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もう会うことはない、なんて思っていた相手と、甘味処のテーブルを囲んでいる。私の隣には沖田隊長、沖田隊長の前には万事屋、もとい坂田銀時がいる。なに?なんなの?この状況……。それを知るには、ほんの少し、時間を巻き戻す必要がある。
◇
「沖田隊長、これ飽きません?」
「なんでィ、文句あんのか?」
「文句言ってもするんですよね?」
「黙って躾られとけィ。誰が主人か覚えるまでな」
「それはもう分かってますって」
今日も相変わらず人の往来が激しく、賑やかで活気のある町、かぶき町。その喧騒の中を、真選組の隊服に身を包み、首に着けられた赤い首輪を指でいじりながら私は歩いていた。
沖田隊長と見廻り当番の日はつけられる首輪。初めてつけられたときは流石に度肝を抜かれたが、話を聞いていくと、なに、パフォーマンスというか、お遊びというか。特に何かされるということもなく、たまに意地悪なことを言われるくらい。多分あれだ。男の子ってそういうとこあるじゃん?「俺Sなんだよね〜」みたいな。「お前はドMだろ〜」みたいな。うんうん。あるあるそんな時期。そんなお年頃。付き合ってあげようじゃないかお姉さんが。
真選組に潜入している間、もちろん沖田隊長は上司ではあるし、強いのも勿論知っているんだけれども、童顔で年下でちょっと生意気で……、なんだか可愛いんだよねぇ。
「ムカつく顔してんな。何考えてやがる」
「いやいや、何も。それより今日はどこ行きます?」
「ほんと、なんかミョウジ相手だと調子狂いまさァ」
「拒否したら拒否したで文句言うし、受け入れたら受け入れたで文句言われちゃうんですか?」
「うるせえ。飼い犬は黙って主人についてこい」
「はーい。今日は飼い犬をどこへ連れて行ってくれるんです?」
私は知っている。副長に命じられたときの沖田隊長は真面目に見廻りなんてしない。いつものふざけたアイマスクをつけてその辺の河原で居眠りをしたり、茶をしばいたりするのだ。
「ここでさァ」
沖田隊長が止まったのは、生クリームとあんこがたっぷり乗っている白玉パフェが有名な甘味処。甘味は好きなので嬉しい。緩む頬を隠しもしないまま店内に入ろうとしたが、他の客と同時に暖簾をくぐろうとしてしまいぶつかってしまった。
「あっ、すみません」
「っと、悪ぃ」
謝ろうと顔を上げると、そこにいたのは坂田銀時、その人だった。
「げ」と言いそうになるのをすんでのところで飲み込む。沖田隊長に変に勘繰られるとまずい。
向こうも私に気づいたようで、眠そうな目を見開いた。そこから間もなく、いかにもドン引き、という顔で私の首元を指差した。こうして、始まりに戻る。
◇
「で、なんなのこいつの首のそれ」
「見たまんま。首輪でさァ」
「そーじゃねえよ。わかった上で聞いてんの」
「躾でさァ」
「そういうプレイを往来でするなって言ってんの!それすらプレイの一環か!?」
万事屋を隊長に任せ、素知らぬ顔に徹していると声をかけられる。
「お前も、なーんで普通に受け入れてんだよ。拒否れよ」
「別に……不便はないし……」
「いや、人前でそれ結構きついよ」
何度も人を指で差すな。
「……そうですか?」
「そうでさァ」
「そうかぁ……」
「なんなのこいつ。羞恥心捨ててきた?」
かわいい上司の遊びに付き合ってあげてるだけだし、なんて流石に本人の目の前では言わないし、言えない。
「飼い犬には首輪が必要でしょう?万事屋の旦那ァ」
「はあ〜……」
万事屋は、まるで話しても無駄だと言うように首を横に振った。
◇
「お待たせいたしました。スペシャルはあとからお持ちしますね」
そう言って私と隊長のパフェを持ってきた店員さんが一度下がり、もう一度戻ってきて万事屋の目の前にソレを置いた。
「なにその生クリームとあんこの量は……」
トッピングが私たちの二倍、いや三倍は乗っている。私は胸焼けしちゃうかも……。なんて思っていると、当の本人は嬉しそうな表情ですぐに食べ始めた。
「……甘党…?」
「なんだよ、文句あんのか?」
見かけによらず可愛いとこあるんですね、なんて思ったのは黙っておこう。
「旦那とミョウジはいつの間にそんな喋るようになったんですかィ?」
沖田隊長から聞かれてパフェを食べる手が止まった。
