第三章:魔導兵器と禁忌

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 カナフが目を丸くする。ツェルが投げてきたのは、恐らく本物の魔導兵器室の鍵だ。

「どなたか分かりませんが、なんで部外者がそれを持って……」
「無能には教えてやんない」

 彼女から出た低い声に、アディンはそわりと鳥肌の立った腕をさすった。無能という言葉に、カナフが噛みつく。

「はぁ⁉何ですかそれ!失礼にも程が……」
「二手に分かれるのが最良ねぇ。アディンくんと使えない従者男はそれで司教を探して、他二人は教皇様を呼んで」

 憤るカナフには目もくれず、淡々と指をさしながらツェルは指示をする。

「教皇様にはその女が事情を説明すればいいわ。受付でアディンくんの紫の眼は割れてるでしょ、関係者って言えば繋いでもらえるわよ」
「ツ、ツェル……僕が司教を見つけてもどうしようも」
「どうしようもあるわよぅ、司教は紫の眼を怖がってる。能力が未知だから。アディンくんには、対峙した時にハッタリをかましてもらえば、時間稼ぎができるでしょ」

 ハッタリって何をと困惑するアディンの横で、テヴァが立ち上がった。指示を黙って聞いていたが、我慢ならない様子だ。

「おい、テメェは何なんだよ!急に出てきて、あれこれ指図すんじゃねえ」

 近づいてきたテヴァに対して、彼女は小さい体で、その胸ぐらを掴んで引き寄せた。

「この数日ウロウロするしかできなかったあんたは、使えないってわかんないワケ⁉」
「なっ」
「これ以上無能を見せつけられるのはムカつくのよ。参加する気ならさっさと動いて、しないなら黙ってて」

 睨みつけられた目に、テヴァは見覚えがある気がした。
「お前どっかで……」と言いかけたテヴァを突き放すと、彼女はつかつかと廊下に出ていく。

 四人は困惑気味に顔を見合わせ頷くと、それぞれ言われた通りに散らばった。

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「おい、お前マジでなんなんだよ」

 彼女の後ろを早足で追いかけながら、テヴァは少し苛ついた口調で問う。

「もう教会には関係の無い一般人よぉ。有・能・なね」

 嫌味たっぷりに言い返す彼女は、フードの間から見える口元をにやりとさせた。

 アディンは、ツェルとテヴァと共に出入口の扉を通ると、地下へと続く長い階段を見下ろしながら、その異質な雰囲気に身震いした。
 降りる度に、広い石の壁がこーんこーんと靴音を響かせる。

「ツェル、ハッタリって例えば何をしたらいいかな」
「アディンくんが司教を脅せそうと思うことなら、何でもいいのよぅ?怖そうな魔法放つフリでも、放ってもらっても」

 打って変わってにこりとするツェルに、テヴァの怒りが増幅しているのがわかる。

「そんで、テメェもこっちについて来たのは何なんだよ」
「この場所に詳しい人間がいた方がよくないの?なに、当てずっぽうで行けると思ったわけ?」
「ぐっ……」

 とことん喧嘩腰な彼女に、テヴァはもう突っかかるのをやめたようだった。
 この後は二人とも黙って、ひたすらツェルの後ろをついて行った。

 下った先に現れた扉の前で、ツェルはぴたりと足を止めた。そっとドアに耳を押し付けて黙り込むと、こちらを見直して顎でドアを示す。

「いるわ、ここね。いい?作戦はともかく時間は稼ぎなさいよ。二手に分かれた意味がなくなっちゃうんだから」

 アディンは思わず湿った手のひらをズボンになすって息を吐いた。
「行くぞ」とテヴァはドアノブに手をかけ豪快に開く。


「司教!」


 扉の先には、机を挟んで対面する司教とシャルヘヴェットの姿があった。

「さ……ま?」
「む」

 司教が重たい視線をこちらに目を向ける。

「従者?なぜここにいるんだ。どうやって入った!」
「……シャルヘヴェット様がしばらく戻ってこなかったんで、探してたんす」

 司教がちらりと向かい側のシャルヘヴェットに目で合図を送ると、送られた彼は、ゆっくり立ち上がった。

「ご心配をおかけしました。司教様とのお話が長くなってしまって、戻っている暇がなかったんです」
「あっ……と、じゃあ、何かあったわけじゃないんすね?」
「何か、とは?」

