第三章:魔導兵器と禁忌
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「シャルへヴェット様」
聞き覚えのある声に、シャルへヴェットは目を見開いた。
声の方をゆっくり見やると、ドアについた小窓の先に、黒い服に覆われた少女が立っているのが見える。
「今、開けますから」
彼女は扉の鍵にかけられた施錠魔法の術式を、ぶつぶつと解き始めた。
何度かエラーで電気が走り、ちっ、と舌打ちしている様子を黙って見つめる。
まだクラクラとする頭で何とか立ち上がろうとすると「無理に体を動かさないでください」と間髪入れずに怒られた。
何度かエラーと格闘した末、彼女は解錠に成功し重たい扉を開ける。それから真っ黒な羽織りものの中から、水筒を取り出した。
「飲めます?」
彼女はそっとしゃがむと小さな蓋に水をためて、シャルへヴェットに手渡した。想像以上に喉が枯れていて何度か咳き込みはしたが、繰り返すうちに、体が楽になってきたのがわかった。
ごほんと咳払いすると、微かに声が出た。
「カナフ」
彼がまっすぐにかけてきた第一声に、ツェル は手にしていた水筒を零して、固まった。
「俺は、ずっとあなたを……ごめんなさい」
「シャルへヴェット様」
ツェルが優しく首を振る。
「人違いです。まだ意識がはっきりしてないんだわ」
「待って……!」
彼女は、慌てて持ち上げた水筒の残りを授けて立ち上がると、踵を返した。
シャルへヴェットは追いかけようと体を起こしたが、足がもつれて急には動くことができない。
「私は、あなたの従者じゃないですから」
「……なら、お名前は」
「答えたくありません。失礼します」
遠くからそう告げて、彼女はそのまま暗い階段の先へと姿を消した。
早足に駆け上がる音が、間もなく消え去る。
シャルへヴェットは痛む胸を握るようにして、軽いのか重いのか曖昧な体を壁に沿わせながら、上へ急いだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カナフが扉を開けて間もなく、後ろからぞろぞろと靴音が迫る。
テフィラーに続いて、教皇と、彼の部下数人が部屋に集結した。
先程の争いがぴたりと止まり、瞬く間に静寂が訪れる。
「教皇様!?一体何の御用件で」
教皇の姿を目撃した司教は、明らかに戸惑っていた。
「シェケーよ。長期間地下に籠り、何か良からぬ企みをしておると噂があったが……。誠かね」
シェケー――司教は、後ろで手を組むと、驚いたような顔をする。
「有り得ませんな。私は今この場で、重要機関に侵入した者を捕らえようとしていたところですぞ」
司教が後ろのシャルへヴェットに目配せすると、僭越ながら、とシャルへヴェットは口を開いた。
「私が伝達不足だったばかりに、部下が心配して事を大きくしてしまったようです。申し訳ございません」
「本当にそうなのか?従者の杞憂じゃったということか」
えっ、とカナフがけろりとしているシャルへヴェットの方を見て困惑する。なんてことはない彼の様子に、教皇もこの場で司教を深く疑うことはしなかった。
「ふむ。あまり長期間こういった場所に篭もりきるのはよくない。外との連絡は絶やさぬように」
司教とシャルヘヴェットが頭を下げる様子に、従者二人はこんなはずじゃないと、顔を見合わせる。
そこに、アディンが声を上げた。
「す、すみません教皇様!その、僕にはそこにいるシャル……へヴェットに何というか、違和感を感じるんです。
さっき司教様はシャルへヴェットの話をするときに『アイツ』と呼びました。目の前にいるのにアイツはおかしいです。ついさっき、何か隠しているのか問い詰めたら、攻撃されたんです!」
「……彼が紫の眼か」
アディンの目を見て、教皇はテフィラーに確認をとるように、ぼそっと呟いた。
司教はアディンの言葉に被せて、声を荒げる。
「侵入者のデタラメに、耳を傾けてはなりませぬ!」
「シャルへヴェットはずっと、紫の眼の少年を探していると言っておったな。それがお主かね」
「は、はい。アディン・ピウスです」
「間違いないな」と名前を聞いて、教皇は顎のふくよかな白いひげを撫でた。
「彼がなぜここに侵入したかは別で聞こう。抵抗せずについてくれば何もせんよ。従者二人とアディン殿、それからテフィラー殿も。来てくれるか」
しかし、今この場を離れたら、司教が隠そうとしていたものを恐らく暴けなくなってしまう。
(でもついていかなかったら捕まる……。どうしよう)
他の三人を伺った時、通路の方から息の上がった声が聞こえた。
「教皇、様……!」
