SS
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
誰もいなくなったスナックお登勢のカウンターの中で、営業後の後片付けをする。
営業前にやらかしたヘマの分を取り戻すため、今日は後片付けを一人でやらせてほしいと頼んだのだ。
「……よし。終わりっ」
最後のグラスを拭き上げ、カウンター下の棚にしまう。お客さんたちが早めに帰られたので、いつもより早々に暖簾を下げた。お登勢さん曰く、こんな時間から来られてもろくな客じゃないだろうからとっとと閉めるよ、とのこと。
店内をぐるりと見回す。いつもなら常連さんたちで賑わい、夜だということも忘れるくらい明るい空間が、今では外でリンリンと鳴く虫たちの声がするだけ。夜の中、たった一人。そのことを思い知らされるようで、少し寂しさを感じた。
その時、ドンドンと扉を叩かれて思わず身を固くする。もう暖簾は下ろしてある。それでも来るような人は、少し、怖い。どう出たらいいか分からずにカウンターの中で固まる。
「おいばばあ〜。飲み足りねえんだよ酒よこせ〜」
聞き慣れた声にぱっと顔を上げ、乱れた髪を直そうとして、止める。……まったく、しょうがないなあ。こんな時間まで飲み歩いて。
「ろくな客じゃない、ね」なんてお登勢さんの言っていたことを反芻する。なんだか可笑しくてくすくすと笑いがこぼれる。
「おーい。聞こえてんのかー?いるのは分かってっからなー」
「もう閉店してまーす」
そう答えると一度黙り、中の様子を窺うように顔を覗かせた。
「……あり?早くね?」
「今日は早めに閉めちゃったの。お登勢さんはもういないよ。残念だったね」
ドアの外にいたのは赤ら顔でとろんとした目の銀時くんだった。いい感じに酔っているらしい。
「ん〜?てかなんで一人?」
覚束ない足でこちらに近づき、カウンター席に腰掛けた銀時くんに聞かれて答える。
「今日は私が締め当番なんだよ」
「……ふぅん」
腑に落ちない、という顔でカウンターに頬杖をついた。
「ナマエちゃんさぁ、一人なら鍵くらい締めとけよ……」
「忘れちゃってて。次から気をつけるね」
「ほんとに分かってっかー?危ねえって言ってんの」
酔っ払って呂律が危ういながらも、真剣に心配してくれる銀時くんになんだかむず痒い気持ちになる。この歳になっても、女の子扱いしてもらえてるみたいで。
「うん。ありがとう銀時くん」
「……分かればよろしい」
さっきまで寂しかった心が、思わぬ来訪者により温かくなるのを感じた。
「ていうか、銀時くんこそ、こんな時間からさらに飲むの?明日に響くからもうやめといたら?」
「あー……、一杯!一杯だけ!」
情けない声で頼む、なんて言われちゃうと断れない。かわいい、なんて思ってしまったり。
「仕方ないなぁ……」
「そうこなくちゃ」
調子よくころころ表情を変える銀時くんに、つい溢れる笑いを隠して、水割りを作ってカウンター越しに差し出した。
「はい、どうぞ」
「はい、どぉーも」
グラスの中身がほぼ水なことを知らない銀時くんは、ちびりちびりとそれを飲む。こくこくと動く喉仏はしっかりとしており、鍛えられた首筋の筋肉がはっきりとわかる。酔っ払ってぽやぽやしてるときでも、男性ということをまざまざと見せつけられて、なんだか目に毒だ。ふいにカウンター越しに声をかけられる。
「こっち」
「ん?」
首を傾げて意図を探ると、とんとんと隣の椅子を叩かれる。隣に座れってことらしい。
「はいはい……、」
お客さんもいないし、自由にしていいってことなのかな?と隣に向かおうと歩き出したが、自分の今の格好を思い出して動きを止める。
「私、そっち、行けない」
「……なんで」
むすりと口を尖らせる銀時くんに苦笑しながらも、内心焦っていた。この格好を彼には見せたくなかった。
「ちょ、ちょっと、あの、その……」
とはいえすぐにうまい言い訳が思いつくはずもなく、ただあたふたするばかり。
