第四章:医する魔法
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「あんたか、オーラ―ティオーんとこの嬢さんは」
大柄の女に見下ろされて、少女は膝を抱えて丸くなっていた姿勢をほどく。
「おばさん……誰?」
「おいおい、おばさんじゃなくてお姉さんだ。あんたの両親の仕事仲間さ」
女はそう言って大きな手を少女に差し出す。
「あんた、村焼いて逃げてきたんだろ」
「……」
「あたしらんとこ来なよ。ご両親の遺志を継ぐ気はないか?」
別に他に行くとこもないし。
少女はゆっくり立ち上がると、その手を表情一つ変えずにつかんだ。
「もう全部どうでもいいの」
女は少女の肩を包み込むように叩くと、耳元でにやりと囁いた。
「ようこそ、メレッドへ」
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イェソド都の朝は少し肌寒く、アディンは布団を体に巻き付けた状態で目を覚ました。いつもの調子でベッドから降りようとして激痛が走り、怪我していたことを思い出す。
(ぼーっとしてた……)
口をすすいで顔を濡らすと、かけてある外着に着替える。
昨日の夜テヴァが来てくれていたのか、戻ってきたら買い置きとともに、ゆったりとした寝間着が残されていた。
アディンにはぶかぶかなそれを畳んで、またベッドに腰かけると、後ろのカーテンを開けた。
「わ、もうたくさん人が出歩いてる」
イェソド教会の朝はとても早いようだ。まだ日が昇ったばかりだというのに、活発に動く人々を見てアディンは背筋を伸ばした。
そういえば、昨日言っていた治癒魔法について、カナフの部屋に魔法の教科書があったので借りてきていた。
治癒魔法についての本はレフアーが毛嫌いしていたからなのか、診療所の本棚には専門の本が置かれていなかったのだ。
そもそも魔法についてはアディンは得意ではなかったせいで、仕組みなんかには興味もわかず、今までほとんど触れてこなかった。
パラパラとページをめくってみると専門用語ばかりで、読む気がない時には、本当に頭に入ってこない内容だ。
それでもアディンは自分でかければいい、というシャルへヴェットの言葉を思い出し、予習をしておきたいと思っていた。
前提知識くらいは頭に入れておきたい。
(治癒魔法は、自然治癒力を上げる魔法なんだな)
外から怪我に作用するのではなく、あくまで強化魔法の類ということだ。
体内魔力を消費して自然治癒力に充てるということなのだろうが、体内魔力を外に放つこと――魔法を唱えることができないアディンに、それができるとは思えない。
(魔法が得意な紫眼 って言ってもなぁ……)
実際にテフィラーが魔法を使っているところをこの目で見ていても、できる気がしないのだ。
ごんごんと扉が叩かれる音がして、アディンはどうぞー、と声をかけた。
「おー、起きてたか」
すでにばっちり髪まで整えたテヴァが、大きなパン屋の袋を抱えて入ってきた。
「おはよう、あの、パジャマありがとう!あとで洗って返すね」
「別にそのままでいいっつの、ほらメシ」
普段からぶっきらぼうな態度をとっているテヴァだが、思い返してみれば面倒見がいい性格をしている。
昨日肩をつかまれかけたので、腹を立てられてしまったかと思っていたが、杞憂だったようだ。
いや、彼が言いたいことを飲み込んでくれているのかもしれない。
渡された袋には、パンがぎっしり詰まっていた。
「え、こんなに?」
「なにがいいかわかんねえから……。まあ好きなの食えよ。じゃ、シャルへヴェット様んとこ行ったりしてから、適当な頃に戻ってくるわ」
パンを漁りながら、アディンはテヴァを呼び止めた。
「あのっ、テ、テヴァもご飯まだなら、一緒に食べない?」
彼は振り向いてちらりと時計を見やると、「……おう」とだけ返事して、向かいの椅子に腰かけた。
最初のころはテヴァと顔を合わせると少しびくびくしてしまっていたが、今考えれば慣れたものだ。
アディンがコーンパンを手に取って残りの袋を手渡すと、テヴァも二、三個適当に取り出してかじった。
「焼き立て、うめ~」
とりあえず焼き立てだと言っていたものを全部買ったと説明した彼は、ベーコンの挟まれたパンを満足げにがっつく。
それを見ながら、アディンもコーンパンをそっと齧ってみる。
「ん……美味しい!教会は朝早いんだね。どのお店も早く始まってる気がする」
