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「だいぶ日が短くなりましたね」
「ほんとだな。まだまだあちーのは変わんねーけど」
赤く染まったかぶき町を新八と歩く。ついこの間まではこの時間でもまだ明るかったのに、今はもうあと少しで日が沈もうとしている。あちこちで暖簾が上がり、準備中の看板がひっくり返される。漂ってくる美味そうな香りに空腹を刺激される。神楽は女子会とやらの先約があったようで、今回は休業だ。
「神楽のやろう、なーにが『女子会だからパスネ!』だよ」
「いいじゃないですか!姉上も九兵衛さんも楽しみにしてましたし!」
「まったく……」
まあいいけどさ。口には出さないけど。他愛もないことを話しながらコンビニの前を通り過ぎたとき、違和感を感じて立ち止まる。
「ん〜?」
「あ、まだ○○さんいますね」
「……新八、ちょっと待ってろ」
「え、あ、はい?」
言い残してコンビニの中へ入ると、すぐに聞き慣れた声がした。
「いらっしゃいませー」
「……まだ帰れねーの?」
「っ!ぎ、銀ちゃん、なに?どうしたの?」
売れた弁当の補充をしていた○○が、挨拶をしながら振り返る。一瞬まあるく目を見開いたと思ったら、視線をあちこちさせたあと、すぐに眉間に皺をよせて仏頂面になった。
「なんで?仕事は?」
「終わった。それよりなんでまだ仕事してんの? 帰れねえの?」
そう俺が聞くと、変わらず仏頂面のまま視線を落とす。
「つ、次のパートさんが遅れるみたいで……、今日は延長なの」
「……。送ってく」
「え!?」
俺の言葉にぽかんと口を開けた○○は、顔の前で手をパタパタとせわしなく動かす。
「い、いいよ悪いし!あと少しで来ると思うから」
「あと少しってどんくらいか分かんの?いいよ。日も短くなってるし、俺も依頼終わって帰るだけだし」
店外で待たされている新八に気づいた○○が頭を下げると、新八も笑顔で頭を下げた。
「でも、でも、し、新八くんと一緒だったんじゃないの?」
そう言われて新八のもとに戻る。
「○○のこと送ることになったから先帰っていいぞ」
「わかりました。じゃあ万事屋寄らないで真っ直ぐ帰りますね」
「悪いな」
新八は歩き出そうとして、こちらを振り帰った。
「てゆーか銀さん、ほんっとーに○○さんとお付き合いしてるんですよね?」
「あん?なんでだよ」
「だって、なんていうか○○さん嬉しくなさそうというか、最早迷惑そうというか。あんた無理やり付きまとってるわけじゃ……」
「んなわけねーだろ!なんてこと言いやがる」
納得してなさそうな新八が続ける。おい、ジト目やめなさい。
「ならいいですけど。ご迷惑にならないようにしてくださいね!」
「おう。そのうち改めてちゃんと紹介するわ」
「楽しみにしてますね」
それまでに振られないようにするんですよー!などと失礼なことを言いながら去っていく新八を見送った。
——————————————————
「本当に待ってたんだ……」
ジャンプを立ち読みし、新作スイーツを物色したのち、またジャンプを一から読んでいると肩越しに声をかけられる。振り返ると制服から着替えた○○が眉間に皺を寄せて立っていた。
「次のやつ来たの?」
「うん」
バッグの持ち手をぎゅうっと握り、○○が店外に向かって歩き出すので、読んでいたジャンプを棚に戻し、後に続く。
外に出ると先ほどの景色とは違い、空は完全に暗くなっていた。飲食店はどこも客で溢れ、店前では客引きが次々に通行人に声をかける。かぶき町の夜が始まったという感じだ。
後ろから近づき、○○の荷物を奪う。いいよ、とか言ってたけど無視して持つと、諦めたのかそのまま俺の隣を歩き始める。
すると、前から歩いてきた通行人が○○にぶつかりそうになったので、○○の肩に手を掛け引き寄せると、素直に俺に身を寄せた。
悪いね!なんて言いながらそいつは近くの居酒屋に吸い込まれて行った。……もうすでに酔ってねえかあいつ。
ずっと下を見ていた○○が視線をちらとこちらに移す。
「ありがとう」
「ん」
「送ってくれるのも、ありがと」
「はいよ」
どちらからともなく手を繋いで歩く。
繁華街を抜け、自宅に近づいて行くと徐々に、○○の表情が柔らかくなっていく。
「またやっちゃった……」
「ん?」
握られた左手に力が込められる。
「新八くん、なんか言ってた?」
「ん〜、無理やりつきまとったりしてねえだろうな、ってさ」
「うう〜」
○○は俺の言葉を聞いて左手で顔を覆って呻いた。
「私の態度がこんなんだから……ごめんなさい」
「いーよ。俺ぁもう慣れた」
「新八くんに変なやつって思われた」
「しかめっ面だなーとは思ってっかもな」
「恥ずかしい……そんな歳でもあるまいし……」
街灯の下でも分かるくらい○○の耳が赤なっていて、正面から見たら顔まで真っ赤なんだろうと思うと頬が緩むのがわかった。
「いーんじゃね?徐々に慣れる」
その言葉に、「ほんとに?」みたいな表情で○○が俺を見るので、予想通りに真っ赤な顔が見えたが慌てて顔に力を入れ、真剣に見えるように気遣いながら頷いて見せる。
「おう。だから気にしすぎんな」
「ん」
口をへの字にしている○○。付き合い始めてまだ日が浅く、未だその事実を信じきれていないらしい○○は、意識しすぎるせいで会ってもすぐに笑顔にはなれない。うまく言葉も選べず、ツンツンしてしまう。だが時間が経ったり、周囲に自分たち以外がいなくなると、自然と表情が柔らかくなり、声にも甘さが出てくる。
最初こそ、なにかしてしまったか、本当は付き合いたくなかったのか、などと考えていたが、今となってはそんなところも可愛いと思えてしまう。
「銀ちゃん、私でほんとにいいの?」
「あ?」
にまにましていたところに問いかけられて、なんとも気の抜けた声が出てしまった。
「なーに言ってんの」
「だって、私、こんな態度で、ホントかわいくない……」
そんなことを言いながら、無意識なのだろう、繋いだ手の親指で何度も俺の手の甲を擽るように撫ぜてくる。なにそれ、無意識にさわりたいとか思ってくれてんの?どのへんがかわいくないの?
