第三章:魔導兵器と禁忌

 シャルへヴェットが二人――!?
 その場が一転、不気味な空気に包まれる。

 だがアディンには、現れたもう一人の彼こそが、この間対面したシャルヘヴェットだと即座に感じ取った。
 少なくとも、さっきの『シャルじゃない』雰囲気は微塵もない。

「なぜ!貴様は下に……」

 司教が思わずそう漏らした。
 シャルへヴェットは彼を睨みつけると、息を整えて教皇に向き合った。

「司教は、人体に複製の……魔導兵器の技術を、使用しました。人が、好きに操れる人間など、造ってはいけない……」

 ふらふらとする彼の体を、教皇の部下が支えてやる。

「魔導兵器じゃと……?」
「き、教皇様!デタラメですぞ!」

 小刻みに震える手をすり合わせて、教皇は司教に体を向ける。たじろぐ司教に、シャルヘヴェットはもう一人の自分を指さして、畳み掛けた。

「あれには、複製体を従わせるための焼印があるはずです。確かめればわかります」
「貴様、どうやってここまで来た!クソ、なにもかもめちゃくちゃにしおって……。これも全て妙な提案をしてきたあいつらの――」
「シェケー!」

 教皇の一喝に、一段と場が凍りつく。
 アディンも、自身が怒鳴りつけられたわけではないはずなのに、背中にじっとりと冷たい汗をにじませていた。

「これから一人ずつ順に話を聞く!黙って外に出るように」

 司教はしどろもどろに、今は聞く耳を持たない教皇に訴えていたが、頑として弁明を無視される状況に矛先を変えた。

「クソ!完璧な策だったのだ!儂の――」

 そう言って司教が振り返った先には、彼に従順なシャルヘヴェットがいた。

「儂の祓い師が、もう少しで……ああ……」
「喋るな!」

 教皇の部下が司教を羽交い締めにするが、司教は抵抗し、彼に『命令』した。

「命令だ。お前などとっとと消えてしまえ!」
「なっ、し、司教様……!」

 そう言って顔を真っ青にした彼は、間もなく強く打ちつけたかのように胸を両手で押さえつけると、膝から崩れ落ちた。
 苦しそうに顔を上げ、懸命に訴えかける。

「い、嫌です!司教様っ……私は司教様に生涯、尽くすと、誓っ……」

 必死に言葉を紡ぐ彼の姿に、アディンは目を離せなかった。
 それはまるで。

 討たれた後、光と化す魔物のように、細く声を残しながら、

 消えていったのだ――。


「嘘だろ……」

 アディンの隣にいたテヴァが、同じくじっとその一連の様子を眺めて声を震わせた。

 人が目の前で光に溶けて消えた。

 消えていった、自身とそっくりなそれを虚ろな目で捉えながら、シャルヘヴェットは安堵とともにゆっくりと片膝を地に、体勢を崩す。
 教皇の部下に支えられる彼に、司教は最後に声を荒げた。

「シャルへヴェット、貴様!クリファが我々に与えたを解消して回ったところで、罪は軽くならんぞ!魔力の低い我々を魔物化させ、好き勝手しているのは貴様らだ!
 人間を好きに操っているのは、貴様らクリファだ!」
「シェケー!黙りなさい!」

 暴れる司教を、教皇の一声と共に部下が取り押さえて引っ張っていく。
 アディンらも部下一人一人に付き添われ、地上へと連れられた。

 地下の薄暗い通路は、恐ろしく長く続くのだった。
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