「なに?俺臭い?」
「いや、そういうのではなく。むしろ私に問題があるというか……」
「じゃあ、何?なんで来れないわけ?」
ぺしぺしと椅子を叩いて不機嫌を露わにする銀時くん。流石に、隠し通せないか……。
「……引かない?」
私の言葉に首をかしげて不思議そうにこちらを見る。
「引かない?」
「……引かねえ」
「……言ったね?」
「……ああ、言ったけど。一体何だって——」
意を決してカウンターを出る。銀時くんは私の姿を見て、眠そうだった目を見開いている。
「引いてる……」
「……引く引かないっつーか、それ、どした?」
銀時くんが指差すのは私の太腿辺り、いや、正確には私の着物の裾だった。
私が今身につけているのは、たまさんのミニ丈の着物に白ニーソなのだ。
「今日、準備中に酒瓶割っちゃって、見事に着物に飲ませちゃいまして……」
「け、怪我は……」
「怪我はないよ!すぐにみんなで片付けたし……」
「それで、替えの着物なんてないしって困ってたら、たまさんが私ので良ければ……って……」
私の今日のやらかしを聞いている間も、銀時くんの目線は私の顔と太腿を行ったり来たりしている。気まずくて裾を伸ばそうと下に引っ張ってみるけれど、伸びるわけもない。
「ご、ごめんね。お見苦しいものをお見せして……」
「へ?いや、全然見苦しくなんか……むしろ——」
「……やっぱ戻るね」
最初に念押ししたとはいえ、この歳の女のミニ丈なんて引かれるだろう。ましてや特別スタイルがいいわけでもない。最後までどうにか隠し通せば良かった。なんだか勝手に落ち込んでカウンターの中に戻ろうとすると、
「おーい、戻んねーでこっち座んなさい」
「でも」
「座んなさい」
「はい……」
有無を言わせぬ物言いに、おずおずと銀時くんの隣の椅子へ腰掛けた。なんだかいたたまれず、自分の足元を見ていると、銀時くんが口を開く。
「そんな短え丈の着物で惜しげもなく脚晒して、鍵もかけないなんてどういうつもりだぁ?」
予想と全く違うことを話されて思わず顔をあげると、酔って赤ら顔ながらも真剣な表情の銀時くんがいた。
「え……?」
「だからぁ、入ってきたのが俺じゃなかったらどうするつもりだったのかって聞いてんの」
「あ、えと、……ぶ、不用心でした。以後、気をつけます……?」
その表情に思わず敬語になってしまう。
「ていうか、営業中はどうしてたわけ?カウンターから出なかったわけじゃねえだろ?」
「……なるべく出ないようにして、出てもすぐ戻ったよ」
私の言葉にさらに眉間の皺が寄る。
「……他にも見たやついんのね。そいつらに歳のことでも言われた?」
「まさか!そんなこと言う人いないよ。まあ、お世辞なんだろうけど……」
「世辞だと思ってんのはナマエちゃんくれぇだろ。周りからしたら年齢なんて大したことじゃねえってこった」
「でも……」
自分でも気にしすぎだって分かってる。でもどうしたって気になるのだ。
「……はぁ……もっと自覚してくれ」
ふいに視線を逸らされ、ぼそっと言われた言葉が聞き取れなくて「何?」と聞いてみたものの、返ってくるのは静寂だけ。
落ち着かなくてまた自分の短い裾に手をやると、そこにあったのは私だけの手ではなかった。
「なに——」
「えい」
なんのつもりか、銀時くんが人差し指で私の太腿をぷにと押してきた。
「ちょっと酔いすぎじゃないかな?!」
「ん〜?」
突然のことに驚き、思わずこちらも手で防ごうとするも、赤い目でじっと見つめられて動けなくなる。
「ぎ、銀時くん……」
「そんな卑下するんなら、減るもんでもねえだろ?」
「それは……っ」
人差し指でくるくると太腿の上で円を描かれ、擽ったくて身を捩る。
「俺は全然気になんないけどね」
そう言って真っ直ぐな目で見つめられて、頬が熱を帯びる。
「エロい目で見てたやつ、ぜってぇいる」
「ないない。いい歳してって思われてるだけだって」
「なんでないって言い切れんの?」
