序章:愛しき月の民と日の民へ

 辺り一面、火の海だった。

 焦げついた空気が喉を焼き、声が出ているのかもわからぬまま私は歌う。

 唯一、国を見渡せる城の天辺で、私はただ国を飲み込む炎の海と、唸りを上げる雷雨と、積もっていく黒く澱んだ空気を見つめ歌うしかなかった。
 地面が大きく縦に揺れ、思わず身を屈める。
 
「ここにいたのか」

 声がした方に振り返ると、遠くの地にいるはずの男がそこにいた。
 王と呼ぶに相応しかったはずの身なりは、もうあちこちが焦げて、見るも無惨な姿であった。

「もう癒す民もいないだろうに」
「こうなってしまったら、私はせめて月の民が苦痛のもとに逝かないよう……最期まで癒すしかないの」

 その言葉に、男はすっかり赤くなってしまった瞳でじっとこちらを見つめると、ゆっくり首を横に振る。

「いや、残念ながら、やることは残っている。我々は後始末が必要になってしまったようだ」
 
 どういうことかと尋ねようとしたところで、私はその意味を理解した。
 
「まさか、上に逃げた者が」
「ああ。我々は身が朽ちてもなお、それらを制裁する責務がある。そうだな?」

 男の顔からは、すでに責務に向けての覚悟がうかがえた。

「そう……。そうね」
 
 私は、きっと彼と同じように赤くなってしまったであろう瞳で見上げ、頷く。

「愛しき月の民と日の民に、同じ過ちを繰り返させるわけにはいかないもの」
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