第一話
ハルキが目を覚ましたのは、それから数時間後のことであった。
ゆっくりと目を開くと、天使の装飾が施された天井が見える。まだ屋敷の中であろうと思いながら、何度か瞬きをする。
(何があった…?)
身を起こすと頭痛がした。しかし、そのおかげかしっかりと頭が冴え、倒れる直前までの出来事を思いだし始めた。
エタンから渡されたドリンク、美しい髪との発言、最後に見た冷淡な笑み…。
(…何か入れられていたのか…油断していた)
ため息をついて辺りを見渡す。
ハルキが眠っていたベッドは金で装飾されていて、端から細い柱が伸びている。天井は部屋の天井ではなく、ベッドのものであったのだった。布団も柔らかで寝心地が良い。高級なものだろうと考えると、何か自分が寝ていてはいけないような気がしてベッドから降りた。
やはり高級そうなランプ、絨毯、シャンデリア、テーブル、クローゼット…花がいけられている花瓶すら、触ることもはばかられるほどだ。
ハルキはふと、自らが着ている服を見た。ユーヒに借りた紺の軍服のようなものではなく、似たような色のゆったりした長袖の上下になっていた。
(服まで変えたのか、エタン…)
彼にやられたのか、他の誰かにやらせたのかは知らないが、鳥肌が立った。そっと、クローゼットを開けてみる。沢山の、ハルキが好みそうな色の服が並べられ、端にユーヒに借りたものがあった。こうやって並べると、ユーヒには失礼だが、少し貧相に感じられて、貴族と自分の身分の差にはっきりと気付かされてしまう。暫く服を見ていたが、やがては飽きてしまい、クローゼットを閉じた。
(ユーヒやジュンたちは…色々節約して暮らしていた。僕には不自由の無いように気を使ってくれていたが、自分たちが食事をしていない時もあった…。だが、昨日のパーティといい、この部屋といい、随分いい生活をしているものだな…。苦しんでいる人がいることだって、知っている癖に…!)
「あぁ、起きていましたか」
突然かけられた声に振り返ると、いつの間にか入って来たらしいエタンがいた。
「ここはどこなのですか」
ハルキは冷静にそう尋ねた。
「僕の屋敷で、一番良い部屋だよ。天使の間」
「では、僕は何故ここに?あのあと何があったのですか?」
「君の飲み物に睡眠薬を入れさせてもらったんだよね。それで眠ってしまったから、部下に運ばせた。着替えもそいつだからね」
何故かその言葉に安心するハルキ。
「…こんなことをして…自分をどうするつもりですか?」
「僕はこの国の権力者だ。仕切っているのは僕だよ。この国の発展と勢力拡大を考える…当然だよね」
「それは…どういう意味…」
段々近づいてくるエタンから離れながらそう言った。
「君は別の国から来たんだよね。ここまで言えばわかるね?」
「なるほど…自分を人質に僕がいた国を奪おうと?だか、残念ですね」ハルキはエタンをぎっと睨み付ける。「記憶を無くしてしまったから、自分がどんな国にいたか…何を目的にこの国に来たのか…殆どわかりません」
エタンは例の冷淡な笑みを浮かべ、
「そんなわかりやすい嘘を言われてもね」
「嘘だと思うのは自由です。まあ…本当に覚えていたとしても、そんな歪んだ考えの方にはお話しないでしょうけど…!」
「誰に口を利いている?」
がっと襟を掴まれた。
「手荒な真似はしたくないんだけどね…」
「本当のことを言ったまで…」
「………ふ…まあ、良いでしょう。君にはここで生活してもらいます。三食、君好みの料理を用意させます。服はクローゼットにあります。気に入らなければ言ってください」
「帰る」
「無理です。警備は万全、君も逃げられないし誰も助けに来られない」
「帰る。まずお前が気に入らな…」
続けようとしたが、再び襟を強く掴まれた。
「離せ!」
「…君に、何が出来る?」
「何を…!」
しかしエタンはすぐに手を離して、
「夕食はどんな料理がいい?」
と尋ねた。
「食欲がない」
「おや」
