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「おいミョウジ、これ寄越せ」
「ん?ああ唐揚げ?いいですよ一個あげますよ」
「ミョウジ、貼りやがれィ」
「うわっ、打ち身ですか?湿布貼りますね」
「ミョウジ、背中貸せ」
「どうぞー」
「ミョウジミョウジミョウジってうるせえぞ総悟!!」
突然落ちた雷。落としたのは鬼の副長である土方さんだ。
「なんでィ、土方さんには関係ねえでさァ」
私の背中に自身の背中を預けていた沖田隊長がアイマスクを外して答える。
「いやお前マジで何してんの!?」
「ミョウジ、マヨラーがうるせぇ」
「ちょっと副長、沖田隊長が寝てるのに大きい声出さないでくださいよー」
隊長格の日頃の疲れは平隊士の私には分からない。少しでも休まるならと背中をお貸ししていたのに。
「いやミョウジ!お前もお前だよ!甘やかしすぎだ!つか今普通に会議中だから!!」
更に怒りがエスカレートしそうなので後ろの沖田隊長から背を離して姿勢を正す。甘味処で首輪を外されてから変わったことがある。それは、沖田隊長が私を頼るように……?なった気がするのだ。正直かわいくてかわいくて仕方ない。弟ができた気分でやりたいようにさせていた。最初は見て見ぬふりをしていた副長だったが、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。
「ミョウジも迷惑してんならはっきり言え」
「……どうなんでィ?」
沖田隊長がいつものポーカーフェイスで見つめてくるが、私から見ればかわいいベビーフェイスにしか見えない。甘やかしたい。思わず頬が緩みそうになる。
「迷惑なわけないじゃないですか」
「それなら問題ないですねィ」
「はい」
そうして私の背にまた沖田隊長が身体を預けようとした瞬間、
「——っいい加減にしろ!!」
私の頭に拳骨が落ちてきた。
◇
「何も殴らなくてもいいのに……」
というか殴られたのは私だけ、というのも納得がいかないけれど。そんなこんなで今、副長に罰としてお遣いに行かされた帰り道である。政府に支給される薬の他に、懇意にしている薬屋でもらえる塗り薬があある。それが底をつきそうだったため、町から離れたところにあるその薬屋に買いに行かされたのだ。徒歩で。そんなわけで両手に薬が入った袋をぶら下げて歩いているのだが、今の私は少しばかり変な歩き方をしている。左足をなるべく地面につかないように、ひょこひょこと右足で跳ねるようにして遠い道のりを歩いていた。
薬屋で薬を受け取り、元来た道を帰ろうと歩き出したところで、一人の子どもが前を歩いていることに気づいた。すると草むらから現れたのは野良犬。野良犬に気づいて怯えて走り出す子ども。犬は動くものを追う習性がある。予想通り野良犬は子どもを追って走り出す。まずいと思った私は袋をぽいと放り、子どもを追いかけてそのまま抱きかかえた——まではよかった。犬がじゃれようと私の周りをちょこまかと回りだしたものだから困った。腕の中で怖くて暴れる子どもを落とさないよう、足元にじゃれつく野良犬を踏まないようにとあたふたしていたら見事に足を挫いてしまったのだ。……間抜けすぎてほんと嫌。
その後、子どもを家までなんとか送り届け、なんだかんだで仲良くなった野良犬と途中でさよならをし、放り投げた薬を無事回収した。そして、ただでさえ歩きではなかなかに長い帰路を、左足になるべく体重を乗せないようにして地道に歩いている。
「……流石にちょいきついな」
ぽつりと呟いた言葉は夕闇に消えていく。こんなに遅くなる予定ではなかった。普通に歩けていれば遅くても夕方には帰れているはずだった。男装しているとはいえ、私はれっきとした女だ。暗い中一人で人気のない道を歩くことの危うさを知っている。まあ、今は隊服着てるから変なのに絡まれたりはしない……いや、逆に真選組に恨みを持つ者にとっては格好の餌食か……?面倒事は勘弁願いたい。視界に映る街の明かりがとても恋しかった。せめてあそこまでたどり着ければ——。
すると、背後から突如ブロロ、というエンジン音とドスドスという大きな物音が近づいてきた。薬の袋をそっと足元へ置く。腰の刀の鯉口を切り、右手を柄に添えて振り返る。
◇
「おっっっっっきいわんちゃん……」
近づいたことで音の正体が分かって思わず言葉が零れた。エンジン音を響かせる原付と、大きな大きな犬がその足音を響かせながら目の前まで来て止まった。そして耳に入った声に驚いた。
「……お前何してんの?」
「……え?」
原付の運転手がゴーグルを外してみせる。その正体は、万事屋——坂田銀時だった。
「そっちこそこんなとこで何を……」
思わず聞き返すと知らない声が聞こえてきた。
「銀さん、お知り合いですか?」
「税金泥棒の仲間アル!」
「神楽ちゃん!!」
原付の後ろに乗っている眼鏡の男の子と、大きな犬の上に跨っているチャイナ服の女の子。……もしかして??
