舞い降りたモノ
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「珍しいな、お前から相談なんて」
丁度非番で聖域にいた友人二人、デスマスクとアフロディーテは磨羯宮へ入るなり口を開いた。
「その様子じゃ何か訳がありそうだね」
そう言ったアフロディーテがシュラを見る。聖衣を身に纏ったままの姿にはうっすらと血が滲み、どことなくその箇所が輝きを増しているように見えた。
「ちょっと変なモノを拾ってな」
「変なもの?」
「女だ」
シュラの答えに二人は驚きのあまり顔を見合わせた。デスマスクならまだしも、堅物の塊ともいえるシュラが女を拾うだなんて想像もつかない。
シュラが拾った女だなんて滅多に見れるものじゃないし、一体どんな珍しいモノなのかと二人は興味津々で歩きだしたシュラの後を付いていった。
シュラが開けたドアの先にはベッドに横たわる女の姿が見えた。息をしていないかのように静かに横たわる女の顔は白く、この辺りでは見かけたことが無い顔だった。
「おい、血が出てるじゃねぇか。止血くらいしてやれよ」
腕に縛られた布からは血が滲み出ている。その様子を見たデスマスクは声を荒げた。
「小宇宙での止血は試したが、全く効かないんだ」
「止血が効かない?それはどういう事だ?」
「君の小宇宙を使ってでも止まらないなんて考えにくいんだけど…」
言葉を濁したアフロディーテは赤く染まる腕に手をかざし、小宇宙を送り出した。もうしばらくすれば血が止まるはずだ、とアフロディーテは確信していた。だが、シュラが試した時と同じ様に、血は止まる事を知らずじんわりと止血の布には血が滲み続けている。
「どういう事だよ…」
アフロディーテの小宇宙を感じながらデスマスクは信じられないといった様子で血が滲む腕をまじまじと見た。普通の人体ならばとっくに止血され、意識を取り戻してもおかしくないはずだ。それが何の反応もないままに、それでもしっかりと小宇宙は注がれている。
デスマスクはアフロディーテの手の上に自分の手をかざし小宇宙を送り出した。
「お前達を呼んだのはこういうことだ。俺だってこんなこと、信じられない」
そういったシュラは二人の手と同じく手をかざすと、三人一斉に小宇宙を送り出す。黄金聖闘士が三人がかりで小宇宙を送るだなんて、今まであっただろうか。異様な小宇宙の力に周りの木々はざわめき、小鳥達は逃げたした。
それでもなお女に変化はみられない。躍起になった三人は小宇宙を送り続け、背中には疲労からか汗が流れた。一体何がどうなっているのか三人の頭に同じような疑問が生まれた頃、意識を失っていた女が身じろぎした。
「……っ」
うっすらと開けられた目は焦点を合わせるかのように何度か瞬きをして、三人の姿捕らえた。意識が戻り、どうやら止血も成功したように見える。三人はかざしていた手を下ろし、小宇宙を使った疲労を感じながら女の動きに目を見張らせた。
体をよじり、ゆっくりと上半身を起こした女は三人の顔をじっと見つめ目を伏せた。その様子を見たシュラはある違和感を覚えた。
ここへ運んでくる前の女の瞳はオッドアイであったのに、今目の前にいる女の目は両目共黒い瞳をしている。違和感は目だけではない。透けるようなブロンドだった髪は枯葉のような茶色に変わっていたのだ。
もう何が何だか、全くもってシュラには理解ができなかった。ただ解るのは、目の前の女が意識をとり戻したということだけだった。
「よぉ、気がついたか」
シュラに変わってデスマスクが声をかける。黄金が三人がかりでやっと回復させた女にデスマスクは興味津々の様子だ。ただの人間ではない。それは三人共思っていた事だった。
「…ありがとう、ございます…」
小鳥が鳴く様な小さな声でそう言った女はふらつく体をベッドのへりまで動かし、床に足をつけて立ち上がろうとした。
「私、行かなきゃ…」
そう言って立ち上がろうとした女だったが、ふらつく体は重力に逆らうことができずに床へと崩れていった。崩れ落ちる女の体を支えたシュラは再びベッドへ座らせた。こんな様で歩けるとはとても思えないし、このまま外へ放り出して宮の前にでも行き倒れられたらわざわざ中まで運んだ意味がない。
「そんな体で何処へ?」