「帰りたい…ユーヒさんの手料理なら食べられる…」
「それは困りましたね…流石にそれは用意出来ない」
「ジュンさんの料理なら食欲も湧くのだが…」
「それも無理な話だ。好きな料理は?」
「………」
「…今まで何を食べて来た?」
「ユーヒさんやジュンさんの料理なら、生の魚介類以外、好きじゃなかろうが美味しく感じた」
「いい加減にしろ…」
「いい加減に帰らせろ!」
暫くそんな問答を続けた後、
「もういい、適当に用意しておく。食べられないのは魚介類だけだね」
と、エタンは早口にそう言った。ムッとしながらもハルキが頷くと、エタンはすぐに部屋を去った。しっかりと鍵を外からかけて。
ため息をついてベッドに座り込む。
(帰りたい…)
ぼんやりしていると、扉がノックされた。
「はい…」
『海軍元帥、シュウです。入らせて戴いてもよろしいでしょうか』
「…どうぞ」
部屋に入って来たのは、白い軍服に身を包んだ男だった。
「失礼します」
「…海軍元帥が一体何の用でしょう」
「暫く、あなたの監視を申し付けられました。今、部下が外から鍵をかけたので、出られません。夕食までこちらに」
「…ああ、出られるとは思ってはいないから…そのあたりに座って…飲み物も用意出来なくて申し訳ない」
「いいえ、お気になさらず、ハルキ様」
「ハルキで構いません、シュウ元帥」
ハルキは半ば強制的にシュウをソファーに座らせ、自分も隣に座った。
「自分もシュウで構いませんが」
シュウは微笑んだ。
「…ああ、どうせ出られないし暇だし、話し相手が欲しくて」
「少しなら大丈夫でしょう」
「やっぱり、出たいものですか?」
「まあ…。貴族とか…あまり好きじゃないですし。庶民的だと言われるでしょうけど、居候して、一緒に過ごしてる人と作った料理のが、自分は好き。何か想いが入っていると思うと」
「わかるよ。奥さんの料理は美味いから」
「ですよね。高級が良いって訳じゃ…。だから僕は…」
「食べないのは駄目」
ハルキは何か考え込んでしまった。
「そんなことしたら死んじゃうよ」
「…僕は彼に殺されることは無いと思う」
シュウは肩の力を抜いた。
「よく分かってるね。あの人は特殊な趣味だから…今までも何回も、この部屋にハルキくんみたいな…綺麗って言うのかな?若い女の子がキャーキャー言うような美少年とか美青年が、連れて来られてたよ」
ハルキは怪訝そうな顔をした。
「僕は美少年でも美青年でもないだろうし…若い女の子から黄色い歓声を浴びたことも無いけどなぁ…」
「そうかな?まあでも、エタンさんが気に入りそうな感じ」
「…気持ち悪いな…」
「まあ…見るのと…いたぶるのが趣味の人だから、気を付けてね…」
「最悪…」
その時、外から鍵が開く音がして、料理人らしい男が料理を持って入ってきた。
「申し訳ないが、食欲がない。僕は寝ます。おやすみなさい」
「え、あの」
料理人もシュウも無視してベッドに横になった。
シュウは、強くエタンに釘を刺されていたことを思い出した。
『彼が食事を拒んだり、脱走するような動きを見せたら僕を呼んでください』
シュウは、そこでおどおどしている料理人にエタンを呼ぶように伝えた。
すぐにエタンのもとに向かう料理人を尻目に、ハルキのベッドに近づいた。
「今、エタンさんを呼びました。流石にまだ起きているでしょう?」
「まさか、もう寝ています」
「…………。酷い目にあわないうちに」
「なら逃げたい…。心配をかけてしまうのが一番嫌なんです」
「無理なことを言われても…」
シュウは深くため息をついて、反抗した美少年たちがどうなったのかゆっくり説明した。例えば鞭で強く叩かれたり、あるいは、家族に手を出すと脅したり、狼のいる檻に入れたり…。しかし、ハルキは無言であった。ただ微かに、ほんの一瞬だけ「家族」という単語に反応したような気がした。
「家族がいるんでしょう?」