声と共に部屋に現れたのは、ぐったりと壁に手をつきなんとか顔を上げる、
もう一人のシャルへヴェットだった。
「シャルへヴェット様」
聞き覚えのある声に、シャルへヴェットは目を見開いた。
声の方をゆっくり見やると、ドアについた小窓の先に、黒い服に覆われた少女が立っているのが見える。
「今、開けますから」
彼女は扉の鍵にかけられた施錠魔法の術式を、ぶつぶつと解き始めた。
何度かエラーで電気が走り、ちっ、と舌打ちしている様子を黙って見つめる。
まだクラクラとする頭で何とか立ち上がろうとすると「無理に体を動かさないでください」と間髪入れずに怒られた。
何度かエラーと格闘した末、彼女は解錠に成功し重たい扉を開ける。それから真っ黒な羽織りものの中から、水筒を取り出した。
「飲めます?」
彼女はそっとしゃがむと小さな蓋に水をためて、シャルへヴェットに手渡した。想像以上に喉が枯れていて何度か咳き込みはしたが、繰り返すうちに、体が楽になってきたのがわかった。
ごほんと咳払いすると、微かに声が出た。
「カナフ」
彼がまっすぐにかけてきた第一声に、
「俺は、ずっとあなたを……ごめんなさい」
「シャルへヴェット様」
ツェルが優しく首を振る。
「人違いです。まだ意識がはっきりしてないんだわ」
「待って……!」
彼女は、慌てて持ち上げた水筒の残りを授けて立ち上がると、踵を返した。
シャルへヴェットは追いかけようと体を起こしたが、足がもつれて急には動くことができない。
「私は、あなたの従者じゃないですから」
「……なら、お名前は」
「答えたくありません。失礼します」
遠くからそう告げて、彼女はそのまま暗い階段の先へと姿を消した。
早足に駆け上がる音が、間もなく消え去る。
シャルへヴェットは痛む胸を握るようにして、軽いのか重いのか曖昧な体を壁に沿わせながら、上へ急いだ。
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カナフが扉を開けて間もなく、後ろからぞろぞろと靴音が迫る。
テフィラーに続いて、教皇と、彼の部下数人が部屋に集結した。
先程の争いがぴたりと止まり、瞬く間に静寂が訪れる。
「教皇様!?一体何の御用件で」
教皇の姿を目撃した司教は、明らかに戸惑っていた。
「シェケーよ。長期間地下に籠り、何か良からぬ企みをしておると噂があったが……。誠かね」
シェケー――司教は、後ろで手を組むと、驚いたような顔をする。
「有り得ませんな。私は今この場で、重要機関に侵入した者を捕らえようとしていたところですぞ」
司教が後ろのシャルへヴェットに目配せすると、僭越ながら、とシャルへヴェットは口を開いた。
「私が伝達不足だったばかりに、部下が心配して事を大きくしてしまったようです。申し訳ございません」
「本当にそうなのか?従者の杞憂じゃったということか」
えっ、とカナフがけろりとしているシャルへヴェットの方を見て困惑する。なんてことはない彼の様子に、教皇もこの場で司教を深く疑うことはしなかった。
「ふむ。あまり長期間こういった場所に篭もりきるのはよくない。外との連絡は絶やさぬように」
司教とシャルヘヴェットが頭を下げる様子に、従者二人はこんなはずじゃないと、顔を見合わせる。
そこに、アディンが声を上げた。
「す、すみません教皇様!その、僕にはそこにいるシャル……へヴェットに何というか、違和感を感じるんです。
さっき司教様はシャルへヴェットの話をするときに『アイツ』と呼びました。目の前にいるのにアイツはおかしいです。ついさっき、何か隠しているのか問い詰めたら、攻撃されたんです!」
「……彼が紫の眼か」
アディンの目を見て、教皇はテフィラーに確認をとるように、ぼそっと呟いた。
司教はアディンの言葉に被せて、声を荒げる。
「侵入者のデタラメに、耳を傾けてはなりませぬ!」
「シャルへヴェットはずっと、紫の眼の少年を探していると言っておったな。それがお主かね」
「は、はい。アディン・ピウスです」
「間違いないな」と名前を聞いて、教皇は顎のふくよかな白いひげを撫でた。
「彼がなぜここに侵入したかは別で聞こう。抵抗せずについてくれば何もせんよ。従者二人とアディン殿、それからテフィラー殿も。来てくれるか」
しかし、今この場を離れたら、司教が隠そうとしていたものを恐らく暴けなくなってしまう。
(でもついていかなかったら捕まる……。どうしよう)
他の三人を伺った時、通路の方から息の上がった声が聞こえた。
「教皇、様……!」
声と共に部屋に現れたのは、ぐったりと壁に手をつきなんとか顔を上げる、
もう一人のシャルへヴェットだった。