「銀時が言ってた従業員さんって……」
「ん?ああ、こいつらだ。こっちの地味眼鏡童貞が志村新八。そっちの大食漢我儘チャイナ娘が神楽——ぐはっ!」
即座に2人分の飛び蹴りを受けてぶっ飛ぶ銀時。仲いいんだね。
「俺、真選組のミョウジです。よろしく」
「こっちのおっきいのは定春ネ!立派な日本男児ヨ!」
神楽ちゃんが紹介してくれる。お目々大きくてお肌白くてかわいい。
「男の子なんだね!定春くん、よろしくね」
「ワン!」
返事をしてくれる定春くん。白くてもふもふでかわいい。
「ミョウジさん、こんなところで何してるんですか?もう暗いのにお一人で……」
心配そうに見つめてくる新八くん。え、優しい。かわいい。
「ぅ゙、げほっ、そうだ、お前何やってんだこんなとこで」
ダメージを受けつつ立ち上がる銀時にまた状況を聞かれ、仕方なくあったことを話した。
◇
「あのチンピラ警察の仲間っていうからどんなやつかと思ったけど、いい奴ネ!」
「ほんと災難でしたね。でも人助けしてて偉いですよ!」
「せっかくいいことしてんのに間抜けすぎるな本当に」
「へへ、そう言ってもらえると報われるなー。そっちもお仕事お疲れ様!」
褒めてもらえてつい口元が緩む。一人失礼なやつがいるけど無視無視。
仏頂面になった銀時が顎に手を当てて考えるようなポーズをとる。
「……新八、メット貸せ」
「はい銀さん!」
「お前ら先帰ってろ」
「分かったアル!新八!早く乗るアル!」
「ではミョウジさんお気をつけて!」
「またネ!」
「え?またね?」
定春くんに神楽ちゃんと新八くんが跨り、そのまま走り去ってしまった。
「……え?どういう……」
残されたのは私と銀時。混乱していると急にヘルメットを投げられて反射的にキャッチしてしまう。銀時は私の横に転がっていた袋を拾い上げ、原付の足元にごそっと置いて座席に跨がる。
「え?え?」
「ほれ、早くメット被れ」
「え!?いいよ!悪いよ!」
銀時の考えが分かり首をぶんぶん振って断るが、全く聞く耳を持ってくれず、ヘルメットを被らされる。
「おわっ」
「お前のその足じゃまだまだたどり着けねえよ。明日になっちまうよ」
「流石にそこまでじゃないよ!」
あわあわと原付と銀時を交互に見る。
「お前が早く乗んないと銀さんも帰れないの。お前を送らずに帰ったらあいつらに何言われるか分かんねーから早くしてくんない?」
「うっ……」
頭に新八くん、神楽ちゃん、定春くんの顔が浮かぶ。すごいな。皆まで言わずに銀時の考えを察したのか。絆だな、なんて思いながら意を決して原付に近づいたものの、痛めた左足を庇いながらの乗り方に戸惑ってしまう。
「う、えと……」
そんな私の目の前にすっと手が差し出される。
「ほれ」
「あ、ありがと……」
銀時の手に手を重ねると、相変わらずあの出来事が頭を掠める。考えないように、考えないように……、と思いながらも頬が熱くなるのは止められない。暗くてよかった。挫いた左足のせいで銀時の手にかなり重心をかけてしまうが、全くびくともしない。
「……わっ!?」
「っと」
なんだか変に緊張してしまったせいでバランスを崩しかけた瞬間、重ねていた手をぎゅっと掴まれ、即座に銀時のもう片方の手が私の身体を支える。その勢いで銀時の肩口に顔を押し付けてしまい、一人であたふたしてしまう。
「ご、ごめん」
「ん」
なんとか私が後ろに跨ったのを確認すると、原付のエンジンがかかる。
「じゃ出発すっぞー」
「はい、お願いします……」
そっと銀時の肩に手を置くと、訝しげにこちらを振り返って来る。
「ナマエちゃんさ、もしかして原付二人乗りしたことない?」
「?ないよ?」
「あー……肩から手下ろして」
何か不味かっただろうか。大人しく銀時の肩から手を下ろすと、両手をがっと掴まれて銀時の腹に回される。突然のことに身体ごと密着してしまう。
「っぷ!?」
