが起こしてしまった過ちの尻拭いをしてるつもりなのかい?それとも魔物化の原因が自分らにあることは隠して、崇められるために
この質問に、問われた本人よりも後ろの従者たちの方が腹を煮立たせた。
「そんな自己満のためにシャルへヴェット様は赤眼を治しに回ったりしねぇよ」
噛みつくテヴァを、シャルへヴェットが手で制止する。テヴァは納得いかないと眉を寄せるが、カナフにも小突かれて従った。
「
「んん~……?」
シャルへヴェットの一言目に、ブディードゥートは疑念の相槌を入れた。
「私が赤眼を治すことが可能だったから、そうしているだけです。自分が
「潔い綺麗事だね、シャルへヴェット・フラムマ」
「しかし、今の私の行動は魔物化が進行するこの世界において、応急処置程度のものにしかなりません。現に、すべての人間を治し切れているわけではないし、魔物化したら戻す術もわからない。おっしゃる通り、私の言動は今は綺麗事にすぎない」
表情を崩さないシャルへヴェットを、ブディードゥートはまどろっこしそうに首を回しながら見据えた。
シャルへヴェットは、詰まるところの重要な部分を彼女に訴えかけた。
「ですが、『魔導兵器を開発できた
後ろに立つ従者たちも、彼が祓い師として活動する本来の目的については聞かされていない。
個人的な問題として明かしてもらえなかったその目的を、二人は身を乗り出しそうなところをこらえてじっと耳をすませた。
「今の私にはまだ方法が見つかっていませんが、
「ほう、あんたは
ブディードゥートは檻の中のピウスを指して、
「ただ、魔物化を治す方法を何年も研究させているが、進展があるんだかないんだか……怪しい
と鼻で笑うと、背負っていた大剣を引き抜き、地面に叩きつけた。
「まあ、せっかく夢物語な計画を話していただいたんだ。今度はこちらの現実的な計画の話といこうか」
「……ぜひ、お聞かせ願います」
「あはは、強がらなくてもいいぞ」
見せつけられた剣に、テヴァも腰の剣を引き抜き、カナフも拳を構える。
攻撃したら百パーセント敵になるというシャルへヴェットの言葉が、ギリギリ彼らを踏み止まらせていた。
「一つ目はさっきも言ったが、
二つ目はあんたも言ってた魔物化を戻す術を見つけることだ。そのために一番有効なのは、魔法に詳しい
明らかに弱々しく様変わりしたピウスの姿を見やって、シャルへヴェットは彼女に問う。
「協力という言い方にしては、やり方がなってないのでは」
「お、説教か?」
ブディードゥートが部屋に反響するほどの大声で笑った。
「そもそもを考えてくれ。あたしは
今だって、とっととあんたを捕まえてどう使ってやろうか考えたいところを、こうして話をしてやってる。優しいなぁ」
「あなたの考える
「無理だろう。傷つけられたモンが、にこにこ手を繋ぐようになんのは」
ぞろぞろと廊下の方から足音が響く。
開いたままの扉から、数十人の剣を持った人々が姿を現した。服装は白衣ではなく、テフィラーと同じような黒いスーツで固められている。
「今やっと、あんたを捕まえてどうするか決まったよ」
ブディードゥートは全員に聞こえるように、檻の方を見やって声を張った。
「シャルへヴェット・フラムマは殺さない。その使えない
「な……」
ブディードゥートが駆け付けた一人に指示を送ると、壁に隠されていたハンドルが全身を使って大きく回される。
ゴンという大きな音を立ててそれは動き始めると、連動した先は、檻の中に設置された魔物の柵だった。
「イ、イマ……!」
声を震わせてピウスが彼女の名を呼ぶ。
隙間から這い出ようと激しく体当たりを始める魔物に、もう女性の面影は皆無だ。
魔物を封じ込めていた檻が、ゆっくりと上がっていく。
「ダメッ!」
カナフが瞬時にハンドルを回す男のもとへ抵抗に走るが、同時に動いた別の構成員に刃で阻まれてしまう。
「さあ、人食いショーだよ!滅多に見れるもんじゃあないよ。ああでも、あんたたちは魔物が人を襲うとこなんてたくさん見てるか」
起伏激しくころころと表情を変えながら、ブディードゥートは剣を持ち上げた。
「共食いって言った方が残酷かな!傷つけられた側がいかに仲良くする気になれないか、しっかり思い知るとイイよ」
「ピウスさん!」
シャルへヴェットは、檻の中のピウスを振り返る。
ピウスは柵を背に立ち上がり、迫ってくる魔物に叫んだ。
「イマ!ああ、そんな」
呼びかけても当然、返事をすることも、反応することもない。
躊躇いなく振り下ろされた腕を、ピウスは瞬時に魔法の壁を作りだし防ぐ。
すぐに距離を置くが、魔物は机やベッドをなぎ倒し、餌を目の前に吠えた。
何度も呼びかけるが、それを繰り返すだけだ。
「ブディードゥートッ!」
シャルへヴェットが彼女に怒りの目を向けると、ブディードゥートは楽し気に笑った。
「それだよ!さあ、仲良しは終わりだ。こっちもこっちで楽しくやろうじゃないか!」
魔法の使えない部屋で、シャルへヴェットは迫るブディードゥートを前に腰の剣を抜く。
彼女の手にする剣は見るからに重厚な大剣だというのに、ブディードゥートは大柄な体を活かしてそれを軽々と振り回す。
細い剣では受け流すのが精いっぱいなところに、部下の構成員が追って切りかかる。
「シャルへヴェット様!」
テヴァが滑り込みながらその構成員に足を引っかけると、よろめいたところを狙って剣の柄で頭を殴った。
ばたりと倒れこむが、また入れ替わるように他の構成員が振りかぶってくる。
鈍い刃と刃の擦り合う音が部屋中に鳴り響く。
カナフも応戦して、器用に両足を旋回させると敵を薙ぎ払った。
「鍵をとろうったってそうはいかないよ」
ピウスの様子に目を配りつつ、ブティードゥ―トの腕の間から鍵を取り上げようと踏み込むシャルへヴェットだが、彼女の大振りながら隙のない動きに遮られてしまう。
その動きを観察して、ブディードゥートはにやりとした。
「他所を気にしてる暇なんてあんたにゃないよっ」
「ぐっ!」
ブディードゥートは右足でシャルへヴェットのみぞおちに蹴りを入れ、よろめかせたと同時に髪をわしづかむ。
顔を寄せると、彼女はシャルへヴェットの頬に人差し指を突きつけた。
「大人しく協力しますと言えば、キレーな顔を傷つけないでおいてやるよ」
「っ……お断りです」
悪態をついて返され、ブディードゥートはそのまま地面に頭を叩き付ける。
「シャルへヴェット様ッ」
振り返ったテヴァもその一瞬を突かれ、構成員に突き飛ばされると転がり込んだ。
カナフが対峙した相手を蹴り上げ、急いで加勢する。
シャルへヴェットはすぐに体勢を立て直すと、ブディードゥートの次の攻撃を咄嗟に避けて、鼻血を拭った。
睨みつけられたブディードゥートは頬を紅潮させ、身をくねらせる。
「いいねぇ。たっぷりとあたしらを恨みな
不気味なねっとりとした声が、部屋一帯にこだました。