第一話
数日間ハルキは眠っていたが、とある日の朝、目を覚ました。
「ハルキ…?」
「リュウ…先生?」
目をしっかり開けて、その姿を確認する。
「ああ。俺だ。お前、エタンを倒してから、ずっと倒れてたんだぞ」
「エタンを…倒した…?あ、ああああああ!」
ハルキは思わず叫んだが、頭痛で頭を抑えこむ。
「お前、無理するなよ!一体どうしたんだ」
「わかりました」
「分かったって、何がだ?」
「過去が!」
「な…」
リュウは絶句した。
「どうしたんだ!?」
その時、ハルキの叫びを聞きつけたユーヒたちが部屋に入ってくる。
ハルキが目を覚ましているのを確認すると、皆安堵した表情を浮かべた。
「…ごめんなさい、大声を出して。ただ…記憶が、戻ってきたようで…」
「ほ、本当か!?」
「はい」
「じゃあ…話してくれるか?」
「…はい」
ハルキは身体を起こすと、ぽつぽつと話し始めた。
…最初は、十歳になったときだった。
神の夢を見始めたのがその頃で、親や町の人に話してもただの夢だと言われていた。
しかし、数年後…町には強風が吹き荒れ、時には竜巻が起こり人々を悩ませた。
そしてその頃、またあの夢を毎日毎日繰り返し見るようになり、再び相談すると、町を統括する者に話が通され、その夢に命じられた通り、仲間を探しに行くことになったのだ。
―たった一人で、森を抜け、砂漠を進んだ。
でも途中で食料は尽き、水分も取れなくなった。
蜃気楼か否かすらわからないが、ぼんやりと町が見えたのは覚えている…
そんな内容だった。
「なるほどな、そういうことだったわけか…」
「ていうかさ、一人で来ちゃだめなんじゃないかな。一応勇者でしょ」
「何か勢いで来てしまって」
「で、やっぱり旅は続けるのか?」
リュウが薬の袋を見つめながら尋ねた。
「はい…。続けなければならない、という方が近いかもしれません。この町は好きだけど、準備ができたら旅立たないと。はやく終わらせて、自分の町に帰りたいんです」
「一人で行くの?」
ユーヒが眉間に皺を寄せて言った。
ハルキは少し俯いて、「はい…そうなりますね」と小声でつぶやく。
「砂漠で死にかけてるのに一人で行くんですか?」
「そ…れは、自分でも、心配ですけど」
「ね?だから…」
ユーヒは不意に窓の外を見て、
「一緒に、行きましょうか?」
「は?」
ハルキはそう言って、暫くはぽかんと呆けていた。
「つまり?」
やっとその言葉を紡ぎ出す。
「つまり、僕と一緒に旅するってこと」
「あ…ええと、はい」
「大丈夫?」
「いや、大丈夫ではないです」
「なんで?」
「鍛冶屋は?」
「弟子に任せるよ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
「武器は?」
「僕が作ってるんだからあるに決まってるじゃないですか。大鎌です」
立て掛けてあった鎌状の武器を、ユーヒは手にした。
「…ユーヒさんにメリットがあるんですか?」
「あるはず。まぁ、メリットって言うか、色々やりたいことがあるし」
「やりたいこと?」
「僕の師匠は失踪したんだ。その理由を突き止めたい。また会えるのなら会いたいし。それと、俺の鍛冶の腕は、世間で通用していける程なのか知りたい。たくさんの人に認められたいなぁと」
「…そうですか。ぜひついてきてほしいです」
「よろしくお願いします」
ハルキはリュウに向き直る。
「ユーヒくんが着いていくなら安心だな。よし、コウくん。お前も一緒に行きなさい」
リュウの後方に立っていたコウは驚いて、
「僕ですか?」
と言った。
「ずっとこの町で俺の助手やら何やらをやってるよりかはいいと思うけど。お前には、必要な技術は教えてあるし、知識は俺よりも上になってると思うよ。あとは、経験。本物の医者になって帰ってきてね」
「リュウ先生…わかりました。僕も行くよ、ハルキくん」
コウは微笑んで言った。
「コウさんは、戦えますか?」