「ちゃんとくっついてねーとあぶねーの。曲がるとき俺と同じように身体倒せよ」
「わ、分かった」
銀時の言葉を受けて銀時の胴にまわした腕に力を入れて身体を密着させると、銀時が「あ」と声を上げる。
「なに?」
「そうか……晒し巻いてんのか……残念……」
「……殴るよ」
原付は走り出す。
◇
腕を回して気づいたのは、その身体の逞しさだ。着物に隠れているが、しっかりと筋肉のついた身体をしている。まざまざと思い知らされて知らずに鼓動が速くなる。さっき手で支えてもらったときも、びくともしていなかった。そして怪我をした私を送り届けようとしてくれる優しさ。従業員からの信頼。ちゃらんぽらんに見えるが、関わっていけばいくほどしっかりした大人の男ということを分からされる。背中に触れるか触れないかの距離に顔があるため、鼻腔を甘い香りが擽り、甘党なことを思い出す。そのギャップにくすくすと笑いが溢れる。
「なに」
「銀時から甘い香りするからおかしくって」
エンジン音に負けないように大きく話す。
「甘党だと体臭も甘くなるのー?」
「知りませーん」
他愛もない会話をしながら進む。今の依頼を受けてからというもの、いつでも女だとバレないように気をつけてきた。しかし銀時には既にバレているので、気を遣わずに話せた。平気なつもりでいたけれど、存外溜め込んでいたようでいろんなことを話した。エンジン音で聞こえにくいだろうに、ふーん、だの、へー、だの相槌を打ち続けてくれた。
あーだこーだ話しているとあっという間に町に着いてしまう。もし銀時に送ってもらえてなかったらまだまだあの人気のない道を一人で歩いていたのだと思うと感謝の気持ちがこみ上げる。しかも話し相手にもなってくれた。おでこを背中に付けて目を閉じる。
「ほんと、助かった。ありがとう」
「……あんまかわいいことしないでくれる?」
「?なに?」
聞き取れなくて聞き返す。
「感謝しろよーって、言った」
「してるってば!」
そんなやり取りをしているうちに屯所に到着した。降りる時にまた手を差し出してくれたので、お礼を言って手を重ねた。
「よい……しょっと、ありがとう」
「どーいたしまして」
薬の袋を差し出してくれるのでそれを受け取る。
「ほんとに中まで運ばなくていいのか?」
「大丈夫。銀時、ありがとう。みんなで帰るの邪魔してごめんね」
「いーってことよ」
屯所でのあの一件のせいでとんでもないやつだと思っていたけれども、今はかなり印象が変わっていた。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「おう」
くるりと向きを変え、真選組の門をくぐろうとすると、後ろから声がかかる。
「なあ、」
「ん?」
振り返ると原付に跨り、ハンドル部分に頬杖をつく銀時と目が合う。
「順調なの?あぶねーぞ?まだ続けんの?」
言わんとしていることは分かる。分かるが、私もプライドを持って仕事をしている。心配してくれてありがとう。その気持ちを胸に、「続けるよ」と答えた。
「そうか」
「うん。ありがとね」
「なんかあったら頼れよ」
「うん。そうさせてもらう」
銀時に女だとバレたときは依頼失敗だと絶望していたけれど、ちゃんと誰にも話さないでいてくれるし、大分気にかけてくれている。バレたのが銀時で良かった、なんて思っていると、香る紫煙にハッと振り向いた。
「……遅ェ。何してやがった」
副長が煙草を吸いながらこちらへ向かってくる。そうですよね。薬受け取るだけなのに夜になっちゃってね。遅かったですよね……。
「副長すみません。ちょっといろいろトラブっちゃって……遅くなりました」
私の言葉を聞いて副長の視線が左足に注がれる。そしてすぐに私の背後の銀時へと移る。
「チッ。……悪かったな。うちのが迷惑かけた」
「ミョウジはちゃんと立派に真選組隊士としての務めを果たしただけだ。ちゃんと理由聞いてやれ」