「だって、私もう……」
そこまで言うと、銀時くんの熱い手が太ももに置かれた。
「またそれ。歳がそんなに重要か?」
指先をゆっくりと私の内腿へと滑らせていく感覚に、下を向き、唇を噛み締めて耐える。思わせぶりなこと言わないでほしい。
「歳言い訳にして、『私は関係ありません』みたいな顔して、勝手に壁作って見ないふりするのやめてくんない?」
ずっと銀時くんは私を見ている。私はそちらを向けない。そちらを見たら、何かが変わってしまうと分かっているから。
「いい加減、真正面から見ろよ。勝手に線引きしてんなよ」
内腿に這ったごつごつとした指が、ふいにニーソのゴムの中に入り、つつ、と動かされると、私の中の小さな火が揺らぐようで、思わず声が出てしまった。
「……んっ」
私の声にぴくりと動いた指先は、そっと離れていく。浅ましい欲が顔を出し、彼の指先を目で追った。
「……っと、お痛が過ぎたな。これに懲りたらもっと自分大事にすることだ」
両手をうえに上げ、首を横にふる銀時くんからは、さっきまでのじりじりとした空気はなくなったように見えた。
「いつもみてえにばばあのとこで仮眠とってくんだろ?」
何もなかったかのように聞かれ、私のほうが動揺してしまう。
「う、うん。明るくなったら帰る……」
ぽん、と頭に手が乗せられ、背中を丸めて屈み込んだ銀時くんが耳元で優しく囁く。
「鍵、閉めろよ。お疲れさん」
そのまま扉を開けて、振り返らずにもうひと言。
「さっきの……考えとけ」
扉が閉まってしばらく経っても、その場を動けなかった。もう言い訳はできないのだろう。自分の想いも、彼の想いも、もう目を背けることはできないのだと。触れられた脚が、囁かれた耳元が熱を持ち、じくじくと焼けるようだった。もう今まで通りの関係には戻れない。あとはすべて私に託されたのだ。
◆
2階へと上がり、玄関の引き戸を閉める。そのままずるずると座り込んだ。がしがしと頭をかいたあと、顔を覆う。
「——っ、止まれてよかった…………」
俺の独り言は、夜の闇に溶けていき、誰にも聞かれることはなかった。
営業前にやらかしたヘマの分を取り戻すため、今日は後片付けを一人でやらせてほしいと頼んだのだ。
「……よし。終わりっ」
最後のグラスを拭き上げ、カウンター下の棚にしまう。お客さんたちが早めに帰られたので、いつもより早々に暖簾を下げた。お登勢さん曰く、こんな時間から来られてもろくな客じゃないだろうからとっとと閉めるよ、とのこと。
店内をぐるりと見回す。いつもなら常連さんたちで賑わい、夜だということも忘れるくらい明るい空間が、今では外でリンリンと鳴く虫たちの声がするだけ。夜の中、たった一人。そのことを思い知らされるようで、少し寂しさを感じた。
その時、ドンドンと扉を叩かれて思わず身を固くする。もう暖簾は下ろしてある。それでも来るような人は、少し、怖い。どう出たらいいか分からずにカウンターの中で固まる。
「おいばばあ〜。飲み足りねえんだよ酒よこせ〜」
聞き慣れた声にぱっと顔を上げ、乱れた髪を直そうとして、止める。……まったく、しょうがないなあ。こんな時間まで飲み歩いて。
「ろくな客じゃない、ね」なんてお登勢さんの言っていたことを反芻する。なんだか可笑しくてくすくすと笑いがこぼれる。
「おーい。聞こえてんのかー?いるのは分かってっからなー」
「もう閉店してまーす」
そう答えると一度黙り、中の様子を窺うように顔を覗かせた。
「……あり?早くね?」
「今日は早めに閉めちゃったの。お登勢さんはもういないよ。残念だったね」
ドアの外にいたのは赤ら顔でとろんとした目の銀時くんだった。いい感じに酔っているらしい。
「ん〜?てかなんで一人?」
覚束ない足でこちらに近づき、カウンター席に腰掛けた銀時くんに聞かれて答える。
「今日は私が締め当番なんだよ」
「……ふぅん」
腑に落ちない、という顔でカウンターに頬杖をついた。
「ナマエちゃんさぁ、一人なら鍵くらい締めとけよ……」