むしろ可愛すぎて今苦しいんですけど。
「○○の可愛いところは、今は俺だけが知ってるってことだろ?だったらすげー嬉しいし、なんていうか、優越感?感じるわ」
俺がそう言うと○○は眉を下げて「なにそれ」と笑った。惚れた男の前でどんな顔で笑うかなんて、別に他のやつが知らなくてもいい。そんなことを考える俺は案外しっとぶかいのかもしれない。いじらしい態度にまた愛しさが増し、思わず○○の額に唇を寄せた。
顔を離して歩き出そうとすると、繋いだ手をぐいと引っ張られたので振り返ると、人差し指を自分の指に当て、俺を見上げる○○がいた。
「おでこじゃなくて、……こっちがいい」
ズルすぎやしないか?惚れた女にこんなこと言われて可愛くないなんて思える男がいるだろうか。というかもうなんというかもう本当にーー
「好きだわ……」
思わず口に出して口づけると、それに答えるように○○が俺の着流しを掴んだ。仕草一つ一つが俺を溶かしていく。不器用なところも、照れ屋なところも、甘えたなところも。
今は、俺だけが知っている。これを幸せと言わずしてなんと言おうか。
「ほんとだな。まだまだあちーのは変わんねーけど」
赤く染まったかぶき町を新八と歩く。ついこの間まではこの時間でもまだ明るかったのに、今はもうあと少しで日が沈もうとしている。あちこちで暖簾が上がり、準備中の看板がひっくり返される。漂ってくる美味そうな香りに空腹を刺激される。神楽は女子会とやらの先約があったようで、今回は休業だ。
「神楽のやろう、なーにが『女子会だからパスネ!』だよ」
「いいじゃないですか!姉上も九兵衛さんも楽しみにしてましたし!」
「まったく……」
まあいいけどさ。口には出さないけど。他愛もないことを話しながらコンビニの前を通り過ぎたとき、違和感を感じて立ち止まる。
「ん〜?」
「あ、まだ○○さんいますね」
「……新八、ちょっと待ってろ」
「え、あ、はい?」
言い残してコンビニの中へ入ると、すぐに聞き慣れた声がした。
「いらっしゃいませー」
「……まだ帰れねーの?」
「っ!ぎ、銀ちゃん、なに?どうしたの?」
売れた弁当の補充をしていた○○が、挨拶をしながら振り返る。一瞬まあるく目を見開いたと思ったら、視線をあちこちさせたあと、すぐに眉間に皺をよせて仏頂面になった。
「なんで?仕事は?」
「終わった。それよりなんでまだ仕事してんの? 帰れねえの?」
そう俺が聞くと、変わらず仏頂面のまま視線を落とす。
「つ、次のパートさんが遅れるみたいで……、今日は延長なの」
「……。送ってく」
「え!?」
俺の言葉にぽかんと口を開けた○○は、顔の前で手をパタパタとせわしなく動かす。
「い、いいよ悪いし!あと少しで来ると思うから」
「あと少しってどんくらいか分かんの?いいよ。日も短くなってるし、俺も依頼終わって帰るだけだし」
店外で待たされている新八に気づいた○○が頭を下げると、新八も笑顔で頭を下げた。
「でも、でも、し、新八くんと一緒だったんじゃないの?」
そう言われて新八のもとに戻る。
「○○のこと送ることになったから先帰っていいぞ」
「わかりました。じゃあ万事屋寄らないで真っ直ぐ帰りますね」
「悪いな」
新八は歩き出そうとして、こちらを振り帰った。
「てゆーか銀さん、ほんっとーに○○さんとお付き合いしてるんですよね?」
「あん?なんでだよ」
「だって、なんていうか○○さん嬉しくなさそうというか、最早迷惑そうというか。あんた無理やり付きまとってるわけじゃ……」
「んなわけねーだろ!なんてこと言いやがる」
納得してなさそうな新八が続ける。おい、ジト目やめなさい。
「ならいいですけど。ご迷惑にならないようにしてくださいね!」
「おう。そのうち改めてちゃんと紹介するわ」
「楽しみにしてますね」
それまでに振られないようにするんですよー!などと失礼なことを言いながら去っていく新八を見送った。
——————————————————
「本当に待ってたんだ……」
ジャンプを立ち読みし、新作スイーツを物色したのち、またジャンプを一から読んでいると肩越しに声をかけられる。振り返ると制服から着替えた○○が眉間に皺を寄せて立っていた。