「銀時……」
「……おい、寄越せ」
「え?でもっ」
「いいから」
「すみません……」
副長に薬の袋を引ったくられる。副長なりに怪我を気遣ってくれているようだ。
「大串くん」
「あ"?」
銀時が副長の背中に声をかけると副長が振り返る。
「そいつかなりドジで間抜けだから無茶させすぎんなよ」
「なっ!?失礼な!」
副長は私と銀時を交互に見つめ、ふーっと煙を吐き出した。
「随分知ったことを言うじゃねえか」
「ま、そういうこった」
そこまで言うと銀時は原付のエンジンをかける。
「ミョウジ、またな」
「ほんとにありがとう。また!」
軽く手を振られ、私も手を振る。またな、だって。また他愛もない話ができたらいいな。次は銀時の話も聞けるだろうか。
「……お前ら随分仲がいいな?」
「……なんかよく会うもんで……」
不自然にならないように笑って見せる。少しの沈黙の後、副長が戸に向かって歩き始める。
「まあいい。早く入れ。話は中で聞く」
「はい」
ひょこひょこと副長の後に続くと、土方さんが戸を開けて待っていてくれた。怒っているようには見えるが、気にかけてくれているようだ。その不器用な優しさに嬉しくなり、へらりと笑うとデコピンされた。
真選組はやはり居心地がいい。みんな不器用だけど優しい。ここを守るためにも、依頼を続けよう。
こうして私の御使いは無事に(?)終わったのであった。
「ん?ああ唐揚げ?いいですよ一個あげますよ」
「ミョウジ、貼りやがれィ」
「うわっ、打ち身ですか?湿布貼りますね」
「ミョウジ、背中貸せ」
「どうぞー」
「ミョウジミョウジミョウジってうるせえぞ総悟!!」
突然落ちた雷。落としたのは鬼の副長である土方さんだ。
「なんでィ、土方さんには関係ねえでさァ」
私の背中に自身の背中を預けていた沖田隊長がアイマスクを外して答える。
「いやお前マジで何してんの!?」
「ミョウジ、マヨラーがうるせぇ」
「ちょっと副長、沖田隊長が寝てるのに大きい声出さないでくださいよー」
隊長格の日頃の疲れは平隊士の私には分からない。少しでも休まるならと背中をお貸ししていたのに。
「いやミョウジ!お前もお前だよ!甘やかしすぎだ!つか今普通に会議中だから!!」
更に怒りがエスカレートしそうなので後ろの沖田隊長から背を離して姿勢を正す。甘味処で首輪を外されてから変わったことがある。それは、沖田隊長が私を頼るように……?なった気がするのだ。正直かわいくてかわいくて仕方ない。弟ができた気分でやりたいようにさせていた。最初は見て見ぬふりをしていた副長だったが、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。
「ミョウジも迷惑してんならはっきり言え」
「……どうなんでィ?」
沖田隊長がいつものポーカーフェイスで見つめてくるが、私から見ればかわいいベビーフェイスにしか見えない。甘やかしたい。思わず頬が緩みそうになる。
「迷惑なわけないじゃないですか」
「それなら問題ないですねィ」
「はい」
そうして私の背にまた沖田隊長が身体を預けようとした瞬間、
「——っいい加減にしろ!!」
私の頭に拳骨が落ちてきた。
◇
「何も殴らなくてもいいのに……」
というか殴られたのは私だけ、というのも納得がいかないけれど。そんなこんなで今、副長に罰としてお遣いに行かされた帰り道である。政府に支給される薬の他に、懇意にしている薬屋でもらえる塗り薬があある。それが底をつきそうだったため、町から離れたところにあるその薬屋に買いに行かされたのだ。徒歩で。そんなわけで両手に薬が入った袋をぶら下げて歩いているのだが、今の私は少しばかり変な歩き方をしている。左足をなるべく地面につかないように、ひょこひょこと右足で跳ねるようにして遠い道のりを歩いていた。