「忘れちゃってて。次から気をつけるね」
「ほんとに分かってっかー?危ねえって言ってんの」
酔っ払って呂律が危ういながらも、真剣に心配してくれる銀時くんになんだかむず痒い気持ちになる。この歳になっても、女の子扱いしてもらえてるみたいで。
「うん。ありがとう銀時くん」
「……分かればよろしい」
さっきまで寂しかった心が、思わぬ来訪者により温かくなるのを感じた。
「ていうか、銀時くんこそ、こんな時間からさらに飲むの?明日に響くからもうやめといたら?」
「あー……、一杯!一杯だけ!」
情けない声で頼む、なんて言われちゃうと断れない。かわいい、なんて思ってしまったり。
「仕方ないなぁ……」
「そうこなくちゃ」
調子よくころころ表情を変える銀時くんに、つい溢れる笑いを隠して、水割りを作ってカウンター越しに差し出した。
「はい、どうぞ」
「はい、どぉーも」
グラスの中身がほぼ水なことを知らない銀時くんは、ちびりちびりとそれを飲む。こくこくと動く喉仏はしっかりとしており、鍛えられた首筋の筋肉がはっきりとわかる。酔っ払ってぽやぽやしてるときでも、男性ということをまざまざと見せつけられて、なんだか目に毒だ。ふいにカウンター越しに声をかけられる。
「こっち」
「ん?」
首を傾げて意図を探ると、とんとんと隣の椅子を叩かれる。隣に座れってことらしい。
「はいはい……、」
お客さんもいないし、自由にしていいってことなのかな?と隣に向かおうと歩き出したが、自分の今の格好を思い出して動きを止める。
「私、そっち、行けない」
「……なんで」
むすりと口を尖らせる銀時くんに苦笑しながらも、内心焦っていた。この格好を彼には見せたくなかった。
「ちょ、ちょっと、あの、その……」
とはいえすぐにうまい言い訳が思いつくはずもなく、ただあたふたするばかり。
「なに?俺臭い?」
「いや、そういうのではなく。むしろ私に問題があるというか……」
「じゃあ、何?なんで来れないわけ?」
ぺしぺしと椅子を叩いて不機嫌を露わにする銀時くん。流石に、隠し通せないか……。
「……引かない?」
私の言葉に首をかしげて不思議そうにこちらを見る。
「引かない?」
「……引かねえ」
「……言ったね?」
「……ああ、言ったけど。一体何だって——」
意を決してカウンターを出る。銀時くんは私の姿を見て、眠そうだった目を見開いている。
「引いてる……」
「……引く引かないっつーか、それ、どした?」
銀時くんが指差すのは私の太腿辺り、いや、正確には私の着物の裾だった。
私が今身につけているのは、たまさんのミニ丈の着物に白ニーソなのだ。
「今日、準備中に酒瓶割っちゃって、見事に着物に飲ませちゃいまして……」
「け、怪我は……」
「怪我はないよ!すぐにみんなで片付けたし……」
「それで、替えの着物なんてないしって困ってたら、たまさんが私ので良ければ……って……」
私の今日のやらかしを聞いている間も、銀時くんの目線は私の顔と太腿を行ったり来たりしている。気まずくて裾を伸ばそうと下に引っ張ってみるけれど、伸びるわけもない。
「ご、ごめんね。お見苦しいものをお見せして……」
「へ?いや、全然見苦しくなんか……むしろ——」
「……やっぱ戻るね」
最初に念押ししたとはいえ、この歳の女のミニ丈なんて引かれるだろう。ましてや特別スタイルがいいわけでもない。最後までどうにか隠し通せば良かった。なんだか勝手に落ち込んでカウンターの中に戻ろうとすると、
「おーい、戻んねーでこっち座んなさい」
「でも」
「座んなさい」
「はい……」
有無を言わせぬ物言いに、おずおずと銀時くんの隣の椅子へ腰掛けた。なんだかいたたまれず、自分の足元を見ていると、銀時くんが口を開く。
「そんな短え丈の着物で惜しげもなく脚晒して、鍵もかけないなんてどういうつもりだぁ?」
予想と全く違うことを話されて思わず顔をあげると、酔って赤ら顔ながらも真剣な表情の銀時くんがいた。