「閉まるのもクソ早いけどな」
パンを食べるのに手袋を外した彼の腕は筋張っていて、普段から鍛えられているのがよく分かった。
何を話せばいいか分からず、そんなところばかり目についてしまう。
「あ?魔法の勉強してんのか」
向こうもどこに目をやったらいいか迷っていたのか、泳がせた先の、魔法の教科書のことに触れてきた。
「あっ、これはカナフが貸してくれて。少しでも治癒魔法のこと知ってた方がいいかなって」
「なるほどな。昨日いねえと思ったら、あいつんとこ行ってたんか」
買ってきたパンを次々と平らげて、テヴァはソースのついた指先を舐めた。
「あいつどうせ、シャルへヴェット様と仲良くしてたのを自慢してきたんだろ。本のやつ」
「あはは、その自慢もしてた」
テヴァとカナフは仲がいいのか悪いのか、未だにいまいちわからない。
「テヴァが従者になった時って、カナフはもう記憶をなくした後だったの?」
「あー……そうだな。記憶なくして少しした頃みてーだった。まだなんとなくシャルへヴェット様とも、ぎこちねえ感じで」
天井を仰いで、その当時を思い返しながらテヴァは続ける。
「あいつもあいつで、明るくやろうって必死なんだろーけど」
「テヴァはなんであんなにカナフと喧嘩腰に……」
アディンの質問に、テヴァは、は?と返す。
「いや、絡み方がうぜーからに決まってんだろ?別に嫌ってはねぇよ。仲良くしようとも思わねえけど」
仲が悪いわけではないんだ……?と、アディンは少し首をかしげながら聞き入る。
「まあ、萎まれてっと調子狂うわな」
「それは、うん、わかる気がする」
昨日のことを思い出しかけて急いでコーンパンを口に押し込むと、テヴァから次のパンを取れるようにと、パンの袋が差し出された。
「テヴァは結構、周り見てるよね」
急に自分の話題を振られて、テヴァの返答に一瞬の間が空く。
「シャルへヴェット様もカナフの奴も、なんだかんだ気ぃ遣ってるからよ。俺もそれなりに気ぃ張ってねーと。物が落ちたら誰が拾うか、いっつもビーチフラッグよ」
なんとなく状況が想像できる。アディンが思わずふふ、笑うと、お前は呑気そうだな、と言われてしまった。
しばらくそうしてたわいもない話をしていると、半分開いたままの扉がノックされ、シャルへヴェットが入ってきた。
「二人とも、おはようございます。アディン、怪我の調子は如何ですか?」
二人は挨拶を返し、アディンは加えて動かさなければ大丈夫、と頷いた。
シャルへヴェットは持ってきていたコーヒーをそれぞれに手渡すと、テヴァが座っていた椅子を譲ってきたのを、やんわりと遠慮する。
「アディン、コーヒーは飲めました?」
「うん、ありがとう」
彼は持ってきたカナフの分は机の上に置き、窓際に寄り掛かった。
「たまたま午前休なので、今のうちに何かしら手をつけておきたいんですが……必要なものとかあったら言ってくださいね」
「めずらしいっすね、午前中フリーなの。ゆっくりしたらいいじゃないすか」
「そういえば、動いてないと死ぬ男 って言われてたね」
アディンの発言に誰にですか……とコーヒーを啜りながら、シャルへヴェットはいぶかし気な顔をする。
マクシムお姉様す、とテヴァが答えると納得したようだった。
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しばし、のんびりとした朝を過ごした男三人にカナフが合流すると、話は昨日の続きに切り替わった。
日程は、少し準備を整えて一週間後の出発。
仕事の都合上すぐに教会を離れることはできないため、それまではメレッドからのアクションには注意して過ごすようにと、シャルへヴェットは忠告する。
それから治癒魔法について、アディンに紹介したい人がいると彼は続けた。
「教えてもらえればきっとアディンも使えるようになります」
「で、でも僕、魔法の使い方すらうまく感覚つかめなくて」
自信が小指の爪の先ほどもないアディンは、易々と頷くことができない。
「大丈夫です。教え方は 上手い人ですから」
カナフは、その人物が気になっているようだった。
「それって教会の方……私たちも面識ある人です?」
「ありますよ、ほぼ毎日見てます」
「毎日ぃ!?」
カナフがいろいろな顔を思い浮かべてそっくり返っていると、呼ばれたかのようなタイミングで扉がガラリと開いた。
「おっはよ〜ございまぁす」
反り返ったままの姿勢で目が合ったカナフは、ぎゃあ!と悲鳴のような声を上げる。