薬屋で薬を受け取り、元来た道を帰ろうと歩き出したところで、一人の子どもが前を歩いていることに気づいた。すると草むらから現れたのは野良犬。野良犬に気づいて怯えて走り出す子ども。犬は動くものを追う習性がある。予想通り野良犬は子どもを追って走り出す。まずいと思った私は袋をぽいと放り、子どもを追いかけてそのまま抱きかかえた——まではよかった。犬がじゃれようと私の周りをちょこまかと回りだしたものだから困った。腕の中で怖くて暴れる子どもを落とさないよう、足元にじゃれつく野良犬を踏まないようにとあたふたしていたら見事に足を挫いてしまったのだ。……間抜けすぎてほんと嫌。
その後、子どもを家までなんとか送り届け、なんだかんだで仲良くなった野良犬と途中でさよならをし、放り投げた薬を無事回収した。そして、ただでさえ歩きではなかなかに長い帰路を、左足になるべく体重を乗せないようにして地道に歩いている。
「……流石にちょいきついな」
ぽつりと呟いた言葉は夕闇に消えていく。こんなに遅くなる予定ではなかった。普通に歩けていれば遅くても夕方には帰れているはずだった。男装しているとはいえ、私はれっきとした女だ。暗い中一人で人気のない道を歩くことの危うさを知っている。まあ、今は隊服着てるから変なのに絡まれたりはしない……いや、逆に真選組に恨みを持つ者にとっては格好の餌食か……?面倒事は勘弁願いたい。視界に映る街の明かりがとても恋しかった。せめてあそこまでたどり着ければ——。
すると、背後から突如ブロロ、というエンジン音とドスドスという大きな物音が近づいてきた。薬の袋をそっと足元へ置く。腰の刀の鯉口を切り、右手を柄に添えて振り返る。
◇
「おっっっっっきいわんちゃん……」
近づいたことで音の正体が分かって思わず言葉が零れた。エンジン音を響かせる原付と、大きな大きな犬がその足音を響かせながら目の前まで来て止まった。そして耳に入った声に驚いた。
「……お前何してんの?」
「……え?」
原付の運転手がゴーグルを外してみせる。その正体は、万事屋——坂田銀時だった。
「そっちこそこんなとこで何を……」
思わず聞き返すと知らない声が聞こえてきた。
「銀さん、お知り合いですか?」
「税金泥棒の仲間アル!」
「神楽ちゃん!!」
原付の後ろに乗っている眼鏡の男の子と、大きな犬の上に跨っているチャイナ服の女の子。……もしかして??
「銀時が言ってた従業員さんって……」
「ん?ああ、こいつらだ。こっちの地味眼鏡童貞が志村新八。そっちの大食漢我儘チャイナ娘が神楽——ぐはっ!」
即座に2人分の飛び蹴りを受けてぶっ飛ぶ銀時。仲いいんだね。
「俺、真選組のミョウジです。よろしく」
「こっちのおっきいのは定春ネ!立派な日本男児ヨ!」
神楽ちゃんが紹介してくれる。お目々大きくてお肌白くてかわいい。
「男の子なんだね!定春くん、よろしくね」
「ワン!」
返事をしてくれる定春くん。白くてもふもふでかわいい。
「ミョウジさん、こんなところで何してるんですか?もう暗いのにお一人で……」
心配そうに見つめてくる新八くん。え、優しい。かわいい。
「ぅ゙、げほっ、そうだ、お前何やってんだこんなとこで」
ダメージを受けつつ立ち上がる銀時にまた状況を聞かれ、仕方なくあったことを話した。
◇
「あのチンピラ警察の仲間っていうからどんなやつかと思ったけど、いい奴ネ!」
「ほんと災難でしたね。でも人助けしてて偉いですよ!」
「せっかくいいことしてんのに間抜けすぎるな本当に」
「へへ、そう言ってもらえると報われるなー。そっちもお仕事お疲れ様!」
褒めてもらえてつい口元が緩む。一人失礼なやつがいるけど無視無視。
仏頂面になった銀時が顎に手を当てて考えるようなポーズをとる。
「……新八、メット貸せ」
「はい銀さん!」
「お前ら先帰ってろ」
「分かったアル!新八!早く乗るアル!」
「ではミョウジさんお気をつけて!」
「またネ!」