「あー、この間屯所行ったときにちょっとな」
そう言って万事屋がちらと視線を投げてくるので、屯所で起きたことを思い出してしまい、顔に熱が集まる。とは言えうまく流さなくちゃ。沖田隊長になんて勘ぐられたら本当にめんどくさいことになる!考えれば考えるほど焦ってしまい、うまい言葉を返せずにいると、万事屋が続けた。
「厠の場所教えてもらったんだよな?そんときに少し話してさ、割と気が合ったんだよ。な?」
そうだろ?とこちらを再度見つめるので、うんうんと必死に首を縦に振った。
「へーそうだったんですねィ」
沖田隊長はあまり興味がなさそうに白玉を口に運んだ。
……万事屋、かばってくれた……。
◇
パフェを食べながら当たり障りのない会話をしていると、目に留まったのは沖田隊長の口元。
「沖田隊長、あんこついちゃってます」
「……どこでィ?」
沖田隊長が手を伸ばすも、微妙に違う位置。焦れったくてつい手が伸びる。ハンカチを取り出して口元をそっと拭くと、沖田隊長の丸い目がさらにまあるく開かれた。
「ふふ……はい、取れた……、っ!」
「……」
「し、失礼しました……」
やりすぎたかもしれない。いくら歳下とはいえ上司だ。失礼だった。思わず謝ると沖田隊長がぽそりと。
「……なんとなく、調子狂う理由が分かりやした」
「え」
「厠行ってきまさァ」
そう言って沖田隊長は席を立ってしまった。
どうしよう。出過ぎた真似をしたかもしれない。上司にあんな……。
うんうんと悩んでいると、斜め前から声をかけられる。
「なに、ナマエちゃん、総一郎くんみたいなのがタイプなの?」
「……はぁ?ていうか外なんだからソッチじゃなくて名字で呼んでよ……」
予想だにしない言葉を投げかけられ、文句を言いながらちらりと顔を見る。
「いちゃいちゃしちゃってまぁ」
万事屋は頬杖をつき、唇を尖らせて言う。
「いちゃいちゃ……?そんなんじゃないよ。隊長年下だし、童顔だし……なんか勝手に弟がいたらこんな感じかなーとか思っちゃってたから、調子乗りすぎて怒らせちゃったかも…」
そこまで私が言うと、万事屋は「……弟、ね。総一郎くんの様子おかしかったのはそれか……」と言った。どういう意味だろう……。
「……つか、人のこと言えねーじゃん。ついてっぞ」
そう言って万事屋がとんとんと自分の口元を指差す。
「え、嘘」
「嘘言ってどーすんの」
卓上の紙ナプキンをとり、口元を拭う。
「ちげーよ」
そう言って万事屋は斜め前から私の方に身を乗り出してきた。正面にいなかったお陰でそこまで見ずに済んでいた顔を思わず直視してしまうと、やはり浮かぶのはあの日の記憶。私、あの時、山崎先輩が通りすがらなかったらどうなっていたんだろう……。そんなことを考えてしまい、羞恥が込み上げ顔が一気に熱くなる。
私の様子を気に留めることなく、万事屋は私に向かって手を伸ばす。節くれだった指先、厚い掌、短く切られた爪が視界に入ると、この手が屯所で私に触れた、という事実を改めて認識してしまう。そんなはしたないことを考えている私を他所に、万事屋は今善意で私の口元の汚れをとろうとしてくれているのだから下を向くわけにもいかない。しかしもうどこに視線をやればいいのか分からない。それなら……。
一瞬視線を泳がせたのち、顔を万事屋のほうに向けたまま、ええいままよと目を閉じた。
「……っ」
目の前から息を呑んだような音がしたが、如何せん目を瞑っているため様子が分からない。なかなか触れようとしてこないことに疑問を感じたとき、そっと唇に何かが当たり、すっとなぞられた。意図が分からず片目を開くと、万事屋がその赤い目で私を見つめながら唇に触れている。
「お前やっぱ隙ありすぎ」
「へ?」
「なんもついてねーよ」
「は?」
そのまま指は顔の輪郭をなぞり、私の耳をそっと撫でて離れていった。一瞬触れた指先の熱が、あの日耳元に感じた吐息を思い出させて身体が甘く疼き、思わずひくりと肩を揺らす。
「もっと危機感持て。お前の秘密知ってるような男に身を任せんな」
「……任せてなんかない」
「お前、ほんと流されやすそうで心配だわ。あの時だってジミーの邪魔がなければあのまま——」
「なんでここでその話出すの!」
思わず大きな声を出してしまった。こっちはそのせいで今にも恥ずかしくて死にそうなのに!