「え……?」
「だからぁ、入ってきたのが俺じゃなかったらどうするつもりだったのかって聞いてんの」
「あ、えと、……ぶ、不用心でした。以後、気をつけます……?」
その表情に思わず敬語になってしまう。
「ていうか、営業中はどうしてたわけ?カウンターから出なかったわけじゃねえだろ?」
「……なるべく出ないようにして、出てもすぐ戻ったよ」
私の言葉にさらに眉間の皺が寄る。
「……他にも見たやついんのね。そいつらに歳のことでも言われた?」
「まさか!そんなこと言う人いないよ。まあ、お世辞なんだろうけど……」
「世辞だと思ってんのはナマエちゃんくれぇだろ。周りからしたら年齢なんて大したことじゃねえってこった」
「でも……」
自分でも気にしすぎだって分かってる。でもどうしたって気になるのだ。
「……はぁ……もっと自覚してくれ」
ふいに視線を逸らされ、ぼそっと言われた言葉が聞き取れなくて「何?」と聞いてみたものの、返ってくるのは静寂だけ。
落ち着かなくてまた自分の短い裾に手をやると、そこにあったのは私だけの手ではなかった。
「なに——」
「えい」
なんのつもりか、銀時くんが人差し指で私の太腿をぷにと押してきた。
「ちょっと酔いすぎじゃないかな?!」
「ん〜?」
突然のことに驚き、思わずこちらも手で防ごうとするも、赤い目でじっと見つめられて動けなくなる。
「ぎ、銀時くん……」
「そんな卑下するんなら、減るもんでもねえだろ?」
「それは……っ」
人差し指でくるくると太腿の上で円を描かれ、擽ったくて身を捩る。
「俺は全然気になんないけどね」
そう言って真っ直ぐな目で見つめられて、頬が熱を帯びる。
「エロい目で見てたやつ、ぜってぇいる」
「ないない。いい歳してって思われてるだけだって」
「なんでないって言い切れんの?」
「だって、私もう……」
そこまで言うと、銀時くんの熱い手が太ももに置かれた。
「またそれ。歳がそんなに重要か?」
指先をゆっくりと私の内腿へと滑らせていく感覚に、下を向き、唇を噛み締めて耐える。思わせぶりなこと言わないでほしい。
「歳言い訳にして、『私は関係ありません』みたいな顔して、勝手に壁作って見ないふりするのやめてくんない?」
ずっと銀時くんは私を見ている。私はそちらを向けない。そちらを見たら、何かが変わってしまうと分かっているから。
「いい加減、真正面から見ろよ。勝手に線引きしてんなよ」
内腿に這ったごつごつとした指が、ふいにニーソのゴムの中に入り、つつ、と動かされると、私の中の小さな火が揺らぐようで、思わず声が出てしまった。
「……んっ」
私の声にぴくりと動いた指先は、そっと離れていく。浅ましい欲が顔を出し、彼の指先を目で追った。
「……っと、お痛が過ぎたな。これに懲りたらもっと自分大事にすることだ」
両手をうえに上げ、首を横にふる銀時くんからは、さっきまでのじりじりとした空気はなくなったように見えた。
「いつもみてえにばばあのとこで仮眠とってくんだろ?」
何もなかったかのように聞かれ、私のほうが動揺してしまう。
「う、うん。明るくなったら帰る……」
ぽん、と頭に手が乗せられ、背中を丸めて屈み込んだ銀時くんが耳元で優しく囁く。
「鍵、閉めろよ。お疲れさん」
そのまま扉を開けて、振り返らずにもうひと言。
「さっきの……考えとけ」
扉が閉まってしばらく経っても、その場を動けなかった。もう言い訳はできないのだろう。自分の想いも、彼の想いも、もう目を背けることはできないのだと。触れられた脚が、囁かれた耳元が熱を持ち、じくじくと焼けるようだった。もう今まで通りの関係には戻れない。あとはすべて私に託されたのだ。
◆
2階へと上がり、玄関の引き戸を閉める。そのままずるずると座り込んだ。がしがしと頭をかいたあと、顔を覆う。
「——っ、止まれてよかった…………」
俺の独り言は、夜の闇に溶けていき、誰にも聞かれることはなかった。
2/3ページ