「え?またね?」
定春くんに神楽ちゃんと新八くんが跨り、そのまま走り去ってしまった。
「……え?どういう……」
残されたのは私と銀時。混乱していると急にヘルメットを投げられて反射的にキャッチしてしまう。銀時は私の横に転がっていた袋を拾い上げ、原付の足元にごそっと置いて座席に跨がる。
「え?え?」
「ほれ、早くメット被れ」
「え!?いいよ!悪いよ!」
銀時の考えが分かり首をぶんぶん振って断るが、全く聞く耳を持ってくれず、ヘルメットを被らされる。
「おわっ」
「お前のその足じゃまだまだたどり着けねえよ。明日になっちまうよ」
「流石にそこまでじゃないよ!」
あわあわと原付と銀時を交互に見る。
「お前が早く乗んないと銀さんも帰れないの。お前を送らずに帰ったらあいつらに何言われるか分かんねーから早くしてくんない?」
「うっ……」
頭に新八くん、神楽ちゃん、定春くんの顔が浮かぶ。すごいな。皆まで言わずに銀時の考えを察したのか。絆だな、なんて思いながら意を決して原付に近づいたものの、痛めた左足を庇いながらの乗り方に戸惑ってしまう。
「う、えと……」
そんな私の目の前にすっと手が差し出される。
「ほれ」
「あ、ありがと……」
銀時の手に手を重ねると、相変わらずあの出来事が頭を掠める。考えないように、考えないように……、と思いながらも頬が熱くなるのは止められない。暗くてよかった。挫いた左足のせいで銀時の手にかなり重心をかけてしまうが、全くびくともしない。
「……わっ!?」
「っと」
なんだか変に緊張してしまったせいでバランスを崩しかけた瞬間、重ねていた手をぎゅっと掴まれ、即座に銀時のもう片方の手が私の身体を支える。その勢いで銀時の肩口に顔を押し付けてしまい、一人であたふたしてしまう。
「ご、ごめん」
「ん」
なんとか私が後ろに跨ったのを確認すると、原付のエンジンがかかる。
「じゃ出発すっぞー」
「はい、お願いします……」
そっと銀時の肩に手を置くと、訝しげにこちらを振り返って来る。
「ナマエちゃんさ、もしかして原付二人乗りしたことない?」
「?ないよ?」
「あー……肩から手下ろして」
何か不味かっただろうか。大人しく銀時の肩から手を下ろすと、両手をがっと掴まれて銀時の腹に回される。突然のことに身体ごと密着してしまう。
「っぷ!?」
「ちゃんとくっついてねーとあぶねーの。曲がるとき俺と同じように身体倒せよ」
「わ、分かった」
銀時の言葉を受けて銀時の胴にまわした腕に力を入れて身体を密着させると、銀時が「あ」と声を上げる。
「なに?」
「そうか……晒し巻いてんのか……残念……」
「……殴るよ」
原付は走り出す。
◇
腕を回して気づいたのは、その身体の逞しさだ。着物に隠れているが、しっかりと筋肉のついた身体をしている。まざまざと思い知らされて知らずに鼓動が速くなる。さっき手で支えてもらったときも、びくともしていなかった。そして怪我をした私を送り届けようとしてくれる優しさ。従業員からの信頼。ちゃらんぽらんに見えるが、関わっていけばいくほどしっかりした大人の男ということを分からされる。背中に触れるか触れないかの距離に顔があるため、鼻腔を甘い香りが擽り、甘党なことを思い出す。そのギャップにくすくすと笑いが溢れる。
「なに」
「銀時から甘い香りするからおかしくって」
エンジン音に負けないように大きく話す。
「甘党だと体臭も甘くなるのー?」
「知りませーん」
他愛もない会話をしながら進む。今の依頼を受けてからというもの、いつでも女だとバレないように気をつけてきた。しかし銀時には既にバレているので、気を遣わずに話せた。平気なつもりでいたけれど、存外溜め込んでいたようでいろんなことを話した。エンジン音で聞こえにくいだろうに、ふーん、だの、へー、だの相槌を打ち続けてくれた。