「なんでィミョウジ、顔真っ赤ですぜ?」
声の方を向くと、沖田隊長が戻ってきていた。会話、聞かれてないよね?
「た、隊長!」
「いつも割と平気です、みたいな顔してんのに、そんな動揺して……旦那ァ、あんたうちの新人に何したんでさァ」
聞かれてなかったようでほっとしつつも、気をつけなければと思っていると、万事屋が答えた。
「んー、同じことしても総一郎くんじゃこうはならないかもな」
にやりと口角を上げてこちらを見つめる万事屋を睨みつける。とはいえ、沖田隊長の前なので何も言えず、唇を噛んだ。
「じゃお先」
いつの間にか食べ終えていた万事屋が席を立ち歩き出したのでその場で立ち上がって呼び止める。
「おいよろず……銀時!」
以前言われたことを思い出して名前を呼んだ。
「あ」
何かを思い出した銀時がごそごそと胸元を探り、一枚の紙を取り出した。
「持っとけ」
「は?」
「持っとけって」
そう言って私の手に無理やり握らせると背を向けて歩き出す。
「なに?!」
「なんかあったら連絡しろー」
そう言いながらひらひら手を振り店を出ていってしまった。
握らされた名刺を見てみると、書かれていたのは「万事屋銀ちゃん」という文字と、住所。そして電話番号。
事情を知っている者として心配してくれているのか、はたまた別の何かなのか……。
渡された名刺を手に呆然としていると、横にいた沖田隊長の手が私の首に伸び、そのまま首輪を外された。
「え?」
不思議に思って隊長を見つめると、外した首輪をポケットにしまい込んだ。
「もう要らねえや」
「隊長?」
「これ以上はドSの無駄遣いでさァ」
そう言って隊長も店の出口へ歩いていく。
「早く食いなせェ、置いてくぜ」
「え?え?」
銀時も沖田隊長も言葉が少なすぎて真意が分からず、言われるがまま残ったパフェをかきこんで走って追いかける。
ほんと、なんなんだ二人とも……。
触れられた唇、耳、手がじんじんと熱を持っていることに気づかないふりをした。
◇
「沖田隊長、これ飽きません?」
「なんでィ、文句あんのか?」
「文句言ってもするんですよね?」
「黙って躾られとけィ。誰が主人か覚えるまでな」
「それはもう分かってますって」
今日も相変わらず人の往来が激しく、賑やかで活気のある町、かぶき町。その喧騒の中を、真選組の隊服に身を包み、首に着けられた赤い首輪を指でいじりながら私は歩いていた。
沖田隊長と見廻り当番の日はつけられる首輪。初めてつけられたときは流石に度肝を抜かれたが、話を聞いていくと、なに、パフォーマンスというか、お遊びというか。特に何かされるということもなく、たまに意地悪なことを言われるくらい。多分あれだ。男の子ってそういうとこあるじゃん?「俺Sなんだよね〜」みたいな。「お前はドMだろ〜」みたいな。うんうん。あるあるそんな時期。そんなお年頃。付き合ってあげようじゃないかお姉さんが。
真選組に潜入している間、もちろん沖田隊長は上司ではあるし、強いのも勿論知っているんだけれども、童顔で年下でちょっと生意気で……、なんだか可愛いんだよねぇ。
「ムカつく顔してんな。何考えてやがる」
「いやいや、何も。それより今日はどこ行きます?」
「ほんと、なんかミョウジ相手だと調子狂いまさァ」
「拒否したら拒否したで文句言うし、受け入れたら受け入れたで文句言われちゃうんですか?」
「うるせえ。飼い犬は黙って主人についてこい」
「はーい。今日は飼い犬をどこへ連れて行ってくれるんです?」
私は知っている。副長に命じられたときの沖田隊長は真面目に見廻りなんてしない。いつものふざけたアイマスクをつけてその辺の河原で居眠りをしたり、茶をしばいたりするのだ。
「ここでさァ」
沖田隊長が止まったのは、生クリームとあんこがたっぷり乗っている白玉パフェが有名な甘味処。甘味は好きなので嬉しい。緩む頬を隠しもしないまま店内に入ろうとしたが、他の客と同時に暖簾をくぐろうとしてしまいぶつかってしまった。
「あっ、すみません」
「っと、悪ぃ」
謝ろうと顔を上げると、そこにいたのは坂田銀時、その人だった。