「ここにいると迷惑が…」
「でも今は歩く事さえできないでしょう?」
目を伏せた女にしゃがみこんで視線を合わせたアフロディーテは優しく微笑んだ。アフロディーテもデスマスク同様、この不思議な女に興味を持ったようだった。
「それに行く宛、あるのかよ」
「それは…」
行く宛が無いのだろうか、女は口ごもった。行く宛もなくこの聖域に、しかも教皇の間に近い磨羯宮の前に倒れていただなんてますますおかしい。質問は二人に任せてシュラは頭に浮かぶ疑問を整理していった。
「そういや、名前は?」
「……名前は…」
再び女が口ごもった。名前が無い、とでもいうのだろうか。それともただ言いたくないだけなのか。
どちらにせよいつまでも女と呼ぶ訳にもいかずシュラは頭を捻った。
「私はアフロディーテ。こっちの彼がデスマスクに、君を助けた彼がシュラ。あなたには少し聞きたい事があってね、名前を言いたくないのならばこっちで適当に呼ばせてもらうけれど…」
「名前が、無いのです」
にこやかな笑顔のままだったアフロディーテの顔が少し強張った。いつの時代も一定数いる名無しの子供。それがこんな同い年くらいまで名前が無い、とは珍しいとは思うが、全く可能性がないわけではないだろう。例えば、売られた子供だとか、見世物行商の子供だとかはその都度名前が変わったり、ナンバーで呼ばれたりすることだってある。
小さく息を吐いたアフロディーテはシュラを見上げた。
「シュラ、せめてここにいる間彼女に名前をつけてあげなよ」
そうだ、とデスマスクも頷いた。どうして俺が、と喉まで出かかったシュラだたが、元はといえば自分が拾ったモノだ。犬や猫といったものではないが、拾ってしまった以上名付けは仕方がないのかもしれない。
顎に手を当ててシュラは少し考えた。
「…シルフィはどうだ」
「お前にしちゃマトモだな」
「うん、いい名前だね」
再びシルフィに視線を戻したアフロディーテは微笑んだ。それにつられて少し微笑んだ、シルフィと名付けられた女は緊張の糸が切れたのか、再び意識を失ってベッドへと突っ伏した。
アフロディーテはシルフィを抱いてベッドの真ん中へと移動させるとシュラとデスマスクに目配せし、この部屋を後にした。
丁度非番で聖域にいた友人二人、デスマスクとアフロディーテは磨羯宮へ入るなり口を開いた。
「その様子じゃ何か訳がありそうだね」
そう言ったアフロディーテがシュラを見る。聖衣を身に纏ったままの姿にはうっすらと血が滲み、どことなくその箇所が輝きを増しているように見えた。
「ちょっと変なモノを拾ってな」
「変なもの?」
「女だ」
シュラの答えに二人は驚きのあまり顔を見合わせた。デスマスクならまだしも、堅物の塊ともいえるシュラが女を拾うだなんて想像もつかない。
シュラが拾った女だなんて滅多に見れるものじゃないし、一体どんな珍しいモノなのかと二人は興味津々で歩きだしたシュラの後を付いていった。
シュラが開けたドアの先にはベッドに横たわる女の姿が見えた。息をしていないかのように静かに横たわる女の顔は白く、この辺りでは見かけたことが無い顔だった。
「おい、血が出てるじゃねぇか。止血くらいしてやれよ」
腕に縛られた布からは血が滲み出ている。その様子を見たデスマスクは声を荒げた。
「小宇宙での止血は試したが、全く効かないんだ」
「止血が効かない?それはどういう事だ?」
「君の小宇宙を使ってでも止まらないなんて考えにくいんだけど…」
言葉を濁したアフロディーテは赤く染まる腕に手をかざし、小宇宙を送り出した。もうしばらくすれば血が止まるはずだ、とアフロディーテは確信していた。だが、シュラが試した時と同じ様に、血は止まる事を知らずじんわりと止血の布には血が滲み続けている。
「どういう事だよ…」
アフロディーテの小宇宙を感じながらデスマスクは信じられないといった様子で血が滲む腕をまじまじと見た。普通の人体ならばとっくに止血され、意識を取り戻してもおかしくないはずだ。それが何の反応もないままに、それでもしっかりと小宇宙は注がれている。
デスマスクはアフロディーテの手の上に自分の手をかざし小宇宙を送り出した。
「お前達を呼んだのはこういうことだ。俺だってこんなこと、信じられない」