「家族…と、自分が呼んでもいいのかわかりません。血が繋がっている実際の家族はこの国にはいないことは確かだけど…。しかし、家族と思えるほど大切な人たちは…確かにいます」
「その人達に手を出すかもしれないよ」
「…でも」
ハルキが何か言おうとした瞬間、鍵を開ける音がした。ゆっくり扉が開く。刹那、ハルキは身体を起こし、テーブルの前に向かった。
入ってきたのは案の定エタンであった。
「おや、食事する気になったのか?」
「興味が…少し興味が湧いただけ」
ハルキが答えるとエタンはシュウに向き直り、
「シュウ元帥が説得を?」
と尋ねた。
「あぁ…ええと…」
「彼は自分にどうすれば生きていけるか話してくれた」
ハルキは席についてパンを手にしながら言った。
「ふむ。流石ですね、シュウ元帥。報酬はそれなりにつけておきましょう」
「ありがとうございます」
「パンは気に入りましたか」
「え…あぁ、あまり、馴染みがないですから、よくわかりません」
「すぐ慣れますよ」
「さあ、どうかな…」
ハルキはそう悪態をついたが、エタンにもシュウにも無視された。
ハルキは暫く食事を続け、その間エタンは近くにいた。
「…自分が食事してるのを見て何がそんなに面白いんだ?」
「何をしても君は綺麗だ。綺麗な僕の――…」
ハルキの口元についた汚れに、エタンはゆっくりと手を伸ばす。
「やめろ」とその手を軽く払い、自らの手で拭う。そして、近くにある水を飲み干し、その透明な容器を食器の傍らに置くと、ハルキは席を立った。
「もういいのですか?」
「あぁ、気分が悪い。料理人に伝えてくれ、全部食べられなくてすまないと…」
「何故料理人に謝る?」
「…本来食事を残すのは勿体ないし作った者に失礼だ。そんなこともわからないのか?」
「自分より身分が下のものに対しては、失礼も何もない。勿体ない、などと…。ここには食料がたくさんある。ここでは貴方が変わっているのですよ」
「…話にならない。寝る。…シュウ元帥でいい…伝えて欲しい、さっきの事を…」
ハルキはそのままの足でベッドに向かった。
「わかりました」
シュウは静かにそう返事をしただけであった。
ゆっくりと目を開くと、天使の装飾が施された天井が見える。まだ屋敷の中であろうと思いながら、何度か瞬きをする。
(何があった…?)
身を起こすと頭痛がした。しかし、そのおかげかしっかりと頭が冴え、倒れる直前までの出来事を思いだし始めた。
エタンから渡されたドリンク、美しい髪との発言、最後に見た冷淡な笑み…。
(…何か入れられていたのか…油断していた)
ため息をついて辺りを見渡す。
ハルキが眠っていたベッドは金で装飾されていて、端から細い柱が伸びている。天井は部屋の天井ではなく、ベッドのものであったのだった。布団も柔らかで寝心地が良い。高級なものだろうと考えると、何か自分が寝ていてはいけないような気がしてベッドから降りた。
やはり高級そうなランプ、絨毯、シャンデリア、テーブル、クローゼット…花がいけられている花瓶すら、触ることもはばかられるほどだ。
ハルキはふと、自らが着ている服を見た。ユーヒに借りた紺の軍服のようなものではなく、似たような色のゆったりした長袖の上下になっていた。
(服まで変えたのか、エタン…)
彼にやられたのか、他の誰かにやらせたのかは知らないが、鳥肌が立った。そっと、クローゼットを開けてみる。沢山の、ハルキが好みそうな色の服が並べられ、端にユーヒに借りたものがあった。こうやって並べると、ユーヒには失礼だが、少し貧相に感じられて、貴族と自分の身分の差にはっきりと気付かされてしまう。暫く服を見ていたが、やがては飽きてしまい、クローゼットを閉じた。
(ユーヒやジュンたちは…色々節約して暮らしていた。僕には不自由の無いように気を使ってくれていたが、自分たちが食事をしていない時もあった…。だが、昨日のパーティといい、この部屋といい、随分いい生活をしているものだな…。苦しんでいる人がいることだって、知っている癖に…!)