「マクシムさんっ」
「えっ、もしかして魔法教えるのってマクシムお姉様!?」
「カナフちゃん、ぎゃあって何?ぎゃあって」
彼女は受付のカウンターにいた際と同じく、かかとの高い靴を鳴らして部屋の中に入ってくると、アディンの前でふわりと屈んだ。
「この前ちょっと喋ったねぇ。総務受付のマクシム・ぺルブランドゥスで~す。アディンくん、よろしく」
手を引っ張るようにして握手すると、マクシムは立ち上がり、今度は黙ったままのシャルへヴェットの頬をつついた。
「ちょっとシャルるん。呼んでおいて歓迎の言葉はないの~?」
ぐいぐいと言い寄られるシャルへヴェットを遠目に、カナフが小さく唸り声を出しているのを、アディンは聞き逃していなかった。
マクシムがぴったりとシャルへヴェットの腕にすり寄っている状況を見ると、なんというか、お付き合い云々の噂が出るのも当然と思える。
ただマクシムは、豊満な胸をこれでもかというくらいに押し付けてシャルへヴェットに迫っていたが、彼は全くなびいてない様子だった。
「来てくださって助かります。アディンはちゃんと魔力を持っているので、あなたが指導してくれればきっと唱えられるかと」
「でもね~、治癒魔法は結構難しいんだよ?珍しくシャルるんが頼みごとがあるっていうから、とうとうその気になったのかと思ったじゃん。お・礼・は、シャルるんでもいいよぉ」
「ちょっと……変なところ触らないでください」
腰に手を回すマクシムを引き剥がして、シャルへヴェットはアディンに向き直った。
「魔法と仕事に関しては間違いない人ですから、彼女に数日教わってみて、無理だったらお金を払ってかけてもらいましょう。多分すぐ使えます、アディンの魔力の感じ的に合ってると思う」
「魔力の感じ?」
「魔法はね、使える人使えない人いるけど、使える人の中でも、得意なジャンルは偏るんだよぉ」
マクシムはようやくシャルへヴェットから離れると、アディンの傍に寄ってきた。
考えてみると、強化魔法系にはあまり『かっこよさ』を見出せず、挑戦しようと思ったことはなかった。
「一緒に愛のレッスンしましょ」
「えっ」
「ちゃんとした魔法のレッスンでお願いします」
冷静なシャルへヴェットのつっこみを気にもせず、マクシムはアディンの肩をすりすりとさすって笑った。
「あんたか、オーラ―ティオーんとこの嬢さんは」
大柄の女に見下ろされて、少女は膝を抱えて丸くなっていた姿勢をほどく。
「おばさん……誰?」
「おいおい、おばさんじゃなくてお姉さんだ。あんたの両親の仕事仲間さ」
女はそう言って大きな手を少女に差し出す。
「あんた、村焼いて逃げてきたんだろ」
「……」
「あたしらんとこ来なよ。ご両親の遺志を継ぐ気はないか?」
別に他に行くとこもないし。
少女はゆっくり立ち上がると、その手を表情一つ変えずにつかんだ。
「もう全部どうでもいいの」
女は少女の肩を包み込むように叩くと、耳元でにやりと囁いた。
「ようこそ、メレッドへ」
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イェソド都の朝は少し肌寒く、アディンは布団を体に巻き付けた状態で目を覚ました。いつもの調子でベッドから降りようとして激痛が走り、怪我していたことを思い出す。
(ぼーっとしてた……)
口をすすいで顔を濡らすと、かけてある外着に着替える。
昨日の夜テヴァが来てくれていたのか、戻ってきたら買い置きとともに、ゆったりとした寝間着が残されていた。
アディンにはぶかぶかなそれを畳んで、またベッドに腰かけると、後ろのカーテンを開けた。
「わ、もうたくさん人が出歩いてる」
イェソド教会の朝はとても早いようだ。まだ日が昇ったばかりだというのに、活発に動く人々を見てアディンは背筋を伸ばした。
そういえば、昨日言っていた治癒魔法について、カナフの部屋に魔法の教科書があったので借りてきていた。
治癒魔法についての本はレフアーが毛嫌いしていたからなのか、診療所の本棚には専門の本が置かれていなかったのだ。
そもそも魔法についてはアディンは得意ではなかったせいで、仕組みなんかには興味もわかず、今までほとんど触れてこなかった。
パラパラとページをめくってみると専門用語ばかりで、読む気がない時には、本当に頭に入ってこない内容だ。
それでもアディンは自分でかければいい、というシャルへヴェットの言葉を思い出し、予習をしておきたいと思っていた。