「げ」と言いそうになるのをすんでのところで飲み込む。沖田隊長に変に勘繰られるとまずい。
向こうも私に気づいたようで、眠そうな目を見開いた。そこから間もなく、いかにもドン引き、という顔で私の首元を指差した。こうして、始まりに戻る。
◇
「で、なんなのこいつの首のそれ」
「見たまんま。首輪でさァ」
「そーじゃねえよ。わかった上で聞いてんの」
「躾でさァ」
「そういうプレイを往来でするなって言ってんの!それすらプレイの一環か!?」
万事屋を隊長に任せ、素知らぬ顔に徹していると声をかけられる。
「お前も、なーんで普通に受け入れてんだよ。拒否れよ」
「別に……不便はないし……」
「いや、人前でそれ結構きついよ」
何度も人を指で差すな。
「……そうですか?」
「そうでさァ」
「そうかぁ……」
「なんなのこいつ。羞恥心捨ててきた?」
かわいい上司の遊びに付き合ってあげてるだけだし、なんて流石に本人の目の前では言わないし、言えない。
「飼い犬には首輪が必要でしょう?万事屋の旦那ァ」
「はあ〜……」
万事屋は、まるで話しても無駄だと言うように首を横に振った。
◇
「お待たせいたしました。スペシャルはあとからお持ちしますね」
そう言って私と隊長のパフェを持ってきた店員さんが一度下がり、もう一度戻ってきて万事屋の目の前にソレを置いた。
「なにその生クリームとあんこの量は……」
トッピングが私たちの二倍、いや三倍は乗っている。私は胸焼けしちゃうかも……。なんて思っていると、当の本人は嬉しそうな表情ですぐに食べ始めた。
「……甘党…?」
「なんだよ、文句あんのか?」
見かけによらず可愛いとこあるんですね、なんて思ったのは黙っておこう。
「旦那とミョウジはいつの間にそんな喋るようになったんですかィ?」
沖田隊長から聞かれてパフェを食べる手が止まった。
「あー、この間屯所行ったときにちょっとな」
そう言って万事屋がちらと視線を投げてくるので、屯所で起きたことを思い出してしまい、顔に熱が集まる。とは言えうまく流さなくちゃ。沖田隊長になんて勘ぐられたら本当にめんどくさいことになる!考えれば考えるほど焦ってしまい、うまい言葉を返せずにいると、万事屋が続けた。
「厠の場所教えてもらったんだよな?そんときに少し話してさ、割と気が合ったんだよ。な?」
そうだろ?とこちらを再度見つめるので、うんうんと必死に首を縦に振った。
「へーそうだったんですねィ」
沖田隊長はあまり興味がなさそうに白玉を口に運んだ。
……万事屋、かばってくれた……。
◇
パフェを食べながら当たり障りのない会話をしていると、目に留まったのは沖田隊長の口元。
「沖田隊長、あんこついちゃってます」
「……どこでィ?」
沖田隊長が手を伸ばすも、微妙に違う位置。焦れったくてつい手が伸びる。ハンカチを取り出して口元をそっと拭くと、沖田隊長の丸い目がさらにまあるく開かれた。
「ふふ……はい、取れた……、っ!」
「……」
「し、失礼しました……」
やりすぎたかもしれない。いくら歳下とはいえ上司だ。失礼だった。思わず謝ると沖田隊長がぽそりと。
「……なんとなく、調子狂う理由が分かりやした」
「え」
「厠行ってきまさァ」
そう言って沖田隊長は席を立ってしまった。
どうしよう。出過ぎた真似をしたかもしれない。上司にあんな……。
うんうんと悩んでいると、斜め前から声をかけられる。
「なに、ナマエちゃん、総一郎くんみたいなのがタイプなの?」
「……はぁ?ていうか外なんだからソッチじゃなくて名字で呼んでよ……」
予想だにしない言葉を投げかけられ、文句を言いながらちらりと顔を見る。
「いちゃいちゃしちゃってまぁ」
万事屋は頬杖をつき、唇を尖らせて言う。
「いちゃいちゃ……?そんなんじゃないよ。隊長年下だし、童顔だし……なんか勝手に弟がいたらこんな感じかなーとか思っちゃってたから、調子乗りすぎて怒らせちゃったかも…」
そこまで私が言うと、万事屋は「……弟、ね。総一郎くんの様子おかしかったのはそれか……」と言った。どういう意味だろう……。