「あぁ、起きていましたか」
突然かけられた声に振り返ると、いつの間にか入って来たらしいエタンがいた。
「ここはどこなのですか」
ハルキは冷静にそう尋ねた。
「僕の屋敷で、一番良い部屋だよ。天使の間」
「では、僕は何故ここに?あのあと何があったのですか?」
「君の飲み物に睡眠薬を入れさせてもらったんだよね。それで眠ってしまったから、部下に運ばせた。着替えもそいつだからね」
何故かその言葉に安心するハルキ。
「…こんなことをして…自分をどうするつもりですか?」
「僕はこの国の権力者だ。仕切っているのは僕だよ。この国の発展と勢力拡大を考える…当然だよね」
「それは…どういう意味…」
段々近づいてくるエタンから離れながらそう言った。
「君は別の国から来たんだよね。ここまで言えばわかるね?」
「なるほど…自分を人質に僕がいた国を奪おうと?だか、残念ですね」ハルキはエタンをぎっと睨み付ける。「記憶を無くしてしまったから、自分がどんな国にいたか…何を目的にこの国に来たのか…殆どわかりません」
エタンは例の冷淡な笑みを浮かべ、
「そんなわかりやすい嘘を言われてもね」
「嘘だと思うのは自由です。まあ…本当に覚えていたとしても、そんな歪んだ考えの方にはお話しないでしょうけど…!」
「誰に口を利いている?」
がっと襟を掴まれた。
「手荒な真似はしたくないんだけどね…」
「本当のことを言ったまで…」
「………ふ…まあ、良いでしょう。君にはここで生活してもらいます。三食、君好みの料理を用意させます。服はクローゼットにあります。気に入らなければ言ってください」
「帰る」
「無理です。警備は万全、君も逃げられないし誰も助けに来られない」
「帰る。まずお前が気に入らな…」
続けようとしたが、再び襟を強く掴まれた。
「離せ!」
「…君に、何が出来る?」
「何を…!」
しかしエタンはすぐに手を離して、
「夕食はどんな料理がいい?」
と尋ねた。
「食欲がない」
「おや」
「帰りたい…ユーヒさんの手料理なら食べられる…」
「それは困りましたね…流石にそれは用意出来ない」
「ジュンさんの料理なら食欲も湧くのだが…」
「それも無理な話だ。好きな料理は?」
「………」
「…今まで何を食べて来た?」
「ユーヒさんやジュンさんの料理なら、生の魚介類以外、好きじゃなかろうが美味しく感じた」
「いい加減にしろ…」
「いい加減に帰らせろ!」
暫くそんな問答を続けた後、
「もういい、適当に用意しておく。食べられないのは魚介類だけだね」
と、エタンは早口にそう言った。ムッとしながらもハルキが頷くと、エタンはすぐに部屋を去った。しっかりと鍵を外からかけて。
ため息をついてベッドに座り込む。
(帰りたい…)
ぼんやりしていると、扉がノックされた。
「はい…」
『海軍元帥、シュウです。入らせて戴いてもよろしいでしょうか』
「…どうぞ」
部屋に入って来たのは、白い軍服に身を包んだ男だった。
「失礼します」
「…海軍元帥が一体何の用でしょう」
「暫く、あなたの監視を申し付けられました。今、部下が外から鍵をかけたので、出られません。夕食までこちらに」
「…ああ、出られるとは思ってはいないから…そのあたりに座って…飲み物も用意出来なくて申し訳ない」
「いいえ、お気になさらず、ハルキ様」
「ハルキで構いません、シュウ元帥」
ハルキは半ば強制的にシュウをソファーに座らせ、自分も隣に座った。
「自分もシュウで構いませんが」
シュウは微笑んだ。
「…ああ、どうせ出られないし暇だし、話し相手が欲しくて」
「少しなら大丈夫でしょう」
「やっぱり、出たいものですか?」
「まあ…。貴族とか…あまり好きじゃないですし。庶民的だと言われるでしょうけど、居候して、一緒に過ごしてる人と作った料理のが、自分は好き。何か想いが入っていると思うと」
「わかるよ。奥さんの料理は美味いから」
「ですよね。高級が良いって訳じゃ…。だから僕は…」
「食べないのは駄目」
ハルキは何か考え込んでしまった。