「次のやつ来たの?」
「うん」
バッグの持ち手をぎゅうっと握り、○○が店外に向かって歩き出すので、読んでいたジャンプを棚に戻し、後に続く。
外に出ると先ほどの景色とは違い、空は完全に暗くなっていた。飲食店はどこも客で溢れ、店前では客引きが次々に通行人に声をかける。かぶき町の夜が始まったという感じだ。
後ろから近づき、○○の荷物を奪う。いいよ、とか言ってたけど無視して持つと、諦めたのかそのまま俺の隣を歩き始める。
すると、前から歩いてきた通行人が○○にぶつかりそうになったので、○○の肩に手を掛け引き寄せると、素直に俺に身を寄せた。
悪いね!なんて言いながらそいつは近くの居酒屋に吸い込まれて行った。……もうすでに酔ってねえかあいつ。
ずっと下を見ていた○○が視線をちらとこちらに移す。
「ありがとう」
「ん」
「送ってくれるのも、ありがと」
「はいよ」
どちらからともなく手を繋いで歩く。
繁華街を抜け、自宅に近づいて行くと徐々に、○○の表情が柔らかくなっていく。
「またやっちゃった……」
「ん?」
握られた左手に力が込められる。
「新八くん、なんか言ってた?」
「ん〜、無理やりつきまとったりしてねえだろうな、ってさ」
「うう〜」
○○は俺の言葉を聞いて左手で顔を覆って呻いた。
「私の態度がこんなんだから……ごめんなさい」
「いーよ。俺ぁもう慣れた」
「新八くんに変なやつって思われた」
「しかめっ面だなーとは思ってっかもな」
「恥ずかしい……そんな歳でもあるまいし……」
街灯の下でも分かるくらい○○の耳が赤なっていて、正面から見たら顔まで真っ赤なんだろうと思うと頬が緩むのがわかった。
「いーんじゃね?徐々に慣れる」
その言葉に、「ほんとに?」みたいな表情で○○が俺を見るので、予想通りに真っ赤な顔が見えたが慌てて顔に力を入れ、真剣に見えるように気遣いながら頷いて見せる。
「おう。だから気にしすぎんな」
「ん」
口をへの字にしている○○。付き合い始めてまだ日が浅く、未だその事実を信じきれていないらしい○○は、意識しすぎるせいで会ってもすぐに笑顔にはなれない。うまく言葉も選べず、ツンツンしてしまう。だが時間が経ったり、周囲に自分たち以外がいなくなると、自然と表情が柔らかくなり、声にも甘さが出てくる。
最初こそ、なにかしてしまったか、本当は付き合いたくなかったのか、などと考えていたが、今となってはそんなところも可愛いと思えてしまう。
「銀ちゃん、私でほんとにいいの?」
「あ?」
にまにましていたところに問いかけられて、なんとも気の抜けた声が出てしまった。
「なーに言ってんの」
「だって、私、こんな態度で、ホントかわいくない……」
そんなことを言いながら、無意識なのだろう、繋いだ手の親指で何度も俺の手の甲を擽るように撫ぜてくる。なにそれ、無意識にさわりたいとか思ってくれてんの?どのへんがかわいくないの?
むしろ可愛すぎて今苦しいんですけど。
「○○の可愛いところは、今は俺だけが知ってるってことだろ?だったらすげー嬉しいし、なんていうか、優越感?感じるわ」
俺がそう言うと○○は眉を下げて「なにそれ」と笑った。惚れた男の前でどんな顔で笑うかなんて、別に他のやつが知らなくてもいい。そんなことを考える俺は案外しっとぶかいのかもしれない。いじらしい態度にまた愛しさが増し、思わず○○の額に唇を寄せた。
顔を離して歩き出そうとすると、繋いだ手をぐいと引っ張られたので振り返ると、人差し指を自分の指に当て、俺を見上げる○○がいた。
「おでこじゃなくて、……こっちがいい」
ズルすぎやしないか?惚れた女にこんなこと言われて可愛くないなんて思える男がいるだろうか。というかもうなんというかもう本当にーー
「好きだわ……」
思わず口に出して口づけると、それに答えるように○○が俺の着流しを掴んだ。仕草一つ一つが俺を溶かしていく。不器用なところも、照れ屋なところも、甘えたなところも。
今は、俺だけが知っている。これを幸せと言わずしてなんと言おうか。
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