第四章:医する魔法

「お、お前!あの後急にいなくなりやがって……!」

 思いがけない人物の登場に、テヴァが即座に啖呵を切る。
 ツェルは相変わらず口元しか見せていなかったが、それでも苛立ちを顔に浮かべているのは見てとれた。
 
「あの後?」

 事情を知らないシャルへヴェットに、アディンが
「シャルを探すために魔導兵器室に行った時に、鍵と、あと道案内をしてくれたんだ」
 と説明する。
 気付いたらいなくなってたんだと聞き、シャルへヴェットは事の流れを理解した。

 ツェルはフードの中で絡まる髪を鬱陶しそうに除け、わざとらしくため息をついた。

「もう、黙って聞いてるつもりだったのに、あまりにも……あんっまりにもあんたたちがデキないくせにしつこいから、口出しちゃったじゃない」
「知るか!つか部外者のくせに、どうやってここまで来てんだよ」
「ムカつくから教えなぁい」

 言われてみればここに入るには受付を通る必要があったはずだ。
 鍵の件といい、彼女の侵入テクニックは恐るべきだが、なぜ……。

「ツ、ツェル、目的は?僕に銃を向けたり、協力したりする理由はなんなの?」

 アディンが尋ねると、ツェルは口元を押さえてあはっ、と笑った。

「銃を向けたのは、アディンくんにじゃないわよぉ」
「ツェル……と、名乗っているのですか」

 彼女の言葉に被さるようにして、シャルへヴェットがツェルを見据えた。
 ツェルは一瞬ピクリと顔を強ばらせたが、すぐにいつもの調子に戻った様子で腰をくねらせる。

「なんですかっ?ツェルちゃんはツェルちゃんですけど」

 彼女が自然と敬語になったのを、頭脳明晰なカナフは見逃さなかった。
 注意深く彼女を見やる視線に、ツェルは反射的に睨み返す。
 シャルヘヴェットが一歩近づくと、ツェルは構えるように肩を上げたが、すぐに姿勢を整えた。

「ツェル、一度ちゃんと話しましょう」
「……シャルへヴェット様はお話をして、私にどうなって欲しいんです?というか、面識ある体で話を進めないでもらえますかぁ」

 ツェルはぎりと歯を食いしばると、改まって従者二人を指差した。

「とにかく、あんたたち二人はこれ以上邪魔しないで!従者の立場である以上、上の言うことは絶対なの!」
「部外者が偉そうに指図しないでください!」

 テヴァばりに食ってかかるカナフに、ツェルの怒りは再び沸いたようで、部屋に響き渡るほどに強く壁を叩いた。握りしめられた拳は筋張っている。

「ホントに……ホントに能天気でイライラするっ!もう、いいわ。私が勝手にあの女を追うからっ」
「あ、あの女って……テフィラーのこと?」
「ええ、逃げられる前にね!」

 逃げる?
 意味がわからなかったが、ツェルが勢いよく部屋を飛び出したので、それを瞬時にカナフが追いかける。
 彼女らに続いて、アディンたちも揃って廊下を急いだ。

 駆けながら銃を引き抜くツェルに、シャルヘヴェットが叫ぶ。

「ツェル!手荒な真似は――」

 しかし、銃を構えた彼女の前には、既にターゲットテフィラーが立ち尽くしていた。
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