「そんなことしたら死んじゃうよ」
「…僕は彼に殺されることは無いと思う」
シュウは肩の力を抜いた。
「よく分かってるね。あの人は特殊な趣味だから…今までも何回も、この部屋にハルキくんみたいな…綺麗って言うのかな?若い女の子がキャーキャー言うような美少年とか美青年が、連れて来られてたよ」
ハルキは怪訝そうな顔をした。
「僕は美少年でも美青年でもないだろうし…若い女の子から黄色い歓声を浴びたことも無いけどなぁ…」
「そうかな?まあでも、エタンさんが気に入りそうな感じ」
「…気持ち悪いな…」
「まあ…見るのと…いたぶるのが趣味の人だから、気を付けてね…」
「最悪…」
その時、外から鍵が開く音がして、料理人らしい男が料理を持って入ってきた。
「申し訳ないが、食欲がない。僕は寝ます。おやすみなさい」
「え、あの」
料理人もシュウも無視してベッドに横になった。
シュウは、強くエタンに釘を刺されていたことを思い出した。
『彼が食事を拒んだり、脱走するような動きを見せたら僕を呼んでください』
シュウは、そこでおどおどしている料理人にエタンを呼ぶように伝えた。
すぐにエタンのもとに向かう料理人を尻目に、ハルキのベッドに近づいた。
「今、エタンさんを呼びました。流石にまだ起きているでしょう?」
「まさか、もう寝ています」
「…………。酷い目にあわないうちに」
「なら逃げたい…。心配をかけてしまうのが一番嫌なんです」
「無理なことを言われても…」
シュウは深くため息をついて、反抗した美少年たちがどうなったのかゆっくり説明した。例えば鞭で強く叩かれたり、あるいは、家族に手を出すと脅したり、狼のいる檻に入れたり…。しかし、ハルキは無言であった。ただ微かに、ほんの一瞬だけ「家族」という単語に反応したような気がした。
「家族がいるんでしょう?」
「家族…と、自分が呼んでもいいのかわかりません。血が繋がっている実際の家族はこの国にはいないことは確かだけど…。しかし、家族と思えるほど大切な人たちは…確かにいます」
「その人達に手を出すかもしれないよ」
「…でも」
ハルキが何か言おうとした瞬間、鍵を開ける音がした。ゆっくり扉が開く。刹那、ハルキは身体を起こし、テーブルの前に向かった。
入ってきたのは案の定エタンであった。
「おや、食事する気になったのか?」
「興味が…少し興味が湧いただけ」
ハルキが答えるとエタンはシュウに向き直り、
「シュウ元帥が説得を?」
と尋ねた。
「あぁ…ええと…」
「彼は自分にどうすれば生きていけるか話してくれた」
ハルキは席についてパンを手にしながら言った。
「ふむ。流石ですね、シュウ元帥。報酬はそれなりにつけておきましょう」
「ありがとうございます」
「パンは気に入りましたか」
「え…あぁ、あまり、馴染みがないですから、よくわかりません」
「すぐ慣れますよ」
「さあ、どうかな…」
ハルキはそう悪態をついたが、エタンにもシュウにも無視された。
ハルキは暫く食事を続け、その間エタンは近くにいた。
「…自分が食事してるのを見て何がそんなに面白いんだ?」
「何をしても君は綺麗だ。綺麗な僕の――…」
ハルキの口元についた汚れに、エタンはゆっくりと手を伸ばす。
「やめろ」とその手を軽く払い、自らの手で拭う。そして、近くにある水を飲み干し、その透明な容器を食器の傍らに置くと、ハルキは席を立った。
「もういいのですか?」
「あぁ、気分が悪い。料理人に伝えてくれ、全部食べられなくてすまないと…」
「何故料理人に謝る?」
「…本来食事を残すのは勿体ないし作った者に失礼だ。そんなこともわからないのか?」
「自分より身分が下のものに対しては、失礼も何もない。勿体ない、などと…。ここには食料がたくさんある。ここでは貴方が変わっているのですよ」
「…話にならない。寝る。…シュウ元帥でいい…伝えて欲しい、さっきの事を…」
ハルキはそのままの足でベッドに向かった。
「わかりました」
シュウは静かにそう返事をしただけであった。