そういったシュラは二人の手と同じく手をかざすと、三人一斉に小宇宙を送り出す。黄金聖闘士が三人がかりで小宇宙を送るだなんて、今まであっただろうか。異様な小宇宙の力に周りの木々はざわめき、小鳥達は逃げたした。
それでもなお女に変化はみられない。躍起になった三人は小宇宙を送り続け、背中には疲労からか汗が流れた。一体何がどうなっているのか三人の頭に同じような疑問が生まれた頃、意識を失っていた女が身じろぎした。
「……っ」
うっすらと開けられた目は焦点を合わせるかのように何度か瞬きをして、三人の姿捕らえた。意識が戻り、どうやら止血も成功したように見える。三人はかざしていた手を下ろし、小宇宙を使った疲労を感じながら女の動きに目を見張らせた。
体をよじり、ゆっくりと上半身を起こした女は三人の顔をじっと見つめ目を伏せた。その様子を見たシュラはある違和感を覚えた。
ここへ運んでくる前の女の瞳はオッドアイであったのに、今目の前にいる女の目は両目共黒い瞳をしている。違和感は目だけではない。透けるようなブロンドだった髪は枯葉のような茶色に変わっていたのだ。
もう何が何だか、全くもってシュラには理解ができなかった。ただ解るのは、目の前の女が意識をとり戻したということだけだった。
「よぉ、気がついたか」
シュラに変わってデスマスクが声をかける。黄金が三人がかりでやっと回復させた女にデスマスクは興味津々の様子だ。ただの人間ではない。それは三人共思っていた事だった。
「…ありがとう、ございます…」
小鳥が鳴く様な小さな声でそう言った女はふらつく体をベッドのへりまで動かし、床に足をつけて立ち上がろうとした。
「私、行かなきゃ…」
そう言って立ち上がろうとした女だったが、ふらつく体は重力に逆らうことができずに床へと崩れていった。崩れ落ちる女の体を支えたシュラは再びベッドへ座らせた。こんな様で歩けるとはとても思えないし、このまま外へ放り出して宮の前にでも行き倒れられたらわざわざ中まで運んだ意味がない。
「そんな体で何処へ?」
「ここにいると迷惑が…」
「でも今は歩く事さえできないでしょう?」
目を伏せた女にしゃがみこんで視線を合わせたアフロディーテは優しく微笑んだ。アフロディーテもデスマスク同様、この不思議な女に興味を持ったようだった。
「それに行く宛、あるのかよ」
「それは…」
行く宛が無いのだろうか、女は口ごもった。行く宛もなくこの聖域に、しかも教皇の間に近い磨羯宮の前に倒れていただなんてますますおかしい。質問は二人に任せてシュラは頭に浮かぶ疑問を整理していった。
「そういや、名前は?」
「……名前は…」
再び女が口ごもった。名前が無い、とでもいうのだろうか。それともただ言いたくないだけなのか。
どちらにせよいつまでも女と呼ぶ訳にもいかずシュラは頭を捻った。
「私はアフロディーテ。こっちの彼がデスマスクに、君を助けた彼がシュラ。あなたには少し聞きたい事があってね、名前を言いたくないのならばこっちで適当に呼ばせてもらうけれど…」
「名前が、無いのです」
にこやかな笑顔のままだったアフロディーテの顔が少し強張った。いつの時代も一定数いる名無しの子供。それがこんな同い年くらいまで名前が無い、とは珍しいとは思うが、全く可能性がないわけではないだろう。例えば、売られた子供だとか、見世物行商の子供だとかはその都度名前が変わったり、ナンバーで呼ばれたりすることだってある。
小さく息を吐いたアフロディーテはシュラを見上げた。
「シュラ、せめてここにいる間彼女に名前をつけてあげなよ」
そうだ、とデスマスクも頷いた。どうして俺が、と喉まで出かかったシュラだたが、元はといえば自分が拾ったモノだ。犬や猫といったものではないが、拾ってしまった以上名付けは仕方がないのかもしれない。
顎に手を当ててシュラは少し考えた。
「…シルフィはどうだ」
「お前にしちゃマトモだな」
「うん、いい名前だね」
再びシルフィに視線を戻したアフロディーテは微笑んだ。それにつられて少し微笑んだ、シルフィと名付けられた女は緊張の糸が切れたのか、再び意識を失ってベッドへと突っ伏した。
アフロディーテはシルフィを抱いてベッドの真ん中へと移動させるとシュラとデスマスクに目配せし、この部屋を後にした。