前提知識くらいは頭に入れておきたい。
(治癒魔法は、自然治癒力を上げる魔法なんだな)
外から怪我に作用するのではなく、あくまで強化魔法の類ということだ。
体内魔力を消費して自然治癒力に充てるということなのだろうが、体内魔力を外に放つこと――魔法を唱えることができないアディンに、それができるとは思えない。
(魔法が得意な
実際にテフィラーが魔法を使っているところをこの目で見ていても、できる気がしないのだ。
ごんごんと扉が叩かれる音がして、アディンはどうぞー、と声をかけた。
「おー、起きてたか」
すでにばっちり髪まで整えたテヴァが、大きなパン屋の袋を抱えて入ってきた。
「おはよう、あの、パジャマありがとう!あとで洗って返すね」
「別にそのままでいいっつの、ほらメシ」
普段からぶっきらぼうな態度をとっているテヴァだが、思い返してみれば面倒見がいい性格をしている。
昨日肩をつかまれかけたので、腹を立てられてしまったかと思っていたが、杞憂だったようだ。
いや、彼が言いたいことを飲み込んでくれているのかもしれない。
渡された袋には、パンがぎっしり詰まっていた。
「え、こんなに?」
「なにがいいかわかんねえから……。まあ好きなの食えよ。じゃ、シャルへヴェット様んとこ行ったりしてから、適当な頃に戻ってくるわ」
パンを漁りながら、アディンはテヴァを呼び止めた。
「あのっ、テ、テヴァもご飯まだなら、一緒に食べない?」
彼は振り向いてちらりと時計を見やると、「……おう」とだけ返事して、向かいの椅子に腰かけた。
最初のころはテヴァと顔を合わせると少しびくびくしてしまっていたが、今考えれば慣れたものだ。
アディンがコーンパンを手に取って残りの袋を手渡すと、テヴァも二、三個適当に取り出してかじった。
「焼き立て、うめ~」
とりあえず焼き立てだと言っていたものを全部買ったと説明した彼は、ベーコンの挟まれたパンを満足げにがっつく。
それを見ながら、アディンもコーンパンをそっと齧ってみる。
「ん……美味しい!教会は朝早いんだね。どのお店も早く始まってる気がする」
「閉まるのもクソ早いけどな」
パンを食べるのに手袋を外した彼の腕は筋張っていて、普段から鍛えられているのがよく分かった。
何を話せばいいか分からず、そんなところばかり目についてしまう。
「あ?魔法の勉強してんのか」
向こうもどこに目をやったらいいか迷っていたのか、泳がせた先の、魔法の教科書のことに触れてきた。
「あっ、これはカナフが貸してくれて。少しでも治癒魔法のこと知ってた方がいいかなって」
「なるほどな。昨日いねえと思ったら、あいつんとこ行ってたんか」
買ってきたパンを次々と平らげて、テヴァはソースのついた指先を舐めた。
「あいつどうせ、シャルへヴェット様と仲良くしてたのを自慢してきたんだろ。本のやつ」
「あはは、その自慢もしてた」
テヴァとカナフは仲がいいのか悪いのか、未だにいまいちわからない。
「テヴァが従者になった時って、カナフはもう記憶をなくした後だったの?」
「あー……そうだな。記憶なくして少しした頃みてーだった。まだなんとなくシャルへヴェット様とも、ぎこちねえ感じで」
天井を仰いで、その当時を思い返しながらテヴァは続ける。
「あいつもあいつで、明るくやろうって必死なんだろーけど」
「テヴァはなんであんなにカナフと喧嘩腰に……」
アディンの質問に、テヴァは、は?と返す。
「いや、絡み方がうぜーからに決まってんだろ?別に嫌ってはねぇよ。仲良くしようとも思わねえけど」
仲が悪いわけではないんだ……?と、アディンは少し首をかしげながら聞き入る。
「まあ、萎まれてっと調子狂うわな」
「それは、うん、わかる気がする」
昨日のことを思い出しかけて急いでコーンパンを口に押し込むと、テヴァから次のパンを取れるようにと、パンの袋が差し出された。
「テヴァは結構、周り見てるよね」
急に自分の話題を振られて、テヴァの返答に一瞬の間が空く。
「シャルへヴェット様もカナフの奴も、なんだかんだ気ぃ遣ってるからよ。俺もそれなりに気ぃ張ってねーと。物が落ちたら誰が拾うか、いっつもビーチフラッグよ」
なんとなく状況が想像できる。アディンが思わずふふ、笑うと、お前は呑気そうだな、と言われてしまった。
しばらくそうしてたわいもない話をしていると、半分開いたままの扉がノックされ、シャルへヴェットが入ってきた。