あーだこーだ話しているとあっという間に町に着いてしまう。もし銀時に送ってもらえてなかったらまだまだあの人気のない道を一人で歩いていたのだと思うと感謝の気持ちがこみ上げる。しかも話し相手にもなってくれた。おでこを背中に付けて目を閉じる。
「ほんと、助かった。ありがとう」
「……あんまかわいいことしないでくれる?」
「?なに?」
聞き取れなくて聞き返す。
「感謝しろよーって、言った」
「してるってば!」
そんなやり取りをしているうちに屯所に到着した。降りる時にまた手を差し出してくれたので、お礼を言って手を重ねた。
「よい……しょっと、ありがとう」
「どーいたしまして」
薬の袋を差し出してくれるのでそれを受け取る。
「ほんとに中まで運ばなくていいのか?」
「大丈夫。銀時、ありがとう。みんなで帰るの邪魔してごめんね」
「いーってことよ」
屯所でのあの一件のせいでとんでもないやつだと思っていたけれども、今はかなり印象が変わっていた。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「おう」
くるりと向きを変え、真選組の門をくぐろうとすると、後ろから声がかかる。
「なあ、」
「ん?」
振り返ると原付に跨り、ハンドル部分に頬杖をつく銀時と目が合う。
「順調なの?あぶねーぞ?まだ続けんの?」
言わんとしていることは分かる。分かるが、私もプライドを持って仕事をしている。心配してくれてありがとう。その気持ちを胸に、「続けるよ」と答えた。
「そうか」
「うん。ありがとね」
「なんかあったら頼れよ」
「うん。そうさせてもらう」
銀時に女だとバレたときは依頼失敗だと絶望していたけれど、ちゃんと誰にも話さないでいてくれるし、大分気にかけてくれている。バレたのが銀時で良かった、なんて思っていると、香る紫煙にハッと振り向いた。
「……遅ェ。何してやがった」
副長が煙草を吸いながらこちらへ向かってくる。そうですよね。薬受け取るだけなのに夜になっちゃってね。遅かったですよね……。
「副長すみません。ちょっといろいろトラブっちゃって……遅くなりました」
私の言葉を聞いて副長の視線が左足に注がれる。そしてすぐに私の背後の銀時へと移る。
「チッ。……悪かったな。うちのが迷惑かけた」
「ミョウジはちゃんと立派に真選組隊士としての務めを果たしただけだ。ちゃんと理由聞いてやれ」
「銀時……」
「……おい、寄越せ」
「え?でもっ」
「いいから」
「すみません……」
副長に薬の袋を引ったくられる。副長なりに怪我を気遣ってくれているようだ。
「大串くん」
「あ"?」
銀時が副長の背中に声をかけると副長が振り返る。
「そいつかなりドジで間抜けだから無茶させすぎんなよ」
「なっ!?失礼な!」
副長は私と銀時を交互に見つめ、ふーっと煙を吐き出した。
「随分知ったことを言うじゃねえか」
「ま、そういうこった」
そこまで言うと銀時は原付のエンジンをかける。
「ミョウジ、またな」
「ほんとにありがとう。また!」
軽く手を振られ、私も手を振る。またな、だって。また他愛もない話ができたらいいな。次は銀時の話も聞けるだろうか。
「……お前ら随分仲がいいな?」
「……なんかよく会うもんで……」
不自然にならないように笑って見せる。少しの沈黙の後、副長が戸に向かって歩き始める。
「まあいい。早く入れ。話は中で聞く」
「はい」
ひょこひょこと副長の後に続くと、土方さんが戸を開けて待っていてくれた。怒っているようには見えるが、気にかけてくれているようだ。その不器用な優しさに嬉しくなり、へらりと笑うとデコピンされた。
真選組はやはり居心地がいい。みんな不器用だけど優しい。ここを守るためにも、依頼を続けよう。
こうして私の御使いは無事に(?)終わったのであった。
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