「医者助手だからって、甘く見てもらっては困るよ。僕は弓を使うんだ」
ユーヒはコウの肩に手を置いて、
「大会でもベスト3入りだから、能力は信じていいよ」
と笑った。
「すごい人ばかりなんだ…。コウさん、もし僕たちに何かあったらお願いします」
「了解」
「二人だけ先に言っちゃって、ずるいなぁ」
「ほんとほんと」
ナオとジュンだった。
「俺らも行くよ」
「ナオさんもジュンさんも、仕事は大丈夫なんですか?」
「うん、情報屋はあってないようなもの。この町もあっちこっちに同業がいるし、一人いないくらいで困ったりしないよ」
「郵便屋は家族がいるし、弟もいるし。それに、ハルキに剣術を教えられるのは俺だけしかいない。だろ?」
「そうですね、師匠。二人にも、ついてきてほしいです」
「うん、それでいい」
「あぁ~。俺の一番弟子、いい子だなぁ~」
ジュンは思わずハルキの頭をくしゃくしゃと撫でた。
ハルキは突然のことに驚きながらも、おとなしく撫でられている。
「さて、明日には出るか?急ぐ程でもないか?」
リュウが冷静に言った。ただ、表情は、少しだけ寂しそうにしている。
「そうだな、明後日か、明々後日くらいには…。体調や用意の様子を見て決めようと思います。リュウ先生にも、また会いに来ますよ。ここは第二の故郷だから」
「第二の故郷、か。よし、色んな物を調達しておくように言っておくから、数日は休んだり、遊んだりすればいい」
「え、そんな、調達なんて自分で…」
「新しい長に、それくらいはさせて」
「…新しい、長?」
「ん?あぁ、言ってなかったっけ?」
リュウはニカッと笑って、
「俺がエタンの代わりにこのあたりを統治することになった。だからここは任せてくれ」
と言った。
「そうなんですね。おめでとうございます!」
「それもまあ、ハルキがエタンを倒したお陰なんだろうけどな。よく頑張ったな」
「そんなこと言われたって、その時のことはあまり覚えていないし…」
「いや。お前には多分、何かすごい力があるんだ。頑張れよ」
「ハルキ…?」
「リュウ…先生?」
目をしっかり開けて、その姿を確認する。
「ああ。俺だ。お前、エタンを倒してから、ずっと倒れてたんだぞ」
「エタンを…倒した…?あ、ああああああ!」
ハルキは思わず叫んだが、頭痛で頭を抑えこむ。
「お前、無理するなよ!一体どうしたんだ」
「わかりました」
「分かったって、何がだ?」
「過去が!」
「な…」
リュウは絶句した。
「どうしたんだ!?」
その時、ハルキの叫びを聞きつけたユーヒたちが部屋に入ってくる。
ハルキが目を覚ましているのを確認すると、皆安堵した表情を浮かべた。
「…ごめんなさい、大声を出して。ただ…記憶が、戻ってきたようで…」
「ほ、本当か!?」
「はい」
「じゃあ…話してくれるか?」
「…はい」
ハルキは身体を起こすと、ぽつぽつと話し始めた。
…最初は、十歳になったときだった。
神の夢を見始めたのがその頃で、親や町の人に話してもただの夢だと言われていた。
しかし、数年後…町には強風が吹き荒れ、時には竜巻が起こり人々を悩ませた。
そしてその頃、またあの夢を毎日毎日繰り返し見るようになり、再び相談すると、町を統括する者に話が通され、その夢に命じられた通り、仲間を探しに行くことになったのだ。
―たった一人で、森を抜け、砂漠を進んだ。
でも途中で食料は尽き、水分も取れなくなった。
蜃気楼か否かすらわからないが、ぼんやりと町が見えたのは覚えている…
そんな内容だった。
「なるほどな、そういうことだったわけか…」
「ていうかさ、一人で来ちゃだめなんじゃないかな。一応勇者でしょ」
「何か勢いで来てしまって」
「で、やっぱり旅は続けるのか?」
リュウが薬の袋を見つめながら尋ねた。
「はい…。続けなければならない、という方が近いかもしれません。この町は好きだけど、準備ができたら旅立たないと。はやく終わらせて、自分の町に帰りたいんです」
「一人で行くの?」