「……つか、人のこと言えねーじゃん。ついてっぞ」
そう言って万事屋がとんとんと自分の口元を指差す。
「え、嘘」
「嘘言ってどーすんの」
卓上の紙ナプキンをとり、口元を拭う。
「ちげーよ」
そう言って万事屋は斜め前から私の方に身を乗り出してきた。正面にいなかったお陰でそこまで見ずに済んでいた顔を思わず直視してしまうと、やはり浮かぶのはあの日の記憶。私、あの時、山崎先輩が通りすがらなかったらどうなっていたんだろう……。そんなことを考えてしまい、羞恥が込み上げ顔が一気に熱くなる。
私の様子を気に留めることなく、万事屋は私に向かって手を伸ばす。節くれだった指先、厚い掌、短く切られた爪が視界に入ると、この手が屯所で私に触れた、という事実を改めて認識してしまう。そんなはしたないことを考えている私を他所に、万事屋は今善意で私の口元の汚れをとろうとしてくれているのだから下を向くわけにもいかない。しかしもうどこに視線をやればいいのか分からない。それなら……。
一瞬視線を泳がせたのち、顔を万事屋のほうに向けたまま、ええいままよと目を閉じた。
「……っ」
目の前から息を呑んだような音がしたが、如何せん目を瞑っているため様子が分からない。なかなか触れようとしてこないことに疑問を感じたとき、そっと唇に何かが当たり、すっとなぞられた。意図が分からず片目を開くと、万事屋がその赤い目で私を見つめながら唇に触れている。
「お前やっぱ隙ありすぎ」
「へ?」
「なんもついてねーよ」
「は?」
そのまま指は顔の輪郭をなぞり、私の耳をそっと撫でて離れていった。一瞬触れた指先の熱が、あの日耳元に感じた吐息を思い出させて身体が甘く疼き、思わずひくりと肩を揺らす。
「もっと危機感持て。お前の秘密知ってるような男に身を任せんな」
「……任せてなんかない」
「お前、ほんと流されやすそうで心配だわ。あの時だってジミーの邪魔がなければあのまま——」
「なんでここでその話出すの!」
思わず大きな声を出してしまった。こっちはそのせいで今にも恥ずかしくて死にそうなのに!
「なんでィミョウジ、顔真っ赤ですぜ?」
声の方を向くと、沖田隊長が戻ってきていた。会話、聞かれてないよね?
「た、隊長!」
「いつも割と平気です、みたいな顔してんのに、そんな動揺して……旦那ァ、あんたうちの新人に何したんでさァ」
聞かれてなかったようでほっとしつつも、気をつけなければと思っていると、万事屋が答えた。
「んー、同じことしても総一郎くんじゃこうはならないかもな」
にやりと口角を上げてこちらを見つめる万事屋を睨みつける。とはいえ、沖田隊長の前なので何も言えず、唇を噛んだ。
「じゃお先」
いつの間にか食べ終えていた万事屋が席を立ち歩き出したのでその場で立ち上がって呼び止める。
「おいよろず……銀時!」
以前言われたことを思い出して名前を呼んだ。
「あ」
何かを思い出した銀時がごそごそと胸元を探り、一枚の紙を取り出した。
「持っとけ」
「は?」
「持っとけって」
そう言って私の手に無理やり握らせると背を向けて歩き出す。
「なに?!」
「なんかあったら連絡しろー」
そう言いながらひらひら手を振り店を出ていってしまった。
握らされた名刺を見てみると、書かれていたのは「万事屋銀ちゃん」という文字と、住所。そして電話番号。
事情を知っている者として心配してくれているのか、はたまた別の何かなのか……。
渡された名刺を手に呆然としていると、横にいた沖田隊長の手が私の首に伸び、そのまま首輪を外された。
「え?」
不思議に思って隊長を見つめると、外した首輪をポケットにしまい込んだ。
「もう要らねえや」
「隊長?」
「これ以上はドSの無駄遣いでさァ」
そう言って隊長も店の出口へ歩いていく。
「早く食いなせェ、置いてくぜ」
「え?え?」
銀時も沖田隊長も言葉が少なすぎて真意が分からず、言われるがまま残ったパフェをかきこんで走って追いかける。
ほんと、なんなんだ二人とも……。
触れられた唇、耳、手がじんじんと熱を持っていることに気づかないふりをした。