 シャルヘヴェットにまっすぐ詰められ、テヴァはいえ、と首を振る。

「司教様、失礼しました。直ぐに帰らせますので」
「全く、部下の躾がなっとらんな」

「ここは立ち入り禁止だ」と司教はにんまりと口角を引き上げた後、テヴァを睨みつける。

 しかしアディンは、この時、とてつもない違和感を覚えていた。

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「なんだろう……シャル、っぽくない」

 小声でそう言ったアディンに、この場にいた全ての人の動きが、ぴくりと止まった。

 なんの違和感だ?説明ができない。

 だが確かに、以前シャルヘヴェットと話した時とは違う人物と対面している気がするのだ。
 そうだ、日の王と対峙した時のように。
 雰囲気なのか、漂う気やオーラといった類のものなのかは分からない。とにかく違う。

「貴様、何者だ。教会の者ですらないな?ここは立ち入ってはならん場所だぞ」

 そう言ってまじまじとアディンに焦点を当てた司教は、ぎょっとして一歩後ろに退いた。

「クリファ……!?」

 テヴァたちの予想通り、司教は紫の眼に対して異様に警戒を強めてきた。

「僕はシャルの、ゆ、友人です」
「友人ン?アイツに同族の繋がりがあったのか。ヤツめ、黙っていたな……!?」

「アイツ?」

 司教の言葉を、テヴァは聞き逃さなかった。

「シャルヘヴェット様はここにいるのに『アイツ』は変じゃねぇすか?」

 紫の眼を目の前にしたからか、核心を突かれたからか、司教は身につけた装飾を手でなでたり弾いたりして、明らかに動揺の色を見せていた。

「なんだ?図に乗るでないぞ、従者!不敬だ!おいシャルへヴェット、早くふざけた部下をここから弾き出せ」

 命令する司教を、シャルへヴェットはじっと見てから頷く。

「部屋に戻っておとなしくしていなさい。これ以上、司教様に無礼な態度をとってはいけません。俺を困らせないで」
「なっ……」

 困らせないでの一言が効いて、威勢を削がれるテヴァ。
 アディンはそれを見て、ツェルなら言い返せるかと彼女の方に振り向いたが、いつの間にか彼女はいなくなっていた。

(あれっ、いつから……!?)

「アディン、状況がよく分からねぇ。ここは一度立て直すか……」

 小声でテヴァに指示をされたが、アディンは「ちょっと待って」と本来の作戦が効くか試しに出た。

「司教様、シャルのことで何か隠してますよね。教えてください」
「何を小童が。変な勘ぐりはよせ。友人なら、帰れという言葉を聞いてやったらどうだ」

 アディンは一か八か、掌を司教に向けた。

「教えてください。でないと魔法を打ちます」

 司教の顔が強張ったのが一目で分かった。強気で構えれば本当にいけるかもしれない。
 ばくばくしている心臓を落ち着けるために、すっと短く息を吸う。大丈夫、魔法を放てる主人公みたいな真似は、よくやっていたのだから。

「わかった、後ですぐこやつを戻してやるから、話は本人から聞けばよかろう。一度戻ってゆっくり待っているといい」

「今、話して!」

 声を荒げたアディンに、司教はもちろん、隣にいたテヴァまで肩が上がっていた。

「な、何かを隠そうとしてるんですか?僕はあなたとは、地位とか関係ない立場です。隠していたら容赦しません」
「引いてやったらいい気になりおって……!」

 時間を稼げと言われていたが、これ以上どう詰めていけばいいのか分からない。

「アディン!」

 不意に部屋の隅から刃物のような風魔法が飛んできて、テヴァが瞬時に剣を抜き、それを防ぐ。突然の攻撃に、アディンの心臓は今にも口から飛び出してしまいそうなくらいに、跳ね上がった。
 尻もちをついたまま力が入らない。

「なんだ従者、わしに逆らうのか?そうなんだな?」
「そっちから打ってきたろうが!」

 テヴァは剣先を司教に合わせて構える。司教はそれを見て、しめた、と笑みを浮かべた。

「ハッ、反逆者だな。捕らえろ!」

 司教の号令で、魔法の飛んできた方向から司教の部下が姿を現す。
 この場所が司教の一派しか入れない場所だとしたら、この状況はあまりに不利だ。
 ましてや、魔法で反撃などできる能力もない!

「そこまでっ!」

 ドアの方から凛とした一声がこだました。
 一瞬その高い声がツェルのものかと振り向いたが、そこには堂々と手を腰に仁王立ちする、カナフの姿があった。
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