ユーヒが眉間に皺を寄せて言った。
ハルキは少し俯いて、「はい…そうなりますね」と小声でつぶやく。
「砂漠で死にかけてるのに一人で行くんですか?」
「そ…れは、自分でも、心配ですけど」
「ね?だから…」
ユーヒは不意に窓の外を見て、
「一緒に、行きましょうか?」
「は?」
ハルキはそう言って、暫くはぽかんと呆けていた。
「つまり?」
やっとその言葉を紡ぎ出す。
「つまり、僕と一緒に旅するってこと」
「あ…ええと、はい」
「大丈夫?」
「いや、大丈夫ではないです」
「なんで?」
「鍛冶屋は?」
「弟子に任せるよ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
「武器は?」
「僕が作ってるんだからあるに決まってるじゃないですか。大鎌です」
立て掛けてあった鎌状の武器を、ユーヒは手にした。
「…ユーヒさんにメリットがあるんですか?」
「あるはず。まぁ、メリットって言うか、色々やりたいことがあるし」
「やりたいこと?」
「僕の師匠は失踪したんだ。その理由を突き止めたい。また会えるのなら会いたいし。それと、俺の鍛冶の腕は、世間で通用していける程なのか知りたい。たくさんの人に認められたいなぁと」
「…そうですか。ぜひついてきてほしいです」
「よろしくお願いします」
ハルキはリュウに向き直る。
「ユーヒくんが着いていくなら安心だな。よし、コウくん。お前も一緒に行きなさい」
リュウの後方に立っていたコウは驚いて、
「僕ですか?」
と言った。
「ずっとこの町で俺の助手やら何やらをやってるよりかはいいと思うけど。お前には、必要な技術は教えてあるし、知識は俺よりも上になってると思うよ。あとは、経験。本物の医者になって帰ってきてね」
「リュウ先生…わかりました。僕も行くよ、ハルキくん」
コウは微笑んで言った。
「コウさんは、戦えますか?」
「医者助手だからって、甘く見てもらっては困るよ。僕は弓を使うんだ」
ユーヒはコウの肩に手を置いて、
「大会でもベスト3入りだから、能力は信じていいよ」
と笑った。
「すごい人ばかりなんだ…。コウさん、もし僕たちに何かあったらお願いします」
「了解」
「二人だけ先に言っちゃって、ずるいなぁ」
「ほんとほんと」
ナオとジュンだった。
「俺らも行くよ」
「ナオさんもジュンさんも、仕事は大丈夫なんですか?」
「うん、情報屋はあってないようなもの。この町もあっちこっちに同業がいるし、一人いないくらいで困ったりしないよ」
「郵便屋は家族がいるし、弟もいるし。それに、ハルキに剣術を教えられるのは俺だけしかいない。だろ?」
「そうですね、師匠。二人にも、ついてきてほしいです」
「うん、それでいい」
「あぁ~。俺の一番弟子、いい子だなぁ~」
ジュンは思わずハルキの頭をくしゃくしゃと撫でた。
ハルキは突然のことに驚きながらも、おとなしく撫でられている。
「さて、明日には出るか?急ぐ程でもないか?」
リュウが冷静に言った。ただ、表情は、少しだけ寂しそうにしている。
「そうだな、明後日か、明々後日くらいには…。体調や用意の様子を見て決めようと思います。リュウ先生にも、また会いに来ますよ。ここは第二の故郷だから」
「第二の故郷、か。よし、色んな物を調達しておくように言っておくから、数日は休んだり、遊んだりすればいい」
「え、そんな、調達なんて自分で…」
「新しい長に、それくらいはさせて」
「…新しい、長?」
「ん?あぁ、言ってなかったっけ?」
リュウはニカッと笑って、
「俺がエタンの代わりにこのあたりを統治することになった。だからここは任せてくれ」
と言った。
「そうなんですね。おめでとうございます!」
「それもまあ、ハルキがエタンを倒したお陰なんだろうけどな。よく頑張ったな」
「そんなこと言われたって、その時のことはあまり覚えていないし…」
「いや。お前には多分、何かすごい力があるんだ。頑張れよ」