「二人とも、おはようございます。アディン、怪我の調子は如何ですか?」
二人は挨拶を返し、アディンは加えて動かさなければ大丈夫、と頷いた。
シャルへヴェットは持ってきていたコーヒーをそれぞれに手渡すと、テヴァが座っていた椅子を譲ってきたのを、やんわりと遠慮する。
「アディン、コーヒーは飲めました?」
「うん、ありがとう」
彼は持ってきたカナフの分は机の上に置き、窓際に寄り掛かった。
「たまたま午前休なので、今のうちに何かしら手をつけておきたいんですが……必要なものとかあったら言ってくださいね」
「めずらしいっすね、午前中フリーなの。ゆっくりしたらいいじゃないすか」
「そういえば、動いてないと死ぬ
アディンの発言に誰にですか……とコーヒーを啜りながら、シャルへヴェットはいぶかし気な顔をする。
マクシムお姉様す、とテヴァが答えると納得したようだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
しばし、のんびりとした朝を過ごした男三人にカナフが合流すると、話は昨日の続きに切り替わった。
日程は、少し準備を整えて一週間後の出発。
仕事の都合上すぐに教会を離れることはできないため、それまではメレッドからのアクションには注意して過ごすようにと、シャルへヴェットは忠告する。
それから治癒魔法について、アディンに紹介したい人がいると彼は続けた。
「教えてもらえればきっとアディンも使えるようになります」
「で、でも僕、魔法の使い方すらうまく感覚つかめなくて」
自信が小指の爪の先ほどもないアディンは、易々と頷くことができない。
「大丈夫です。教え方
カナフは、その人物が気になっているようだった。
「それって教会の方……私たちも面識ある人です?」
「ありますよ、ほぼ毎日見てます」
「毎日ぃ!?」
カナフがいろいろな顔を思い浮かべてそっくり返っていると、呼ばれたかのようなタイミングで扉がガラリと開いた。
「おっはよ〜ございまぁす」
反り返ったままの姿勢で目が合ったカナフは、ぎゃあ!と悲鳴のような声を上げる。
「マクシムさんっ」
「えっ、もしかして魔法教えるのってマクシムお姉様!?」
「カナフちゃん、ぎゃあって何?ぎゃあって」
彼女は受付のカウンターにいた際と同じく、かかとの高い靴を鳴らして部屋の中に入ってくると、アディンの前でふわりと屈んだ。
「この前ちょっと喋ったねぇ。総務受付のマクシム・ぺルブランドゥスで~す。アディンくん、よろしく」
手を引っ張るようにして握手すると、マクシムは立ち上がり、今度は黙ったままのシャルへヴェットの頬をつついた。
「ちょっとシャルるん。呼んでおいて歓迎の言葉はないの~?」
ぐいぐいと言い寄られるシャルへヴェットを遠目に、カナフが小さく唸り声を出しているのを、アディンは聞き逃していなかった。
マクシムがぴったりとシャルへヴェットの腕にすり寄っている状況を見ると、なんというか、お付き合い云々の噂が出るのも当然と思える。
ただマクシムは、豊満な胸をこれでもかというくらいに押し付けてシャルへヴェットに迫っていたが、彼は全くなびいてない様子だった。
「来てくださって助かります。アディンはちゃんと魔力を持っているので、あなたが指導してくれればきっと唱えられるかと」
「でもね~、治癒魔法は結構難しいんだよ?珍しくシャルるんが頼みごとがあるっていうから、とうとうその気になったのかと思ったじゃん。お・礼・は、シャルるんでもいいよぉ」
「ちょっと……変なところ触らないでください」
腰に手を回すマクシムを引き剥がして、シャルへヴェットはアディンに向き直った。
「魔法と仕事に関しては間違いない人ですから、彼女に数日教わってみて、無理だったらお金を払ってかけてもらいましょう。多分すぐ使えます、アディンの魔力の感じ的に合ってると思う」
「魔力の感じ?」
「魔法はね、使える人使えない人いるけど、使える人の中でも、得意なジャンルは偏るんだよぉ」
マクシムはようやくシャルへヴェットから離れると、アディンの傍に寄ってきた。
考えてみると、強化魔法系にはあまり『かっこよさ』を見出せず、挑戦しようと思ったことはなかった。
「一緒に愛のレッスンしましょ」
「えっ」
「ちゃんとした魔法のレッスンでお願いします」
冷静なシャルへヴェットのつっこみを気にもせず、マクシムはアディンの肩をすりすりとさすって笑った。